シルヴァ家に来て カイトver.
僕の名前は、カイト・クローディア。黒髪に黒い瞳、異質な容姿をした僕の事をみんなは魔の子と呼んで恐れた。
クローディア伯爵家の長男なのに、養子に出されたのもそういう理由だ。正直、虐めるだけの母と兄弟、ゴミを見るかのような父、家族だなんて思ってなかった。
どうせ僕は魔の子。シルヴァ家の人も同じ反応だと思う。でも、なら、どうして。僕なんかを引き取ってくれたんだろう?期待するな、もっと酷いかもしれない。頭では分かっていたけど、期待していた。今度こそ、家族に会えるって。
分かってたんだ、だから気にしない。僕を完全に研究対象としてみる当主様。
それだけなら良かったんだ。少なくとも虐められないし。でも、奥様は、僕に辛く当たった。なんでなのかは分からない。でも、僕を傷つける度に奥様も傷ついていくようで、反抗なんて出来なかった。この人に僕が反抗すれば、きっと…壊れてしまうから。
「…なぜうしろをついてきていらっしゃるのかしら?」
白銀という珍しい髪を持つ女の子。シルヴァ家のお嬢様のシャーロット様。当主様から同い年と聞いてたけど、物凄く年上に感じるぐらい大人びている。
僕を見ても何の感情も見せず、ただの男の子のように接してくれる。僕の安息の地だ。僕は誤魔化すためにこてんっと首を傾けてみる。シャーロット様が何も言わなくなったから、誤魔化せたと思っていると、急にお母様って聞こえた。
反射的に思い出してしまう。酷いことをされてるけど、暴力じゃない。ひたすらに暴言を吐かれるだけ。
こんなことで震えてちゃ、やってけないんだ。
「わたくしのうしろをついてきていたのは、そういうわけでしたのね」
え?吃驚した。僕は、感情を隠すのには慣れきっていた。だからこそ、隠し通せてきた。
でも、彼女は、シャーロットは、簡単に僕の感情を暴いてしまった。バレてしまった。奥様は、壊れてしまう。でも、大人びているとは言え、同い年の女の子。
何か出来る訳じゃない。
そう、思ってたんだ。
その後のシャーロットの行動は、素早かった。数時間後、僕は中庭で震えていた。当主様と奥様に挟まれているのだ。隣にはシャーロットが居てくれるけど、こんな中で宣言なんて、無理。何故か口調が砕けているシャーロットと言い合いをしていると、奥様が勘違いをして、言い争いを始めてしまった。
やめて。僕のせいで、バラバラになる。僕のせいで、壊れてしまう。
「私より魔の子の母を取るのですね!」
ああ、そっか。僕が魔の子だからなんだ。すとんっと、納得してしまった。だから、みんな不幸になる。僕のこの、黒髪のせいで。
「たわごとはどちらですか、おかあさま。いちどでもきちんとかくにんをとりましたか。まのこなど、くだらない。うつくしいくろかみになにをいうのですか。
カイトにこんかいのせきにんはいっさいありません。
カイトへのあつかい、いますぐあらためなければ、わたくしはあなたをゆるしません」
僕は顔が緩むのを止められなかった。奥様に泣きながら謝られてるのに。シャーロットに怒らせてしまったのに。
魔の子など、くだらない。美しい黒髪。シャーロットがカイトと呼ぶ度に、僕の心は喜びで溢れていく。
誰かに呼ばれたことなどなかった。それは、魔の子である自分のせいだと思ってた。家族なんて、出来ないと思ってた。
でも、当主様は、研究に熱中してただけで、息子のように思ってくれてるとわかった。奥様は嫉妬で言ってしまった、偏見だったと言ってくれて、それからは優しく接してくれた。シャーロットは、僕を縛る全てから、救ってくれたんだ。
仲が良い両親に、優しい姉。僕はやっと手に入れた。ずっと望んでいた、自分だけの家族。
僕はカイト・クローディア。名字は変えない。シャーロットと一緒にいるために。隣にいるためなら、僕は何でもする。絶対に離れない、僕の愛しい女神様。