09-秘密を告白しないと開かない扉
今日は視察です。
南地区から3時間ほど歩いた所に新たなダンジョン(塔)ができたっぽいので、カイルの研修がてら、護衛の冒険者と共に偵察にきました。
中には入らず周囲観察だけです。
オーマさんが「俺もこっちに用がある」と、一緒についてきました……。
絶対嘘です。
野次馬です。
冷やかしです。
大事にしかなりそうになく、不安しかないです。
「2ヶ月前には、ここにこんな塔は無かったんですよね…」
目的の場所に着くと、かなり外周の大きな塔が生成されており、さながら城の城壁を思わせる壮大さだった。
周囲に魔物がわんさかいるといった最悪な状況では無いため、本当に今なお生成途中なのだろう。
「最上階へ上がっていく土魔法の流れを感じるので、まだまだ高くなるかな…」
同行の魔法使いであるインネが、地面に手を付き、付近の魔力の流れを確かめる。
塔に窓があるにはあるのだが、3階あたりのところからで、子供が通れるかどうかという小さな窓。
外から中を伺うのは難しそうだ。
「ほう、なかなか面白そうな造りじゃないか」
躊躇なく近づいていくオーマを、「それ以上は調査前なので先に進まないで…」と静止するインネ。
しかしそんな忠告も虚しく、突然小さな揺れを感じたかと思うと、目の前に塔の扉が急接近し、そのまま扉の中へソーヴ達は閉じ込められてしまった。
「うわあああああ!」
急展開のあまり、驚きの声を発してしまうソーヴ。
他の仲間は臨戦態勢に入り、叫び声さえも上げずに周囲を瞬時に警戒する。これが経験の差というやつなのだろう。
しばし警戒を続けていたが、魔物が寄ってくる気配もなく、静寂だけが広がりつづけるので、警戒を解き、現在の場所の状況整理を始めた。
「カイルさんがいない?」
人数確認をして、不足している事に気づいた回復術士のサンナがポツリとつぶやく。
「オーイ、カイルー」
躊躇なくオーマが大声を出し、慌てて静止しようとする同行の冒険者達だったが、
「さっきソーヴがあんだけ叫んで平気だったんだから今更大声出しても変わらんよ」
と、ジャブとばかりにソーヴの傷口をえぐっていった。
どんな境地でもブレない人だと、苦笑いを浮かべていると、『皆さん大丈夫ですかー?』というカイルの声が遠くから聞こえてきた。
「お前今何処にいる!」
『外にいます! 物音して、森の様子見にいってたので免れました!』
「扉には近付かないで!」
『はい!見てたので大丈夫です!』
「夕方になっても俺らが出なかったら、一人で戻って救助要請頼む!」
『分かりました!』
最悪出られなくても助けを呼びに行ける状態をキープできたのは、一筋の救いである。
だが、前回のギルドでの騒動時といい、上手く回避しているカイルのチャッカリさに、若干のやっかみを感じずにもおれない。
「やつ一人で大丈夫か?」
しかしオーマは一人森の外に残してしまったカイルが気になるようで、最悪一人で戻らなくてはいけない危険性に不安をつぶやいた。
「一応軍隊経験者でそこそこの実力者ですよ」
オーマでも他人を心配するんだという不思議な状況に感心しながら、前にカイルが話していた身の上を思い出し、大丈夫でしょうと返答する。
「朝一緒に手合わせした事あるが、B級冒険者程の実力はあったな」
そう答えたのは剣士エンスで、この程度の往復なら問題ない実力があると太鼓判を押してくれた。
(って、アイツ朝稽古なんてしてたのか…)
と、今どうでもいい事に思考を取られながら、何とか脱出しようと周囲を覗う冒険者達の邪魔にならないよう、ソーヴは棒立ちを続ける。
「あー、この扉出口にもなるみたいだけど、出たいなら秘密を告白せよってある。多分この床に書かれてる魔法陣の上に立って、秘密を告白すれば開く系じゃないかな?」
扉に模られている魔法陣を解読していたインネが、渋い顔をして状況を伝える。
「精神系トラップ……厄介ね」
そうつぶやいたのは、弓使いのサマヤだ。
「出口探すとなると食料が足りない?ここを突破したほうが楽なのか?」
盗賊のデイビスとサンナは、魔法陣の解析は苦手なようで、ソーヴと一緒に棒立ちを決め込んでいる。
「大体この秘密はどういう秘密なんだ?
