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満月の輝く夜に  作者: 剛田豪
第二章 月長石
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疑惑と疑念

「ふ~ん、この学園の理事長が関係しているとはねぇ・・・」

 矢追宙が超常現象研究会の仮部室で言葉を漏らした。

 放課後、このPPM部室(仮)こと保健室は、ここ数日少し賑やかだ。入部した部員たちが毎日訪れるようになったからである。


「あくまでも伝聞、竜造寺さんからの情報だという事を踏まえて聞いてね」

 タロ・ミヒャエル・トランシルバニアは、無言で昨夜の母との会話を思い出していた。

「例の狼事件に関して、隼田理事長が関与しているらしいの・・・」

「理事長・・・」

 タロは、一度だけ会い握手を交わした、あの初老の男性を思い浮かべた。彼の持つ深遠な闇のイメージを・・・

「それで、諸星さん、ああ、校長先生ね。彼に理事長に会わせて貰えるように頼んだのだけれど、出張中らしくて東京には今いないそうなの」

 陽子は、言葉を一旦止めて、慎重な面持ちで話を再開した。

「それと、これは楷木高の生徒に関わる話なので、ターちゃんに言うかどうか迷ったのだけれど・・・」

 黒い髪を掻き上げる母を見つめるタロ。

「理事長と一緒に、生徒会長の本郷君って男の子が動いているみたい・・・」



「本郷が・・・そう、あのニヤケ面の似非えせ優等生も関係者なのね」

 矢追は、タロの『思考』を読んで、また一人で呟いた。

――生徒会長の本郷が事件に関与しているというのは、あくまでも竜造寺サイドからの情報で、そのまま鵜呑みにする事は愚かで危険でもある――タロは無言でそう考えた。

 その『思考』に対し、また矢追が応える。

「確かに、理事長の事も、生徒会長の事も裏を取る必要はあるわね」

 タロは母の言葉を借りて思う。――この情報は『祷り人プレイヤーズ』が意図的にリークしたものではなく、竜造寺りゅぞうじ真澄ますみという個人から出たもので、理事長や生徒会長の関与に彼女も驚き戸惑っているようだ――

「なるほど、竜造寺家が詳細を把握できてないという事は、『祷り人プレイヤーズ』サイドの調査も、行き詰まりという事かしら?」

 タロは、無言で矢追の考えに同意した。


「あ、あの~・・・」

 タロと宙の傍らにいる望が、目を点にして口を開いた。

「テレパシーで会話するのは構わないんだけど・・・アタシたちには内容が全然伝わって来ないんだけど・・・」

 望の言葉に同意するかのように、ベッドの横で苦笑いするノースランド。

「ああ、すまない・・・」というタロの謝罪を矢追がまた横取りする。

「別に、二人を除け者にするつもりはないが、部長との会話はこの方がスムーズなんだ・・・だそうよ」

 今度は望が無言でタロを見つめる。

 見つめられた長身の少年は、やれやれといった様子でその緑色の瞳を伏せ気味に逸らした。

「なんか、ずるい・・・」

 望は少しだけ宙が羨ましかった。言葉数少ない無口キャラな友人の気持ちを、自分はいつも察しかねているというのに、矢追はその【スキル】でいとも簡単に読み取ってしまう。


「まぁ、ミーシャの無口っぷりは、揺るぎ難い程キャラ立ちしているから、許してあげなさい、姫。」

 未だ、その呼ばれ方に慣れない望。その憮然とした表情の後輩をなだめるかのように、矢追は話を続けた。

「あなたがその気なら、この【デバイス】、インストールしてみる?」

「え?アタシでもできるの?」

「ええ、ただ使いこなせるまで、十年以上はかかるけど」

「十年・・・インストールする意味ねー・・・」


 淡い期待を即座に砕かれた望と、タロの代わりに無口キャラを興じるイアンへ矢追が会話の要点を話した。

「本郷会長が?なら、アタシ直接訊いてくる」

「まぁ、待ちなさい、姫。こんな根拠希薄な噂話程度の事で、彼を問いただしても無駄よ。いえ、かえって逆効果だわ」

「確かに、会長の警戒心を煽ってしまう恐れがありますね」

「じゃぁ、どうすんのよ?」

 腕組みする一年女子を横目に、久々に発言したイアンが言葉を続ける。

「本郷会長を保健室ここへ呼び出して、部長に心を読んでもらうのはどうでしょう?」

「さすがイアン。姑息な策を練らしたら、この学園一ね。でも、無理だわ」

「なんで?」

 苦笑いするイアンの代わりに望が訊いた。

「生徒会長には、私の【スキル】が通用しないの・・・」

「まさか、会長もロボット?」

「いえ、彼は陰陽道か修験道で自らを施術しているの。心を読まれないような術でね」

「おんみょーどー?しゅげんどー?」

「ええ、本郷の母方の家系は元々陰陽師で、物の怪退治を生業としてきた家だったの。今は衰退してその世界からは縁遠くなっているけれど」

「ふ~ん」

 矢追の言葉の意味が今一つ理解できないながらも、彼女の情報力に感心しきりの望だった。だが、どうやってそんな情報を集めているのか?と、ふと疑問を抱いた時、無言の一年女子に部長が言った。

「情報は、勝手に入って来るの・・・」

 こめかみに人差し指を当ててにやりと笑い、あの不気味な笑顔で矢追は続けた。

「それと、陰陽道も修験道も術の会得にはかなりの歳月を要するから、安易な期待はしない事ね」

「ぐっ・・・」

 また、いつも通りに心を読まれ、先回りで否定されるという矢追の言動に、今日も沈黙してしまう望だった。


 そもそも、矢追の読心術自体その正確な仕組みが分からないが、それを防ぐ方法とは一体どんな論理ロジックなのだろうか?――矢追たちの会話を聞いてタロは思った。

「おそらく、修験道ね。その論理は『精神的なもの』とでも表現すればいいかしら、私の【スキル】は、波動を使った物理的なものだから・・・・」

――理論セオリーとしては交わるはずのない二つだが、脳内の活動と心の動きという事でリンクしている訳か――タロは、矢追の説明の途中で彼女の意図を理解した。

「そう、さすが『ターちゃん』ね。呑み込みが早くて助かるわ。フフ・・・」

 普段母が使う呼び名を言われ、少し気恥しくタロは思った。

「ミーシャも照れたりするのね。そんな感情を表に出せれば、あなたももっと人受けがいいのでしょうけれど・・・」

 だが、それができないのがタロであり、そのアイデンティティを親し気に思えた宙だった。


 また、二人の会話に置いてけぼりの望は、嫉妬にも似た感情で矢追を見つめていた。

――なんで今日に限っていないのよ・・・あのツインテール――そう、天馬てんま右蘭うらんが傍にいれば、矢追は【スキル】を使う事ができない。だが、御手洗みたらいかえでと共に、今日は保健室には現れていないのだ。


「はい、帯、綺麗に結べたよ。右蘭ちゃん」

「おう、いつもありがとう!楓ちん!」

 その頃、二人は茶道部部室で和服に着替えていた。


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