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06-白紙スキル

 いつもの昼下り。


「おい!ギルド長を呼べ!」


 開口一番、受付から身を乗りだし、かなり高圧的な態度をしたC級冒険者の一団が、仲間というには不釣り合いな軽装をした、一人の少女を引き連れてソーヴの所属するギルドへやってきた。


「え、あ、はい。え…でも…」


 受付を担当していたチークは、こういった用件を聞くのが初体験で、席を離れて大丈夫なのかすら分からず、威圧された事も相成ってパニックでオドオドし始める。

 そんなチークの態度に不審を感じ取った冒険者、


「何だその態度は!俺達がギルド長を呼んだらいけないとでもいいたいのか!」


 と、斜め上に怒りを爆発させ、今にも掴みかからんばかりに身を乗り出して受付を脅迫し始めた。


「すみません、こちらの受付はこういった対応が初めてでして。冒険者の皆さんはこちらの席でお待ち頂けますか?チークはそのまま受付で大丈夫。おちついて。

 イオン、ギルド長室にミリアさんいるから『相談事で冒険者様が受付にきてます』って声かけてきて。エミリーはマサバさんにお茶頼んで」


 ソーヴはすかさず立ち上がると、周囲の新人へ指示を出しながら、もろもろのフォローに入る。


 「ちゃんと教育しろ!」と怒りまくる冒険者達をなだめながらバー付近のテーブルへ案内し、マサバさんの代わりにエミリーが冒険者へ水をを出しにくるのを見守りながら、ちらりと少女を観察してみると、軽装であるが奴隷等の薄汚れた感じもなく。本当に庶民の出なのであろう、冒険者に囲まれていたたまれまい雰囲気がただよっていた。


「お待たせしました」


 ミリアが席に着くのを見届けると、とりあえず受付をしているチークにこういう時の対処法を指導しながら、彼らのやり取りを盗み聞きする。失礼があった時にはすかさずフォローに入るためなのだが、話を聞く限り町近くのダンジョンからの帰り道で、少女が一人フラフラとさまよっているのをみかけ、危なっかしすぎるので一緒に連れてきたという経緯らしい。

 しかし拾ったパーティーは男所帯で、面倒を見れるような金銭的な余裕もない。そこでギルドに少女を引き取ってもらえないかと、相談にきたということだ。

 少女の境遇次第では、スキル測定等を行う可能性が出てきた為、こそこそと周囲に指示を出して準備を始める。


「分かりました。少女はこちらで面倒を見させて頂きます。詳しい話を聞いてからになりますが、ちゃんと生活基盤が築けるよう手配させて頂きますので、安心して下さい。本当にここまでありがとうございました」


「ああ、宜しく。じゃあな、お嬢さん」


「あ、はい。ここまでありがとうございました」


 深々とお辞儀をする少女を、満足そうに見守ると、冒険者達はギルドを出ていき、テーブルにはほっとため息をつく二人が残された。




「えっと、まずはご苦労様かな?疲れたでしょ、気を抜いてもらって大丈夫だから、とりあえず座って。この後しばらく泊ってもらう部屋に案内したいんだけど、その前に少し聞きとり調査とこの町の説明をさせてもらうから、もう少し頑張ってね。あ、お腹空いてたりはしてない?」


「あ、はい、大丈夫です」


「そう。じゃあちょっと書類取ってくるからまってて。あー……エミリー、悪いけどサポートに入って」


 ギルド長の意外な人物を指命したことで、ソーヴは内心かなり驚愕した。というのも、エミリーは少しランク付けで人を判断し、見下してしまう癖があり、受付で極力そういった態度を出さないように指導している最中だったからだ。


 彼女のような一般人を相手にすれば、当然見下した態度が露骨に出てしまう訳で、まあ訓練としては丁度良い人材かもしれないが、今後このギルドで彼女を面倒見る事を考えると、スキル等の秘密を町でしゃべってしまわないか、若干不案の残る人材だなのだ。


