表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/43

第3話、侯爵令嬢、男装する


 お父様とお母様に、婚約破棄がなされたことを報告したら、特に驚かれなかった。


 話す前から気の毒そうな顔をしていたので確認したら、私が王城へ出掛けた直後に、アディン王子から、婚約破棄を告げる書状がきたらしい。


 だから、私が王城で王子と会っている間に、両親は事情を知ったということだ。……その割には、激怒するでもなく、比較的冷静に見えるのは何故か。


「こうなると知っていたら、お前を城になど行かせなかった」


 お父様は悲しそうだった。


「大丈夫かい、私たちのアンジェ」

「ええ、面と向かって言われたのはさすがにどうかと思いましたけど、割と」


 ちょっと、悔しかったりする。アディン王子のことはどうでもいいけど、人前で辱めを受けたのはさすがに悔しい。


「それで、お前はこれからどうするの?」


 お母様に聞かれたので、アディン王子のことは忘れて、レクレス王子に会いに行きたいことを告げる。女嫌いの王子様だけれど、会ってみないことには仕方がない。


「そう。お前は強いのね。好きなようにしなさい」


 お母様は優しくそう言った。しばらく王都を離れて、心の安定を――とでも考えたのかもしれない。


 かくて、両親が認めてくれたので、晴れて私はレクレス王子領へ向かうことができるようになった。


 正直、もっと揉めるかと思ったのだけれど、思った以上にスムーズにいって拍子抜けしている。


 メイアは「旦那様も奥様も、お嬢様に気を遣われたのでしょう」と言った。お父様は昔から私のしたいことはやらせてくれたけれど、お母様がこうもあっさり送り出してくれたのは意外だった。



  ・  ・  ・



 第三王子レクレスは女嫌いだ。普通に会えば、門前払いを受ける可能性がある。


 こっちは侯爵家の娘だぞ!――残念、向こうは王子だ。遠路遥々向かって、会ってもらえなかったらと考えると、徒労感が凄まじそうだ。


 こちとら婚約相手? メイアの情報によると、縁談話はこれまでもいくつかあったらしいが、悉く面会は叶わなかったらしい。


 王都に年に1回か2回、王城にやってくることもあるが、その時のあからさまに不機嫌そうで、美形だけど殺意むき出しの顔に、声を掛ける勇気のある娘はいなかったという。


 特に会おうとしなければ、とことん顔を合わせることもない結果、ここしばらく私はレクレス王子の顔を見ていない。


 そんな相手が婚約相手とか、私もツイていない。


 だが、そうも言っていられない。会わないまま、これ以上歳を重ねて、周りから未婚と冷笑されるのはごめんである。


 とはいえ、ほとんど知らないのだから、まずは相手を知ることから始める。


「その結果が、男装でございますか」


 呆れるメイアに、私は肩をすくめる。


「仕方ないよ。女だと会ってもらえないなら、男になって近づけばいいんだよ」


 ということで、私はドレスを脱ぎ捨て男装したのだ。


 長い髪は後ろで束ねておく。男性も長髪は少なくなく、騎士でも髪を束ねたりしているのは珍しくないから、特に切らなくてもいいのは助かる。……髪は女の命!


 で、私の格好だけれど、旅の冒険者、いわゆる剣士スタイルにまとめた。


 冒険者とは、ダンジョンを探索したり、現れる魔獣や魔物を討伐してお金を稼ぐ人たちだ。仕事とあれば、割と遠方にも出かけるので、身分を隠して移動するのに都合がよかったりする。


 胸はさらしで潰しておくのは仕方ないけど、服の上に革の鎧や装備ベルト、ショートソードといった武器を身につければ、あら不思議。令嬢ではなく、それなりの冒険者に見えるって寸法よ。


 見える、というか冒険者なんですけどね。実は着慣れている。


「冒険者にしては綺麗過ぎる気もしますが」

「現地につく頃には適度に汚れるでしょうよ」

「装備は重くないですか?」

「大丈夫よ。私を誰だと思っているの?」


 何を隠そう、私は侯爵令嬢ながら本物の冒険者なのだ! ランクはDで、あまり高くないけれど。


「お父様がやりたいことを何でもやらせてくれたおかげよね」

「激甘でございます」


 メイアが目を伏せた。


「私が魔法を教育する都合上、剣術のほうに目をつぶっておいででございましたが……。ダンジョンに行ったことなど知られたら、さすがに卒倒するかもしれません」


 お父様には内緒よ。なお、お母様にはもっと内緒だ。お父様は卒倒で済むかもだけど、お母様は烈火の如く怒り、キツいお仕置きを食らわせるだろうから。


 閑話休題。


 私とメイアは、フード付きマントをつけ、レクレス王子領へ旅立った。寄り合い馬車などを乗り継ぎ、時に雨に降られながら、1週間の移動。


 そうしてついたのがレクレス王子領の南部にあるレドニーの町。この王城直轄領で二番目に大きな町だ。


 馬車から下りる。天気が薄曇りのせいか、どこか寂れた印象を受けた。


「元々レクレス領は、豊かな土地とは言えませんから」


 フードを被ったメイアは言った。旅人らしいマントを羽織っているが、その下はメイド服だった。彼女は魔法が武器なので、服装はさして問題ではない。


「アンジェラお嬢様」

「アンジェロ」


 男装しているのに、呼び方には気をつけてもらわないとね。


「ボクは、どこからどう見ても男だよ」

「……」

「なに、その目は?」

「殿方にしては華奢ですね」

「……」

「お顔も中性的ではありますが、可愛い系ですし」

「そういう男子もいるところにはいるんだよ!」


 まったく……。私は歩き出す。まずは、冒険者のお約束。冒険者ギルドへ向かう。さまざまなクエストが集う場所だから、情報を集めるのに打ってつけだ。


 さあ、ここでのレクレス王子様の評判ってのを聞こうじゃない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