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「ものすご普通な勇者検査」

アギトとリュートが異世界に初めて来て、光の戦士かどうかの検査を受ける時の話が書かれています。


 ここは謎の洋館・・・、ひょんなことから異世界に迷い込んだ青い髪の少年アギトとリュート。

洋館内にある一室に軟禁されて、1時間程経過しようとしていた。

室内は至って普通・・・まるで外国にあるお洒落な個室のようだった。

落ち着く色で統一されている壁紙、持ち主の品の良さがうかがえる家具・・・。

ベッド2つにテーブル、イスなどなど・・・一時の間生活をするには不自由しなさそうな部屋に二人は閉じ込められていた。

カーテンで閉め切っていた窓の方には当然この洋館を守るように警備していた軍人が見張っている。

外からの侵入者だけではなく、アギトとリュートを見張っているのだ。

・・・というより、外からの侵入者はまさにこの二人のことだったのだが。

部屋に閉じ込められてからというもの、それ以来何の音沙汰もなくアギトのイライラは募る一方だった。

大人しくイスに座って、部屋の中を行ったり来たりウロウロするアギトを見つめて声をかける。


「ねぇアギト、あの人たちが検査するって言ってからもう1時間以上経過してるけど・・・。

 本当に何か人体実験とかされちゃうのかな?」


消極的で大人しそうな青い髪の少年、リュートが尋ねる。

テーブルの上にはクッキーの入った皿があったが、それに手を伸ばしたらアギトに止められたので食べることが出来なかった。

アギト曰く・・・毒が入っているのかもしれないという。

リュートが不安そうに尋ねて来るので、アギトはイライラするのをやめて同じようにイスに腰掛けた。


「よくわかんねぇけど、検査次第では拘束を解く・・・みたいなこと言ってたよな。

 ・・・の割にあれから特に変わった様子もないし、もしかして実験器具の用意に手間取ってるとか?

 とにかくそんな心配すんじゃねぇよリュート!