 書類を持って戻ってきたミリアの横に書記として着席したエミリーだが、拾われた少女は記憶喪失のようで名前も生まれた場所もわからない。彼女の話をきく度に小馬鹿にしたような笑をうかべはじめ、態度の悪さが目にあまり始める。ミリアが度々エミリーをこずいて、その度に慌てて心配そうな演技に戻るのだが、数分と持たず見下し始める始末。現場に出すには、まだまだ訓練が必要なようだ。

 

 とりあえず彼女には、身を守るスキルを持っているか確認する為、スキル鑑定を使用する事に。

 ソーヴ達が準備しておいた装置に手をかざしてもらい、鑑定にかけてみるが何の反応も出ず、スキル無しである事が発覚した。

 益々馬鹿にし始めるエミリーを、「止めなさい」とミリアがとがめるが、「だって、スキルナシですよ」と、取り繕う事さえしなくなってしまう。

 すると、いつのまにかやってきていた錬金術師のオーマが鑑定結果を覗き見て目を丸くした。


「ほお、珍しい。白紙スキル持ちか!お嬢さんの鑑定結果かな?よかったら私の弟子にならないかい?」


「白紙スキル?何それ、詳しく教えてくれる?」


 聞きなれない名前に、ミリアがつい聞き返すと、オーマはここぞとばかりに横柄な態度に出る。


「何だ、ギルド長なのに白紙スキルもしらんのか?」


 オーバーなリアクションと共にニヤニヤと見下すオーマに、カチンときたミリアは躊躇なく魔法をぶっぱなした。


「うお!!いきなり何するんだ!」


 ギリギリの所で魔法をよけ、怒りを露にするオーマ。


「いい?人をバカにしていたら、急に攻撃されても文句はいえないの。エミリーはこれからギルドで短気な冒険者の相手をする事になるんだから、馬鹿にした相手から攻撃されなくても、付き添いの人間から攻撃される事もあるのよ。オーマの態度を半面教師にして、自分の態度を改めなさい」


「は、はい」

 

 ミリアの気迫に押され、エミリーは目を丸くしてコクコクとうなずいてみせた。




 オーマいわく、白紙スキルとはどんなスキルも本人が望めばどれだけでも身に着ける事ができ、しかも専門のスキルよりも成長が早いためにとても重宝される存在なのだとか。知る人ぞ知るレアスキルで、オーマも見かけるのは10年ぶりだという。

 10年に一回見れるスキルなら、そんなに珍しくない気もするのだが、その当時は国関係の重要な依頼を優先的にこなす立場にあったらしく、そんな現場にいたからこそ出会えたスキルなんだと自分の自慢をここぞとばかりに始めるオーマ。


「やあ、愛しい人!やっと会いにこれたよ!」


 そんな空気をぶち壊すように登場したのは、先日カウンターで首振り人形の末に輝いて消えていった冒険者アルベルトだった。


「何だあいつは。ここの常連か?」


「違うわ。ソーヴのファンよ」


 「ソーヴの!?」と驚きの表情でこ受付を見たオーマだが、声を聞いた途端に能面とかしたソーヴは、オーマの小馬鹿にするようなアクションにも無反応を貫き、この場をどう回避すべきなのかに集中力を高めていた。


 空気をぶち破って入ってきたアルベルト本人はというと、唯一テーブルに座る集団が気になったようで、


「おや?昼どきなのにギルドに客が一組だけとは、随分と…って、き、君は!」


 物凄い勢いで彼女の座るテーブルに駆け寄ると、マジマジと彼女を見つめ、


「やはり白紙スキルの持ち主!

