第9話「ついに本気!? 打倒ミラクル☆エンジェルズ!」
〈前回のあらすじ〉
神谷杏子です。魔法少女の正体は家族にも秘密――定番だよね☆なんて思ってたら、家族で出かけてる最中に怪物が! あたしたちをコピーした怪物に苦戦するソルや逃げる皆を守ることと、あたしが勝手に決めた約束事。どっちが大事かなんて、決まってるよね! ということで家族の前で変身したあたしは、ソルと力を合わせて怪物を撃退! あれ、でも何か嫌な予感が……
「部下にサボタージュされた?」
サタニアの言葉に、1人の悪魔が委縮して縮こまった。
「すみません。元々の所属が違うのだから、お前の命令には従えないと言われて……」
その報告に、サタニアは思わず頭を抱えた。いや、サタニアはずっと頭を抱え続けていたのだ。2年前のあの日から。
天使と天界に大きなダメージを与えた「天魔大戦」は、しかし侵攻した側の悪魔に祝福をもたらしたわけでもなかった。
「天魔大戦」に参戦した悪魔は、七大悪魔の内から「傲慢」の魔界王ベリアラ・「嫉妬」のレヴィアタニア・「強欲」のマモニア・「暴食」のベルゼブバとその配下の者たちだ。
そして、参戦した悪魔たちはことごとく死した。
記憶力の良い者なら、天界で問題となった「継承問題」を思い起こすだろう。あちらは「天界王ミカエラ」の継承問題へと帰結したが、こちらはより一層深刻な問題として存在していた。
まず、七大悪魔の位階を継承する悪魔が決まらない。
位階の継承は、本来は先代からの指名によって継承者が決定される。たとえ先代が指名せずとも、少なくともその承認は必須なのだ。
だが、揃いも揃って先代が死してしまった。そこで誰が継承者を決定するのか、そしてその継承を承認するのかで揉めた。
結局は、七大悪魔の内でも魔界王ベリアラに次ぐ実力を持ち、そして「天魔大戦」に不参戦だったがゆえに生き残ったサタニアが決定・承認を行った。
次に、七大悪魔の位階を継承した者に、配下の悪魔が従わないということが往々にして起こった。
サタニアによる決定と承認を不服とするがゆえのこともあったが、悪魔軍の再編によるところもあった。
まさに今、サタニアの前で委縮している悪魔――「暴食」のベルゼブバを継承した悪魔がそのような事態に陥っていた。
独立志向の強い悪魔は、魔界にそれぞれの領地を有し、軍備を整えている。序列が存在し、位階によって管掌する職務がある程度定まっている天使とは違い、七大悪魔の名は有力な悪魔のグループの頭目という意味合いに近い。そしてさらに七大悪魔を束ねる頭目として魔界王が存在するのだ。
魔界王ベリアラ・レヴィアタニア・マモニア・ベルゼブバの軍は、それぞれの領地を守備する部隊を残して全滅した。サタニアは位階の継承者の決定と共に、無傷で残った「憤怒」のサタニア・「怠惰」のベルフェゴーラ・「色欲」のアスモデウサの軍を分割し、失われた軍備の再編に充てた。しかし別の位階継承者に従っていた者たちが、必ずしもすぐに馴染めたわけでは無い。特に、ベルフェゴーラとアスモデウサの配下だった者たちには、その傾向が強かった。さらには、守備隊と新設軍との間に軋轢が生じるのも無理は無かった。
このような理由で、悪魔側の「継承問題」はそのまま魔界の不安定化に繋がっていた。
ある時は継承者を支援するためにサタニアが軍を起こし、またある時はベルフェゴーラたちに元配下の者たちを説得させるなど、サタニアは安定化に奔走していた。
この2年の月日は、ほとんどそれに費やされたと言っても良い。
そして今、最大のネックとなっていた問題が改めてサタニアの前に現れた。
「失礼いたします」
ドアを開けて入ってきたのは、サタニアの副官を務めるデモニアだ。
「サタニア様。『悪魔の沼』からの最終報告です」
「悪魔の沼」。その言葉に、サタニアが目を閉じた。
「……ベルゼブバ。ワタシが呼ぶまで待機していてくれ。対応は後で伝える」