自分が知らないと思ってればいいのか、神と自分しか知らない事なのか、仲間が知らなければ公の約束でいいのか」
扉や壁にある魔法陣を解析していくオーマが、相談にも似たボヤキをし、インネがうーんとうなる。
「こういう場合って、セオリー的にはこのメンバーが知らない秘密かと。あ、心音図ってるっぽい魔法陣がある…」
「ほう…」
インネの指し示す魔法陣を見ながら、確かにと頷いた。
「なら俺かソーヴが有利だな。あまり親しくないし。
とりあえずテストだ。
ソーヴ、そこに立って何かこのメンバーが知らなそうな秘密いってみろ。」
「え…突然言われても…」
オーマに無理矢理魔法陣の上に立たされ、告白をせっつかれても、思いつくのは死んでも言うなと契約した極秘文章か、最近相談された秘密とは言い難い事ばかり。
「ぱっと思いつくのは、宿の家賃滞納してるとかですかね?」
ソーヴの発言に合せて壁の魔法陣が光るが、直ぐに消滅して扉はあかないまま。
ですよねーという思考しか浮かばずにいるソーヴに、
「お前滞納してるのか?」
とニヤニヤした笑顔でオーマが見つめてくるが、
「オーマさん、貴方がしてるんですよ」
とジト目で見つめかえす。
「それは知らなかった…」
わざとらしくびっくりして見せたオーマの態度を見るに、家賃滞納わざとなのだろう。帰ったらミリアにちくろうと、ソーヴは眉をひそめた。
そんな状況でもインネは渋い顔を浮べて魔法陣の解析を続ける。
「んー忘れてただけは駄目みたい………もっと何か言ってみて。どう光るのか色んなパターン見たいな……」
ならばとばかりにオーマが魔法陣の中へ割り込み、
「ソーヴの好きな人は人妻のアマンダだ」
と暴露した。
「なっ!」
「うわー」
「あー」
不意打ちの告白に様々な表情が揃ったが、魔法陣は弱い光を発しただけでおさまってしまう。
「これは……、秘密とすら判断されなかったみたいですね…」
「お、そうだったか」
わざとらしいすっとぼけ方をするオーマに、瞬時に仕返しされたと気づいたソーヴは、今まで蓄積させていた殺意カウンターのメモリを上げていった。
「あ、はいはい!」
そんな言いようのない気まずい空気を割ったのは、弓使いであるサマヤだ。今思い出したとばかりに魔法陣の中へ走り込み、
「今朝間違ってパン屋の食材、会計せずに商品持ってきちゃった!」
と暴露した。
「お前またかよ!」
それはそれでかなりの破壊力があったらしく、剣士が大げさに怒りを体で表す。
「あれやっぱりそうだったんだ…そんな気がしたんだよね…」
「見てたなら注意しろ!」
等々、呆れて驚く周囲をよそに、壁の魔法陣は複雑に光り、魔法陣が目視できなかった箇所にも描かれていた事を発見させてくれたが、扉はあかない。
「あーもー!戻ったらすぐ謝りにいかないと!」
壁に手をついて脱力する剣士。
「え、今の告白でも駄目なの?皆知らなかった事なのに…」
「秘密じゃなくヤラカシは受け付けないんでしょう…」
「えー」
身を削っての結果に、納得できずにムクレるサマヤ。
ならばと、変わって魔法陣に入ったのは回復術師のアンナだ。
「今日のおやつはサマヤお気に入りの甘味持ってきたよ!」
「うそ、やった!」
「サマヤ最近そればっかり食べてるもんなー」
険悪な空気を変えようと発した発言で、仲間の顔に花が咲くが、ピキリとエンスの表情に怒りが見えた気がするのだが、気のせいだろうか?
