ウチの兄貴はFinal Weapon
···私の住んでいるこの国には国家機密といえる存在がいる
国家機密と言われたその要因はそいつの強さにある、その強さはたとえ精鋭軍人が束になってかかって来ようとも無傷でいなし、弾丸の中をかすり傷ひとつで突き進む、それで軍隊一つを滅ぼしたほどだ
なぜそれなのに国家機密と言われたのかと言うと、理由はその方法にある
そいつは何もかも素手でいなす、武器も装備も一切なしで
その圧倒的強さに恐れをなした国はそいつを国家機密とし、存在を前線から消し去った
他国はそいつが国を見限ったと勘違いしてそいつを手に入れようとしたのだが、結局どこも手に入れることはできなかった
後にその姿を見たものはそいつの事を”人型最終兵器”と呼んだらしい
そんな最終兵器は···
「···おーい、おやつできたよー」
「···」
···私の兄貴である
「···」
「どう?美味しい?」
「···うん、悔しいけどおいしい」
「悔しいけどってなに!?まだ根に持っていらっしゃる!!?」
「別にー···チッ」
「ほらぁまた舌打ちした!!!一体僕のなにに不満があるのさ!!!」
「存在自体全てだよバカ兄貴!!!」
「そんなこと言わないでお願いだから!!!泣いちゃうよ!!?」
···私の名前は奥澤泉希、いたって普通の中学三年生だ
そしてもう一人、豆腐メンタルなこいつは私の兄である奥澤晴義、最終兵器だ、···いや、人物の紹介で"最終兵器だ"って言われても訳が分からないと思うけど、本当にそうなんだから仕方がない
「···ねぇ~いい加減僕の事許してくださいよぉ~」
「言い回しが腹立つからやだ」
「えぇ~···あ、ほら今度欲しいもの何でも買ってあげるから···」
「何もいらない、部屋戻るね」
「あ、ちょ···」
パタンッ···
「やっぱり、あのことに怒っているんだね泉希は···」
···パタンッ
「···」
ボフッ
「···わかってんのに···兄貴がホントは悪くないってわかってんのにさ···!!!」
···私には親という存在がいない、正式にはいたのだが私が中学に上がる頃に二人とも事故に巻き込まれ帰らぬ人となった、その時に兄貴は葬式に来なかった···正しく言えば来れなかったのだ、親の葬式をやっている時に兄貴は政府に呼ばれどうしても来ることができなかったんだ
だから兄貴が悪いんじゃないってことは頭ではわかっているけど口から出るのは兄貴を貶す言葉ばかり、それのせいかここ三年間まともに兄貴の顔を見て話したことはない
コンコン···
「泉希、僕これからバイトに行ってくるから、晩ご飯は冷蔵庫にしまってあるやつを温めて食べてね」
「···」
「···ゴメン、じゃあ行ってくるね」
「···」
···兄貴だって自分が悪いのを自覚してるからこうやって私の世話をやってくれている、大学生の身分だからやることはたくさん···それこそ自分の事とかあるだろうに、兄貴は自分の事を後回しにして私の事を見てくれている
「···」
でも私は、その唯一の肉親にを未だに許せていない、私だけ親が死んだ時からずっとそこに止まり続けているまんまだ
『···家出計画?』
「そ、寮のある学校に進学するわ」
「え、ちょっと待ってよ泉希、あたしら高校はおんなじとこ行くっつったじゃん···」
「···それなんだけどさ、もういい加減兄貴に迷惑はかけられないって言うか」
「ハルさんに?」
「あんたまだ···」
「頭ではわかってんだけどさ、私にはもう無理だよ···兄貴にこれ以上言ったってなにも戻ってこないのはさ」
「みーちゃん···」
「···わかったよ、ただしあんた一人じゃ心配だからあたしらもその高校受けるわ」
「え、まってよ竜美、私一人でも大丈夫だって」
「何言ってんのよ今更、泉希自分では気づいてないけど結構危なっかしいのよ、スカート捲れてんのに気づいてないし」
「そいえばそうだよね、カバン開けっ放しで財布擦られそうになってるし」
「ちょっと待って円華まで···」