「お願いいたします」
深々と頭を下げ、ベルゼブバはサタニアの部屋を辞した。
ドアが閉まったのを見計らって、デモニアはサタニアに1枚の紙を手渡す。
そこに書かれていたのは、奇しくもガブリエラが「天使の泉」から受け取ったのとほぼ同じ文言だった。
「該当する悪魔の名前:無し」
そしてこれによって発生する問題もまた、天使と同様だった。
(ベリアラの魂は沼には無い。つまり、少なくとも死んではいない……)
死した悪魔の魂が向かう「悪魔の沼」。
サタニアが「悪魔の沼」から求めていたのは、もちろん魔界王ベリアラの生死。
天使の場合と同様に、位階の継承が行われるのは生前の譲渡か保持者の死に伴うものだからだ。
だがベリアラの死が否定されたことで、「魔界王ベリアラ」の位階は宙に浮いた。
(生きているのなら、早く戻ってきてくれ……)
ベルゼブバの一件への対応を考え始めながら、サタニアはそう願わずにはいられなかった。
「そろそろ限界か」
「何が?」
悪魔の拠点である街はずれの洋館。物憂げに外を見るアスモデウサの言葉に、ベルフェゴーラはベッドの上で上体を起こした。
「魔法少女だ」
「魔法少女がどうしたの?」
ポカンとするベルフェゴーラにやや呆れつつも、アスモデウサは答えた。
「オレたちは天界へのルートを確保するための事前調査でこのニンゲン界に来た。そして、『調査』を優先して魔法少女を見逃してきた」
「そうだけど……」
アスモデウサは壁面に埋もれた魔力タンクに目をやった。花火大会や前回のリバーサイド中津里での魔力収集によって、タンクに貯蔵されている量は底から15センチの高さに達していた。花火大会の直前と比べれば大幅な進展だったが、満タンまではなおも1メートル90センチほどある。最低でも、30回程度は同じことを繰り返さなければいけないことは明らかだった。
「この世界に関する調査も、かなり進んだと言って良い。これ以上魔法少女への対応を先延ばしにする意味も無くなってきただろう」
「それは……確かに。あの娘たちに邪魔されるのもそろそろ飽きてきたわ」
ベルフェゴーラの同意を受けて、アスモデウサは練っていた作戦の実行を決めた。
「ベルフェゴーラ。お前の力を貸してほしい」
「え?」
ベルフェゴーラの驚きに開かれた目を見つめ、アスモデウサは告げた。
「魔法少女の完全なコピーを作るぞ」
「おい、あれって……」
「ん? どうした?」
明神地区の路上で、1人の青年が空を指差した。
オレンジ色の空に浮かんでいるのは、黒一色で塗られた人形のような魔法少女たち。
そう、リバーサイド中津里でアスモデウサが生み出したのと同じ怪物だ。
怪物の手が振られ、無数の光球がビル群を襲う。
『きゃあああああああああ!!』
『うわあああああああああ!!』
「………」
「………」
さらに、怪物がそれぞれに放つ光線がビルを薙いで崩壊させる。
「ソル・バーニングシューター」「ソル・バーニングストリーム」「ルア・ムーンライトシューター」「ルア・ムーンライトストリーム」……すべてソルとルアの技をコピーしたものだ。
そして、もちろんあの技も。
『ソルア・シャイニングストリーム!』
手を繋ごうと怪物が接近したところに、一筋の光が走った。
「全てを照らす光、ミラクルソル!」
「闇の中に輝く光、ミラクルルア!」
互いに手を取って一回りし、最後に背中を合わせて指鉄砲を怪物に向ける。
『世界を照らす奇跡の光、魔法少女ミラクル☆エンジェルズ!』
「最初から必殺技なんて、気前が良いじゃない」
「ベルフェゴーラ!」
「待って、アスモデウサもいる」
夕暮れ時の空をバックに、アスモデウサとベルフェゴーラが並んでソルとルアを見下ろしていた。
幾度となく相見え、ずっと取り逃がしていた悪魔たちが、振り返ったソルとルアの視線の先に揃っていた。
「やれ」
アスモデウサの一言で、怪物たちが駆け出す。