対して魔法陣の方はというと、先程同様壁全体が光り、先程は見落としていた天井にも魔法陣があったらしく、その外周がわずかに光っただけで扉は開かなかった。
天井魔法陣の新発見に、「ほう…」と考え込むオーマ。
脱力していくエンスだけが、何だか可愛そうになっていく。
「うーん…天井に神の審議っぽい術式がうっすら見えますね…一時的な秘密じゃあ駄目なのかも…」
同じく天井魔法陣を見つめ、渋い顔になるインネ。
「そんな………折角の日帰り冒険だし、皆に秘密にして驚かそうと楽しみにしてたのに………」
絵に書いたようにわざとらしく拗ねるアンナ。
「まあまあ」と呑気になだめるこの空気が、この冒険者達の和を保つ秘訣なんだと感心してしまう。
「ちょうどお昼だし、気分転換にここで食べながら考えよ」
「食べたいだけだろそれ」
「俺はこれがいいなー!」
「いつ出れるかわからんから程々にな」
「「はーい」」
脱力するエンスにも甘いおやつが差し出され、ニコニコするアンナの笑顔につられ、諦めの悲しい笑顔を張り付かせながらお菓子を受け取り、気持ちを切り替えて食べ始めている。
この冒険者達の要であろう剣士であるエンスの懐の広さに、ソーヴの目頭が熱くなった。
そんなやり取りの横で、配られたお菓子をニコニコと受け取ったインネ。
「あと何かない?隠れてる魔法陣もあるから、パターン見るためちっさい秘密でもいいんだけど…」
と、お菓子を頬張りながら軽い口調で妥協案を提示するが、そんな簡単に秘密を思い出せるものではない。
うーんと考え込む一同。
ソーヴ自身、基本ギルドと宿の往復生活な為、日常の変化に乏しく、言える秘密となるとかなり難しい。
「あ、俺救世主様にあった事がある!」
そんな静寂を破ったのは、盗賊のデイビスだ。
「嘘!あの人存在してたの?」
「それ救世主自体が鑑定ミスだった筈」
「え、そうなの?」
「知らんかった…」
「でもすごーい!なかなか会えないって有名じゃん」
「遠目で眺めただけだけどな」
「顔も見たの?」
「見た見た。普通の少年だったよ」
「何年位前に」
「ん…10年?」
「城に登場しだした頃か…あの頃は結構頻繁に姿出してたからな」
「へーじゃあそんなレアっ訳じゃないのか…」
「いやいやでも貴重だよ、すごーい」
「え、何で今まで黙ってたの!」
「何か忘れてたんだよなー。無理矢理思い出そうとしたら思い出せた」
「うらやましー」
「あはははは」
次々とハシャイダ声が部屋の中を華やかせ、一気に気分が華やいでいく。
そんな急展開の華やぎに付いていけないソーヴは目をキョドらせ、体を強張らせるしかなかった。
「ま、でも扉はあかないんだけどな」
そしてそんな空気を気軽に破壊していくオーマ。
当然のように沈黙が流れ、気まずい空気が戻ってくる。
「この仲間だけの秘密じゃ駄目って事?」
「んー………」
「一緒にいれば秘密なんてあって無い感じになっちゃうし、これ以上は思いつけないよ……」
「そうだよな……」
再び沈黙が流れ出した一同の中で、一人インネだけは「ちょっと待って、方向性を変えれば…」と、何か思いついた事があったらしく、ブツブツと一人つぶやき続ける。
しばし間の後、決意を固めて厳しい表情になったインネは、ズイっと魔法陣へ歩みを進めた。
「とりあえず光らせなきゃ魔方陣解読できないの!
