トマスSS 君の名は………後編
第2章はここで終了です
トマスはグッドの執務室を出る時に。
「………済まんが…頼む…グッド…」
そう言うと、グッドは。
「…ああ………わかった…」
そう言ってトマスを送り出した。
トマスが去った後に、秘書官が。
「司令官…すみませんが後が押しております…」
そう言うとグッドは。
「…済まん…10分だけ…時間をくれ…」
そう言うと、司令室の室内に備え付けてある、化粧室に入ると、水道の蛇口を捻って水を出し始めた。
大きな音で水音が鳴る中、グッドは目に涙を溜めて居た。
「…ちきしょう!………なんで…トマスが………ちきしょう!…」
グッドは1人、洗面台で…泣いていた。
トマスは家に帰ると、ローズが出迎えてくれた。
ローズは中年になって、少し肉が付いたものの、相変わらずその美しさは変わらなかった。
ローズの作った夕飯を食べて、お茶を飲んでいた時。
「…今回の検査は…何かあった?」
そうローズが聞くと、トマスは。
「…ああ…大事な相談だから…落ち着いて話したかった…」
そう言うとローズの顔を見て。
「…癌の末期らしい………もって半年………そう言われた………」
ローズはそれを聞いて目を見開くと。
「洞窟の向こう(地球)に行っても?」
そう、震える声でトマスに聞くと、トマスはゆっくりと首を横に振って。
「…あとは………薬で痛みを取るくらいしか………出来んらしい………」
それを聞いてローズは、手を顔に当てて。
「…そんな………なんで!………」
そう言われたトマスは。
「………しばらく………ここで暮らす………これが…最後になるなら………悔いは…残したく無い…」
そう言ってから、ローズを抱きしめると。
「明日…皆んなで出掛けよう…孫達も連れて…」
そう言うトマスに、ローズはただ、ただ、頷くしか無かった。
翌日からトマスは、孫達を連れてピクニックに行った、ローズと2人で馬に乗って遠乗りをした、村で知り合いと酒場で飲んだ。
「…明日から入院するから…送ってくれるか?」
そうローズに言うと、病院に入院した。
入院したトマスは延命治療は望まず、痛みだけ取り除いて欲しい。
そう医者に言うと、大半を車椅子で過ごした。
その日は秋の夕暮れが美しかった、トマスは面会に来た孫達やローズを家に返すと。
「少しだけ…外の空気に当たりたい…」
そう言って看護師に頼んで、病院の屋上に来ていた。
車椅子に毛布を掛けてもらって、暖かい毛布の中、昔の夢を見ていた。
開拓地に来て間も無い頃、妻のダリアと馬車で移動していた、 疲れて船を漕いでいるうちに、馬は家に着いて居た。
ダリアと2人で、馬は賢いな!、そう言って笑っていた、あの頃…トマスもダリアも十代後半だった。
うたた寝から目が覚めて、前を見ると、秋の夕暮れの光の中に………ダリアが居た。
ダリアは夢で出て来た年と服で、トマスの方を見ると、優しく微笑んで居た。
トマスはダリアに心の中で。
〈…すっかり…待たせてしまったな…〉
そう思うと、ダリアは軽く顔を横に振ると、
トマスに手を差し出した。
トマスはそれを見て。
〈…これからは…一緒だな…そこに行くから…待っててくれ…〉
トマスはそう思うと、ダリヤは優しく微笑んでトマスの方に進んだ。
トマスは車椅子から、手を前に伸ばすと。
〈…今度は………離さない………〉
そして伸ばした手がダリアに触れると、トマスは満面の笑みで微笑んで居た。
看護師が気が付くと、トマスは手を前に出していた、そしてその手が下に落ちた瞬間。
トマスは車椅子の上で、息を引き取っていた。
数日後、トマスの村の教会で葬儀が行われていた、参加者はトマスの家族と村の年寄り達。
寂しい葬式になると皆が思っていた時に、教会前にバスが止まった。
バスからは老人達が、軍の礼服を着て降りて来た、驚くトマスの家族と村の年寄り達。
そして一台の軍用四輪駆動と軍用トラックから軍人が降りて来ると、1人の将校がローズに話しかけた。
「久しぶりだな、ローズそれにマリー」
黒人の太った将校がそう言うと、ローズとマリーが。
「グッド!」 「グッドおじさん!」
そう言うとグッドは笑顔で。
「俺たちも赤鬼にお別れをしに来たんだ」
そして老人達を見ながら。
「皆んな、国境の戦闘の時の奴らだ、皆んなで赤鬼を送るぞ!」
そう言うと周りから、オオッっと声が上がり。
トマスの葬儀が始まった。
棺に軍旗を被せて、皆で運ぶ、グッドと礼服の老人達、そして村のトマスの友人。
墓地に着くと、軍旗は三角に畳まれて、ローズの手に渡る、儀礼隊がライフルで弔銃を偶数発撃つと、棺が墓の下に降ろされる。
弔いが終わると、村の酒場で皆で飲んだ、入りきらない者は外で、テーブルを出して飲んでいた。
村の若い衆はその時に初めて、赤鬼の話しを聞く事になる。
ローズはグッドに。
「…ありがとう…グッド………」
それを聞いてグッドが。
「………アイツは友達だった………
友達…だったんだよ…ローズ…」
その目には涙が溜まっていた。
そして数日後、ブロッケン領の崖の上で2つの石碑が並んでいた。
新しい石碑には、一言だけ。
………………………トマス……………………
そう、刻まれていた。
そしてそこには、グッドの姿があった。
あの日、病院の帰りに要塞のグッドを訪ねたトマスは、グッドに全てを打ち明けた。
そして、自分の死後に、ここに石碑を頼むと言うと。
「………すまん…グッドにしか………頼めないんだ)
そう言うとトマスはグッドに頭を下げて来た。
グッドはトマスと書かれた石碑を見ながら。
「………まあ…確かに…ローズには頼めんわな………」
そして最後に石碑を見ながら。
「………じゃあな………赤鬼………」
そう言うと軍用四輪駆動の所に行くと、乗る前に石碑を見た。
秋の木漏れ日の中、石碑の近くに、若い男女が座っている様子が見えた気がして、さらにグッドは目を凝らすのだが、2人の姿は無かった。
「………目の錯覚か………」
そう1人呟くと、要塞に帰って行った。
それから、長い年月が過ぎた。
2つの石碑は長い間、風雨にさらされ、周りから、少しずつ、欠け出して来た。
石も苔むして、土に還るその姿はまるで。
仲のいい老夫婦が、仲良く老いて行く。
そんな姿にも見えた。
そして、
その様子を、
化石山脈の山々だけが、
変わらない姿で、いつまでも、見ていた。
昔…赤鬼と呼ばれる男が居た。
その男は…ただの臆病な百姓で。
そして…優しい…ただの…父親…だった
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次は短編でお会いしましょう