「ハルさんはあんたが気づいてないからこそあんたに自分ができなかったものを託してんのよ、自分の二の舞にならないようにね」
「···それはわかってんだけどさ」
『わかってないね、気づけてないし』
「えぇ~···」
···そんなにわかってないのだろうか、小学校からの親友である竜美と円華に言われるとなんか腑に落ちないところはあるけど
帰り道も私の事を気づかってか家までついてきてくれる、二人とも私とは正反対なのに
「···にしても受験かー、めんどくさいわね」
「まぁまだ期間はあるけどね」
「みーちゃん、ホック取れてるよ」
「え!?」
「はぁ···やっぱ心配だよあんた」
「だ、大丈夫だって!!」
「ホントに?」
「うん、···あ、そうだ、二人とも今日はここまででいいよ」
「え、まだ家ついてないじゃない」
「いいって、じゃ月曜ね」
「あ、···行っちゃった」
「···ホントあの子は真面目っていうか責任感かあるっていうか···」
ガチャッ···
「···ただいま」
誰もいない家にただいまと言ったところで返事が返ってくるわけがない、ごくまれに兄貴がいることはあるが今日は靴がないから帰ってきてないようだ
「···」
「あそこのお兄さんどうして自分の親の葬式に出ないのかしら」
「親不孝にもほどがあるわよねぇ」
「···何も知らないくせに」
家に一人でいるとたまに葬式の時を思い出す、近所の人から言われたのは兄貴に対する陰口ばかり、だれも私たちの事なんてあわれんですらいなかった
「···兄貴がいなかったら、あんたらなんて今頃いなかったのに···」
···そういえば兄貴の事を避けるようになったのって近所の人からそういう目で見られるのがいやになったからじゃなかったっけ
「···」
結局その日は兄貴が帰ってくることはなかった
···翌日、玄関を見ると兄貴の靴が、夜中のうちに帰ってきて部屋で休んでいるようだ
「···」
···と最初は思ったのだが、もしかしたら兄貴は私に気をつかっているのかもしれない、私が兄貴のことを避けるから兄貴も私のために避けてるんじゃないか、兄貴はかなりのお人好しだ
「···」
私は兄貴を起こさないように、家を出た
特に予定の無い日はこうしてなるべく家にいないようにするのが私の最近の日課みたいになっている、···自然と兄貴を避けることが私にとっての逃げみたいになっている
「···いい加減前に進まないとな···いつまで止まってるんだろ私···」
···竜美も円華も···兄貴も前に進んでいるのにいつまでもその場にとどまり、皆に置いて行かれている私は、もしかしたら前に進むのが···進んでしまったらお母さんとお父さんのことを忘れちゃうかもしれないのが怖いから···
「···バカなこと考えんのやめよ」
···そろそろ兄貴も起きる時刻だろうか、でもまだ家には帰りたくない
「···もうちょっと歩いていこ」
・
・
・
・
・
・
トントントン···
「···泉希帰ってくるの遅いな···」
プルルルルッ···
「お、(ピッ)もしもし」
『ハルさん!!』
「お、その声は竜美ちゃんかな?どうしたの?」
『泉希家にいる!?』
「泉希か、今家にはいないんだよね、最近僕のことよく避けるから···」
『泉希が浚われた!!!』
「···今竜美ちゃんはどこにいる?」
『あたしはウチにいるけど···』
「まだ周りの人に入ってないよね、僕が行くから竜美ちゃんは状況を教えてほしいんだ」
『でも···泉希はハルさんのこと···』
「···もうこれ以上僕の見えないところで家族がいなくなるのは勘弁だからね」
『···わかった』
···どうしてこうなった
「この娘で間違いないんだろうな?」
「こいつが国家機密の唯一の肉親で間違いない、身辺調査も行っているんだ」
···散歩していたはずの私は気が付いたら町はずれの廃屋に軟禁されていた、話を聞くに兄貴が国家機密であることを知ってる···ということは、こいつらは···
「···とにかく、国家機密をコマとして使えばもう一度戦争社会になって我々の教団も活動しやすくなるんだ」
