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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第37話、不穏な空気


 結局、嘘はバレました。


 ラミアは逃走し、レクレス王子が襲撃されたということで、騎士団は深夜にもかかわらず叩き起こされ、城内と周辺の警備と探索に動員された。


 王子専属夜警のハルスは、幸い怪我もなく、今も警備に立っている。どうやら魔法で眠らされていたらしい。


 レクレス王子は落ち着いた様子でベッドに座り込んでいる。王子と私は、アルフレド副団長から状況確認と聴取を受けていた。


「――アンジェロ。これは尿瓶ですよね?」

「……はい」


 これには、思わず顔を背ける。


「アンジェロ、私の顔を見てください。……これは何ですか?」

「し、尿瓶、です……」


 副団長の眼鏡がいつもより光っているのは気のせいか。


「これは団長の部屋のものではありません。……誰のでしょうか?」

「ボ、ボクの部屋にあったものです」

「貴方は、そういうものを普段から持ち歩くのですか?」

「……い、いえ」


 好き好んで持ち歩く人などいない。いれば、どれだけ頻繁に生理現象がきているのだろうか。


「たまたま、処分を忘れて臭ったので、廃棄しようかと……」

「はい。貴方は、その排泄物の入った尿瓶を、ラミアめがけて投げました」

「……」

「中のものが出て、ラミアにかかってしまった、と。まあそこまではいいのです。どこぞの辺境部族では、糞尿を使って魔除けを作るという話を聞いたことがあります。……本当かどうかは知りませんが」


 アルフレドの眉がピクリと動いた。


「しかし、それをほんの少しとはいえ、団長にもかけてしまうとは!」

「あまり大きな声で言うな、アルフレド」


 レクレス王子が、落ち着けとばかりに手のひらを向けた。そうだよね、排泄物うんぬんと言われて、被害者でもある王子からして言われたくないわよね……。


「しかし、団長。アンジェロは事もあろうに聖水と言って嘘をついたのですよ!」


 だから声が大きいって。外のハルスにも聞こえてしまう。


「アンジェロは、オレに気をつかったのだ」


 レクレス王子は弁護してくれた。


「王族である……いや、青狼騎士団の団長であるオレに、まさか小便をかけたなど。醜態を避けるための嘘だ。許してやれ」

「……平気なのですか? 小便ですよ?」


 小便、小便とか言わないでくださいっ! 穴があったら入りたい。


「平気のわけがないだろう!」


 ごめんなさい! 


「あれは聖水だった。そういうことにしておけ。事実、魔物を追い払ったではないか」

「そうですね……」


 そうですね、ではない気がするが、お二人がそれでいいというなら、私から言うことはなにもない。ええ、あるものですか!


「まあ、昔、どこぞの地方では、小便で傷の消毒をしたなんて話もあるそうですし」

「また、嘘か本当かわからない話か? ……糞だと毒になるから槍の穂先に塗ったとかいう話なら聞いたことが――」

「糞とか小便とか言わないでくださいっ!」


 さすがにこれ以上は限界だった。恥ずかしいったらありゃしない。レクレス王子とアルフレドは呆れ顔になる。


「これくらいどうってことはないだろう?」

「そうですよ。お嬢様方の前でするお上品な話でもありませんし」


 はい、それは私も、ちゃんと『男』認定してくださっているということですね、ありがとうございます。


 男装が疑われていないのなら、それはよいことだ。女としての私としては、嬉しいやら悲しいやら。


「しかし、真面目な話ですが、警備体制の見直しが必要です」


 アルフレドは真面目ぶる。


「最近、城内に魔物が現れたばかりです。前回はたまたま紛れ込んだ――本来、そんなたまたまもあってはいけないのですが、今回は明らかに王族である貴方を狙ってきた」

「呪いをかけにきた、とラミアは言っていた」


 レクレス王子は顔をしかめる。


「いったいどんな呪いをかけるつもりだったのか……」

「呪いなのですから、ろくなものではないでしょうね」


 ただでさえ、女性嫌い体質のせいで苦労されているのに、これ以上厄介なものが増えるのは御免蒙る、というのが、私も含めて全員の見解だった。


「死の呪いとか、何かしらの病でしょうか……?」

「ただ殺すつもりなら、呪いなどかけずに殺せばよかっただろうに。何せ忍び込んだのだからな」


 ふたりは腕を組んで考える。


「そもそも、あれは何だ? 今まで魔の森にも、ラミア種などいなかったぞ?」

「しかし、団長を狙ったのなら、あの森関係だとは思いますが」


 アルフレドは首を傾けた。


「魔物ですから、殿下のお命を狙った刺客ではないでしょうが……」

「刺客?」


 私は目を見張る。ふたりは一瞬気まずそうな顔をした。部外者に聞かせるものではない、という雰囲気をひしひしと感じた。


「オレに呪いをかけようとしたんだ。魔の森側の知的種族が放った刺客というのは間違っていないな」


 刺客は刺客、という意味で。


「あの森に、そういう知的種族がいるとでも?」

「現にラミアはそうだった。確か、魔の森から、とか言っていた。我々がいままで遭遇していなかっただけで、そいつらが存在していたということだろう」


 レクレス王子が精悍な顔になった。


「魔族、あるいは悪魔か」

「伝説のようなお話ですね……」


 魔物を使役する魔族や悪魔。伝承やお伽話で聞くけれど、その姿を見た者は多くない。


 ラミアにしても、魔物だという説と魔族だという説に二分しており、どちらかというと魔物寄りだとされる。


「しかし人語を話していたなら、魔族でよいのでは?」


 アルフレドが指摘した。魔族か魔物かの違いは、この人語を話せるかどうかで判断する向きも存在する。


 実のところ、私たち人間の決めつけであり、魔族か魔物かなんて、正しい分類かもわかっていない。


「魔の森で動きがあるかもしれないな」


 レクレス王子は言った。


「これまでのように魔物が押し寄せてくるだけでなく、何か策を絡めてくるかもしれない」


 敵がラミアを潜入させてきたのも、その前触れかもしれなかった。


 これからグニーヴ城と青狼騎士団はどうなるのだろう……? 私はこみ上げてくる不安を感じずにはいられなかった。

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