赤い瞳の美女
ハースト王国は、豊かな自然と多くの学者に恵まれていて、農業と研究が盛んな治安の良い国である。そして私の名前はシャーロット・シルヴァ。公爵令嬢。
この王国では、私達、貴族の御息女達は、15歳になると学園生活を義務付けられている。一応学者が多いと言う特性もあってか、他国では有り得ない特待生制度による庶民の入学も許可されていたりする。
私、カイト、アイリスも15歳になり、来年は遂に学園に入学する。学園は3年制で、寮生活だ。色んな場所から貴族の子が集まってくるから当然なんだけど。
そして学園は、完全なる男女別の授業で、カリキュラムは共通の基本座学と国史以外は、それぞれ跡継ぎ用のものと、花嫁修行用のものに別れている。花嫁修業って言っても、家事とかはしない。主にマナーとか夫を支えるための技術とか、貴族夫人としての教養的なものだ。
「…とこんな感じですよ。参考になりましたか?」
私は今、虚無顔で目の前の王子様の話を聞いていた。王子様?ヘタレ王子の方だったらどれだけ良かったか。もし代わってくれるなら、アデルに私秘蔵のお父様からお土産に貰ったショコラを差し上げても良い。それぐらい今の私はピンチだった。
そう、私のパーティならば、当然この人も来る。
「シルヴァ様?」
「い、いえ。ありがとうございます。大変参考になりましたわ」
藍色の髪は少し伸びて、サラサラと肩に触れる程。同色の瞳は、睫毛が長く、中性的で涼やか。かなり暗い色合いなのに、キラキラと光っていて、金にも銀にも劣らない美しさだ。服装は第一王子である、この人の正装の、白っぽい学ランみたいな、王子様スーツだ。名称は知らない。
そして漂う強烈な色香。そうだよね、この人はもう17歳。子供の頃から年々強まってきた色気は留まることを知らない。前世の私と同い年なだけあって、流石の私もくらっときちゃうよ…!!
私は今、魔王殿下(アイリス命名)と名高いシオン様と何故か1対1でお話をしています。
「ふふ、喜んで頂けて光栄です。私は生徒会にも所属してますので、学園のことならお力になれると思いますよ」
「まぁ、素晴らしいですわ。それでは、困ったことがあれば頼らせて頂きますわね」
ふふ、と微笑むシオン様。それにうふふと微笑み返す私。もちろんそんなのは社交辞令と言うやつだ。本当に困ったらカイトとアイリスに頼ります。そんな2人は今お父様に捕まってしまっていて、全くもって使えないのだけれど。
あーーカイトめっちゃこっち睨んでるなぁ。
「シャーロットは学園のことに興味を持っていたね?せっかくだからシオン様とお話してきたらどうだい?」
とかお父様が言うからーーー!!!!まぁその前に王様から直々に婚約者候補同士で話してきたら?みたいなこと言われてたから、断りきれなくて促したんだろうけど。
「それにしても、シルヴァ様。学園の休暇期間に、何度がお誘いの招待状を送ったはずなのですが…忙しかったのでしょうか?」
そう言いながらシオン様が私の顔に手を近付ける。
やだやだやだ。この人まだ私の婚約者ポジ諦めてなかったの!?いやいや絶対私のこと虐めたいだけでしょ。顔に露骨にこの俺に嘘つくとか分かってんだろうな♡って書いてあるし。
確かに、確かに招待状は来てたよ??でもカイトとアイリスが片っ端から焼いてったんだよね…。
「あ、その、家に届く前に燃えてしまったようですわね…」
「へぇ…不思議なこともあるんですね?」
にこやかな笑顔を浮かべながら、首を傾げるシオン様は、流石の王子様だ。超キラキラ。ただ本性を知ってる私から見れば、とても怖い。ちょっと、空気が冷えた気すらしてくる。シオン様最近すぐ威圧しすぎだと思うんだよね…。
私が物思いにふけっている間に、こちらに近付けられていたシオン様の手が、私の頬に触れた。シオン様の髪が私の肩辺りを擽り、その藍色の瞳から、目が離せなくなる。
甘い雰囲気が漂い、思わず蕩けそうになりながら、私は、カイトの黒髪が、先祖返りだと分かった時のことを思い出していた。黒に近い髪であればあるほど、その人の血は先祖に近くなる。私は今まで、カイトを除いて、この人以上に、黒に近い髪色の人を見たことがあっただろうか…。こんなに深い藍色なんて、見たことがない。それに、シオン様なら、仮に魔法が使えたとしても、不思議ではない。そう思わせてしまうオーラが、シオン様にはある。
「ねぇ、シルヴァ様、私の婚約者に___」
ああ、魔性の王子め。その美しさに、溺れてしまいそうだ。
私の頭がポーっとして、何も考えられなくなりそうになった時、駆け込んで来たのは、やっぱり、見慣れた黒と金の髪を持つ、2人だった。
「シャーロット!!お前っ、シャーロットから離れろっ!」
シオン様に溺れかけていた意識が、一気に覚醒した。恐怖で。カイト、その人、第1王子だからっ!!
