第九話 火力馬鹿としての才能
素直に頷いたのだけど、正直半信半疑だった。
ユラは推薦組で強いだろうし、信じられるとも思うのだが、死の香りなんてものが本当にかぎ取れるのだろうか、と思う。
「アラス、お前魔法だけじゃなくて剣も使えるんだな」
俺はのんびりと近づいてくるスカルソルジャーを剣で切り倒すと、エラルドがそう言っている。
「ちょっとだけならね」
そう、大したことないのだ。
東方にある島国にいるプラウドという人たちに比べれば、俺の剣技なんて赤子のようなものだ。
彼等は特殊な刀という剣を使う誇り高き剣士で、遠距離戦でも1対多のような不利な状況でも恐れずに立ち向かっていき、特殊な剣技でその困難な状況ををひっくり返す。
「ちょっとだけねえ?」
エラルドはそう言うと、俺を訝しげに見ていた。
「流石アラスくん! 私なんて魔法しか使えません」
ユラはそういうと、燃尽火玉をスカルソルジャーに放っていた。
ユラの放った燃尽火玉は大きくはなかったが、ユラの指示通りに、左右ジグザグに動くと、飽きたのかスカルソルジャーに命中する。
「相変わらず魔法制御だけは一流レベルだな」
エラルドは苦笑いしていた。
俺も頷く。
「でしょー! でも、私はアラスくんのような火力全振りがよかったです。こう、どかーん! ばこーん! って」
ユラは身振り手振りで大きさを表現している。
俺はそれを見て、もし自分が1年で習うことのない高度な戦闘魔法を使用したらどうなるのだろうかと思う。
自分はどれほど強い火力を出せるのだろうか。もちろん、副作用はあるのだろうけど、気になる。
「あー! アラスくん、今何か妄想していたでしょー? ほっぺがニターってなってるよ!」
ユラはそう言うと俺の頬を伸ばしていた。
「そうかな?」
俺は笑いながら誤魔化す。
「もう、アラスくんはなんで......」
ユラはそう言って俯いたが、
「アラスくんはもっと本音を伝えてもいいと思います!」
ユラは頬をぷくりと膨らませていた。
そういえば、俺は『これをやりたい』だとか『どうしても行きたい』とか、そういう自分の意志というものを最後に伝えたのは一体いつだっただろうか。
ラリアを去るときに、『強くなってやる』とは言ったが、それはちょっと違うだろうし。
俺は自分の意志を相手に伝えたくなんてなかった。
結局それは、面倒なことで.....
俺はそう考えたとこで、考えるのを止めた。
「ユラが身振り手振りで説明していた時に胸が揺れていたのを見て興奮したんじゃないのか?」
エラルドはからかっているようで、笑いながらそう言っている。
ユラはその瞬間、顔を赤らめて俯いている。
「本当?」
「ち、違う! 知らない魔法を使ったらどうなるのかって考えてたんだ」
変な方向に誤解されるのだけは勘弁だ。
俺は嘘じゃないと真剣に説明する。
すると、エラルドは大笑いをしていた。
「う、嘘だって!!」
まだ笑っているエラルドは矢継ぎ早に、
「でもよ、アラスが上位魔法を使ったらどうなるのか、俺もきになるなー」
そう言いながらも、笑い続けているエラルド。
俺はそれに少し怒りが沸く。
「エラルド、冗談じゃ済まないぞ!」
俺はそんなことを口にしていた。
「わかってるって! 帰ったら何かおごってやるからよ、許してくれ」
エラルドはようやく笑い終えると、腹が痛いのか腹をさすっていた。
俺はエラルドの謝罪を聞いてようやく、ユラがどういう反応をしているのかと思う。
俺はユラを見る。
すると、ユラは無表情で石材を眺めていた。
俺は、ああやってしまった、と思う。
どう話しかければいいだろうか。
「そっか。そうだよね......」
そんなことを考えていると、ユラは小さい声でそう呟いている。
俺は何かされるという恐怖を感じていると、
「そういえばアラスくんがそんなことを考えるわけないって、私知ってたのに!」
そう言うとユラはエラルドの頭をポカっと叩いている。
つづけて、
「嘘つきなエラルドに死が迫っていても、もう教えてあげない」
「おまえ、一度でもそんなことを考えたことがあったか?」
するとユラはニッコリと微笑むと、
「ないです!」
目だけは笑っていなかった。俺はその笑顔にぶるっと寒気がした。
「だと思ってたよ」
エラルドはそう言うと、俺のほうを向く。
「4階層のボス。お前ひとりで倒してみないか? 上位の魔法を使ってみたいんだろ? 5階層に着いたらエネミーはいねーし」
エラルドは真剣な表情でそう言う。だが、俺は首を横に振る。
「知らないから、使いたくても使えないんだ」
それに知らない魔法を初見で成功できる天才タイプではない。
「上位魔法全氷結」
ユラがぼそりと呟いている。
「ユラ、知ってるの?」
俺がそう言うとユラは首を横に振る。
「変化エリアで上級生が使っているところを見たことがあるだけ! でも、やり方なら覚えています!」
そう言うとユラは深呼吸をする。
「全氷結」
ユラはそう言うと、目を閉じ、方膝を地面に付かせ右手の手のひらを同じく地面に触れさせていた。
だが、何も起こらない。
「この通り、私では無理なの!」
ユラは立ち上がり、続けて、
「本当なら対象を凍らせる魔法なんだけどね」
とユラは言う。
「おおー! こりゃーいいじゃねーか! ボスを凍らせちまえば楽々倒せるってもんよ」
