シャーロットによる離婚裁判
「おかあさまー!!わたくし、おはなしがありますの。おにわにきてくださいっ!」
部屋に飛び込んでそう宣言すると、お母様は驚きつつも了承してくれた。
こうして見ると、この優しいお母様が彼を虐めてるなんて信じられない。これも愛ゆえというやつなのだろうか…。だったら信じてやれよって感じだけど。
「おとうさまっ。これいじょうむすめとつまにけいべつされたくなかったら、なかにわにきて」
「何でっ!?娘が私に冷たい!!」
そんなお父様に心底軽蔑した視線を送ると、お父様は膝から崩れ落ちた。そう、これなのだ。
一見政略結婚に見えるお父様達は、相思相愛だ。そもそもお母様の一目惚れだし、お父様は妻と娘を溺愛している。恥ずかしいので娘の前でしか妻への愛を語らないのだ。その結果、私は妾の子では無いと気づけたんだけど。本来の性格も冷酷なエリートじゃ全然ないし。
中庭に来た両親は、完全に困惑していた。中庭には線が引かれ、真ん中に立っている私と彼。私たちを挟む形で立つ両親。ハラハラと見守る使用人たち。全くもって意味が分からないことだろう。
(はやくいって。だいほんどおりにやるのよ!)
(むり…。なんでくちょうかわってるの…)
(こまかいことはいいのっ。じぶんでうごかないこはたすけらんないし)
小声でこそこそしている私達を見て、お母様は何か思い当たったらしい。見当はずれに。
「そういう事ですか。その妾の子と、シャーロットと結託して離婚する気ですか。もういいですっ。ですが、私のシャーロットだけは渡しません」
涙をポロポロと流し、苦しそうに叫ぶお母様は見ていられない。何故そっちにいった。
「どういう事だ、リリー。妾の子だと?そのような事実はない」
お父様も動揺して火に油を注いでいく。
「戯言を。認めるならば、それで良かったのにっ。この事はお兄様にお伝えします。私より魔の子の母を取るのですね!シャーロットっ!」
ヤバい。この状況は…私の堪忍袋の緒が切れる。
「たわごとはどちらですか、おかあさま。いちどでもきちんとかくにんをとりましたか。まのこなど、くだらない。うつくしいくろかみになにをいうのですか。
カイトにこんかいのせきにんはいっさいありません。
カイトへのあつかい、いますぐあらためなければ、わたくしはあなたをゆるしません」
吹き荒れるブリザード。その声の冷たさにその場にいた誰もがすくみ上がる。お母様は何かが切れたように、カイトにごめんねと泣き叫ぶ。
「おとうさま、こんかいのこと、おかあさまはひがいしゃです。あいするつまをこのようにして、なにもかんじないのですか。あなたのせつめいぶそくが、こんなじたいをひきおこしたのです!そもそもあいじょうひょうげんがおかしいのですよ!ししゅんきですか!このダメおやじ!いっしょうつぐないなさい!ゆるされることではありません!」
この日、完全に父と娘の立場は逆転した。
一方崩れ落ちたお父様に、お母様と使用人は驚きを隠せない。
「旦那様…シャーロットの言ったことは本当ですか…?その、私を愛する妻だと」
「君を前にすると照れてしまうんだ。だから、シャーロットの前だけでしか、君への愛を語れなくて…。すまない。君がそんなに思い詰めてるとは知らなかった。どう処分しても構わない。私はそれだけの事をした」
「そんなっ!その、私が強引に婚約してしまったようなものなので、私を嫌ってるのだとばかり…」
「そんなわけないだろう。私は君を見た瞬間に恋に落ちたんだ。その、愛してるよ、リリー」
すれ違っていた恋心が実を結び、抱き合う2人。嬉し泣きで飛びつくお母様と、赤面で何とか受け止めるお父様。付いていけず、ポカーンとする、私とカイト。
まあ、カイトにしたことは許せる事ではないけど、肝心のカイトが嬉しそうだし、これで良しとしますか。
最後は台本通り、自分は妾の子ではなく、クローディア家から引き取ってもらった養子だ、とカイトが宣言して終わった。
シルヴァ家最大の危機は、見事に解決したのだった。