「カイト!やめて何もされてないからっ!不敬罪で処刑されちゃうよっ!」
「俺からシャーロット奪う奴許さない。シャーロットシャーロットシャーロットシャーロットシャーロット」
「やってしまいなさいカイト!シャーロット様の敵討ちですわ!」
あ゛あ゛あ゛!!シオン様の首が締まるぅぅ!!最悪一家ごと処刑されちゃうぅぅ!!あとアイリスは応援しないで!
「けほっ、変わらないですね…君達は。シルヴァ様の騎士が来てしまったようなので…私はこれで失礼しますね」
「え、ふぁ、不敬罪では…?」
「いえ流石に今のは私が悪かったので。…あっ、そうだ。シルヴァ様、私の婚約者にも今度会ってくださいね。楽しみにしていたので」
「…こんやくしゃ?」
「くすっ、それでは。パーティ、楽しんでくださいね」
シオン様は、まるで星空を閉じ込めたみたいに、瞳を輝かせて、少し悪戯っ子みたいに笑って去って行った。多分、アレが素の笑い方なんだろうなぁ。いつもみたいに貼り付けた綺麗な笑顔なんかじゃなくて。
「アイリス…シオン様、婚約者決まったの?」
「ええ、確かブラッディローズ家のご令嬢ですわ。シオン様と同い年で、赤みがかった濃い茶髪と深い赤色の瞳を持つ方で身長と体重は」
「そこまではいいから」
アイリスはどこから情報を収集しているんだろう。本当に謎だ。そしてカイト、さっきまでハイライト無しの死んだ瞳で、シオン様(次期国王)の首絞めてノンブレスシャーロットしてたのに、静かだな?
「カイト?」
「シャーロット、ごめん。俺、またシャーロットに迷惑かけた…」
ああ、反省してたのか。確かに処刑されてたら困ったけど、シオン様が悪いらしいし、今回のことはカイトに非はないよね。あっ、今何か寒気した。
「いいよ、カイト。私のためにしてくれたんでしょ?私だって、シオン様の婚約者にはなりたくなかったし…それに2人と一緒にいたいのはカイトと同じだからね」
その方法がサイコパスヤンデレだったのが問題だけど、一緒にいたいと思ってもらえるのは、純粋に嬉しい。
「シャーロット様っ!私も嬉しいです!」
後ろから抱き着いて来たアイリスの頭を撫でつつ、カイトにもおいでおいでと手招きする。
「…っ!」
本当はパーティの場でこんなことしちゃダメなんだけど、次期国王の首を絞めた私達はもう無敵状態だ。やっぱり恥ずかしいのから顔を赤くしつつ胸に飛び込んできたカイトを抱き占めて、私達はお互いの大切さを、再認識した。何かアイリスが殺気纏ってる気がするけど、知らない知らない。
幼馴染だし、カイトは弟みたいなものだから、セーフでしょ。
それにしても、あのシオン様の婚約者になれるブラッディローズ様ってどんな人なんだろ…。
なーんか、聞き覚えがある気がするんだよね。
まだまだパーティの夜は、終わりそうにない。




