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第六話 ガリスの警告

「さーて、俺たちも行くか」


『流石に二人では6階層なんて到底無理だ』なんてことを考えていると、エラルドは微塵も考えていなかったようで、いつもながらの爽やかスマイルでそう言っていた。


 俺はその発言にちょっと動揺する。

 魔法が使えるようになったとはいえ、自分の実力が分からないのが現状だ。


「むっ! まさかアラス! お前、俺には無理だって思ってるな!」


 勘違いをしたエラルドは矢継ぎ早に、


「俺だって4階層くらいならひとりで行けるって! そりゃー、お前たちみたいに、並外れた強さなんてものはねーけどよ......」


 エラルドの顔は瞬間暗くなっていた。

 でも、十分強いじゃないかなんてことを俺は思う。

 ラリアにいた時、突然ガリスが『4階層まで一人でいけるか挑戦してみよう』なんてことを言い出したことがある。

 もちろん、校則の範囲内のやり方で、5人でダンジョンに潜るが一人で4階層までの敵やトラップに対処するというやり方で。


 その時は結局俺以外は楽々クリアで、剣しか取り柄のない俺は2階層がやっとで馬鹿にされたっけな。

 そう考えると、かなりひどいパーティーだったんじゃないかと思えてくる。


「十分強いじゃないか! 俺なんて2階層がやっとだ」

「謙遜おつ」


 エラルドは信じてないのか、そう言うと再び歩き出した。

 俺は自分の発言を若干後悔しつつ、エラルドに追いつこうと歩きだす。


 すると目の前に茅葺屋根が連なる集落が見えてくる。

 ゴブリンの里だ。

 と言っても、この1階層にいるゴブリンは人間に対して敵対意識はない。

 むしろ友好的なのだ。なのでこの里は学院の生徒や大人たちの休憩場所としても機能していた。


「ゴブリンの里だな。用はないだろ? 先を急ごうぜ」


 4階層を目指している俺たちにとってこの里に立ち寄る理由なんてなかった。

 だから俺たちは活気がある里のメインストリートを素通りしようと歩く。

 辺りはダンジョンだというのに、沢山の人がいて、ゴブリンは人間たち相手に商売をしている。


 その光景は何度見ても違和感ありありだ。

 俺は観察するように辺りを見渡していると、前方に俺がよく知っている4人組の姿が見えた。

 そう、ルクラン所属の4人組。外見は爽やかイケメンだが、内面はかなり黒いガリス、整った顔とこの辺りでは珍しい桃色の髪をしているソンネ、紫色の髪で、常に微笑しているサラ、黒髪で日焼けした肌をしているニーナ。


 その4人がまるで俺たちの歩みを止めようと、横一列に並んでいた。


「一昨日ぶりだね、アラス」


 微笑みながらそう言うガリス。

 だが、俺は挨拶を返す気にもなれず素通りしようとする。


「おっと! ちょっと待ちなよ!」


 隙間を通ろうとすると、ニーナはすかさず隙間を埋めていた。

 その険悪な雰囲気に道を歩いていた人たちも足を止めて俺たちを見ていた。


「何の用かな?」


 俺ははーっと溜息をすると、通してくれなそうなのでそう言う。

 するとガリスはにやりと笑うと、


「まずはガリア入学おめでとう! でも、君をとるなんてさすがは間抜けで伝統もない学院だね」


 エラルドはガリスのその発言を聞いて、口を開こうとしていたが俺はそれを手で制す。

 これは俺の問題で、エラルドがむかつくのは分かるがあまり関わってほしくはない。


「それを言いに来たってわけじゃないんだよね?」


 俺は動揺していたが、なるべく平静を装いそう言うと、サラが口を開く。


「流石です、アラス。魔法の腕前だけじゃなく頭も切れるなんて」


 そう言うとフフフと笑っている。


「その通りだよアラス。僕らは校長から頼みごとをされてここにいるんだ。なんでも、ガリアの生徒なら近いうちにダンジョンに潜るだろうってことでね」


 話が見えなく、俺の頭は疑問だらけだった。


「アラス。悪いことは言わないわ。ガリア学院を辞めて、今すぐ」


 ソンネは真剣な表情でそう言っていた。

 ソンネの意味深長な発言に俺は「なぜ?」と聞こうとすると、


「これは校長からの伝言だよ」


 ガリスはソンネの発言を無視し、そう言うと、深呼吸すると手に持った手紙を読み始めた。


「お元気ですか、アラスくん。君はガリア学院に入学したようだね。才能のある君のことだ、正気を疑うガリアでも優秀な生徒としていられるだろう。そしてここからが本題になる。退学処分の件、本当にすまなかったと思っている。君にはどう詫びたらいいか。こんなことを言うのはおこがましいが、特別な位を授けてもいいし、何でも言うことを聞くのでどうか戻ってきてはくれないだろうか」