やっぱり間違いない最近学校の前とかでよく演説活動をしている変な団体のやつらだ
「···ヤツを我が教団の支配下に置けば誰も我々に歯向かうものなど現れない、そして我々は国を統制し、もう一度輝いていた頃のこの国を取り戻すのだ!!!」
『オオオオオオオオオオオオッ!!!!』
「!!?」
暗くて気づかなかったが、この廃屋にはかなりの人数がおさまっている、声から察するにかなり血の気のある男ばかりだ
「そろそろこの場に呼んでもらおうか、Final Humanoido Weaponを!!」
「···残念だけど、私は兄貴のことは絶対に呼ばないわ」
「貴様!!今の状況がわかってないのか!!!」
「状況もなにも、私は兄貴のこと大っ嫌いだもん、大っ嫌いな兄貴を呼ぶために私をさらったみたいだけど残念だったわね」
···ホントは兄貴のことは大好きだ、この世にいる私の唯一の肉親だもの、いつでも私のこと守ってくれているんだもの、でもこうやって嘘つかないと兄貴がこんなやつらに協力してしまう、···今わかったかもしれない、私があの時からとどまったままの理由が
「あんた達みたいなやつが兄貴をコマ扱いにできるわけないじゃんか!!!」
守られていた私から守る私に切り替わるためだ···!!!
「···痛みを伴わないとダメらしいな、なら」
「···!!」
男が懐から取り出したのは一本の果物ナイフ、しかも入念に研がれている
「···我が教団の意味をその体に刻まねばならないようだな」
「···そんなもんで私がビビると思ってるの?」
「なに···?」
正直すっごいビビってる、あんなもん絶対痛いに決まってる···けど
「私はそんなもんで屈しない···絶対兄貴なんて呼んでやるもんか!!!」
「···ならば仕方がない、我が教団の意味を刻み込み、生き続けるがいい!!」
「っ!!!」
男がナイフを振り上げた時だった
「···まだなんにもないこの世界に♪」
「!?な、なんだ今の声は···!?」
廃屋に突如響く場違いな歌声、その場違いさに困惑する男たち、···なんで、私は誰にも言ってない···助けを求めていないはずだ
「あらたな物語かいてゆこう♪」
ドゴォン!!!
「ぐっ···壁が!!!」
「何事だ!!!一体どうして壁が···」
「···さてと」
「···なんで」
巻き上がる砂ぼこりの中から現れたのは···
「···僕の大事な家族を返してもらおうか」
昨日と変わらない服装をした兄貴だった
「なんで···なんでいるのよバカ兄貴!!!」
「···よかった、無事だね泉希」
「そうじゃなくて!!私誰にも言ってないはず···」
「竜美ちゃんが教えてくれたんだよ、"変な男たちに囲まれて車に乗ってた"ってね、ほらあの子は動体視力がいいから泉希のことが見えたんじゃないかな」
「だからって···なんで兄貴に、警察に言えばよかったのに···!!」
「···あの子は僕が目的で泉希をさらったってわかってたんじゃないかな、警察に言えば僕のことが世間に知れ渡るからそれを阻止するために僕に直接教えてくれたんだと思うよ」
「···でも兄貴が来たら···!」
「泉希、僕のことを守ってくれてたんだね、···でも安心して、僕はもう泉希を一人にはさせないから···!」
···全部わかってたんだ、わかってて兄貴は私と接してくれていたんだ···
「···さてと、短時間で終わらせようか」
「···貴様がFinal Humanoido Weaponか」
「あれが国家機密なのか···?」
「···僕のたった一人の家族に手を出すとは」
···コキッ
「···テメェらよほど死にてぇみてぇだな」
「っ!!!」
一瞬にしてその場の空気が変わった、そういえば兄貴がの怒ったところを見るのは初めてだけど今の兄貴は私が知っている兄貴じゃない
「おっとうかつに動くなよ国家機密が、我々には貴様の妹という人質がいるんだぞ?」
「···なら」
ピピピンッ···ビシビシビシッ!!