ごめんエンス、犠牲になって!」
突然の名指しに、「え?」と間抜けな声が出てしまうエンス。
祈るようなポーズで魔法陣の上にインネが立つと、
「エンスはいまだにおねしょしてます!」
と、にわかには信じられない告白をした。
「してねーよ! してねーからな!」
今日一番の全力で否定するエンス。
「そうよね、してないよね」
そんな全力の気迫に押され、なだめようとするサンナの優しい声も、どこか同情的だ。
「毎朝布団必死に乾かしてるの皆知ってるよ」
「あれは寝汗だから!」
「本人だけが否定したい事じゃ秘密じゃないよ」
「だから違うって!」
「でも皆共通の秘密だから、試す価値はあるでしょ」
「違うっていってんだろうがー!!」
「………」
壁の光が収まると同情に再び沈黙が訪れる。
「真実かどうか関係なく、公然の秘密でも秘密に変わりないと思ったんだけどな…」
「残念」
インネのヒョウヒョウとした態度に、本日2度目の脱力を体験したエンス。
「もうやだこの空間……早く出たい……」
色々な物が壊れ始めたようで、扉に頭を軽く打ち付け始めた。そろそろ限界なのかしれない。
「まあまあ、誤解は解けたんだし、良かったとおもえば、な?」
エンスの肩を叩いてデイビットが慰めるが、あまり効果はないようだ。
そんな様子を見て、流石に自身も身を削らなくてはと決心がついたらしく、神妙な面持ちでアンナが魔法陣の中へ歩み出た。
「私人殺しした事あります!」
意を決して発っしたその告白に、周囲の誰も言葉を発せず聞き入ってしまう。壁の魔法陣だけが虚しく輝くが、扉へとは到達できず、ゆっくりと輝きを消滅させていった。
「何で開かないの!私最大級の秘密なのに!」
決死の覚悟を決めての告白だっただけに、扉が開かないという結果を目の当たりにして、愕然とするアンナ。
「うん、人戦嫌いな割には不安定なるときあったし…」
「そんな気はしてたかなぁー…」
「冒険者してれば当然っていうか…別に驚かない?」
秘密とはとても思えない内容を決死の思いで告白するアンナに、どう接するべきなのかと一同の表情がこわばってしまう。
「そんな…」
エンスに続いてアンナまでも崩れ落ち、そろそろ別の脱出方法を模索しはじめないと皆壊れてしまうのではと不安を感じはじめた時、「なるほど了解した」と、壁の魔法陣を読み解いていたオーマが、ズイと魔法陣の中へ歩み出た。
「どうやら全員が、かなり呆気に取られる感じの秘密じゃないと駄目みたいだ。
楽勝だな」
先に勝利宣言を掲げ、自信たっぷりに挑むオーマ。
普段の素行を見るに、確かにオーマなら沢山の悪巧み…もとい秘密を抱えているだろうと冷たい目線を注いでしまう。
「特大の秘密をさしだそう!
私は英雄ヒイロの生まれ変わりだ!」
は?
言葉の意味を理解した時、聞き慣れたセリフのような錯覚を感じた。
それと同時にゾワゾワとした恐怖も湧き上がり、一同の思考を「とうとう気が触れた」という共通認識で統一される。
何せ『勇者ヒイロ』は最近代替わりしたばかりの今世の勇者であり、バリバリ現役活躍中の期待の星。オーマよりも10歳程若く、品行方正で正義感が強い、誰もが憧れる見本のような美形勇者なのだ。
そんな勇者の生まれ変わりだと豪語するなんて、頭おかしい人の鉄板セリフでしかなく、これは本格的にヤバいことになっていると戦々恐々としてしまう。
しかし発言した本人はあっけらかんとしたもので、
「ほれ開いたぞ」
と、開き始めた扉を指差して外へ出る合図をおくった。
「「「えええええ!」」」
「走れ! ボケっとするな!」
驚くスキも無く全力で外へ駆出す一同。
扉から飛び出すと同時に、遠くで木の上にいたカイルが地面へ飛び降りる様子が見え、あの辺りまで走れば安全なのだとゴールが示される。
「皆さん無事ですか?」
全力疾走のまま安全地帯であろうカイルの足元で次々崩れ落ちていく一同。
肉体的な疲労よりも、精神的疲労が酷すぎて、しばらく動けそうもない異常事態に陥ってしまう。
外見的な外傷は無いことを確認したカイルは、それでも立ち上がろうとせずに驚愕の表情で寝転ぶソーヴ達を不思議そうに覗き込んだ。
「中で何があったんですか?」
「ちょっと精神的にくる事がね………
詳しくは明日ギルドで話すよ」
そうカイルを納得させたものの、どう中での事を説明すればいいのだろうか。
下手にそのまま話せば、同行冒険者の名誉を傷つけてしまう上に、気が触れたと思われるにのはソーヴの方だ。
チラリとオーマの方を見ると、そんな疑問に気付いていたようで、
「ああいうのは周囲の驚きや怒りの反応が大事なんだから、精神異常者になりきって発言するのが鉄板なんだよ」
と、今更何をとばかりに呆れた態度を返されてしまった。
「いやいやいや。神託つきの扉ですよ?」
そんなオーマの返答に、騙されるものかと反論するインネ。
「フン。私みたいに一流になれば神託付の誤魔化し方位皆知ってる。常識なんだよ。
スキル鑑定だって上級者にかかりゃあどうとでもごまかせるんだから、この程度の魔法陣は楽勝に決まってるだろうが」
「えー…」
馬鹿にして言い切るオーマを、どうしても納得できずに反発してしまう一同。しかしそれを証明する事はレベルが違い過ぎる自分達では無理な訳で。
「絶対今の発言は嘘だと脳が処理してるのに、塔の中での発言は絶対認めないと、魂が全力で拒絶してる…」
「元から頭おかしい人の発言だから、自分達まで感染したと思われて終了する話だよこれ…」
「…聞くんじゃなかった…」
納得できない結末に不満を漏らすしかできず、ボソボソと愚痴を言い合う負け犬達。
「とりあえず危険すぎるから、魔除けポーションまいとくぞ」
ここに留まっていても拉致があかないと、オーマは後処理とばかりに一本のポーションを塔へ向けて投げつけた。
(あれ?)