 こんな所で出会えるとは何たる運命!是非僕と一緒に全能の師の元で学ばないか!」


 と、オーマ同様彼女を勧誘しはじめた。


 馬鹿にしていたエミリーが茫然とする目の前で、二人は「我こそは!」という激しい勧誘合戦を始め、そのまま物理攻撃へと移行。

 ギルド内は一瞬で、魔法が入り乱れる戦場へと変貌した。


 悲鳴を上げて逃げ惑う新人達。

 ミリアが必死に静止しようとしているが、傍からは一緒に戦闘しているとしか思えない状況。


 こういう争いが起こると、いの一番にいなくなっているマサバさんが、まだバーでコップを洗っているのは何とも珍しい光景で、

「ああそうか、二人ともまだ小突きあい程度の攻撃なのか」と、未だに机で書類整理をしながら冷静でいられるソーヴ自身の不思議な感覚にも驚かされた。


「なんでそんなに冷静なんですか!」


 と、近くへ逃げこんできた新人のリムに悲鳴混じりで問われたが、


「逃げると余計にまずい気がするんだよねー…」


 と、この不思議な感覚を伝えるのは難しいなーと思案する。


 そんな騒動の中、ギルドの扉があき、常連のs級冒険者が依頼終了の手続きに顔を出した。


「今日は一段と騒がしいね」


 小雨でも避けるように小走りでカウンターまでやってきたs級冒険者は、ギルド内を見渡し笑顔を浮かべて話かけてくる。


「そうなんですよ、後の片付けを考えると、そろそろ終わらせてほしいんですけどね」


 恐怖で奥机の下へ逃げ込んだチークの代わりに、ソーヴが受付に座り、日常会話を交わしながら、淡々と受付業を行う。


 カウンター近くの机に隠れていたルギーが、手続きをするs級冒険者に、震える声で一緒に外に連れていってくれと頼むが、その声は周囲の騒音に紛れて届く事はなかった。


「このまま素材出したら破壊されそうだから、宿に荷物置いてもう一度くるよ。鑑定の予約だけよろしく頼む」


 と、s級冒険者は日常をこなして軽やかに出ていってしまった。

 涙目で見送るルギーの様子を見、流石に恐怖が限界に来始めているので、ミリアに避難誘導をどうするかと判断を仰いでみるが、


「動かないのが一番の避難な気がするのよね……」


 と、こちらもいつのまに移動したのか、マサバさん仕切るバーカウンター付近まで、記憶喪失の彼女とエミリーを非難させたミリアが、ゆったり戦場を眺めていた。


 誰も救ってくれないと悟ったルギーは恐怖が勝り、闇雲に出口へ逃げだしたが、飛んできた破片を回避する勢いのまま横の壁に頭をぶつけ、自滅でその場に崩れ落ちる。

 それを目で追っていたチーク、限界を突破してしまい、その場で白目を向いて倒れてしまった。


「ありゃりゃ…」


 助けに行った方がいいのだろうが、今動くのは物凄いまずい気がし、淡々と眺めるしかできないソーヴ。


 すると、流石に見かねたマサバさんが、「紅茶を入れましたので一服しましょう」と2人の間のテーブルへ紅茶を並べはじめ、独特の優しい声に毒気を抜かれた二人は攻撃を止めてギルドに静寂がおとずれた。


 やっと介抱に出れる環境になり、腰砕けになる新人たちを横目にとりあえずひっくり返った二人を楽な姿勢にしてやるソーヴ。濡れタオルを持ってやってきたミリアに二人の介抱をお願いし、あんな戦場だったがそれほど被害が出ていないギルド内を見渡して、ソーヴは安堵のため息をもらした。


「皆さん大丈夫でしたか?」


 攻撃が始まった途端、職員出口付近にいたカイルはそのまま外に避難していたようで、倒れた椅子や書類を整理しはじめる。



 ギルドを戦場にしていた二人はというと、マサバさんを挟んでテーブルに着席し、ゆったり紅茶を楽しんでいた。


 冒険者上がりのリム、エミリー、イオンは、流石と言うべきか復活が早く、ゆっくりながら周囲の書類整理から手を付けだした矢先、再びオーマとアルベルトの口論が加熱しだし、再びギルドに緊張が走る。


