2 誕生日 2
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「………を、用意してくれる?」
「了解!」
家の外から聞こえる話し声で目が覚めた。
慌てて時計を見ると、なんとまだ私が倒れてから5分ほどしか経っていなかった。
今の私は人の話し声ですら目が覚めるらしい。
とてもうるさいと評判の目覚まし時計を3個かけていたにも関わらず、起きたらもう遅刻寸前で、学校で必死に課題をやっていた前世とは大違いだ。
やはり、肉体が変わったからだろうか。
さて、やはり私には日本人としての前世があった。
名前を栗本 栞という。
享年は17歳、死因は幼馴染みたちとの外出中に起こったバスの事故だった。
死んだことに対するショックも大きいが、なによりも寂しい。
今たらればを考えても、もう過ぎてしまったことだ。
もう一度「栗本 栞」として生き返ることなどできはしない。
それは分かっているのだが、それでも、もしもあのバスに乗っていなかったら…と考えてしまう。
何より心残りはたくさんある。
例えば、幼馴染みとの約束。
前世の私にも幼馴染みは3人いた。
大人になってもこうして一緒にいるのだと思うくらい、とても仲がよかった。
まるで今の私たちのように、大きくなったら皆で旅行に行こうね、と小さい頃に約束したのを覚えている。
まあ、高校で私だけ学校が分かれてしまい、1年ぶりに会えたと思った矢先事故に逢って死んでしまったため、結局叶わなかったのだが。
死ぬならせめて皆で旅行に行ってからにしたかった。
うじうじするのは嫌いだ。
落ち込むのはここまでにしよう。
落ち込んだって悲しんだっていいことなんて起こらない。
とりあえず前世のことを考えるのはやめて、これからのことを考えよう。
私が前世で読み漁った異世界小説たちの中に、「クララ」という村娘の出てくる話はなかった。
つまり、悪役として断罪されることも、勇者や聖女として崇め奉られることもないということだ。
そのため、そのフラグを折るために前世の記憶を使う必要はない。
また、どこぞの主人公のように知識チートを使うという手はあるが、私は高位貴族の令嬢でもましてや王族でもない、ただの村娘だ。
もし私の案が大金になりなどしたら、金儲けのために誘拐される可能性だってある。
そのときに守ってくれるものは、何もないのだ。
そんなリスクを犯してまで稼ぎたいとは思わない。
それに、私はこの生活を結構気に入っている。
知識目的で王都に引っ張り出されたくはない。
ということで。
私は、余程のことがない限り前世の記憶や知識は使わずに、平凡な村娘としての人生を謳歌することに決めた。
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