王子と魔女と妖精と 共通1
「魔王が復活するだって!?」
緑の髪をした少年は椅子から転げ落ちるほど飛び上がり、狼狽している。
「落ち着け、まだ決まったわけではない」
長い髭をたずさえ、どっしりと構えた老人がカッと目を見開く。
他にも数名の男女は椅子に腰かけ、静かに集会の主催である老人の沙汰を待つ。
彼らは森の番人たる妖精の重鎮、エルフと呼ばれる種族。
「それで、何か考えが?」
魔王の復活をただ手をこまねいて待つ、そんな選択肢は最初からない。
「封じるしかあるまい」
かつて魔王を封じた伝説の勇者はもういない。
なれば、残っているのは勇者の仲間であった魔女メリーヌの血を引く娘のみ。
「ウユ、早急にメリヤを呼ぶのじゃ」
「わかったよ長老!」
■■
「ジュノース殿下、ツェツェーリア様がお見えです」
「そうか、すぐに行くと伝えておいてくれ」
やれやれとため息をついて、本を閉じる。
「さて、湖にでもいくか」
読んでいた本を机において、茶の髪をした青年は窓から降りる。
湖は人気がなく、一人になれる場所だ。
ジュノースは優秀な兄がいることから、どうでもいい扱いをされている第二王子。
婚姻もとくに意味なく、取り合えず娶らせようとした母から生まれて早々に決められた。
「まったく、ハエのような女だな」
「それ、アタシに行ってるの?」
口調のみならず化粧が濃くて目力のある女が彼に声をかける。
「失礼……そういうわけではないんだ。貴女がいるとは気が付かなくてすまない」
ジュノースは若い女性なら失神してしまうような、爽やかな微笑みを浮かべた。
王子と言わずとも、普通の相手ならこれで許され、その場が収まる。
「アタシがそこらの女みたいに簡単に許すと思ってる?
どういう状況でそんなことを言ったのか、説明してもらわないとね」
そこで初めて彼女の姿をまともに見るジュノースは、その恰好に驚いた。
濃いピンクの髪、尖り帽子と黒い露出の高い衣服。それは世に聞く魔女そのものだった。
「育ちのよさそうなボウヤね。魔女を見るのは初めてのようだけど
怖くて声も出ないのかしら?」