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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第23話、魔石をいっぱい手に入れたけれど……


 闇の魔石の浄化作業が始まった。さすがに全部だと相当時間が掛かりそうなので、時間を決めてやってみることになった。


 洗濯用巨大桶を用意し、ここに私が魔法で水を張った後、浄化魔法を使い、水を聖水に変えた。


「……というわけで、よろしくお願いします」

「おう、任せろ!」


 体力自慢のクリストフが、部下たちとスコップを手に、闇魔石の山からまとめてすくう。


 うっすら瘴気をまとう闇の魔石を聖水の中へ敷き詰めるように投入。


「アンジェロ、これで浄化されるのか?」

「そのはずです」


 しばらく放置すると、闇色が抜け、緑や青の魔石へと変わる。懐疑的だった騎士たちも驚く。


「おおっ……!」

「綺麗だ」

「こんなたくさんの魔石があるの、初めて見るぜ」


 あなたたちの目の前にある山だって、魔石なんですけどね。うーん、最初の聖水を山に直接掛けるじゃないけど、綺麗に輝く魔石が山になっているのは見てみたいわ。


 作業を見守っていたアルフレド副団長が口を開いた。


「そろそろ、瘴気が落ちた魔石を回収しましょうか」

「了解」


 クリストフが再びスコップですくい、用意された桶に入れる。聖水と魔石が入った桶を騎士が運んで選別作業。魔石を抜き取り聖水は再び巨大桶に戻す。この繰り返しだ。


 浄化された魔石が箱に収められていく。


「いいですね」


 アルフレドは、レクレス王子と顔を見合わせる。


「そうだな。魔石は武器同様、高額だからな。これで金が増えれば、不足していた物資の入手や傷んだ装備の補修費や買い換えも余裕ができる」


 本当、このグニーヴ城って色々ないものね。共有で使い回しているものもあれば、設備の老朽化も目立つし。


「生活向上。給料も上げてやれる」


 団長と副団長の話が聞こえたようで、騎士たちの腕も早くなった。クリストフは言う。


「これまで騎士たちが集めてきた闇の魔石が、騎士団の活動資金となると聞いたら、そりゃやる気も出るわな」

「いい食材も買えるようになりますね」


 私が言えば、クリストフはニヤリとした。


「それは美味いものが食えるということか?」

「そういうことです!」

「うおおおっ! みなぎってきたーっ!」

「うるさいぞ、クリストフ!」


 レクレス王子が注意すれば、作業している騎士たちも笑った。


 かくて作業は続いた。


 私の仕事は、水を聖水に変えるだけ。後は、騎士の方々が交代でやっていた。これも役割分担だ。


 その後、アルフレド副団長が、出入りの商人を捕まえて、魔石の取引業者を紹介してもらったりして、魔石の販売が行われることになる。


 売るものができたことで、青狼騎士団の資金繰りもよくなるだろう。そう思っていた私に、レクレス王子は次の相談を持ちかけてきた。



  ・  ・  ・



「魔石は、どこで活用されていると思う?」

「ええっと、魔法の触媒ですよね?」


 私は答えた。


 王子の部屋で、私はレクレス王子とふたりきりだ。


「あとは、魔道具の素材とか……」


 魔力を含まれた石、それが魔石である。中の魔力を引き出すことで、魔法の効果を高めたりする。


「そうだ。では次の質問だ。その魔法はどういう環境で用いられることが多い?」

「教会……いえ、戦場でしょうか?」

「正解だ。より正確に言えば、前線の魔術師や魔法戦士、ついで冒険者たちか」


 魔法を使う頻度で言えばそうなる。たとえば魔術師が、家のロウソクに火をつけたりする魔法は、自身の魔力で間に合うから、わざわざ魔石の力に頼ったりはしない。


「オレたちは大量の魔石を手に入れた。一定の需要はあるとはいえ、一度に大量に放出すれば、供給量が需要を勝ってしまい値崩れを起こす可能性が高い」


 王子は窓から外を眺める。立ち姿が凜々しい。


「魔石の価格が高騰するほど不足している状況ならば、安くなろうが需要がある以上かまわん。だが、特に不足もしていない状況で供給が上回れば……」

「魔石に価値がなくなる……」

「そうだ。せっかくの宝の山が、ゴミではないにしろ、言うほど価値のあるものでもなくなってしまう」


 億万長者ではなく、普通の金持ち程度にランクダウン。魔石自体が安く扱われ、これまで高額故に手に入れられなかった層でも購入できるようになる。


「ここは魔の森だ。やってくる無限に湧いてくる魔物を倒していく限り、汚染された魔石は手に入れる。浄化すれば魔石となるとわかった以上、放っておいても在庫は増える」


 供給量自体は問題ない。


「だが、魔石は皆が使うわけではない。魔術師たちとて、日常生活で魔石を使うことなどそうはあるまい。誰もが魔法を使えるわけでもない」


 供給過多になるのは目に見えている。買うほうとしては助かるが、売るほうとしては労力に見合わず、商売になりえない。利益が出ず、借金にしかならないならやらないほうがマシなのだ。


「どこかで戦争があれば、魔石も戦略物資として需要が増えるのだがな。あいにくと、いや、我が国は平和を謳歌している」

「いいことです」

「ああ。周辺国との関係も良好だし、各騎士団も魔物や盗賊程度を相手にするくらいだろう。むしろ、魔の森と戦っている以上、オレたちの青狼騎士団のほうが需要があるんじゃないか?」


 売り手がむしろ一番の買い手ではないか、というオチ。意味ないじゃん!


「魔石は武器に準ずる品だから、手当たり次第売れない。販売する範囲を広げて、無理やり需要を増やす手もあるが、国内はともかく、外国へ輸出するのは王国が許可しない。そんなことをすれば、我々が国に潰される」


 兵器になる可能性のあるものは、そうなるわね。


「はあ……」


 わかるけど、小難しい話だ。男の人ってこういう話が好きなのよね。私はともかく、令嬢方は愚痴っていたっけ。


「話が難しかったか?」

「あ、いえ……」


 顔に出てしまったみたいだ。レクレス王子に気づかれてしまうのは迂闊。貴族令嬢たる者、殿方の前で油断してはならない。


「要するに、魔石は当面の資金にはなるが、長い目で見れば、いずれ価値がなくなってしまうかもしれない。そうなった時、困らないようにしたい、ということだ」


 そこで、とレクレス王子は私を見た。


「需要がないなら、需要を作ればいい。アンジェロ、お前は冒険者上がりだ。何か、需要になりそうなもの心当たりないか?」

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