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01-自己紹介

 なんでもありの話を読みたかったので、自己発電してみました。

 つたない文章ですが、宜しくお願いいたします。

「やあ、はじめまして。今日から冒険者になる、アルベルトさ」


 カウンターでポーズをきめながら、ウインクをくり返す美男子を正面に迎えながら、受付対応をするギルドの男性職員であるソーヴは、通常通りの笑顔が引きつらないよう、グッと殴りたい衝動を抑え込んだ。


「初回登録者ですね。こちらの番号札をお持ちになって、この書類に目を通し、記入しながらお待ちいただけますか?係の者を呼んでまいりますので。」


 ソーヴは、自身の横にある書類棚の中から番号札と新人登録用の書類を差し出し、アルベルトにカウンター後ろにある書類書き用のテーブルへ移動するよう、マニアル通りの手順で誘導してみせる。


「ああ、いいよ。」


 ウインク付きの笑顔で書類を受け取ったアルベルトは、ソーヴの顔を見続けながら、あろうことかその場である受付カウンターで書類を書きだしてしまった。

 その後ろでは、アルベルトが移動する事を見越して列に並んでいた冒険者が前に出ようとし、つんのめって迷惑そうな表情を浮かべる。


「あの、すみませんがあちらのテーブルに移動されて書類を記入していただけますか?」


 書類を書く事にいっぱいいっぱいで、移動してほしい事を聞き逃す新人冒険者はよくいる事。立ち上がって再度記入用テーブルを指し示してみせたのだが、


「あは、そんなに僕が気になる?」


 と、アルベルトはソーヴの腕をつかみ、グイと自分の方へ引き寄せた。

 口づけせんばかりにソーヴへ顔を近付け、囁きながら首ふりとウインクを繰り返すアルベルト。

『背筋が凍る恐怖は案外身近に落ちている物なんです』なんていう説明書きが頭の中を流れだし、ソーヴの思考は停止してしまった。


 人が多数出入りするギルドの受付で働いていれば、こういった自己中心的な人物に巡り会うのは日常だが、流石にここまで重症な人間は珍しい。


「おい、そこの君!

 あっちのテーブルに移動しろって言われてるんだから、ちゃんと指示に従いなさい!」


 そんな完全に固まってしまったソーヴを見かね、受付を済ませた正義感の強い冒険者が助け船を出してくれた。


 しかしここは体力を存分にためこんだ冒険者が集まる早朝のギルド。職員が率先して対応しなければ、途端に殴り合いの喧嘩が勃発してしまう。

 ソーヴは大慌てで覚醒を試み、状況を収めようとするが、どうやらアルベルトはわざと声をかけられるように振る舞っていたようで、


「おや、そういう君は新人をいたぶって金銭を巻き上げる、聖騎士様じゃないかな?」


 と、仲裁を買って出た男性に聞き捨てならない言葉をあびせ返した。


「は?」


 突込み所だらけのアルベルト発言だが、何よりどう見ても後ろの冒険者は聖騎士に見えない。

 ギルドにいる全員が『何いってんだこいつ?』と、アルベルトに視線を集める。


「何だお前、戯言で俺を侮辱するのか?どう見たって俺は聖騎士じゃないし、新人いじめだってしていないぞ!」


「はは、そうか、君は聖騎士じゃないのか。ならその聖騎士の称号を返還してもらっても文句はないという訳だね?」


「話を聞いていたのか?称号を返還も何も、聖騎士では無いといっているだろう」


「フフフフ。その声に隠された聖気でやっと確信できたよ。

 随分と巧妙に隠してくれたね。お陰で見つけるのにかなり苦労させられたよ。

 受付の美人君には迷惑をかけたね。今準備が終了したから、直ぐ退散するよ。」


「なに‼️」


 途端、神々しい光がアルベルトの体を中心に発動し、聖騎士と言われた冒険者もその光に飲み込まれていく。


「こ、これは!神の使者のみが発動できるという聖なる光!」


「なんだって!」


 周囲で動向を見守っていた冒険者が見本のような状況説明をしてくれたのと同時に、ギルド内はまばゆい光に包まれた。

 その光の効果で体が硬直し、身動きが全く取れなくなった冒険者達は、その理不尽さに驚愕の表情を浮かべる。


 そんな中、一層聖なる光を強くしながら、空中に浮き始めた聖騎士疑いのある冒険者を操作し、クルリと受付のソーヴに視線を向けたアルベルトは、ウインクを投げ掛けながら美しい笑顔を浮かべ、自身もゆったりと浮遊を始めた。


「僕の愛しい人、折角運命の出会いができたのに、急務の途中で申し訳ない。

 後日必ず迎えにくるから待っていてくれ。」


(は? )


 ソーヴの憎しみにも似た困惑を置いてきぼりにして、アルベルトと名乗った男は、相変わらずウインクと首振りを繰り返しながら、神秘的な光を放ち、ギルド内に混乱を撒き散らしながら忽然と消えていった。



 呆然とするギルド内。


 皆思考が追い付かず、アルベルトが消えていった空中を意味もなく眺め続けてしまっていると、ギルド付きのバーを取り仕切っているマサバさんが「派手さは迷惑に入れてくれないのですかね」と小言を呟いてコップの整理に入った音で、皆我に返り始めた。

 しかし疑問ばかり振り撒いていったために、混乱した空気は収まらず、

「奴が聖騎士ってどういう事なんだ?」

「否定していたのに連れ去るなんて、おかしいだろ」

「一体奴は何者なんだ?」


 等、質問だらけが飛び交いあっている。


「はい!他人を深く詮索しない!仕事に戻って!」


 そんな空気を割ってみせたのは、女性ギルド長であるミリアの一声だった。


「あ、つ、次の方、右端のカウンターでお願いします」


 思考停止していたソーヴの時間も動きだし、現状維持の為に現場を避けた右端カウンターへ移動を始める。周囲の新人達も仕事モードへ切り替えられていき、日常業務が再開した。


「詮索するなって、奴が正体不明の輩にに連れ去られたんだ、救出を求めてるかもしれないだろ!」


 それでも納得できない冒険者は、ミリアへ野次を飛ばすが、


「そういう推理や詮索はここを出てからどうぞ!探知能力者は手配しますが、職員は現在何も知りません!

 取り合えず今できる事を終了させてから、捜索に参加させて頂きますので、まずは朝の混乱解消にご協力下さい!」


 ミリアの現場保全をしながらの名演説に、文句を言っていた冒険者も渋々であるが言葉を引っ込め、混乱を解消しようと協力姿勢を見せてくれた。


 ギルドでよくある強制イベントが終了し、今日も通常営業を淡々とこなしていく目の回るような日々がはじまる。

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