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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第32話、試作品を作る


 初戦闘の後、周囲への私への反応が少し変わったというのを感じた。


 これまで特に絡みのなかった騎士も挨拶をするようになった。同僚として認められたんだなって思う。


 さて、グニーヴ城では、浄化された魔石を商人たちが購入していき、まとまったお金が入った。出入りの商人たちが物資を売り、魔石を買う。これまでは少ない資金からやりくりしていたから、今後はより多くの品を調達することができるだろう。


 私は、その少し余裕のできた資金から、王子殿下の許可を得て魔道具作りに必要な素材、道具を購入した。


 そして魔法杖を製作する。テーブルに材料を並べ、せっせと作る。なおここはレクレス王子のお部屋である。


「アンジェロって、本当に何でもできるんだな」

「何でもできませんよー」


 魔法杖と一言で言っても、大きさによって呼び方が異なる。ワンド、ロッド、スタッフなど……。


「子供の頃は、魔術師に憧れていまして、お師匠の影響もあって自分用の杖を作ろうとしたものです」


 母が刺繍を趣味にしていたから、部屋で時間を潰せる作業というのも、自然と苦にならなくなった。


「小さい杖だな」

「他にも武器や装備を持って行くので、携帯しやすいものがいいかなって」

「ほぅ……」


 感心を露わにするレクレス王子。そもそも、全員にフライヤー対策で攻撃魔法が使える杖を持たせたいって言っていたものね。


 30センチほどの木製のワンド、その持ち手にあたる部分の少し上に魔石を当てて、魔法で嵌め込むように成形する。形がぐにゃりと変わり、魔石が半没した格好になる。


「これで、ただの木の棒に魔力が宿りました」


 私は、アンガル商会から購入した魔法銀の瓶を開ける。魔道具製作に、専用の筆と共によく使われる。少々お値段が高いが、魔法銀を作るのは素材込みで大変なので仕方がない。


「魔力回路をワンドに刻みます。魔術師なら不要なのですが、使用者が誰でも使えるようにするために、呪文を刻み込みます」

「ふむ」


 専用筆に魔法銀をつけて、ワンドに刻み込む。ジュッとわずかに木が溶ける。乾くまで直接肌に触れないようにするのが吉。魔法銀は毒物なので誤飲に注意。


 魔道具と同じく、発動する魔法を刻む工程を進める。丸印に何かが触れると、魔石の魔力が流れるように線と文字を刻む。この場合の何かとは使用者の手、指である。毒物と言ったが、固まった後は触れても大丈夫。


 なおワンドは小さいので、この刻み作業がもっとも集中力を使う。


 次に魔石より上部に発動する呪文を刻む。繰り返すが杖のサイズが小さいので必然的に、文字も小さくまた制限がつく。


 もっともスペースがないおかげで、魔法が放たれる先端まで伸ばす魔法誘導用の線が短くて済んだ。何気に真っ直ぐな線を引くのって難しいのよね。


「できました」

「早いな!」

「はい。まあ、複雑な呪文や細工もありませんし、ワンドサイズですから」


 これがロッドやスタッフとなると、何気にモノを動かしながら立ったり、位置を変えたりと手間もかかる。その分、色々仕込めるし、工夫もできるのだけれど。


「早速、試そう!」


 レクレス王子が、期待の眼差しを寄越す。……何だか懐かしい。従兄弟が私の作った魔法杖を見て、目を輝かせていたっけ。


 そんなわけで、中庭に移動する。非番の騎士が暇つぶしで体を動かしている。……そういえばここ、娯楽なさそう。


 レクレス王子と私は、中庭の壁にある弓用の的を標的にする。


「使い方は簡単です。魔法は真っ直ぐ飛びますので、先端を的に向けて」


 丸印を押す。

 ドォォン!――と短い電撃が走り、的に命中、そして砕いた。……思ったより音が大きい。


「ちょっと予想より威力が高い――」

「素晴らしい!」


 レクレス王子が声を弾ませた。


「こんな小さな杖で、あの破壊力。おそらくフライヤーも一撃だ!」

「魔石の質がいいのかもしれません」


 汚染モンスターから取れる魔石は魔力の質がいいのかも。それとも当たりの魔石だったか……?


「アンジェロ、オレにも使えるか?」

「はい、大丈夫です」


 私から杖を受け取り、早速レクレス王子が試そうとして眉をひそめた。


「的がないな……」


 初撃で破壊してしまった。隣の的があるけど、それも壊してしまうと、弓の練習に差し支える。


「じゃあ、出します」


 私はストーンウォールの魔法で岩の壁を作った。これならば撃ち込んで問題はないだろう。


「よしよし、じゃあ撃つぞ!」


 真っ直ぐ杖を構えて、電撃を発射。やっぱり音が大きい……って! 中庭にいた騎士たちが集まってきていた。レクレス王子の持つ杖に興味津々の様子だ。


 何かワラワラと人が集まってきているような……?


「これはいったい何の騒ぎですか?」


 あ、アルフレド副団長まで来た。


「試作の魔法杖ができたので、試射をしていました」

「なるほど、もうできたのですか。意外と早かったですね」


 アルフレドは首を傾げた。


「音がしたので、何があったのかと来てしまいましたよ」

「お騒がせして申し訳ありません」

「よいではないか、アルフレド」


 レクレス王子が上機嫌で言った。杖はすでにギャラリーだった騎士の手に渡り、試し撃ちをやっている。


「これは素晴らしい武器だ。騎士たちに配備されれば、魔の森の魔物退治も捗るぞ!」


 こういうのを絶賛というのだろうか。試し撃ちした騎士たちも、興奮を露わにしていて、まるで子供のようだ。


「……じゃあ、わた――ボクは、次のを作ります」


 今回のはあくまで攻撃魔法用のもの。しかも単純なものだ。本格的な量産は、メイアのアンガル商会に任せることになるだろうけど、バリエーションはこちらで作っておかないといけない。


 幼い頃からやりたいことをどんどんやらせてもらえたことが、こういうところで役に立つなんてね。子供だった頃の私を褒めてあげたいわ。


 それにしても、レクレス王子や騎士たちが喜んでいる姿を見ていると、やってよかったなって思う。


 さあ、頑張らなくっちゃ!

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