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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第30話、戦場の勇気


「轟け、雷鳴!」


 サンダーボルト! 私の放った攻撃魔法が、音もなく降下してきたフライヤーを直撃した。

 その硬そう外殻を貫いて、四散。それを見たレクレス王子は歓声を上げた。


「よくやったアンジェロ! お前たち、地上の敵をアンジェロに近づけさせるな!」

「「「了解!」」」


 偵察に進んだ魔の森で、私たちは森の魔獣と遭遇した。


 ガサガサっ、と右後ろ上方で音がした。きた!  飛び音もなしでフライヤーが現れて、すーっ、と降下してくる。


「ファイアランス!」


 炎槍が、騎士に迫る敵を焼き尽くす。

 ガウッ、と狼の声。汚染狼が複数頭、森の奥から急速で近づく。……王子様!?


「この程度……!」


 飛びかかってきた汚染狼を、銀の一閃が切り裂いた。


 レクレス王子はまるで風のようだった。勇猛なる騎士というのは事実だ。同時に猛獣などと言われるのも道理。飛びかかってくる狼以上に、勢いよく駆け抜け、必殺の一撃でその喉を切り裂いていく。

 あまりに速く、そして動きが軽快過ぎるのか、返り血が掛からない。


「こちらは片付けた! 皆、無事か!?」

「「はい!」」


 騎士たちも怪我人はなかったようだ。しかし、その鎧に返り血がついている者もいる。肌とかに魔獣の血がついたら危ないのでは、と思う。


「アンジェロ!」

「は、はい!」

「よくやった!」


 やってきたレクレス王子が、私の頭を撫でた。


「わっ、で、殿下!?」

「お前がフライヤーを仕留めてくれたお陰で、こうも簡単に決着がついた!」

「ええ、まったく」


 ツァルトが槍についた狼の血を近くの木で拭く。


「フライヤーがいると、地上と空の両方を警戒しないといけないですからね。しかも石を飛ばしてくるし」

「あれが結構邪魔なんだよな。それに気をとられると、今度は狼どもが飛び込んでくる。魔術師の魔法で援護を受けられるのは助かる」

「あ、ありがとうございます!」


 そんな手放しで喜ばれるとは思わなかった。胸の奥がじんわりと熱くなってくる。


「ボ、ボクも、殿下や皆さんが守ってくれたので、安心してフライヤーに集中できました」


 正直、汚染狼が複数出た時は焦ったわ。噛まれたら汚染させられてしまうなんて、怖いもの。でも空からフライヤーが出てきたし、皆が戦っているから、震えている余裕はなかった。


「団長、魔石の回収終わりました!」


 騎士のひとりが報告した。ああ、そうだった。倒した汚染魔獣の闇魔石は回収して、森から出さないとまた復活してしまうんだっけ。


「よし、移動する。……アンジェロは、魔法はまだ大丈夫か?」

「はい、まだ全然使えます!」

「いい返事だ。頼りにさせてもらう!」


 頼りにされちゃった……。えへへ、戦場でも役に立てているなら嬉しい。



  ・  ・  ・



 その後も、森を捜索する。

 汚染蜘蛛とフライヤーに何度か遭遇、交戦した。


「――やはり少しずつ、増えてきているな」


 レクレス王子の呟きに、ツァルトが返した。


「もう数日したら、また来ますな、集団が」

「根源を叩ければいいのだがな。何が魔物を生み出しているのかわからんのでは、ただ迎え撃つしかない」


 王子は苛立ちの表情を浮かべた。

 敵が攻めてくるから阻止する。これまでも、そしてこれからも。終わりなき防衛戦である。

 どうしてこの森には汚染された魔獣や魔物が生まれ、そして攻めてくるのかしら?


「トレント!」


 騎士のひとりが声を上げた。


「カッシング!」

「うあああっ!」


 騎士のひとり――カッシングが枝のような腕に掴まれて、吹っ飛ばされた。派手に地面にバウンドしてカッシングの体が横たわる。


「気をつけろ! ゴブリンが!」


 汚染ゴブリンが集団で現れ、無事な騎士たちが迎え撃つ。レクレス王子とツァルトは、巨大な木の魔物――トレントと対峙する。


「くそっ。通さないつもりか!」


 トレントが腕を振るい、枝の先を矢のように飛ばしてきた。レクレス王子は躱し、あるいは剣で弾く。


「ツァルト! カッシングを!」

「はっ! ――うおっ!?」


 トレントが倒れ込んできて、ツァルトは後退を強いられた。ダメだ――


「ボクが行きます!」


 私は走った。のそのそと起き上がろうとするトレントの長い長い腕を飛び越える。ぬっと、汚染ゴブリンが視界をよぎる!


「邪魔!」


 すれ違う勢いで剣を振るう。ゴブリンの首を撥ね、そのまま横を通過。


「カッシングさん!」


 起き上がろうとしているカッシングだが、力が入らないのか、うまく立てないようだった。


「アンジェロ……!」

「手当します。ヒール!」


 派手に打ち付けたから、目に見えない部分でのダメージを受けているのだろう。まずは回復。


「アンジェロ、敵が……!」


 わかってる。周りにゴブリンが集まってきていることくらい。でもここで治癒魔法を止めるわけにもいかないのよ。


 カッシングが私の置いた剣をとって、私の後ろにその切っ先を向けた。きっとゴブリンを牽制してくれているのだろう。


「……行けますか?」


 私が聞けば、「ああ」とカッシングが答えつつ立ち上がった。


「恩に着る、アンジェロ」

「戻りましょう。……ファイアランス!」


 カッシングの背後に迫ったゴブリンを炎の槍で貫く。私の剣はカッシングが持ったままで、ゴブリンを切り裂く。敵だらけだ。


「アンジェロ、カッシング!」


 ツァルトとレクレス王子が退路を確保してくれた。私たちはそのまま合流し、森から撤退した。


 ちょっと危なかったけど、全員無事に前哨陣地に帰れたことで、私は安堵した。

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