怯える少女
インクブとイザベラが砦の建設地を留守にしている間の事。
トマスとトマスの世話をグッドことボーヴァンに頼まれた少女、マリーは建設現場を只々(ただただ)見ていた。
建材を運ぶトラック、荷物を降ろすフォークリフト、鋼材を吊り上げるクレーン、全てが真新しく新鮮で見飽きない。
そのうち、お昼休みを知らせるサイレンが鳴ると、皆が作業を止めて食堂に集まる。
目の前でトラックから荷物を降ろしていたフォークリフトが最後の荷物を降ろすと、リフトの操縦士がトラックの運転手に声を掛けていた。
「飯にしようや!」
トラックの運転手が片手を上げて了承するのを確認すると、フォークリフトを邪魔にならない場所に留めてフォークリフトの鍵を抜くとポケットに収める。
トマスとマリーに気がつくと、ニッコリと笑って。
「お嬢ちゃん、お父さんと仲が良いな!」
青い上下の作業服を着た小太りのオッサンがトマスとマリーに話し掛けて来た。
食堂に行く途中に自己紹介をする。
「…あんたがあのトマスさんか?」
それを聞いてトマスが戸惑いながら。
「かばさんが聴いてるのが、どのトマスか知らんが………まあ、その………俺もトマスって名前だよ!」
そうトマスが言うと、かばは軽く笑いながら、
「その手を見たら、あんたがあの赤鬼だってわかるよ」
そう言ってかばは、微笑みながら。
「俺も洞窟の向こうに家族が居るんだわ、あんたの気持ちもわかるわ」
そう言うと、俺なら多分モンキーレンチ使ってるな。
それを聴きながら、モンキーレンチって………何なんだろう?、そう思うトマスだった。
食堂はそこそこ人で埋まっていた、カウンターに行くとトレイとスプーンとコップを流れ作業で受け取る、後ろではマリーがトマスの分と自分の分を受け取っていた。
「今日は牛丼か?」
そうかばが聴くと、カウンターの向こうの女性が。
「魔牛の良いのが獲れたらしいよ、夜はステーキだってさ」
白人の金髪女性が牛丼を出しながらそう言うと、まるで合衆国の牛丼屋見たいだな、そう思いながら受け取ると女性はトマスとマリーに気が付いた。
「トマスの分は席に運ぶわ、トレイ貸して」
トマスはトレイを渡しながら。
「…済まんなローズ」
そう言ってトマスはローズにトレイを渡した。
席に着いて待って居るとローズがトマスの分を運んで来た。
「あんまり無理しちゃダメよ?マリーはトマスの事頼むわね」
そう言うと、夕方にまたマリーを迎えに来るわ、そう言って戻って行った。
トマスは、かばの方を見ると。
「夜はあの娘がマリーの世話をしとるんだ」
マリーは衛士が年貢の代わりに連れて来た時に1人だけだったらしい。
「………1人だけ?………」
かばは牛丼を食いながら、トマスに尋ねると。
「………?あ、あ…1人だけだったそうだ」
見かねてローズが世話をしとるんだ、そう言うトマスの話を聴きながら、かばは考え込んでいた。
牛丼を食い終わって出ようとした時にオレンジのオーバーオールを着た集団が衛士に連れられて食堂に来た。
「前の戦闘の捕虜達だ、わかりやすい用に異世界(地球)の…囚人服?って言うのを着せてるらしい」
トマスが、かばにそう教えて来た、成る程確かに映画で見たことのある合衆国の囚人服だ。
その集団を見た時からマリーの顔が真っ青になっていた、身体も少し震えている。
かばがマリーの視線の先を見ると1人の囚人が目に入った。
そしてその囚人もまた、マリーの顔を見て顔を青くしていた。
その囚人はマリーの顔を見て慌てていた。
(確かあの娘は…あれから口が聴けない、そう聴いてたんだが)
そして娘の側の男を見てさらに青くなる。
(赤鬼!!)
男はトマスが人を1人殴り殺している時に側で見ていた。
元々、トマスに殺された男とは相棒だった。
領主がたまにする、人にはおおっぴらには言えない裏の仕事。
奴隷売買。
奴隷を買うのも、売ることも、ここ王国では100年前から違法である。
領主は普段から素行が悪く、金に困っている兵隊に、裏の仕事を任せて来た。
勿論、仕事が終われば、報酬と休みを与えていた。
休みの間に散財する、そしてまた借金する。
いつしか男達は、ただ運ぶだけでは無く。
途中から女達に悪さをしだした。
バレなければ問題無い、そう………あの日もそう思っていた。
マリーの姉に。
「………訴えてやる!!」
そう言われて、逆上して姉を殺し。
………マリーにそれを見られるまでは。




