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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第24話、魔石利用のアイデア


 需要を作ればいい――言葉にするのは簡単だけど、実際にそれができるかと言うのは別なのよね。


「要するに、『欲しい』と思わせるものよね」


 本日の勤務を終えて、私は自室に戻っていた。勤務中、レクレス王子とあれこれ考えてみたけど、王子は私を見ているし、私はその視線が落ち着かなくて考えがまとまらなかった。


 ようやく部屋でリラックス……は、まだできない。外は暗くなってきて、もうじきお休みの時間になるのだけれど、いつ同僚たちが訪ねてくるとも限らない。


 胸のさらしを解いて、のんびりしているところを見られでもしたら、女バレの大事故である。とくにここの騎士様方は、ノックより先に扉を開ける人ばかりだから。


 もちろん、王子様とか副団長様を訪ねる時は、ノックしているけれど、同僚に遠慮しない人たちばかりなのだ。


 さて、魔石の需要を上げるための商品化計画。ぶっちゃけると、そんなことしなくても普通に魔石がドンドン売れると思うのだけれど、それ一本だと何かトラブった時が怖い。だから、その時に対する備えをしておこうというのだろう。


 私たちは魔石を手に入れたけれど、たとえば他にも大量の魔石が発見され、それが市場に出れば、当然、世間に魔石が溢れ、価値も下がる。希少だから高いものも、たくさんあるなら珍しくもなんともない。


 そこのところを考えて、次の手を考えているのは、王子として領主として先を見据えているからだろう。さすが王子様。領地を治めるならば、こうでなければ!


「……と、レクレス様を持ち上げている場合ではなかった」

「すっかり、恋する乙女でございますね」


 メイアが淡々と言った。他に誰もいないので、部屋の片隅に立っている。


「あら、王子様は私の婚約者でもあるのよ。好きになって何が悪いというの?」

「……」


 とても複雑そうな表情を浮かべるメイア。普段は表情に乏しい癖に、こういう時だけあからさまである。


「魔石を使った商品」

「魔法関係の武具、魔道具、宝飾品――」


 メイアは事務的に答えた。


 魔術師の使う杖、騎士の剣や槍。盾、鎧、兜といった防具。指輪、腕輪、首飾りなど、アクセサリーにも通じる魔道具。


 よく磨かれ、形を整えた魔石は、魔法効果を込めた上で飾りなどに用いられたりする。王族や貴族らの持っている宝石にも、加工済み魔石をあしらって魔道具化したものも珍しくない。


「……指輪」

「どうかされましたか、アンジェロ?」

「うーん、ちょっとね。守りの指輪とかネックレスってあるじゃない?」

「はい。貴族の方々は、護身用として、それらの魔道具をアクセサリーとして所持しています」


 私も紐に防御の魔法が付与された指輪を結んで首から下げている。お父様もお母様も、指輪で身につけていた。


「これって、別に持っている人が魔法が使えなくても効果は発動しているじゃない?」

「はい。それでなくては意味がございません」


 持ち主が魔法が使えないから、効果はありませんでは話にならない。


「それがどうかされましたか?」

「魔法の杖に応用できないかな……?」

「はい?」

「だから、守りの指輪のように、固定された魔法効果が発動する魔法杖!」

「頭、大丈夫ですか?」


 メイアが、おそろしく冷めた目をした。


「お言葉ですが、使える魔法を限定する魔法杖など、何の役に立ちましょうか? 魔術師ならば、そんな使い勝手の悪い杖など使いません。むしろ素材の無駄です。ゴミです」

「ひどっ!」


 そこまで言わなくてもいいじゃない。


「別に魔術師が使う杖じゃないし」

「……と、言いますと?」

「魔法を使えない人向けの魔法杖」

「詳しく」


 メイアは目が点になっている。まーた妙な思いつきをしましたね、と言わんばかりの顔である。


「いい、メイア? 魔法杖は基本的に、魔術師や神官など魔法を使う人が自身の魔法の効果を補助するために使うものよ」

「はい、わたくしはそう貴方にご指導致しました」


 魔法杖は魔法の効果や精度を上げたり、発動の補助に用いられる。その重要部品が、魔石である。効果を上げるために魔石の中の魔力がブーストされるのだ。


「つまり、魔法を使うための魔力は魔石にあるのだから、あとは魔道具のように、たとえば攻撃魔法を発動できるように作れば、魔術師でなくてもその杖から攻撃魔法が出るのよ」

「……威力は、魔術師のそれより劣りますね」


 メイアが冷静に指摘した。


「しかもひとつに限定された魔法しか使えない」

「複数の魔法を使える必要ある?」


 私は反論した。


「そもそも、複数の魔法を使うのは本職の魔術師でいいのよ。魔法が使えない人が、何かワンポイントで使えるもので。たとえば、ファイアボールの魔法だけ、エアブラストの魔法だけしか使えない杖でも、騎士が装備すれば遠距離からの攻撃手段を獲得できるでしょ?」

「一理ありますね」


 メイアは顎にその細い指を当てた。


「魔法武器としてではなく、クロスボウや弓と考えるなら、矢を持たなくていい分、使い道はありますね……。少々勿体ない使い方の気がしますが、魔石が値崩れして使い道に困るようなら、むしろバンバン使って需要が生まれるのでは」


 メイドにして、私の教育係でもあったお師匠様は、にっこり笑った。


「さすがです、アンジェロ」


 何という手の平返し。何気に貶されたような気がする。


「じゃあ、そっちの方で考えてみますか」

「アンジェロ。そろそろ……」


 すっかり部屋が暗くなっている。ロウソク代もただではないし、明かりとしては手元に置かないと作業に向かない。


「まだ寝るには早いわよ」


 私はアイテム袋から、照明の魔道具を取り出す。冒険者時代、暗いダンジョンを照らせるように魔石を燃料源に作ったものだ。……外枠は、実家と縁のある魔道具職人に作ってもらったけれど。


 パッと光が室内を満たす。ロウソクとか松明よりぜんぜん明るく、昼のように室内がよく見える。


「……照明か」


 魔石の魔力を利用した照明器具はあれば便利なんだけど……


 いや、これはないな。メイアが先ほど言ったように、魔石の使い方としては勿体ないと一蹴されるに決まっている。使うなら、武器や防具、魔道具に使えって言われるのがオチだわ。


「あ、いま思い出しました」

「なに、メイア?」

「実はわたくし、レドニーの町で商会を立ち上げました」

「え……?」


 何言っているのこのメイド……。商会? 作ったの?

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