夜に堕ちていく
手が好きだった。私より少し焦げた手の甲。遠くから見ると細いが、近くで見入るとたくましい手首。その手首にうっすらと現れた血の流れる一本の筋。
同じ息を吸っていることさえ恐れ多い。
まさに神。そう、私にとっての神だ。神なんて人間の創りだしたエゴに過ぎないと輪をかけて語っている私だが、私にとって彼は雲の上の存在に違いないのだ。
そんな彼から一通のDMが届いた。
「駅まで来てほしい。」
彼に出会ったのは、小学生時代の放課後の公園だった。あの頃は、「友達の友達はみんな友達」の理論が本気で通じたため、話したことはおろか、同じクラスになったことはなかったが彼もすぐに”友達“になった。彼に惚れた瞬間は大学生になった今でもよく覚えている。
彼は、鬼ごっこ中に転んでしまったA君(名前は忘れてしまった。)の傍にずっといたのだ。小学生男子なんて友達を大切にする心より自分が遊びたい気持ちが勝つ。それなのに彼はA君の背中をさすり家まで送ってあげたのだ。
彼の優しさを私も飲みたいと思った。ひいき目もあるかもしれないが、彼は完璧だった。
ある程度整った顔をしているし、背も高いし、運動神経も頭もいい。そして優しいだなんて。私が7年にわたって慕い続けるのには十分すぎるほどの人だ。
そんな彼からDMが来た。すでに夜の11時を回っていたが、急いで家を飛び出した。こんな夜遅くから外出するのなんてはじめてのことだ。
「おまたせ。」
「ほんとに来たんだ。ありがとう。」
彼は白い歯を見せて微笑んだ。
「じゃあ、行こうか。」
死にかけの外灯なんかよりもまぶしい彼の横顔をずっと見つめていたかった。
そのまま、私たちはネオンの街に飲みこまれていった。