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第7話、不審な新人


 レクレスが城に戻った時、すでに辺りは暗くなっていた。


 魔の森からの魔獣の進撃はなく、昼間の戦闘がピークだった。いまは少数の兵で監視しているが、おそらく次の攻勢があるまで2週間程度は余裕があるはずだった。


 少なくともこれまではそうだった。攻勢が頓挫した後は、森の魔獣たちもしばらく表に出てくることはない。


「団長、お帰りなさい!」


 物思いにふけっていたレクレスに、声を掛ける者がいた。


「クリストフ!」


 青狼騎士団一の巨漢であるクリストフが、完全武装の1個分隊と城から出るところだった。前線の交代要員である。


「見張りご苦労!」

「団長、今日はご馳走ですぞ!」


 クリストフは人好きする笑みを浮かべた。いつも食後は腹回りの調子を気にする男にしては、やたらと元気だった。


「ご馳走?」

「新人の……アンジェロですか。アレの作るメシは絶品です!」


 では、とクリストフと騎士たちとすれ違う。


 アンジェロ、新人、と聞いて、レクレスは思い出した。


 ――ああ、あの小柄な少年のような新人か。


 中性的な容姿をしていて、一瞬、ドキリとしたが、彼が男だったおかげで、何とか発作が出ずに安堵している。


 見ようによっては女にも見えなくもない。……などと考えたが、背中に寒気が走った。


 ――くそ、女のことを考えるといつもこれだ!


 恨めしく思う。


 ――アンジェロは男。アンジェロは男!


 そう言い聞かせることで、頭から女を排除する。すると体が感じていた氷のような冷気が消えた。


 ソッと息を吐く。誰かに背中を擦ってほしくなるが、さすがに人前では言えなかった。


「団長、お帰りなさい」

「……よう、アルフレド」


 副団長アルフレドが、レクレスを出迎えた。


「大事はないか?」

「はい。魔物の出現や、城への襲撃などはありませんでした。……お怪我などは?」

「ない。あれから特に戦闘もなかったからな。連れていった治癒術士も、何とか休ませることができた」


 レクレスは、自分と一緒に城に帰ってきた騎士たちに、着替えて休むように言った。皆疲れているが、戦闘が小康状態になり腹も減っただろうから、まずは食事だろうが。


「そういえば、クリストフが今日はご馳走だと言っていたが……」

「それなんですが――」


 アルフレドは、わずかに眉をひそめた。


「私も、まさかこんなことになるとは思っていませんでした」

「何があった?」

「報告とすれば、料理当番がいなかったので、今日来た新人にお願いしました。これだけなら実に取るに足らないことなのですが」


 アルフレドは歯切れが悪かった。


「アンジェロだったな。奴が何かやらかしたのか?」

「美味しい料理を作りました」

「……いいことじゃないか」


 最近の、誰が作ったか気にもならないほど味気ない食事ばかりが続き、みな食事に辟易していた。専門の料理番がいないからだ。


「私も先に食べました。とても美味でした」

「子爵家の三男の舌を唸らせたのか。それは楽しみだ」

「ええ。料理は文句なしです。……ここにはない調味料をふんだんに使ったという問題はありますが」

「……何?」


 グニーヴ城の自分の部屋に向かっていたレクレスは、思わず足を止めた。


「アンジェロが調味料を持ち込んだということか?」

「ええ、そう考えるのが妥当ですが、複数の調味料を使っています。それもかなり高価な」

「冒険者と聞いた」

「はい、冒険者票を持っていました。彼の資料は読みましたか?」

「いや、オレは受け取っていない。お前は受け取っていないのか?」

「団長が受け取ったと思い、私は聞きませんでした」


 部屋への移動を再開しながら、レクレスは首を捻る。


「てっきり騎士団の補充だと思ったが、ひょっとして傭兵だったか」

「あなたが新人と言ったので、彼の騎士団制服を用意して部屋まで用意してしまいましたが……」


 ふたりして勘違いしていたということだ。


「何者だ? 調味料を複数持っているとは、かなり裕福なのでは?」

「冒険者票をじっくり見たわけではありませんが、ブロンズでしたから下級のはずです。そんな高額な品を持っているほど稼いでいるとも思えない」


 怪しい……。レクレスとアルフレドは顔を見合わせた。


「どこかの貴族の子供か?」

「大商人の息子かも」


 部屋に戻りながら、装備を外す。アルフレドがレクレスを手伝う。


「治癒魔法も使っていた」

「彼が、ですか?」

「お前は見ていなかったか? 朝の戦闘で戻した負傷者たちを助けたのは、アンジェロだ」

「下級の冒険者にしては、中々やりますね」


 アルフレドは皮肉げに言った。魔術師でなければ、冒険者は魔法を使う者は少ない。


「冒険者という話ですから、傭兵なら扱いを変えないといけませんね。ただ……惜しいですね。治癒魔法が使えて、さらに料理ができる人材というのは」

「まったくだな。……なあ、アルフレド」

「何でしょう?」

「このまま知らないふりして、騎士団に入れてしまうのはどうだろうか?」

「はい?」


 王子の発言に、アルフレドは耳を疑う。


「人材不足なのは確かだ。料理についてはこれから食べて判断するが、有望な人材は今は喉から手が出るほど欲しい」


 部屋を出て、食堂へと向かう。レクレスは基本、城では部下と同じものを食べるのだ。王子だからと別のものを用意させることはない。……というより、そんな器用に料理が作れる者がいないせいというのもあるが。


 人手不足は、そこまで深刻なのだ。


「得体が知れない者ですよ」


 アルフレドは警告した。


「もしかしたら、他の王子の送り込んだ刺客やも知れません」

「……」


 刺客という言葉に、レクレスはしばし口を閉ざす。王族の男子の中で、レクレスは他の兄弟と違う点がある。それがもとで、特に弟と仲が悪い。


「……いや、アンジェロは違うだろう」

「何故、そう言えますか?」

「青狼騎士団のために目立つ行動をする奴が刺客のはずがない」


 もっとこっそり近づこうとするものだ。王子とその腹心に注目されるような行動など取るはずがない。

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