目の前にいたから気付けよ
何でこんな事になったのか…。
私をぐるりと囲む子息と令嬢達。
傍から見れば虐め現場だが、そいつらの視線は私には向いていない。
木を挟んで向かい側に立つ少女に向いていた。
いくら集中してるからって気付けよ!と言ってやりたい。
しかし、完璧令嬢シャーロットとしているからには、問題は起こせない。
だが、気分が悪いと言うのは、立派な理由になる筈。うん。
「その髪色っ!何故卑しい身分の貴方が金色の髪を授かる訳?恥を知りなさい!」
「そうだ。お父様に拾ってもらった妾の娘の癖して、その高貴な髪色を何処から奪ったんだっ!」
口々に罵る少年少女。
顔を見る限り、アーカス家のご子息、令嬢のようだった。
それに周りにいるのは、取り巻きだろう。
その顔は、憎しみで染まっている。
聞く限り、アーカス家の妾の娘である少女が、金色の髪を持ってしまったことが原因のようだ。
金髪は王家特有のもので、血縁者以外が受け継ぐ事は、無い。
特例が出たという話は、私も聞いていた。
虐める正当な理由は、無いと判断する。
「貴方達なにをなさっておいでなの?アーカス家の方が、おおごえをだしてはしたないですよ」
急に聞こえた声に、少年少女は吃驚する。
いや、最初からいたから。
少し休憩してたら、あんた達が来ただけだし。
「まぁ、シャーロット様。貴方もこの娘に注意して頂けません?この子ったら卑しい身分で金髪を持っているの。王家の血筋を馬鹿にしてますわ」
彼女達は、私を味方とみなしたようだ。
王家の血筋を引きつつ、金髪では無い者は実際特例のこの子に悪意を持っていると聞く。
私は気にしてないけど。
そうなんですのーっと言いつつ、少女の前に立つ。
少女は私と同い年の様だった。
倍ほども年が違う、兄と姉に虐められ、どれほどの恐怖だった事だろう。
それでも、伏せられた翠眼は、光を失っていなかった。
「…ほんとうにはじしらずですね。
としのはなれたいもうとを、おおにんずうでいじめるだなんて。
貴方達にはプライドがないのかしら?」
「なっ!!」
その場にいた者が敵に変わるのを感じた。
かかって来やがれ。
「この子を妹だなんて思いませんわっ!虐めだなんて、私達は教育してるのですわ」
「そうですか。彼女となんのかんけいもないのに、きょういくしてるのですね。すばらしいですわ。でも、私きょういくするなんてかんがえつきませんでした。
ちしきでかみいろってかわるのですね」
次々と言葉を投げかけていく。
自分達が無茶な事を言っていたのは、理解してたのだろう。
最後に、現れたカイトの言葉で事態は終結した。
「きょういくでかみいろがかわるなら、ためしてほしい。まのこをかえられれば、王からくんしょうもの」
カイトの言葉というより、魔の子にビビっていた気もするが。
少女に手を差し伸べると、少女は涙を流していた。
「わ、私アイリス・アーカスです。てんし様…!」
違う。どうしてそうなった?
「私は、シャーロット・シルヴァですよ。てんし様ではありません」
出来るだけ、傷付けず言ったつもりだが、彼女には通じなかった。
「てんし様のおなまえはシャーロット様とおっしゃるのですね。しつれいしました」
顔を上げた彼女は、私と張り合えるほどの、とんでもない美少女だった。
「ほんとうにきれいなかみにひとみね」
何気なくそう言って微笑んだ私は、崩れ落ちた彼女を前に、彼女がどれほどのものを抱えていたか、思い知った。
後にアーカス家の破綻した家庭環境が分かり、私の要望で家に越してくる子である。