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婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。 男装令嬢と呪われ王子  作者: 柊遊馬


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第11話、石橋を直せば――


「これはいけませんなぁ」


 クリストフは、目の前の橋……だったものを見やり腰に手を当てた。


「水量からして、歩いて渡れますが、馬車などは完全に通れませんな」


 石材を用いて組み上げられた橋である。長さは十数メートル程度と小さいが、アーチ中央部分が崩れて両断されていた。


 大雨で増水し、川上から何か大きなものが流れてきて直撃して壊れた、というところだろうか。そうでなければ、何かの破壊工作とか。


「補給が滞るはずだ」


 レクレス王子も苦い顔をする。


「修理は一向に進んでいないようだが……」

「騎士団のほうで修理は……」

「そんな人的余裕はないし、そもそも橋の修理ができる者などおらんだろう」

「じゃ、じゃあ依頼を出してます?」


 私が聞けば、王子は首を傾げた。


「出している、と思うが……。アルフレドがやったのでは?」

「確認されていないのですか?」


 それ、大丈夫なのかな。


「もしかして副団長も、王子殿下が指示されたと思って何もしていないとか……ないですよね?」

「まさか、そんなことは……」


 言いかけて、不意にレクレス王子は口を噤んだ。何か心当たりがあるのかな……?


「いや、まさか……」


 あ、これ駄目なやつだ。


 クリストフが口を開いた。


「とりあえず、川を渡りますか」

「そうだな」

「いや、うやむやにしないでくださいよっ!」


私は声を張り上げた。レクレス王子は眉をひそめる。


「そうなんだが、いまここにアルフレドがいるわけではないから確認しようがない。かといって引き返している場合でもないし、調達を先に済ませて、その後に確認するしかあるまい」

「いえ、確認するまでもありません。ボク、途中まで商人さんの馬車に乗せてもらったんですけど、その商人さん言ってました。騎士団の修理まだかなって」


 その商人さんが知らないだけかもしれないけれど、町側に依頼されていないのでは……?


「なら、いつまで待っても橋はこのままということか?」


 クリストフは唸った。


『アンジェロ。……アンジェロ』


 メイアの念話だ。周囲を探しても、黒子装備なのでメイアの姿は見えない。


『もういっそ、魔法で直してしまったほうが早いでしょう。アンジェロ、やりなさい』

「私が?」


 しまった、声に出てしまった。レクレス王子とクリストフが「何だ?」と言わんばかりの目を向けてくる。


『私はあなたに魔法を教えました。それを用いれば、これくらいの橋を直すのは造作もないこと』


 そうかもしれないけれど……。


『橋がこのままでは修理が正式に行われても、しばらくはあなたが町を往復せねばなりませんが、直っていれば商人のほうからやってきてくれるようになります』


 つまり、面倒がなくなるということだ。そういえば、昔聞いたことがあるわ。腹を空かせた人には、食べ物をあげるだけではなく、食べ物を手に入れる方法を教えなさいって。ただ与えるだけでは何もできないままだが、やり方がわかれば自分たちで動くようになる。


 ちょっと違うけれど、ここで橋が直れば、商人が勝手にやってくる。私がわざわざ出向く必要もなくなるわけだ。


「アンジェロ?」

「ボクが、橋を直します!」

「何!?」


 後ろで二人が驚いた。私は振り返らなかった。


「直すって言うが、お前、どうやって――」

「魔法を使います!」

「魔法だって!?」

「ストーンウォール!」


 両断された橋と橋を岩の壁で繋げる。


『間を挟むだけでは落ちます。きちんと接続してください』


 メイアの助言が飛ぶ。簡単に言ってくれちゃって。


 ストーンウォールは、基本は岩の壁を形成する魔法だ。間違っても橋を作る魔法ではない。


 ただ、メイアからは岩の壁をも倒す大角猪の突進に耐えうる強度がないとダメと、徹底的に仕込まれた。そのためには通常形成一枚ではなく、複数枚で重ねてそれを接続し、ひとつにすることで強度を増す。しかし今回の場合は、その岩壁同士を接続し、なお壊れないほうにする、という部分が鍵だ。


 ……こんなところで岩同士の接続が役に立つなんてね。


「どうよっ!?」


 二つに分かれていた橋と橋の間を新たな岩の壁が埋めている。魔法で生成した岩だから、どう見ても、周りと色が違うのだが、橋は橋だ。


『よくできました。さすがアンジェロですね』


 メイアのお褒めの念話に、私は安堵する。どうやら上手くいったようだ。そう思ったら、膝の力が抜けてしまう。


「お、おい、アンジェロ。大丈夫か?」


 レクレス王子が膝から座り込んだ私のもとへ駆け寄る。クリストフは呆然とする。


「まさか、橋が架かった……だと? 俺は夢でも見ているのか?」

「夢じゃないさ、クリストフ。オレの目にもそう見えている」


 よかった。私にもそう見えているから幻覚ではなさそう。私はアイテム袋から、マジックポーションを取り出した。


 魔力を使いすぎた。回復しないと、動けなくなるかも。栓を抜いて、口の中に流し込む。苦いっ……!


「しかし、数メートルの隙間を魔法で埋めてしまうとは……。アンジェロ、お前、凄腕の魔術師だったんだな!」


 レクレス王子は興奮気味にまくし立てた。苦い薬が五臓六腑に染み渡り、少し楽になった。


「いや、わた……ボクもここまで上手くいくとは思いませんでした」

「立てるか?」


 王子が手を差し伸べてきた。反射的にその手を取ろうとして、私はハッとなった。大丈夫……なのかな? 男装しているけど、私は女だけど。


 見ただけで発作が出るような人だもの。直接触ったら、大変なことになるんじゃないかしら?


「……?」


 私が手を取らず固まってしまったから、レクレス王子が首を傾げた。駄目だ、早く決めないと怪しまれる。でも、触ってだいじょう――


「!?」


 レクレス王子の手が私の手を握った。声を上げる間もなく、体が引っ張られて立ち上がることができた。


「あ、どうも」


 直接触れたけど、レクレス王子は何ともなかった。実際に女が触れたどうこうではなく、女と認識したら駄目なのかな……?


「よくやったぞ、アンジェロ。これで町から物資の行き来ができるようになる!」


 レクレス王子が褒めてくれた。彼の笑みを見たら、私の中で疲れが吹っ飛んだ。

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