 オレ達は選ばれた勇者確定なんだから、検査が終わった後には晴れてあいつらはオレ達の下僕だって!」


何に対してもプラス思考なツンツン頭の少年、アギトがにかっと笑って励ます。

・・・と、その時だった。

ドアのカギを開ける音がして二人は一斉に振り向いて注目する。

遂に審判の時が訪れた・・・とでもいうように、ごくりとツバを飲み込みながらその場で固まる。

ギィッとドアが開くとそこには先程の金髪美女が現れた。

髪をきっちりとまとめており、雰囲気はいかにもデキる秘書・・・といった具合だった。

ロングコートの下は軍人とは似つかわしくない軽装、大きな胸の谷間がアギト達の視線を釘付けにする。

丸い眼鏡を鼻にかけて、その女性はキリッとした表情のまま二人に話しかけた。


「検査の準備が整いました、長い間待たせてしまって申し訳ありません。

 では参りましょうか。」


案内されるまま二人は金髪美女の後をついて行く。

てっきり実験室に行くまでの道のりを知られない為に目隠しされるのかと思ったが、その辺は随分とオープンだった。

緊張したまま回りの光景に目もくれずついていくリュートに対し、アギトはここが本当に異世界なのか珍しいものを発見する為に

色々と目に焼きつけようと必死だった。

しかし回りは至って普通、確かに軍人の殆どが銃を携帯する・・・というより剣を装備している者が多かった。

その点では明らかに現代の軍人とは異なる点である、一昔前のドイツ軍ならば剣位装備しているんだろうが・・・。

目的地に到着したのか、ドアをノックして中に入る。

すると中から消毒液や病院でよく嗅ぐ独特の臭いが鼻を突く、アギトはこの臭いが何となく好きだったが・・・。

中は誰がどう見ても実験室そのものであり、怪しい実験用具や何かのグロテスクなホルマリン漬けが棚にたくさん並んでいた。

色んな標本や解剖途中のグロイものを見つけたリュートは、顔から血の気が引いて行く。

何人か陰気そうな白衣を着た科学者達がこちらを奇異な目で見つめて来る、青い髪というものはこちらの世界でも珍しいのだろうか。

物珍しそうに見られることに慣れていたアギトは、それでも不快な思いを抱きながら奥の方へとついて行く。

入った直後のような光景はなくなったものの、質素な病院みたいな場所に到着したアギト達はそこで白衣を着た先程の金髪に再会した。

イスから立ち上がってまるで歓迎するかのように満面に笑顔を作る、そう・・・明らかな作り笑いを。


「やぁ君達、では早速で申し訳ありませんが検査に入るとしましょう。

 中尉・・・カーテンを閉めてください。

 それと君達はこれに着替えて。」


そう言って渡されたものは、よく病院で検査をする時に着せられるような白い布切れだった。

これまで病院で大々的な検査を受けたことのない二人は、今着ているものをどこまで脱いだらいいのかわからない。

シャツを脱いで、そしてズボンを脱ぐのを躊躇われた時に金髪軍人が今更教えた。


「あ、下着は脱がなくても結構ですよ。

 シャツとズボンだけ脱いだらその検査用の服を着てください。」


タイミングをわざと外したとしか思えない、そう察したアギトは白い目で睨みつけながらぶつぶつと聞こえない程度に文句を言っている。

検査服に着替えた二人は、金髪軍人・・・オルフェ大佐の言う通りに検査を始めた。

どうやら金髪美女・・・ミラ中尉はその補佐をしているようだ。



 検査開始。

アギトはこんなことを想像していた。

ここは異世界・・・、きっとファンタジーらしく魔法の道具か何かで調べたりするんだろうと!


「では、早速血液採取と行きましょう。

 腕を出してください。」


「・・・は?」


オルフェとミラは、普通に・・・。

ものすごく普通に注射器で二人の腕から血を抜き取った。

消毒液を含ませたガーゼを渡されて、針を刺した場所に押し当てる。

ミラがそのまま血液の入った容器を持って、どこかへ消えてしまった。

ぽか〜んと呆気に取られる二人をほったらかして・・・、オルフェは次の検査に入り出した。


「それではこの握力測定器を利き手で持って、力一杯握ってください。」


そう言って手渡されたのは、これまた学校の体力検査などでよく見かける握力測定器・・・そのものだった。

きょとんとしたままそれを握り締めて、何気なく視線でオルフェに訴える。

しかし向こうも全く違和感なく・・・測定し終わるのを待っていた。


(あれ・・・?何か・・・何かが違うぞ・・・!?)


そんな風に感じながら、握力を測って・・・それをカルテらしき書類に二人の測定結果を書き込む。

すると突然リュートが「あっ!」と大声を出した。

見ると・・・、ついさっき注射器を差した場所から血を噴き出してリュートが慌てている。

冷静に別のガーゼに消毒液を含ませて、出血した部分を押し当てた。


「あぁ失礼、そういえばさっき血液採取したばかりでまだ血が止まっていませんでしたね。

 失敗失敗・・・、あ・・・測定器の数値を見せてください。

 おやおやこの数値はザナハ姫よりも低い数値ですねぇ、どうやら君は体力派ではないようです。

 見てすぐわかりますけど・・・。

 ・・・はい、それじゃ次行きましょうか。」


「ちょっと待て・・・、お前これわざと順番間違えたろ。」


普通に考えて、血液を抜き取った後に握力検査なんてどう考えてもおかしすぎる。

アギトがそう指摘するも、オルフェは笑顔を作るだけで・・・軽くスルーされた。


「いいよアギト・・・、そんな大量に出血したわけじゃないから。」


「いや、普通によくねぇだろ!」


アギトがそう反論するも、オルフェは淡々と次の段階に進む。

どうやら検査はまだ続くようで次に手渡されたのは、またも見たことのある物体だった。

細い棒に・・・、先端は丸い黒い物。


「さぁ、今度は視力検査です。

 まずは左目を隠して、私が差したマークには穴が空いています。

 穴が空いている方向を言ってください、では・・・まずはアギトからどうぞ。」


「えぇ〜〜っ!?」


視力検査は二人とも2.0だった。

アギトはこの検査に不信感を抱き始めた、これは本当に自分達が勇者かどうか測る為のものなのだろうかと・・・。

検査はなおも続く。

体重を量り、肺活量を図り、・・・本気で普通の身体測定へと早変りしていたのだ。

さすがのリュートも不審を抱かざるを得なくなる。


「ねぇアギト、僕はこういったファンタジーの世界に詳しいわけじゃないから特に何も言わなかったけど。

 これって普通の身体測定だよね?