背後からの奇襲となったその一撃は、しかしいとも簡単にソルとルアに避けられた。それだけではない。
「ハッ!」
「やぁっ!」
振り向きざまに放ったソルとルアの拳が、それぞれの怪物を捉えて吹き飛ばす。
「………」
「あれ……?」
沈黙するアスモデウサと、怪訝に思うベルフェゴーラ。
拳をいなし、蹴り上げる脚をかわし、自らは拳も蹴りも思いのままに叩き込む。
完璧なコピー体であるはずの怪物たちは、なぜかオリジナルたちに圧倒されていた。
(なぜだ? なぜなのだ? これでは、前回の方がまだマシではないか)
アスモデウサには解せなかった。これまでのデータをまとめ上げ、完全に再現したはずなのに、ソルとルアに圧倒される。前回は対等あるいは怪物側が圧倒しかけていたのに。
「ソル・プロミネンスバインド!」
ソルが蹴り飛ばし、ルアが投げ飛ばした怪物たちが宙でぶつかった瞬間、細い炎が幾重にも巻き付いて怪物たちを縛り上げた。
「ルア!」
「ソル!」
互いの名を呼び、手を繋いだ。ソルとルアの眼前に展開された魔法陣の中心に魔力が集中する。
『ソルア・シャイニングストリーム!!』
一度ならず二度までも、紛い物は光の奔流の中に消えた。
「……まあ良い。初期目標は達成した」
そう言うと、アスモデウサはルアへと突撃した。
「なっ――!」
完全に予想外の展開に、ルアは交差させた腕でアスモデウサの拳を受け止めるのが精一杯だった。
アスモデウサの策は、ソルとルアを完全にコピーした怪物を生み出して終わりでは無かった。その真の目的は、戦闘で力を消耗したソルとルアを襲って倒すことだった。
「ルア!」
「他人の心配をしてる場合かしら?」
「――!」
気付いた時には、ベルフェゴーラの膝蹴りがソルの鳩尾に直撃していた。
「が、あっ……!」
揺らいだソルの体に、ベルフェゴーラは回し蹴りをくらわせる。防御の構えもとれぬまま、ソルはビルの壁面へと激突した。
「ソル!」
「その隙、いただくぞ」
必死に拳をかわしていたルアの足を不意に払い、倒れまいと無意識で伸ばしたルアの腕をアスモデウサが掴んだ。
「え?」
「フッ」
不敵に笑い、アスモデウサはルアの体を振り上げて地面へと叩きつけた。
「うぁ……」
「ほら、立て。すぐに死なれてはつまらん」
「ふざ、けんな……!」
地面すれすれのルアによる足払いをひょいと避け、アスモデウサは空へ上がる。ルアもまた、アスモデウサを追って飛び立った。
「そうそう。これまで散々アタシたちのことを邪魔したんだから、いっぱい苦しんでもらわなきゃね」
「勝手なことを!」
ソルが繰り出した拳を、ベルフェゴーラは簡単に片手で止めた。
「な……!」
「うーん、この程度の小娘にアタシの魔獣ちゃんたちが負けたわけ? 最悪」
「クッ!」
本能的に、ソルは即座に距離を取った。しかし、次の瞬間にはベルフェゴーラの顔が眼前に迫っていた。
「拳は、これぐらいじゃないとね!」
ベルフェゴーラの拳がソルの腹部にめり込む。体の中で袋が潰れたような感触を覚えながら、ソルは衝撃で吹き飛ばされて地面を跳ねながら転がった。
「ぁ、は、はぁ……」
よろめきながら立ち上がったソルは、腹部に熱いものが溜まるのを感じた。そのソルの頭上で、アスモデウサとルアが空に無秩序な軌道を描いて飛ぶ。
「この!」
「フン。そう言えば貴様、空中戦は初めてか」
「うるさい!」
逆上して殴り掛かるルアだったが、拳を振るっても、蹴りを試みても、アスモデウサにはかすりもしていなかった。
「ねぇ、クルル! 空中でどうやって戦うの!?」
「うっ……そ、それが知らないんだぜ」
「うそぉっ!?」
「どうやら天使は平和ボケしているようだな」
いつの間にかルアの背後にいたアスモデウサが、蹴りを入れた。
「うぐっ……」
「ルア・リフレクション」を発動する間もなく墜落したルアへ、アスモデウサが天上から衝撃波をまといながら降下してくる。
(真っ直ぐ来るなら!)
