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世界の果て

 この大陸の果て、険しい山脈を超えた先に「聖地ラムダ」はある。そう記された文献を信じて、キールは必死に山を登っていた。


 キールの生まれ育った村は高地にあり、周りを山に囲まれている。移動に乗り物を使うことはあるが、それでも都会に住む人間に比べれば随分歩き慣れているだろう。体力作りのために村の周辺で一番高い山に何度も登ったこともある。

 キールは山には慣れていると思っていた。むしろ登山は得意だと思っていた。昨日までは。


「こんな、山が、あるなんて、な」


 ほぼ崖に近い急勾配の山道を両手両足を踏ん張りながら、亀のような速度で登っていく。時間にしてかれこれ三時間ほどだろうか。

 最初はなだらかな山道だったため、油断していた。人が通らない山というのは、当たり前だが道がない。あっても獣道ぐらいのもので、どちらに進めば安全で近いのか、判断することさえ困難だ。キールがある程度山に慣れていたからなんとかなっているが、そうじゃなかったらと思うとゾッとする。


 大陸の果ては「果て」と呼ばれるだけの理由がある。

 大陸の果てと呼ばれる地域に人の住む場所はない。あっても大昔に滅びた遺跡のようなもので、屋根が残っている建物を見つけるのが困難なレベルである。そして、果てには四季がない。高温多湿の夏と極寒の冬の二つだけがあり、どちらも人が生きていくのには厳しすぎる環境だ。

 今は冬の始めだからまだ日中は息をしていられるが、夜になって日が落ちれば肺まで凍りつくだろう。


 なんとか山頂に辿り着いた時のは昼を遠に過ぎた頃だった。山頂の地面はでこぼこしているから、少し飛び出したところを椅子代わりにして腰掛ける。

 昼でもひんやりと涼しい場所だったが、登山で火照った肉体にはちょうど良かった。途中の山道で汲んだ湧き水を飲みながら、キールは目の前に広がる光景を静かに眺めていた。


「本当に、あった……」


 こんなに高い山の頂上にいるというのに、遥か頭上まで伸びる白い塔が遠くに見えていた。塔の上は雲の中にあり、見えそうにない。

 胸の奥が煌めいている。初めて勇者の物語を聞いた時のときめきを遥かに凌駕する感情を、しばらくの間噛み締めていた。


 この日は塔のある方に向かって下山し、麓で見つけた洞窟で夜を明かすことにした。食料を温存するために果物と山菜を採取する。持参した成分分析機を使えば有害でないものを探すのは容易である。動物には会えなかったので少し前に作っておいた干し肉を使う。全ての材料をいい感じで煮込めばある程度味も整うし、無駄なく栄養を摂取できる。

 簡易テントの前に獣避けをつけてから横になったが、山頂で見た塔の景色が頭から離れずなかなか寝付けなかった。

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