現れたのは天使様 アイリスver.
白銀色の輝く髪、白く輝くドレス。
翼がないのが不思議なくらい。
私にとってその御方はまさに、天使様でした。
私の名前は、アイリス・アーカス。
私の人生を地獄へと引き込んだのは、アーカス家当主様でした。
メイドである母を、お手付きにしたのです。
美しい母は、私を身ごもると実家で静かに育ててくれました。
やがて私が金髪の事にも気付いたけど、母は愛情を惜しみなく注いでくださいました。
母は、素晴らしい女性だった。
貴族のお手付きになっていながら、王族の子を生んだ、と理由で私達を罰する彼らの方が悪魔です。
男爵家に睨まれて、街で生きてけるはずがありません。
当主様も私が王族の子でないと分かっていた筈なのに。
この金色の髪を売ることで、母の安全は保証してやる、そう言ったのです。
それからは半年に1度、髪を渡す事で、私は男爵家で暮らしています。
この希少な髪はとても高く売れるのだとか。
そうしているのに、彼女達からの虐めはなくなりません。
知っています、こんなのに意味は無いって。
ただの憂さ晴らしなんでしょう。
だから、その日もひたすらに耐えていました。
言葉だけだけど、やっぱり囲まれて怒号に耐えるのは、怖い。
慣れる訳がない。
高貴な金髪?こんなもの要らない。
私が誇りを持っているのは、母譲りの翠眼だけ。
だから、誰でもいい。お願い、助けて。
祈ることしか出来ない私の前に、現れたのは天使様でした。
初めは、あんな奴らと同類かと思い、怯えていました。
その方が纏うオーラが、同い年のものだとは、とても思えなくて。
彼女達と天使様が話される間、祈りを捧げていました。
だけど、彼女は、言い放ったのです。
「…ほんとうにはじしらずですね。
としのはなれたいもうとを、おおにんずうでいじめるだなんて。
貴方達にはプライドがないのかしら?」
それは、彼女達に向けられた言葉でした。
天使様と、彼女達の口論は続きますが、明らかに天使様が正論でした。
最後には黒い少年も現れ、追い返してくれたのです。
お礼とっ名乗らならければっ。
「わ、私は、アイリス・アーカスです。てんし様…!」
その後、天使様はシャーロット様だと分かり、シルヴァ家のご令嬢だとも分かったのですが。
「ほんとうにきれいなかみにひとみね」
そう言って微笑んだシャーロット様は、私にとって本物の天使様でした。
私を長年の呪縛から救ってくれたシャーロット様。
地獄みたいな世界から、貴方の元へと連れてきてくれたシャーロット様。
私は、彼女に服従を誓おう。
彼女に害を及ぼすものは滅ぼそう。
金髪も、やっと伸ばせる。
母は病で亡くなってしまっていたけど、シルヴァ家で保護して貰えたから。
もう二度と切られない。
その金髪の長さが、母の供養になる。
アーカスは取っておく。
この想いを、この記憶を忘れない為に。
そしてシャーロットへの敬愛の印に。
現れたのは天使様。