エラルドはそう言うと矢継ぎ早に、
「なあ、アラス。この魔法を試してみろって。どうせ腕や足がもげたくらいじゃ死なねーんだしよ」
そう言うとショルダーバッグを指さす。
「ポーションだ。それに、5階層はエネミーがいない階層だ。終われば転移魔法で転移もできる。安心安全だ」
「そうだね、やろう」
俺は頷いた。
ユラも異論はないようで、
「そうと決まったら、早速行こう! 冷たい空気大好きです!」
息を荒げながらそう言うユラ。
3度目の俺はユラのそれに気にならなくなっていた。
エラルドも同じでハァハァというユラを無視すると、一人廊下を進んでいる。
俺やユラもエラルドに続くと、何度目かの廊下の曲がり角の後、その部屋は現れた。
そう、ワープポイントがある部屋だ。
「じゃあ、行こう」
合図は俺に任せると言った目線をエラルドとユラが向けていたので、俺は間髪入れずに着くなりそう言う。
「お、おう。そうだな」
少し挙動不審に言うエラルド。
「楽しみだね、アラスくん!」
大好物のお菓子が出てきた時のような女の子の表情をするユラ。
俺は意味深長な二人の反応に少し緊張が解ける。
俺は二人の正反対の顔をゆっくりと見ると、扉を開いた。
瞬間、王座の間に座っているデュラハンの鎧がカチャリとなる。
今まで何度も見てきた光景で、ボス戦の合図となる演出だ。
「よくぞここまで辿り着いたな人間。褒めてつかわす。褒美として我、自ら相手になってやろう」
デュラハンはゆっくりと立ち上がる。
そして剣を床にある石材の隙間に突き刺すのだ。
「さあ、かかってこい。人間」
ここまでが4階層のボスの導入で、この間に攻撃してスキップしてもいいが俺はあえてこうした。
こっちの方が断然雰囲気がでる。
デュラハンは剣で戦う接近タイプのエネミーで、火以外の魔法耐性もちだ。
だから普通の1年生なら、デュラハンとやり合うのはかなり厳しいのだ。
だが、俺は違う。俺には火力のほかに剣がある。小さい頃から鍛えてきたのだ。
3階層の巨大ラットは群れるので、俺の剣では突破できなかったが、デュラハンは違う。
俺は自分の剣の腕というものを試したくなった。
俺は棒立ちで待っているデュラハンに斬りかかる。
刹那、デュラハンは片手にもった剣ではじき返すと、デュラハンは逆に攻撃を仕掛けてくる。
だが、俺は簡単に避けることができた。デュラハンの攻撃速度は遅かった。
「ほう、剣でくるか」
デュラハンが剣を構えたまま喋る。
剣での戦いを見たことがなかった俺は驚く。
「であるならば、我も本気で戦おうぞ」
デュラハンはそう言うと、物凄い剣速で俺の首をはねようと剣を振るっていた。
見たこともないデュラハンの攻撃に俺は驚く。本来であればのっそりとした攻撃しかしてこないのだ。
だが、甘い。俺はデュラハンの振られた剣を下から払いのける。
続けて俺はデュラハンの横に素早く移動し、胴を真っ二つにしようと剣を振る。
だが、デュラハンも防ごうと剣を剣と胴の間になんとか剣を入れて防ぐ。
「なっ! なんつー剣捌きだ...... だけど、それを防ぐのかよ!」
エラルドはあと少しだったというような表情をしていた。
だが、確かな手ごたえはあった。デュラハンの鎧はへこんでいて、たしかにダメージを加えたようだ。
デュラハンは反動でよろける。
俺はその瞬間を見逃さずに、剣でデュラハンの弱点である頭に剣を突き刺すということもできた。
だが、俺は魔法を使うために距離をとる。
「流石はアラスくん!!」
ユラの黄色い声が聞こえてくる。
俺はそんなユラに苦笑いをしてしまった。
そう、俺は褒められるのがあまり得意ではない。
「アラス! さっさと使わねーと、また接近されるぞ!」
俺はデュラハンをみると、デュラハンは今にも俺に近づこうとしていた。
「仕方がない、やろう......」
本当はもっと自分に自信がある状況で、深呼吸をして一息ついてから詠唱したかったが時間がない。
俺はかたひざをつき、左手のひらを石材の上に置く。
そして唱える。「全氷結」と。
俺は『頼む、成功してくれ』と祈る。
すると、手のひら付近が氷で固まっていく。
それは次第に広がり、やがて部屋全体を飲み込んでいた。
「やったのか!?」
寒さに震えながら、俺はデュラハンを見るとデュラハン丸ごと氷漬けになっていたのだ。
厚い氷で覆われたデュラハンを見て、不思議と自信が溢れてくる。
「よし! 俺にもできたぞ......」
俺は左手でガッツポーズをしようとした。
だけど、まったく動かない。俺は自分の魔法の副作用のことを思い出し、はっとした。
エラルドとユラも氷漬けになっているはずだ。そして、俺自身の左手もまた氷で覆われて動かないのだ。
やってしまった。そう思いながら、恐る恐る二人を見る。
「俺が不用心に一緒にデュラハンに挑むと思うか?」
エラルドはそう言い自らの頭を指さしている。
「アラスくん、アラスくん! 剣だけじゃなくて魔法まで使えるようにユラは感激です」
そう言うと、ユラは何故か涙をポロポロと流していた。
ユラの反応は不可解だったが、二人が無事なようで俺はほっとする。
「それより、お前の腕カチコチに凍り付いているな」
エラルドは俺の左腕をみて苦笑いをしていた。
「どうやらそうらしい。助けてくれないかな?」
俺は肩をすくめた。