墜落で生じた薄い土煙の中、ルアは何とか仰向けになり片手で構えた。
「ルア・ムーンライトストリーム!」
土煙を払い、垂直に天へと立ち昇る光の柱。
その光が通った後に、アスモデウサはいなかった。
「や、やった?」
「杏子――」
ゆるやかに立ち上がったルアの胸元で、クルルが叫びかけた。
「ぁ……」
か細い声と共に、ルアの体が震えた。しかし、体が震えたのは喜びのためではない。
鳩尾に深く入ったアスモデウサの拳。
「その程度でオレが倒せるものか」
ルアはその場にくずおれた。
(ルア……!)
一瞬だけ気が逸れたソルの体を、ベルフェゴーラが蹴り飛ばす。
「ぅ、ぁ……」
衝突した電柱が、音を立てて折れた。その下敷きになって、ソルは呻くことしかできなかった。
「……まだ足りないわ、アスモデウサ」
「お前の気持ちもわかるが、そろそろお遊びは終わりだ。コイツらが余計な気を起こす前に、確実に消さなければな」
不満げなベルフェゴーラをアスモデウサはなだめる。しかしベルフェゴーラは納得した様子は見せず、倒れ伏すソルの頭を踏みつけた。
「大丈夫でしょ、さっきので消耗してるんだし。それに実力の差を思い知って、もう戦う気も起きないでしょ」
侮蔑が込められたベルフェゴーラの言葉通り、地面に倒れるソルとルアは身動ぎ一つせず完全に沈黙していた。
「さらばだ、魔法少女たち。お前たちも味わってみたかったが……致し方ない」
ルアに向けたアスモデウサの右手に、魔力が集中する。それは光球となって徐々に大きさを増していった。
トドメを刺そうとするアスモデウサに、ベルフェゴーラも倣う。
「感謝しなさい。アタシはまだ満足してない――それなのに一瞬で死なせてあげるんだから」
「ソル!」
「ルア!」
リボンの付いた宝石と化しているミーラとクルルが呼びかけるが、ソルとルアの体は微塵も動かない。
万事休す――と思われた、その時。
「ん?」
アスモデウサの脚に、小石が当たった。
小石が飛んできた方向に目を向けると、6歳程度に見える女の子が震えながらアスモデウサを見ていた。
「何だ、貴様」
「……ぃ……」
ぎゅっと閉じた目に涙をにじませ、女の子は小さくもはっきりと言った。
「いじめないで……!」
「フ……ハハ、ハハハッ!」
ベルフェゴーラは驚いた。ここまで愉快そうにアスモデウサが笑ったのを見たことが無かったからだ。
「面白い。そこまで死にたいのならば、望み通りにしてやろう」
「ひ……」
アスモデウサに光球を向けられ、女の子の脚がすくむ。
「心配するな。痛みを感じる間など無い」
わずかに口角を上げたアスモデウサの手から、光球が女の子に向かって放たれた。
爆ぜる音が響き、煙が一帯に立ち込める。
「……何だと?」
薄れゆく煙の中で見た光景に、アスモデウサは自分の目を疑った。
「なぜ、お前が動けている?」
アスモデウサの問いには答えず、ルアは抱きしめていた女の子に語りかけた。
「ありがとう。あなたの声……ううん。あなたの心が届いたよ」
「……だいじょうぶ?」
涙ながらに見上げる女の子に、ルアはにっこりと笑って頷いた。
「お姉さんは大丈夫。だから、あなたは逃げて」
「――なぜだ」
駆け足で逃げる女の子を見守るルアの背中を、アスモデウサは驚愕の面持ちで見つめる。
「決まってるでしょ」
ルアは立ち上がり、アスモデウサと相対した。
「あたしたちには守りたいものがある。この街を、この街に生きている皆を、一緒に戦ってくれる仲間を守りたい。だから、何度だって立ち上がって戦う!」
