健康に効く!落雷
野菜を食べたり、規則正しい生活を送ったり、運動したり。
毎日の健康管理――面倒くさいですよね!
そんなあなたにおススメなのが、最近話題沸騰中のコレ!
ドドン!(効果音)
そう、「落雷」です。
ちまたでとっても健康に良いと評判の「落雷」、興味ある方も多いんじゃないでしょうか!
今回はその「落雷」について耳よりのお得情報をお送りします!
さてこの「落雷」、メリットはなんといってもその快感!
直撃を受けると――なんと! 一瞬で天にも昇る気持ちを味わえちゃうんです!
さらには――なんとなんと、本当に天に昇ってしまうコトもあるとか!
もちろん気持ちの良さだけじゃありません、その健康への効果も驚きの一言!
「落雷」を受けると身体中の細胞が一気に活性化! 強力なデトックス効果により老廃物を除去し、その結果大幅に寿命が伸びると科学的に証明されているんです!
(小さくテロップ:効果には個人差があります)
そんな「落雷」、受けるには手間もお金もかかるんでしょう? ――そんなみなさんの声が聞こえてきそうですが、どうぞご安心ください!
今日ご紹介するのは、健康に良いと話題の「落雷」を、お手軽に、しかもお安く! 受信できちゃうサービスなんです!
サービスの利用方法はとってもカンタン! スマホでアプリをダウンロードするだけ!
端末のGPS情報を活用して、現在地付近の天気が荒れてくると、人工知能が「落雷」の発生しやすい位置をあなたのスマホに送信! 表示されるナビゲーション情報に従って少し移動すれば、地図が読めない方でも安心、「落雷」発生予測箇所にすぐ到達できます!
さて気になるお値段なんですが、通常サービス利用料は20万円のところ――
現在キャンペーン中のため、なんと税別1万円ぽっきり!
さらに、こちらの生命保険にご加入いただくとなんと! 無料で「落雷」を受けられちゃうんです!
さらにさらに今だけ! オプションの避雷針ならぬ「受雷針」も無料でプレゼントさせていただきます!
そんな美味しい話、裏があるんじゃないのー? と疑問をお持ちのお方もおられると思います。
ご安心ください!
もちろん「落雷」ですから、受けどころが悪いと死亡するリスクがあり、注意は必要です。
でも大丈夫、だってみなさんの周囲で「落雷」で亡くなった人って、聞いたことありますか? ないですよね! そう、「落雷」で死ぬ確率は、なんと外で雷に当たって死ぬ確率とほぼ同じで、そのリスクはまったく無視できるんです!
あ、でも万が一死亡しても責任は取れませんので、悪しからず!(笑)
さあこの機会をお見逃しなく、どうぞアプリをダウンロードください!
「……コレは何かな?」
文書に目を通した私は、提出した部下を呼び出して尋ねた。
「はい課長、来年度の目玉施策の企画書です!」
新任の部下は自信満々で答えた。
私は溜息をつき、こめかみを押さえた。頭が痛い。
「君ねえ、我が部署は何をするところか、わかっているのかな?」
「はい! 人口減少促進課のミッションは、国民の人口をできるだけ減らすことです!」
やはりこの新人は全く分かっていないようだ。
「違う! それは建前だと言っただろう。真の目的は『愚かな』国民を減らすこと、だ! 優れた人間まで減らしては、国家が立ち行かなくなってしまうではないか!」
思わず雷を落としてしまった。
「も、申し訳ございません……。もちろん、ターゲットは愚かな国民だけです。しかし、この企画で落雷を受けるような人間は相当に馬鹿だと考えているのですが……」
部下は恐縮しつつ、控えめに反論してきた。
熱くなってしまった頭を冷やしつつ、私は説明した。
「企画内容自体に問題はない。これで馬鹿な国民をかなり殺せるだろう。問題は企画の導入方法だ」
企画書の一部を指さす。
「ここに『アプリをダウンロード』とあるだろう。だが、本当に愚かな国民は、果たしてアプリをダウンロードできるのかな?」
部下は気が付いたようにハッとした。
「たしかに、難し過ぎて、できないかもしれません」
「そうだろう。仮にかろうじてダウンロードする能力があったとしても、面倒だからとダウンロードせずにあきらめてしまう可能性もある。愚かな国民のことをナメてはいけないよ。我々人口減少促進課は、自分本位に思考してはならない。常に、愚かな国民目線で物事を考えなければならないのだ」
「承知いたしました! 落雷位置提供アプリは、全国民のスマホに強制的にダウンロードさせるよう、修正します!」
私の説教に感じ入った様子の部下は、企画書を手に自席へと戻っていった。
やれやれ。
国家繁栄のため、愚かな国民を減らすべく国民人口省が設立されて50年。
馬鹿な国民を減らすことで、確実に人口は減ってきたが――。
施策の企画立案を担う国民人口省の職員が、この程度の理解力では困ったものだ。年々職員の質が下がってきているように感じるのは私だけだろうか。
元々していた作業――ミニカーを机の上にキレイに並べる――に戻りつつ、私は思った。
だいたい、アプリのダウンロードなんて、私だってできないのに。