 ガリスはそう言うと、校長の朱印いりの手紙を見せていた。

 そしてその手紙はおそらく本物だ。


「と、言う事なんだ。校長の意図は僕にも分からないけど、ここに書いてある通り君に戻って欲しいらしい」


 ガリスは残念そうに肩をすくめていた。


「俺は戻らない」


 そう、折角居心地の良い場所を手に入れたというのに、居心地最悪のラリアに戻る気なんてさらさらなかった。

 誰が好き好んで、精魂が腐ったラリアに戻りたいというのだと思う。


「アラス、君はなんて賢い人物なんだ!」


 ガリスは俺が断ったことが相当嬉しかったのか、満面の笑みでそう言っていた。

 そこまで俺の事が嫌いだったとはと俺は思う。


「アラス、辞めて」


 ソンネはガリスとは違い、真剣で鋭い視線を送っていた。

 だが、俺は首を横に振る。


「ソンネ、君はまだアラスのことが好きなのか? 僕という男がいながら」


 ガリスはソンネのことをちっとも好きではないような口調でそう言っている。


「ち、違うって!! こんな馬鹿で無能な奴なんて好きなわけないじゃない」


 ソンネはやはり俺の事なんて、好きではなかったようだ。


 それを聞いて安心したのか、ガリスは俺に向き直り口を開いた。


「さっきのはたぶん校長の優しさだ」


 ガリスはそう言うと、指をパッチンと鳴らし直径30センチメートルほどの火の玉を出していた。


「僕だって、やりたくないことだってあるんだ」


 ガリスは全くそう思ってない様子で肩をすくめていた。

 俺はその言葉を聞いて身構える。ラリア学院では当然のことだが、殺し合いや危害を加えるなんてことは禁止だ。

 でも、対象は俺だ。俺たちの様子を見ていたラリアの生徒はみな、にやにやした表情をしていた。


「残念だよ。そして、これはちょっとした警告だ」


 そう言ってガリスは右手を俺に向ける。

 その瞬間火の玉が俺めがけ襲い掛かってくることは理解できていた。


 だから、俺もすかさずに勢いを相殺させる魔法を唱える。


燃尽火玉(フレイム)


 俺が何度やってもできなかった火魔法。

 だが、やはり指をパッチンと鳴らすことにより、それは現れる。

 直径2メートルほどの火の玉。記憶ではもっと小さかった気がするけど、今はそれどころじゃない。

 俺はそれをガリスめがけ、左手を振る。


 すると、燃尽火玉(フレイム)はガリスの火の玉を易々と飲み込んだだけじゃなく、周囲の地面が火に覆われていた。

 その瞬間、俺の足は火に飲まれていた。

 足が燃焼するヒリヒリとした痛みがくるぶし辺りまで覆っている。

 それはとても痛かった。

 解決方法としては水魔法を使い火を消してから、ポーションなり治癒魔法で癒してもらうというのがセオリーだ。

 でも、俺はレストランの一件の事を思い出す。だが、それどころじゃなかった俺はすかさず指をパッチンと鳴らす。


沸け水(ウォータラ)!!!」


 その瞬間、雨雲が頭上に出来上がり大量の水が降ってくる。

 大量の水が火を消したが、今度は辺り一面水浸しになっていた。


 俺はその瞬間、ガリスがどうなっているのか気にかける余裕ができ、ガリスを見ると、靴はやはり燃えていたらしい。だが、燃尽火玉(フレイム)による影響はないらしく、俺を睨みつけている。


「おいおい、アラス!! 大丈夫か!」


 エラルドは迫真迫る声でそう言うと、俺に治癒魔法をかけていた。


「ありがとう、エラルド」


 治癒魔法を自身にかけるということは高度な魔法で、1年生で身に着けている生徒は少ない。

 だから、エラルドがいてくれてよかったと思う。


「お前がなんでアーニャっちに目をつけられて、なんで俺がこのパーティーにいるかも理解できた気がするよ。火力馬鹿すぎるぜ」


 エラルドは苦笑いしながら嘆息していた。

 俺はエラルドに申し訳なく思い、愛想よく「すまない」という。


「ま! それはいいんだけどよ、こいつらお前の事睨みつけているようだけど」


 エラルドは顎をくいっと動かす。

 俺はその先にいるガリス達を見る。

 ガリスは俺を睨みつけていた。ソンネは驚いた表情で俺を見ている。サラは特に変化なし。ニーナは不敵な笑みで俺を見ていた。


「いつの間に魔法を!! しかも、この僕に傷つけやがって!!」


 猛獣のように睨んでいたガリスは俺の視線に気づくとそう言い、冷静になり、矢継ぎ早に、


「これはほんのお遊びで、警告だったのに。君は無視した。後でそのことを後悔するんだな」


 そう言うとガリスたちは踵を返した。


「あ! そうそう、後悔することなんてもうできないだろうから、今を楽しむがいいよ」


 ガリスは俺に対して、殺害予告をしているようなものだった。

 俺は大変なことになったと思うと同時に、体が硬直した。

 俺はこいつらを見返したいと思ってはいた。

 けど、まだ1か月も経っていない。俺でもわかる、常識的に言えば練習不足の俺が勝てる相手じゃないということを。


「なにか訳ありのようだな」


 エラルドはそう言う。俺は頷く。


「まあ、ガリアの生徒なら一つくらい何か秘密があるもんだ。俺はきかねーけどよ、俺たちはパーティーなんだ。一心同体ともいえる。そりゃー、リーフェやユラが助けるなんてわからないが、俺は助けるからよ。ま! アラスは強すぎるから一人でなんでもできるかもしれねーけどな」


 エラルドは照れながらそう言っていた。

 俺はその言葉に嬉しく思う。

 初めてそんなことを言われたのだ。最後の一言は完全にエラルドの勘違いだが。


「ありがとう」


 心からそう思った。





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