魔王?いや王子
「お久しぶりですね、シルヴァ様。愚弟がお世話になっているようなので、挨拶にお伺いしました」
アデルの後だと、また一段と大人っぽい。
実際は私達より2歳年上なだけなのだが、何て言うか、オーラが違う。
私の家の使用人達も骨抜きになっている程、魅惑の王子様だ。
流石に私は酔わないけどね。彼、12歳だし。
彼とはお茶会の時に挨拶済みだ。
気だるそうに全てを完璧にこなす人だったと記憶している。
こんなのが兄だったら辛いよなぁ。
しかも、藍色の髪に同色の瞳と、王族特有の金髪じゃないのがまた。
アデルが執着した気持ちもわかる。
あと恐怖した気持ちもわかる。
既に隠そうともしないドS感やばい。
「ええ、お茶会以来ですわね。ハースト様。アデル様は、少々気分が優れないようでして」
実際寝込んでるから、一応事実だ。
この人のせいだけども。
「くす。愚弟と仲がよろしいようで。私の事もシオンと呼んでくださいますか?」
「も、もちろんですわ。でしたら、私の事もシャーロットと」
「嫌だなぁ。女性の名を気安く呼べませんよ」
くすくすと響く笑い声をBGMに、何とも気が滅入るような話をする。
この人、ブラコンだ…。アデルカムバック。
柔らかく微笑んでいても、心では弟への独占欲で酷い事になっているのだろう。見たくない。
お茶をしてても、胃がキリキリするだけなので、庭に出たのだが。
さっきは私しか入れなかったのだが、庭では当然アイリス&カイトの護衛が待っていた。
「シオン殿下。弟君は、目覚めるのに時間がかかるかと。出迎えて差し上げた方がよろしいのでは?」
「アデル…様、ハースト様恐れていらっしゃいます。落ち着くまで待った方が良いです」
「2人は私が愚弟を心配するのを邪魔したいのかい?」
「まあ、残念ですわ。シオン殿下には、私達がとても非情に見えていますのね」
私の胃が擦り切れる未来しか見えない。
2人に任せてちゃ、そのうち暴走する気がする。
「その、シオン様。弟君がそこまでお好きなら、ストレートに愛を伝えたら如何ですか?弟君への独占欲しか感じないのですが」
あ、要らん事言った。やばい口滑った。
だから2人ともその良く言った、みたいな顔やめて。
私が暴走してどうすんだよ。
「くすくす。私が、アデルを好きですって?
そんなわけないじゃないですか。
ここに来たのは、貴方に会うためだけですよ。
ま、独占欲ってのはあるかもしれませんね。
自分の玩具を奪われるのは嫌いなんです。
アデルは楽しいんですよ。可愛らしい。
素直で、私が吹き込んだ事信じちゃって。
自分の価値が無いと思い込んだのは傑作だったなぁ。
両親は素直なお前の方を愛してたのに。
それをね、シルヴァ様。
貴方が立ち直らせちゃったんですよ。
あはっ、せっかくここまで歪ませたのに!
素直なあの子が歪む様は、何より面白い。
でも、貴方の方が面白いかも知れませんね…?」
駄目だ。この人は、もう手遅れだ。
12歳で、どんな人生を歩んできたら、こんな人格になるのか。
呆然としつつ、今度は貴方で遊ぶ事にしますよ、という彼の言葉を聞いていた。
彼の去る音が、耳に響く。
適わない。
この世界に魔王という概念があるならば、彼こそが魔王だと思った。
「兄様は、変わりませんよ。
生まれつきなんです。
なんでも出来るが故に、何もかもがつまらない。
彼が見つけた唯一の遊びが、人の心を弄ぶ事。
僕は、少なくとも尊敬してたのにっ。
シャーロット嬢ぉ、兄様は、救えるんでしょうか?」
誰もその問いに答えられなかった。
私はイタイな、と思っていて、2人はシオン暗殺論について話し合っていたから。
いや、悪いけど私関係ないし。
気にする訳が無い。怖いけど。
「話聞いてくださいよぉぉっ!」
アデルの泣き声だけが中庭に響いていた。
「シャーロット様に滅茶苦茶無礼ですっ!あの魔王殿下!
シャーロット様大丈夫ですよ、アイリスが殺して差し上げますから!」
「アイツ、シャーロットの敵…。排除するべき存在。魔王か…。魔の子とどっちが強いかな…」
「救ってくださいぃぃぃ!!」
「くす。お前ごときに私が救えるわけないでしょう?」
私が殺せるかな?ψ(`∇´)ψフハハ!!