 至って普通の体力測定だよね?

 体重計も何もかも、測定する道具は殆ど全部僕達の世界で見たものと特に変わりがないように見えるんだけど・・・。

 異世界ってこんな感じなの?」


「・・・オレに聞くな。

 オレだってお前と同じように違和感バリバリ感じてんだから。」


苦虫を噛み潰したように、不満一杯の顔になりながらアギトは込み上がって来る怒りを抑えているように見えた。

そんな二人の思いも全く気にせず、オルフェによる検査は続く・・・。


その後は体力を中心とした検査ばかりで、だんだん空腹になって来た二人には体力勝負の検査が厳しくなってきた。

フラフラになりながら、何とかオルフェが提示した課題をクリアして・・・遂に保健室のような部屋にあるベッドに倒れてしまう。

ぜぇぜぇはぁはぁと息を切らしながら、二人が倒れているとオルフェは検査結果を全て書き込んだ書類に一通り目を通して満足そうに微笑んだ。


「資料は大体こんなものでいいでしょう。

 この検査結果を元に君達のステータスを計算します、お疲れさまでした。

 これで検査は終了なので、もう部屋に戻っても結構ですよ。

 ステータスの数値を割り出すのにもう少し時間がかかりますから、それまで部屋で待機していてください。」


「待機って・・・、どうせ軟禁されるってことだろうが。

 どっちにしろ総合結果が出るまでオレ達に自由なんてないんじゃんか。」


そう文句を言ってみても、ベッドにうつ伏せになってバテている状態では威嚇にもならない。

リュートに至っては体力に自信がなかったせいか、文句の言葉すら発せられない様子である。


「まぁそう言わずに。

 部屋に閉じこもっていても出来るだけ不自由しないように配慮させてもらいますから。

 それと、お腹がすいているでしょう?

 メイドに食事を運ばせますから、今しばらく我慢してください。」


礼節ある態度で接するが、どうにもアギトは素直に従えなかった。

口や顔では丁寧に接しているようだが、その腹の中まで同じだとはとても思えなかったのだ。

しかし食事が出るのは今のアギト達にとっては願ってもないことである。

ここで更に文句を言って食事抜きにされる前に従っておいた方がいいと判断したアギトは、リュートを無理矢理起こして自分の服に着替える。


「そうそう、子供は素直が一番ですよ!」


本人に悪気がないのかもしれないが、言葉のひとつひとつが癇に障ってアギトはストレスが溜まって行くのを感じる。

着替えが終わるとどこからともなくミラが現れて、再び二人を案内した。

オルフェはこのままこの怪しい実験室に残ってステータスとやらを完成させるらしい。


「お疲れさまでした、それじゃ二人の部屋に食事の用意をさせてもらいますが・・・何か嫌いな食べ物でもありますか?」


「ニンジン!」


アギトはここが異世界であることを一瞬忘れて、思わず普通に嫌いな食べ物を告白した。

言った後に、ここが異世界であることを思い出して・・・どんな食材で料理されるのかが少し気になった。

続いてリュートも「納豆とかネバネバしたもの」と言うが、そもそもこの異世界に納豆があるのかどうかも疑わしい。

当然、ミラは少し首を傾げていたが「ネバネバしたもの」という言葉だけを拾い上げて「わかりました」と答えた。


アギト達は元いた部屋に戻されて、そして当然ながらドアに鍵をかけられた。

入ってドアを閉めた直後だった。

そのあまりの素早さに、アギトは少しだけイラッとする。

だが・・・アギトがイラッとしたのは、ここに来てから殆ど全ての出来事に対して・・・だ。


「何か・・・、何かが違う気がするっ!

 異世界って言ったらもっとこう・・・、水晶玉とか・・・体内に眠る気とか・・・そういったものであって!」


綺麗な絨毯が敷かれた床に四つん這いになって、大げさに悔やむアギトを余所にリュートは物思いにふけっていた。

なかばここでの扱いに慣れて・・・そして諦めていたリュートは、この洋館に囚われるハメになった原因を思い出す。

窓から覗いた時に見た可愛い少女、姫と呼ばれた女の子のことを。


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