「まあまあ。二人がそんなに燃え上がっても、本人の意思が一番大切なんですから。取り合えず本人にどうしたいか聞いてみましょう」


 そんな二人を独特の雰囲気でマサバさんが仲裁に入り、お互いゆっくりと紳士を装い直した。


「確かにその通りだ。今の戦闘を見て、いかに我々が優れているか十分理解できたと思うしな。さあ、そこの選ばれし少女よ、どちらの強い人間と共に歩きたいと思えたか、結論をきかせてくれないか!」


選ばれて当然とばかりに劇場ふうに白紙スキルの彼女を見た二人。

まだ腰を抜かして床に座り込んでいた彼女は、突然のふりに驚いてはいたが、びっくりする程冷静に判決を下した。


「え、どっちも嫌です」


「「「は?」」」


 戦闘していた二人の声に合わせ、何故かエミリーまでが間抜けな声をもらす


「君は何を見ていたんだ!こんな素晴らしい力を目の当たりにして、自分のものにしたいと思わないのかね!」


 激昂して立ち上がるアルベルトを見、益々決意を固めた彼女は、


「思いません。周囲への迷惑も考えず暴走する人の下で働くなんて、命がいくらあっても足りませんから」


 と、凛々しく反論をしてみせた。


「はあ!?」


 そんな彼女の反論に、何故かこの場にいる誰よりも驚いて見せたのは、エミリーであった。


「あーまー確かにその通りですねー」


 と、納得するマサバさんがチラリと原因である二人を見ると、目を見開いて固まるオーマと、「そうなるかー」と魂が抜けたように上を向き、ゆっくりと透明になってアルベルトは消えてく。


 そんなギルドの中で、一連のやり取りを全く納得できずにいるエミリー。


(嘘でしょ、こんな事ありえない…)


 下を向き、ブツブツと呟くエミリーの声は、片付け出した音にかき消され周囲には聞こえていなかったが、自分の想像していたビジョンと、現実とのギャップをうけいれられず、ワナワナとその場で震え始める。


(本当だったら、私の才能に二人が驚く筈で...声をかけられるのはあんな女じゃなくて、私だった筈…ああ、でも私は二人の前に自分の才能を見せていないから、気づかれなかったんだわ!)


 何かの結論にたどり着いた彼女は、バッと顔を上げると、ヨロヨロと立ち上がって自室へ戻ろうとするオーマの腕をつかんだ。


「オーマさん!私を弟子にして下さい!少し前まで冒険者をやっていたので、彼女なんかよりも断然感は鋭いです!絶対オーマさんの修行に耐えて見せますから!」


「はあ?お前何か弟子にして、俺に何のメリットがあんの?」


「え?…」


バッサリと切り捨てられた言葉に、エミリーの頭は真っ白になる。


「俺は平凡な人間に何て興味ないんだわ。」


そういって腕を振り払い、オーマはギルドの階段へ向かっていった。。


(そ、そんな…私には天才的な才能があるのに…あれだけ実力あるオーマさんでさえ、私の才能に気付く事ができないなんて…もっと目の超えた冒険者に出会わないと…私の才能が開花できない…)


 ブツブツつぶやきながらズルズルと崩れ落ちていくエミリーを、視界の端で偶然とらえたミリア。


「エミリー大丈夫?頭でも打った?」


 興奮が冷めてきた事でどこか痛みだしたのではないかと、大慌てでエミリーの横へかけよるが、そんなミリアの心配を『馬鹿にされた』と勘違いしたエミリーは、キッときつくにらみ返し、


「私、今日でギルド辞めます!」


 と、突然の宣言と同時に勢いよく立ち上がった。


 何がおきたのか理解できず、ミリアは声さえ出せず、立ちすくむ。


 そんな様子にふんっとエミリーは鼻息を鳴らし、


「私の価値をちゃんと理解しくれない職場でなんて、働いてられませんから!」


 と、今日一番の周囲を見下した態度を振りまいて、エミリーはギルドから退職していった。




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