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第五話 最弱なわけ

 翌日、朝食は硬いパンだった。

 どうやら本当に実力で食べ物まで決まってしまうんだと実感する。


「アラス、硬いパンを美味しそうに食べているところ悪いがちょっといいか?」


 このパーティーは朝食を共にするという習慣はないらしい。

 俺は一人でダイニングにある硬いパンを食べていると、エラルドが入ってきた。


「何かな?」

「アーニャ先生も多分話しただろうけど、この学院はダンジョンでの結果が全てだ。ラリアではどうだったか知らねーが、うちは10階層より下に行くことも禁じられていないし、一年生の限度階層なんてものもない。ま! 死にそうになっても助けなんてないけどな」


 俺はその言葉を聞いて寝起きなのに頭がはっきりとする。

 ラリアでは一年生の限度階層は4階層までだ。その理由は平均的な生徒が安全に成長できる限度だからと前に説明しているところを聞いたことがある。


「事実、うちの学年でも数人はダンジョンからまだ戻っていない。つまりは、生きている可能性は限りなく零に近いということだな」


 エラルドは顔色一つ変えずに事実だけを淡々と話していた。

 俺は当たり前のように話しているエラルドが少し怖くなった。


「その話がどうかしたのか?」


 俺は出来るだけ平静を装いそう言うと、エラルドは微笑し、


「最初は俺もそんな感じだった! たしかに最初から異常な生徒が大半だが、俺たちみたいな奴のほうが人間味があっていいじゃないか」


 どうやら俺は平静を装うことに失敗したらしい。

 エラルドは気を遣ってか、笑顔でそう言っていた。


「エラルドは良く他人をみているな」


 そう、俺はその話を聞いて恐ろしかった。

 エラルドがこんな話をしたということは、これからそう言うことが起こりえるということだからだ。

 4階層よりさらに下の階層に行くことは、それほど恐ろしいことなのだ。


「まあな! 俺がこのパーティーに入れられた理由もそれだろうよ」


 エラルドは苦笑いをしながら後頭部をさすっていた。


「とにかくだな! なんでこの話をしたかというと、俺たちは今日もダンジョンに潜るからだ。行き先は進級試験合格ラインの10階層といいたいところだが、6階層だな。ま! あくまで目標だけどな」


 エラルドは再び苦笑いをしていた。

 このパーティーのことだからきっとまだそこまで到達していないという事なのだろう。

 でもなぜだろう。疑問に思う。


 あと、10階層が進級ラインということに突っ込む気にもなれなかった。


 この学院は無茶苦茶なのだ。

 もう何があっても驚かない。そう思えてくる。


「わかった。でも、何時行く予定なんだ?」

「今すぐだ!」


 時刻は朝の8時、6階層に1年生が到達するには少し遅い時間なのだ。


 ダンジョンに潜るということは大変なことで、時にはダンジョン内で泊まることもある。

 それはダンジョンが迷路のように複雑でかつ巨大だからというのと、恒久的に変わらないエリアのほかに常に変化し続けるエリアもあるからだ。

 ラリアでは恒久的なエリアのみの探索だったが、ここではきっとそれすららも自由なのだろう。

 変化エリアでは命がいくつあっても足りない危険な場所なのだが。


「つまりは野宿?」


 俺の質問に、エラルドは首を横に振った。


「あの程度で野宿なわけないじゃない。というか、早く用意してよね」


 いつの間にかリーフェとユラはダイニングの入り口に立っていた。

 そのあまりに見事な隠密に少し感心する。


「そうですよ、アラスくん! 早くダンジョンに行きましょうよ」


 ユラは息を荒げそう言っている。

 だが、俺はもはやその程度で動揺しない。


「ごめん。待たせちゃって」


 俺は急いでガチガチに硬いパンを頬張り、ダンジョンに行く支度をした。




 学院からダンジョンには魔術馬車で行く。

 学院の地下からダンジョン1階層まで直通で通っている馬車は全学院共通だ。

 ダンジョンにターミナル駅のようなものがあるからだ。

 どういう原理で動いているのかは知らないけど、この方法ならそれなりの距離があるここまで10分もかからない。


「着いたな!」


 エラルドは背伸びをしながら気持ちよさそうにそう言っている。

 1階層は大自然だ。ダンジョンって言葉に似つかわしくない緑あふれる木々や川なんてものがあるから、久しぶりに来た俺も自然と同じような行動をしていた。


「じゃあ、始めましょう」


 リーフェはそう言うと俺たちに目もくれず、馬車を降りるなり一人でずんずんと歩きだしていた。

 その速度は速く、まだ数秒しか経っていないというのにリーフェの姿はすでに小さかった。


「リーフェ! 俺たちはまだ――」

「言っても無駄さ。自己紹介の時に言ってたろ? ダンジョン攻略の邪魔はしないでよねって。どうやらあいつは一人で10階層まで行きたいらしい」


 エラルドは無駄だと肩をすくめていた。


「でも、それじゃあ俺たちは」

「ああ、わかってる。このままだと2年に上がる頃にはアーニャっちの条件を満たせずに退学になっちまうってことだろ」


 俺は無言でうなずく。


「ダンジョンでパーティーとして結果を残せなきゃ加点されないって何度も言ったんだけどよ。あいつ聞かねーんだよ。なんでかしらんけど。それどころか、『私の速度についてこれないあんた達が悪いのよ』なんて言い出すんだ。だけど、俺にはできないんだっての」


 エラルドはそう言うと、むしゃくしゃしたのか頭をかいていた。


「ああ、もう!! むかつくぜ。まあ、とにかくだな。言っても無駄だ」


 エラルドはそう言うと少し荒く歩きだした。

 俺もそれに続こうとすると、ユラは俺の袖口を引っ張っている。


「アラスくん、アラスくん」

「な、なにかな?」

「奥の方から危険でひんやりとした空気が伝わってこないかな?」


 ユラは満面の笑みでハアハアと息を荒げている。


 俺は『またか』と思いつつも、首を横に振ると、


「あっちに行こうよ、アラスくん!」


 ユラは2階層へと続く道ではなく、変化エリアを指さしていた。

 もちろんそっちは違う方角なので俺は違う方向だと諭す。


「ええー!!! アラスくん!! 死の香りが伝わってこない? あっちに行けばより濃くなるの!」


 ユラは俺の手を取りながらそう言い、矢継ぎ早に、


「アラスくんにもわかるでしょ?」


 首を傾げながら言うユラ。

 そんなこと言われても分からないじゃないかと思う。


「おい、ユラ! 今日はアラスにはやらなきゃならないことがあるんだ」


 助け船を出してくれたエラルドは矢継ぎ早に、


「今日は1階層か......」


 そうユラには聞こえないような音量で呟いていた。


「そっかー! なら仕方ないよねー。また今度行こうね。バイバイ、アラスくん」


 意外ににもユラは素直にエラルドの言うことを聞いていた。


「ごめんね、ユラ」


 俺は何となく謝ると、ユラは「ううん」そう言うと、変化エリアへと続く道を歩きだした。

 そして俺はユラの行動が予想で来ていた。でも、止めることはしなかった。

 いや、止める事なんてできないのだろう、エラルドだって最初はそうしたはずだからだ。


「なんで最弱か分かった気がするよ」


 俺は嘆息するエラルドに向かってそう言うと、エラルドは苦笑いをしていた。

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