始まりの物語前半
あの日は、蝉が五月蝿く鳴くとてもとても暑い日の出来事だった。
いつも通う高校へと向かう通学路を歩いていた俺は、一際蝉の鳴き声が目立つ木に目をやった。
普段はイヤホンをさし、音楽を聴いて向かっていたので、あまり周りの音を気にしなかったが、今日はイヤホンを忘れてしまった。
そのイヤホンを忘れること事態、今日の俺の運命を分けたのかも知れない。
「ねぇ、さっきからジロジロ見てきて何? 」
俺は決して木や蝉を見ていたわけではない。
この真夏に黒いフードを被り、赤い目をした美少女の事を見ていた。
「いやー、この真夏に服装が合ってないなと思ってそれで見てしまった。 悪りぃな」
謝罪の言葉を述べ、俺は彼女から目を離し、またアスタルトの熱気が立ち込める道を歩き出す。
「君名前は」
進み出した俺を呼び止めたのは、フードを被った美少女の声だ。
「何でお前に名前を教えないといけない」
「私が見えるってことは、貴方は特別だから」
見た目の割に、面倒くさく、怪しい子と分かり、俺は彼女に名前を教えることなく足を進み始めた。
「また次会ったら名前教えてね」
二度と会いたくないと、感じながら俺は高校へと向かい始めた。
◇ ◇ ◇
「君のお兄さんはこの学園で1番誇れる学生で、その弟ということで、貴方にも期待していたのに」
各部活のトロフィーや、表彰状が置かれ、歴代の校長の写真が飾られているこの教室は、もっもと学園の中で1番豪華な教室だ。
その教室の中で、今回の期末テストのことと、今日の呼び出しに対しての遅刻で呼び出されている。
「兄がどんだけ誇れる生徒だったかは、俺は知らないけどさ、俺に兄と同じことが出来ると勝手に期待するのやめて貰っていいですか」
「それはそうですが、貴方の勉強に対する姿勢。 毎日毎日当たり前にする遅刻。 社会に出て通用すると思っているのですか? 先生の経験上絶対に通用しません。 それを分かってるから先生は言ってるの」
確かにいつも遅刻はするが、今日は呼び出しだったので、2分前には着くぐらいに俺は家を出た。
そして、途中の事がなければ、2分前に俺は着けたはずなのだ。
ただ、それを理由に遅刻した事を言うと、またネチネチ言われそうだし、そろそろ待ってくれてる奴のことも悪いと思い、ソファーから立ち上がる。
「また、2学期頑張るから見といてくれ」
校長に背中を向けて、教室を出て行こうとする俺に対して、校長は何か言っているが、それを無視して教室から出て行く。
◇ ◇ ◇
「お前が美少女って、相当可愛かったんだな」
俺と同じく別の理由で、別の先生に呼び出された、伊藤 和馬に、俺は今日の遅刻理由を述べる。
小学生の頃からの、知り合いであり、心から信用できる彼には何でも話せる。
だれも信じてくれなさそうな話でも、彼は信じてくれる。
「次会えれば、名前と連絡先教えれば、向こうも名前と連絡先教えてくれるんじゃねえか」
「嫌だよ。 自分でも嫌いな名前の相葉 奏太を見ず知らずの奴に教えないといけないんだよ」
「へぇーそれが君の名前なんだね」
その声は和馬では出せない女性の声で、それも今日の朝聞いた声にそっくりの声だ。
「なんでお前が!? 」
後ろを振り返った俺は、驚いた。
先程まで歩いていた、住宅街の景色では無く、とても眩しい夕日が乾いた大地を照らし続け、乾いた大地には無数の剣が刺さった景色だ。
そして、目の前には彼女がいる。
「あと1時間後に、貴方の世界は潰れていたわ。 ただ、貴方は私に名前を教えてくれたことで、こちらの世界に連れて来ることが出来た」
「こちらの世界? 世界が潰れる? どういう事だよ」
意味が分からなかった。 先程まで俺はいつもと同じ場所で過ごし、友達と話していたはず。
つい先程まで。
「あなたは今、異なる世界へと来た。 そして、今日あなたは私たちの世界の人類が生み出した化け物の手によって、大幅に人口は減る。 だから、私は貴方に自分の世界と私達の世界を救う為に、戦って欲しいの」
世界を救う?
意味が分からない。
なぜなんのために俺が戦って世界を救わないといけないのか?
「俺以上にもっと、才能の凄い奴が」
「死んだわ」
話を区切る言葉は、とても心に刺さる言葉だ。
「貴方以外に、後4人異世界の私たちの姿見ることが出来た人がいるようで、その人たちは、他のチームに所属をしているわ」
「チームだと」
「私たちの世界には、人類に悪影響を及ぼす組織を壊滅させるためにあるチームが5個あるの。 そして、今回は敵自体が全くの謎。 だから今回は5個のチームがそれぞれ別々のやり方で動き出している」
悪影響を及ぼすグループが、異世界のこっちの世界に化け物を送り出した。
そして、それを倒すために動き出しているのが5つのチームで、うち一個に俺は招待されている。
彼女の方を見ると、ニコリと微笑んだ。
少しずつこちらが断らないように、誘導して来ている。
「何故、お前らは俺ら異世界の力が必要なんだ? お前らは悪の組織と同じ世界なら、お前たちの方が同等で戦えて、俺らの力なんか要らなくないか? 」
俺は何としてでも断ってこの世界から出たい。
死ねるならありがたく1時間後の世界で死にたい。
それぐらい俺はこの世界に飽きて来ていた。
兄という、偉大な背中に追いつくことが出来ず、親からも先生からも見放された世界など。
「貴方達は、私達と同じ力が流れている。 だから私達の事が見えていると踏んだの」
「貴方より先に別チームに所属してる子から判明したのが、私達武器になる事の出来る者たちが武器になり、私達と同じ力が流れている者達がその武器を握れば、私たちの力を最大限に貴方達は出してくれることを」
どういうことだ?
疑問に思った俺は、もう少し詳しく聞こうと思ったとき、だからから声が聞こえて来た。
その声は、彼女の腕についている、腕時計的な物から聞こえる。
「やぁ、無事に5人目の人間と会えたんだね。 よかったよ僕心配しちゃったよ! もしかして僕達のチームだけ見つからないと・・・・・・」
中性的な声で、とても優しそうな声だ。
その声を聞き、少し懐かしさを感じる。
「そうそう5人目に会えたんだけど、彼あんまし受け入れたく無くて」
「えっ! そうなの」
通話相手は、声から分かるぐらい驚く。
そして、彼女と何やら小声で話し始める。
多分こっちには聞かれたくない内容なんだろ。
そう思い、俺は辺り一面をもう一度見渡すと、先程まで辺りを気にしていなかったが、遠くの方から、剣のような物を持った、ゾンビにような見た目が、3体近づいて来る。
仲間にしては気持ち悪いと感じ、小声で話し込む彼女を呼びかける。
「おい、あれはお前の仲間か」
指を指した方を彼女も見ると、彼女の目付きは変わった。
さっきの優しい目つきとは違い、厳しい目つきへと変貌した事で、分かった。
あれは敵だということを。
「一度通話を切ります。 念のために信号弾を放つので、この地域一帯を調べてください」
「うん、任せて」
通話は切れ、彼女は腰にかけていた一本の剣を取り出し、鞘からその剣を抜く。
「戦う意思のない貴方に、無理やり私が剣になり、剣を振ってもらうつもりはありません。 だから、貴方は私の後方にいて下さい。 あちらの化け物は私が処理をするので」
ここで俺はようやく再確認できた。
俺は異世界に来たんだと。