第一話・お花見《問題編》
「つまんない」
窓から散る桜を眺めつつ、私は不服気につぶやいて、隣で小説を読んでいる幼馴染を半眼で軽く睨む。
私、橘 愛良 17歳。ごく普通の女子高生。
「つまらないなら楽しい事でもすれば?」
本から目を上げずそっけなく答えたこの男は、横溝 匠。
ミステリーマニアな16歳。私の父がひらいている探偵事務所で、何かミステリー好きの血が騒ぐような事件はないかと暇があれば居座っている。実際そんな事態はめったにないのでいつもミステリー小説を読みふけっているだけなのだけど…。
「…公園にお花見行きたいんだけどな」
ねだるような声を出すと、匠はほんの少し目線を上げ私を見た。
「それは、一緒に行ってほしいと言ってるのかな?」
相変わらず口のきき方がかわいくない。
「だって匠、暇そうじゃない」
「愛良みたいに暇だから本を読んでるんじゃなくて、俺は読みたいから時間を作って読んでるんだけどね。どうしてもというなら花見に付き合ってもいいけど?」
匠から折れてくれることはないとわかっていても、私も『じゃあ、一緒に行って!』と言えるほど素直でかわいくもない。
ぷぅっとふくれたまま黙り込む。
そんな私を見て匠は本を閉じる。
「じゃあ、簡単なクイズに答えられたらいっしょにいってあげよう。受けて立つ?」
そう言って不適に微笑まれたら受けて立つしかない。
「いいわよ。受けて立とうじゃないの!」
「それでは、問題。
『うに』は『犬』・『秋』は『イカ』・『イクラ』は『歩き』
では、『アリア』は?」
「アリア?」
「オペラなどで歌われる曲だよ」
「へぇ…」
それが分かった所で、クイズの答えはさっぱりわからない。
必死に頭をフル回転させてみる。
「共通点は、すしネタ???」
とたんに匠は腹を抱えて笑い出す。
「なによー!」
「いや、ねらった訳じゃないけど確かにそうだ。けど関係ないね」
「ヒントは?」
「もう訊くの?簡単なのに根性無いな。…そうだな、『赤坂』は『赤坂』ってのがヒントかな」
むぅ??赤坂が赤坂????
私が考え込んでいると、匠は何か思いついたかのようにいたずらな笑みを浮かべてこう言った。
「ちなみにこの答えは、俺の好きなものだよ」