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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第41話、男か女か


 レクレス様は、私のことが好きだった……。


 衝撃的な告白だった。まさか、彼が私に恋心を抱いていたなんて。


 もちろん、アンジェロである私ではなく、アンジェラである私のほうに、だけれど。


 私がアンジェラです! そう叫んだら、王子は受け止めてくれるだろうか? 今すぐ、アンジェラに会えないことで罪悪感に苛まれているレクレスを抱きしめてあげたい。


 けれど、それは叶わない。


 私が今、正体を明かしたらどうなる? 追い出されることは、もはやないだろう。だがレクレス王子の女性が苦手体質のせいで、二度と顔を合わせることができなくなってしまうかもしれない。


 いやだよ、そんなの。


 私も、あの人のことが好きになって、一緒にいたいって思ってる。レクレス様も、二度も初恋の人を失うなんて残酷なこと、させられない。


「アンジェラ」

「……!」


 呼ばれて、私は振り返る。グニーヴ城の歩廊(ほろう)を巡回中のレクレス様に随伴する私。


「さすがに、姉の名前には反応するか」

「……あ、いえ、はい」


 いまアンジェロではなく、アンジェラって呼んだのか。わざとか知らないけど、言われるまで気づかなかった。……ウカツ!


「心ここにあらず、かな?」


 レクレス様は、私のことをお見通しだった。そう、あなたのことを考えてたの。


「申し訳ありません」

「お前にそんな顔をされるとつらい」


 自然と私の頬を、レクレス様の手が撫でた。不意打ち過ぎて、ドキリとしてしまう。


「可愛いな。アンジェロ。いまのはアンジェラでも同じ反応だったりするのかな?」

「っ! ……し、知りません」


 顔が火照る。こういうのは恋人同士がするもので……。私は婚約者ではあるけれど、ここでは上司と部下で、男と男であって。


「アンジェロ」


 がばっ、とレクレス様が私を抱きしめた。……ひえっ!? なになになに、これは何なの!?


「やっぱり華奢だな、お前は」


 なんで抱きしめられているの? これ完全に、男が女を抱きしめる格好ですよね? 

 口の中が渇く。心臓が恐ろしいほど鼓動を繰り返している。


「お前が女だったらよかったのに……」


 ボソリと、レクレス様の声が、私の耳朶(じだ)を打った。


「お前がアンジェラと瓜二つと聞いて、余計我慢できなくなった」

「……!」

「お前のことが気になったのは、愛しい人の面影だったのかもしれない。好きだった女性の、忘れてしまったはずの顔を、完全に忘れてはいなかったのかもしれない」


 レクレス王子の囁きにも似た声は、どこか弱々しかった。


「許してくれ。オレはアンジェラに惹かれていた気持ちを、お前にぶつけて押しつけてしまった」

「殿下……?」

「もし、このまま女性を抱けない体ならば、お前でも……男でもいいなどと考えてしまった。最低だ……蔑んでくれていい」

「いいえ……」


 あなたが苦しんでいるのはわかっているから。

 初恋の婚約者と、その姿によく似た男のどちらかなんて、普通ではないものね。しかもよく似た男の方は、面影を押しつけられた上に保険だなんて、酷い話。


 でも、その選択肢を作ってしまったのは、当の私。性別バレを避けるために男装して近づいた私のせいでもある。


 レクレス様を騙して、彼の心を揺さぶり、追い込んで苦しめたのは私のほう。


 すべてを知って、欺いている。彼が愛しているのがアンジェラでもアンジェロだったとしても、どちらも私なのだから。あなたが苦しむことはないのに。


 でもレクレス様は、この状況を変えようとしている。初恋の相手アンジェラか、目の前の男装としらず同性だと思っているアンジェロかで、決めようとしているのだ。


 その結果、どちらかを裏切ることになると思い、悩んでいるレクレス様。


 私も、覚悟を決めないといけない。


 レクレス様の体質は、アンジェロという存在のおかげで改善している可能性はある。彼の前で女のように振る舞っても体調や気分に変化はなさそうだった。


 あれだけ避けていた女性のことさえ、今では普通に口にしている。アンジェロである私をアンジェラと重ねても、具合が悪くないというのなら、もしかしたらいけるかもしれない。


「レクレス様……」

「ん?」

「私、女装します」


 もちろん、これは賭けだ。女である私、アンジェラを受け入れられれば、私は男装する必要はなくなる。レクレス様も晴れて私との婚約を進められるだろう。


 もし、駄目だったのなら――


 その時は、私が責任をとって男装の、アンジェロとして生きよう。



  ・  ・  ・



 私が部屋に戻ると、窓の外を見ているメイアの後ろ姿があった。


 最近の定番だった黒子装備ではなく、メイド服だった。どうしたのかしら?


「メイア?」

「アンジェラ様……」


 振り返ったメイア。その顔に、私はギョッとした。

 とてもとても嫌そうな、渋い顔をしていたのだ。


「どうしたの? 何があったの?」

「……」

「ねえ、メイア!」

「何も……ええ、何もございません」


 いつもの淡々とした表情になり、メイアは背筋を伸ばした。


「ご命令をどうぞ、わたくしの可愛いアンジェラ」

「……メイア、大丈夫なの?」

「もちろんです、お嬢様。わたくしは今とても気分がよろしいです。世界を叩き壊したいくらいに」

「……」

「アンジェラお嬢様?」

「見てたわね」


 私は腕を組んで、メイアを睨みつけた。


「私と、レクレス様のこと」

「……もちろん、見ておりましたとも。あなたさまをお守りするのがわたくしの使命にございますれば」


 この人は、私が男性とお付き合いするの嫌がっている。はっきり公言はしないが、言葉を聞いていれば察しがつく。


「ならば、わかっているわね」


 私は、はっきりとメイアに告げた。


「私に最高のドレスを用意しなさい!」

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