泡の少年
深海の底で、
ひとりでこっそり少年が
海面を見上げている。
真っ暗で何も見えないのに、
それでも少しでも海面を見たくて、
でも動けないから、
ただただ真上を見上げている。
首が痛い。それでも見てしまう。
いつからなのか、とうに忘れてしまった。
気付いたら深海にいたから、
吐き出せるのは泡だけだったから、
今まで喋ったこともないから、
誰とも会ったことがないから。
ずうっとずうっと一人ぼっち。
泣きたくても泣けない一人ぼっち。
吐き出す泡だけが
海面へ向かう。
動かない体は
永遠の体育座り。
真っ暗闇のなかで
届かない腕を伸ばす。
すべてが海なのか。
あるいは海の向こうになにかあるのか。
魚が真上に向かっていく。
何を求めて いるのだろうか。
少年の冷たい肌はゾンビのように青白いが
気づくこともないまま。
体は鉄のように重いから、
細いのに体育座りから起きられないから、
自分で真上に向かうことが出来ないから、
外に行けるのは泡だけだから。
永遠に一人ぼっち。
かすかな光も見ることができない。
首は絞められてないのに苦しい。
涙は出ないのに悲しい。
少年の目に宿る光
いつのことか。
いつのことか。