毅然として立つルアの気迫、そして立ち昇る善性の魔力に圧されて、アスモデウサがわずかに後ずさった。
明らかに動揺していたベルフェゴーラは、ふとあることを思い付いてそのまま口走った。
「そ、そこまでよ! 貴方の相方がどうなっても良いのかしら? 嫌なら、大人しく――」
「ソルゥウウウウウウウウウウ!!」
深く息を吸ったルアの叫びに、ベルフェゴーラの言葉は途切れ、ソルの指がぴくりと動く。
「な、何なのよ! もうころ――」
一度あることは二度あるものだ。
ソルから突如噴き出した善性魔力の嵐に吹き飛ばされ、ベルフェゴーラは言葉を言い終わらぬまま宙を舞った。
「ベルフェゴーラ!」
注意の逸れたアスモデウサにルアの回し蹴りが決まり、ビルの壁面へとアスモデウサは叩きつけられる。
「この娘たち、どうして……」
並び立つソルとルアに、アスモデウサとベルフェゴーラは初めて恐怖の感情を覚えた。
ソルとルア、アスモデウサとベルフェゴーラ。
魔法少女と、悪魔。
しばし睨み合い、そして同時に駆け出した。
「この!」
「ハッ!」
ベルフェゴーラの拳を避け、ソルは肘を腹部へと叩きこむ。衝撃がベルフェゴーラの体を突き抜け、彼方へと広がった。ベルフェゴーラが苦悶の表情を浮かべているのには構わず、ソルは立て続けに拳を叩きこんでいく。
「フンッ!」
「でぇやっ!」
アスモデウサの蹴りを受け止めてルアは拳を叩きこみ、拳が来ればそれを蹴り飛ばした勢いで倒立し、脚でアスモデウサの体を捕らえて投げ飛ばす。
(さっきまでと、別人ではないか)
ルアに圧倒されていることを、アスモデウサは認めざるを得なかった。
「ぬぅ……!」
「あいたっ……!」
アスモデウサとベルフェゴーラが投げ飛ばされ、宙でその背をぶつけた。
「ルア・ムーンライトバインド!」
「クッ……!」
「こ、のぉ……!」
空中に出現する満月。光のチェーンがアスモデウサとベルフェゴーラをその表面へと縛り付けた。
「ソル!」
「ルア!」
手を握るソルとルアの眼前に、円形の魔法陣が広がる。その中心へと膨大な魔力が集中し、光の球になる。
『ソルア・シャイニングストリーム!!!!』
これまででも一際大きな光が、アスモデウサとベルフェゴーラを飲み込んで夜空へと伸びていった。
「しんどい……」
明神地区近くの公園。そこのベンチで杏子は気の抜けた声を出した。
「うぅ、治ったはずなのにお腹が変な感じがする」
お腹をさすりながら、ひかるが杏子の肩に頭を乗せる。
「疲れたミラ……」
「同じくだぜ……」
ミーラとクルルはそれぞれのカバンの上でぐったりとしていた。
明神地区での戦闘の結果、アスモデウサとベルフェゴーラは姿を消した。それが彼らを倒したということなのか、それともいつも通りに姿を消しただけなのか、4人にはわかりかねた。
「これで、平和になるのかな……?」
杏子の呟きに、ひかるは願いをもって答えた。
「なってもらわないと困るよ」
「そうだね」
杏子はゆっくりと目を閉じた。
〈次回予告〉
米原ひかるです。アスモデウサとベルフェゴーラに負けそうになった私たち。それでも、「守りたい」という気持ちで何とか乗り越えました。あれだけ頑張ったんだから、ちゃんと悪魔たちは倒せたはず。え、怪物? あれはベルフェゴーラ!?
次回、『魔法少女ミラクル☆エンジェルズ』第10話。
「これで最後!? ベルフェゴーラ必勝の大作戦!」
私たちが、奇跡を起こします!