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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第12話、我慢できないこともあるの


 私たちはウーズィ村を超えて、レドニーの町を目指す。村に商人が来ていれば、そのままお城へ招待で済んだのだけれど、中々うまくいかないものね。


 もっとも、最初からレドニーの町へ行くつもりだったから、落胆はしなかったけど。


 それにしても、レクレス王子は村ではほとんど喋らなかった。この辺りでは顔が知れているせいか、フードで隠していたけど、近くにいるとかなり緊張しているのが見てとれた。


 もの凄く不機嫌とか、殺意のこもった表情なんて、発作に耐えていた顔だったんだなって思う。言わないとわからないことはあるけれど……鬼気迫るというか、傍目には怒っているように見えるよね、普通は。


 かくて村を出て、町への道を歩く。膝丈ほどの草が生えた草原が広がっている。髙いと腰の高さくらいかな。遠くもよく見えるけど、小さな動物などは草で見えない。


「すまんな」


 レクレス王子は、ふさぎ込むように言った。


「オレが、村の食堂に入れなかったばかりに、お前たちまで昼食を食べ損なって」

「殿下、無理はなさいますな」


 クリストフが宥めるように言い、私も頷いた。


「殿下も、頑張られたではありませんか。ボクたちも、殿下が無理して耐えている中、食事なんてできませんよ」

「……すまん」


 王子は肩を落とした。


 頑張ったの。レクレス王子は女性が苦手なのに、食堂に頑張って入って席についた。でも、村娘の店員さんを見て、声を聞いて、手の震えが止まらなくなってしまった。視線を逸らし、指が食い込むまで固く握りしめられた彼の拳を見て、私もクリストフも見てられなかった。


「大丈夫ですよ、殿下。食事はボクが用意してきましたから!」

「お、アンジェロのメシか!」


 クリストフが真っ先に反応した。……いや、ここは一緒に王子を慰めるところでしょ?


「アンジェロのメシか」


 お、レクレス王子が少し顔を上げて反応した。私はアイテム袋に入れていたバスケットを取り出す。


 クリストフは眉を動かす。


「この手の魔道具をいつ見ても思うが、元の大きさより大きいものがよくそんな口から出てくるものだ」

「魔法ですからね、こういうのも」


 用意してきたといっても、お肉と野菜を挟んだサンドイッチだけど。でも取って置きなのよ。何せ――


「じゃーん! 白パンなのです」

「うおっ」


 クリストフが驚いた。無理もない。この国では小麦を使った真っ白なパンは上流階級が食べるもので、一般的には混ぜパンだったりライ麦パンだったりする。


「お前、それどこで手に入れた?」

「へへ、ここに来る前のお仕事で、お貴族様からいただいたパンを使ってみました。……あ、その前に手を洗いましょうね。手掴みになるから」

「お、おう」


 昨晩同様、私の水魔法で、手を洗うクリストフ。それを見て、レクレス王子は笑った。


「戦場では泣く子も黙る巨人クリストフが、アンジェロには大人しく従うんだな」

「笑い事ではございませんぞ、殿下。これで食後の腹痛がなくなるなら洗うのは当然」


 この人にとっては、本気の問題なのだろう。そりゃ食べて毎回、お腹痛になるなんて嫌すぎるもんね。


 布で手を拭いた後、クリストフは早速バスケットのサンドイッチに手を伸ばす。


「おお、肉だ肉だ」


 機嫌がよくなるクリストフ。王子の手も私の水魔法で流し、洗い終わったら、歩きながら食べる。


「サンドイッチ、いいですな」

「うむ、歩きながら食べられるのがよい」

「お行儀悪いですけどね」


 私が言えば、クリストフは言った。


「しかしな、戦場を離れずとも食べられるメシというのはありがたいものだぞ。立ちながら食えるというのが特にいい」

「戦場で下がって食事を取る余裕がない時などいいかもしれない」


 レクレス王子も真顔だ。ただサンドイッチにカブリついて、もしゃもしゃしているのは、ちょっと可愛らしいと思った。


 でも、この人たちが戦場の話が多いのは、それだけ最前線勤務が多いからなんだよね……。


「何か包めるものと一緒にできるといいですよね」

「どういうことだ?」

「ほら、戦場で色んなものを触って汚れた手でパンに触ったら、お腹を壊すかもしれないじゃないですか? だから直接パンに触らずに食べられるようにすれば、そういうのも避けられるって」

「なるほどなぁ、確かに前線じゃ手を洗えないからな」


 クリストフは真面目そのものだった。


 とか言っている間に完食。


「美味かったぞ、アンジェロ。また頼むぞ!」


 笑顔のクリストフは癒しだ……。レクレス王子が言った。


「オレもまた頼む」

「はい」


 王子の顔色もよくなったようでよかった。



  ・  ・  ・



 しかし、困った。町までしばらく距離があると思うのだけど……股間が苦しくなってきた。


 生理現象である。これはよろしくない。クリストフとレクレス王子が側にいるのに。……町まで、もたないかも。


「すみません。ちょっとボク……。お花を摘みにいってもよろしいですか?」

「花? 何を言ってるんだ、お前?」


 クリストフが、おかしなものを見る目になる。……あー、この脳筋さん! 察しなさいよ。レディーにそんな、言わせるつもり!?


「ずいぶんと洒落たことを言うんだな」


 レクレス王子は、意地の悪い顔になった。


「クリストフ、アンジェロは要するに用を足したいんだそうだ」

「なんだ、小便か」


 くあぁー、これだから男は!


「俺も行くぞ。出したくなった」

「ええっー!?」

『アンジェロ。これが連れションというやつです。誰かが用を足そうとすると、一緒に行きたくなるという』


 メイアが淡々と解説いれてくれたけど、それはまずいよ! だって私……女だよ。男の人と一緒に用を足すとかできるわけないじゃないッ!

話数間違えたので割り込み投稿。

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