『あぐッ···!?』
「!!?」
今兄貴はなにをした···?
「···こっから一歩たりとも動かないでテメェら全員排除してやるよ」
「貴様!!!一体何をした!!!」
「···おらかかってこいよ、···まぁもっとも」
ピピピン···ビシビシビシッ!!
『ガッ···!?』
「···動けるのはたった数人ぐらいになると思うけどな」
「チッ···我が教団の名のもとに国家機密を支配下にいれる!!!全員やつを捕らえろ!!!」
『オオオオオッ!!!』ドドドドッ···
「!!!」
一斉に襲い掛かってくるというのに兄貴はその場から一歩も動こうとはしない、まさかホントに一歩たりとも動かない気じゃ···!!
「バカ兄貴!!!避けないとやられちゃう!!!」
「···」
「この人数に怖気でも着いたか、助かりたくば我が教団のコマとなるんだな!!!!」
「兄貴ぃ!!!」
「···こんなもん」グググッ···
『!!?』
ブンッ···ゴォオオオオオッ!!!
『ぐわあああああっ!!!!』
「···あの時の戦争止めた時の比にもならねぇんだよ」
「···なに、今の···」
四方八方から兄貴に襲撃しようとした男たちは兄貴が腕を横に振った瞬間宙を舞った、まるでその場につむじ風のような突風が巻き上がったみたいに
「···なんだ、あれだけ言っといてもう終わりか」
「ば···バカな···!!?」
本当に兄貴はその場から動かず私の近くにいる男以外すべてを排除した、これが最終兵器としての兄貴の力なの···?
「···こ、これが最終兵器の力···ますますほs」
ピンッ···ガンッ!!!
「っっ!!!?」
「···ごちゃごちゃうるせーよ、黙って大事な家族返しやがれ」
「···」
「···さてと、帰ろうか泉希」
「···あ、兄貴···」
「···今度の金曜三者面談の日か···いやなんだよなぁ中学行くの」
「···ありがと、それと···ごめ···」
「泉希は何も悪くないよ、悪いのは僕なんだから」
「そうじゃないの!!私···あの時から動かなきゃダメだってわかってたのに動けなくて···」
「···でも、今から動き出せたんだからいいじゃん、ほら、久々に二人でご飯食べよ、なんなら竜美ちゃん達もよんでさ」
「···う、うん···!!」
それから週明けの月曜日···
『家出計画やめる?』
「うん、やっと前に進めだせたし、兄貴とも普通に話せるようになったし」
「···そっか、ハルさんとちゃんと向き合えるようになったんだね」
「よかったよみっちゃあああん」
「···ごめんね竜美、円華、私もう大丈夫だから!!」
「そっか···なら、もう心配かけさせないでよ?」
「うっぐ、だ、大丈夫だって」
あれから兄貴とちゃんと向き合えるようになり、いつの間にか私は兄貴に対する負の感情がなくなっていた、夕食の時も兄貴と一緒にとるようになり、自分から兄貴に話せる昔のような中に戻ったんだ
「さてと!!今日も···」
ガラッ···バンッ
『!?』
「ぜぇ···ぜぇ···」
「あれ?兄貴どうしたの?」
「ぼ···僕の財布を筆箱と間違えて持ってったでしょ···」
「ウソン!!?···あ、ほんとだ···」
「早くして!!大学行かなきゃいけないから!!!あとここにあんまりいたくないからぁ!!!」
···いくら最終兵器で国家機密といえど、兄貴は私の唯一の家族だ、これからは胸張って兄貴の自慢でもしてやろうかな