魔除けポーションにしては見たことないキラキラしたポーションで、嫌な予感が再び思考を駆け巡る。
投げたと同時にこちらへ振り向き、「ほら、走れー」と塔から逃げ出すオーマ。
窓を狙ったのか、わずかにずれて窓枠上に激突したポーションは、そのまま破損して液体が中と外に拡散された。
数秒後に中から魔物が暴れながら悲鳴を上げる凄い音が響き出したかと思うと、ツンと鼻につく異臭がし始め、異常事態発生だと全身が訴え始める。
「それ!もしかして村を回滅させたやつじゃ!?」
慌てて立ち上がり、オーマを追って逃げ始めるソーヴ。
そんな慌てた様子に感化され、訳も分からず冒険者達も逃げ出し始める。
「村ってどういう事?」
「キープ村の悲劇ですよ」
「え!」
走りながらの問いかけにぶっきらぼうに返答を返すと、全ての事情を察したらしく、ソーヴを追い越し全員が全速力で逃走を始める。
「何て物を撒いてんですか!この辺一体壊滅したらスタンピードおきますよ!」
「大丈夫、量的に城一個分だ。魔物は即気絶して移動できず死滅する。安全考えてあの山頂まで走れ!」
「ひー、全然大丈夫じゃない!」
現役冒険者達から遅れをとりまくりながらも何とか異臭から逃げおおせ、無事夕方にはギルドへ帰還する事ができた。
疲労困憊で辿り付いたギルドでは、ミリアから早く状況報告をと急かされ、ソーヴは包み隠す気力も無くし、ありのままを淡々と報告したのだが、
「却下だな」
と、事実を却下されてしまった。
「えええええ」
箇条書きでまとめる報告書を消され、新たな作り話が書き込まれていく。
「恐怖で精神異常者が出て、虚言発言が真実とエラー判定されて扉が開いたって所が妥当だろう」
「虚偽を報告するんですか?」
「真実書いたら勇者を愚弄したギルドとして罰則がかかるかもしれんからな。こういう融通を効かせた対応は職員にとって必須だぞ」
納得できる理由だが、罰則違反スレスレの行為なだけに、腑に落ちない気持ちを持て余してしまう。
「でも本当に生まれ代わりかもしれませんよ?」
「絶対無い」
「何でいいきれるんですか!」
間髪いれずに否定するミリアにくってかかるが、幼馴染のカンだとばかりに、呆れた視線を返される。
「普通に考えろ。あいつがここまで生きてて誰にも漏らさなかった秘密を躊躇無く暴露する場面と、思いつきで嘘をいう場面、どっちが正常だと思う?」
「………」
普段の素行を考えれば、十人中十人が断然後者が自然だと答えるだろう。
「そういう事だよ」
「でも追い詰められてたし…」
「人をいたぶって喜ぶ奴が?」
「食料が無いって…」
「アイツのマジックバックがあれば、城だって運べるらしいぞ。本当に食料は無かったのか?」
「………」
「そうやってウジウジしてるとあいつの思うツボだ。早く忘れろ」
「ですよね…」
ダンジョンを出た後の弁明がいまいち引っかかりを覚えているソーヴであったが、そうやって考え込む事すべてがオーマの術中なのだという気もし、とりあえず思考停止する選択をして今回のダンジョン視察に無理矢理区切りを付けるのであった。