ダメ親父以外は誰も悪くない
転生したと理解してしばらくは、暴れて母を困らせたりしていたが、やがて慣れた。優しく頭を撫でる母に、八つ当たりする気はなかったし。
私は、5歳になっていた。鏡をみた時は驚いたものだ。キラキラ光る白銀色のストレートロングの髪。そして濃い紫の瞳。長い睫毛に陶器のような肌。
あまりの美少女っぷりに「よっしゃー!!」と叫んでしまったぐらいだ。
将来の美貌は約束されたようなもの。ちなみに、白銀色というのはかなり珍しい。お父様がシルヴァ家特有の銀髪で、元王女のお母様が王家特有の金髪の為らしい。
まあ、そんな白銀色も黒髪には及ばない。 黒髪は魔が宿る髪とされ、数百年に一度、という割合らしいからだ。
そんな黒髪さんが、後ろからトコトコと付いてきております。
「…なぜうしろをついてきていらっしゃるのかしら?」
純粋な疑問を彼にぶつけてみると、彼はこてんっと首を傾ける。可愛いけど。可愛いんだけども。
彼の名前は、カイト・クローディア。つい先日、お父様から紹介された義弟というやつだ。説明面倒なのですっ飛ばしますが、複雑な家庭環境ってやつで、家の養子になったのです。
お父様はそもそも髪の研究をしている。黒髪の彼など、希少な研究対象だろう。宰相なのにどこにそんな暇があるのやら。とにかく、お父様と彼の利害は一致し、配慮が足りないお父様はこの子を養子にと放り込んできたわけで。
「せめておかあさまにせつめいするべきよ。あのだめおやじ」
ついつい言葉遣いが悪くなってしまう。いやだって、ろくな説明も無しに養子にしろって有り得ないでしょ。現にお母様は妾の子だって勘違いしてるらしいし。
私が独り言を呟いていると、基本無表情の彼が一瞬表情を曇らせたのが見えた。よく見ると、小さく震えている。
「わたくしのうしろをついてきていたのは、そういうわけでしたのね」
ため息が出る。誰も悪くないのだ。愛されてないと不安になったお母様も。粗悪な家庭環境から逃げ出したかった彼も。あの、研究と仕事にステータス全振りしてるダメ親父以外は。
彼は答えなかったけど、吃驚したその顔が真実を語っている。お母様は私のことは大切にしている。私の前で彼を虐める事は、絶対にないのだ。
つまり、そういう事なのでしょう。