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満月の輝く夜に  作者: 剛田豪
第一章 月不見月
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Prayers

「そう、いのびとPrayersプレイヤーズよ」

 一夜明け、自宅リビングでコーヒーを飲みながら陽子は息子に説明した。

 昨夜、タロが遭遇した竜造寺瞳子と黒衣の一団。

 それらは、非現実的な脅威より人々を守る事を目的として組織された機関『祷り人プレイヤーズ』の構成員であった。

「陰陽師ってわかるかしら?西洋で言う所のエクソシストやゴーストバスター。『この世に在らざるもの』と対峙する存在ね。日本では、その陰陽師が『祷り人プレイヤーズ』の主たるメンバーなの」


 洋の東西を問わず、いにしえの時代から悪霊や魔物、物の怪、妖怪、モンスターなどがこの世界には存在し、人々はそれに対抗する術を持っていた。

 陰陽師や退魔師、エクソシストからドラゴンハンターに至るまで、さまざまな技や術を有する者がそれぞれの専門分野でその脅威と闘っていた。

 近代になって、移動手段の発明発達に伴い世界も狭くなり人々の往来や文化の交流が活発になったが、それは『世に在らざるもの』と携わる者たちに於いても例外ではなかった。

 様々な思想、色々な技術、そして血が交わり、その姿や在り様も変わっていった。

 最大の変化は、第二次世界大戦中に起きた。

 ヨーロッパの独裁者がオカルトに執心し『世に在らざるもの』を戦火へと引きずり込み、連合軍はそれに対抗すべくその分野の専門家たちを召集組織した。

 大戦が終わった後もその組織は残存し、やがて軍の指揮下から外れ独自の指揮系統を有する世界規模の秘密機関となった。

 『祷り人プレイヤーズ』の誕生である。

 設立当初組織の名称は無く、その構成員を誰が名付けたわけでもなく『祷り人プレイヤーズ』と呼ぶようになった。現代になり彼らの呼称が組織名にもなったのである。


 敗戦国日本にも、当然その統合組織化の波が押し寄せた。維新の時開国を拒む者がいたように、伝統文化を守ろうと組織に参加する事を拒否する者も少なくなかった。そんな中、統合組織化の流れを推し進めたのが、黒洲倫太郎、タロの高祖父であった。

「黒洲の家は本来そういった家柄ではなかったけど、政治的な力が動いて当時各界に大きな影響力を持っていた私のひいおじいちゃんに白羽の矢が立ったみたい。詳しい事はよくわからないけど」

 そして、大陰陽師の系譜を継ぐ竜造寺家を中心に国内で組織が機能し始めた。日本に於ける統括管理の任を担ったのが黒洲倫太郎であった。

「シビリアンコントロール、軍の文民統制に倣ったのか、組織を束ねる者には不思議な力や術を持たない人間が選ばれたという事らしいわ。で、その後を継いだのが息子の黒洲文平。そして、次が、黒洲次郎。おじいちゃんね・・・なぜ世襲なのかはおじいちゃんにでも訊いて」

 タロは陽子の父、祖父の次郎の事を思い出し、そんな自分の知らない顔も持っているのかと少し不思議に思った。

「でもね、私がパパと結婚したじゃない・・・ほら、パパは『祷り人プレイヤーズ』の敵側になるわけでしょ。そして、すぐにあなたも生まれて、おじいちゃんね、辞めちゃったの、統括管理官を・・・」

 しかし、『祷り人プレイヤーズ』には不文律が残った。黒洲家の者に手を出してはいけないという暗黙の掟が。

「ターちゃんにはもっと早くに話しておかなければいけなかった事ね。反省するわ」

 そして「ごめんなさい」と頭を下げた母の手を握りタロは言った。

「ママは悪くない」

「ターちゃん・・・ありがとう!」

 そう言って朝から愛息に抱き着く陽子であった。


 母に揉みくちゃにされながら、タロは前に望から聞いた言葉を思い出していた。

『安心して、私、プレイヤーじゃないから』

 日本語的発音で「Player」と聞こえていたタロであったが、陽子の説明のおかげでやっとあの時の言葉の意味を理解できた。

 そして、昨夜から気掛かりだった竜造寺の事も考えた。


 息子の曇った表情の訳を聞いた母は驚いた。

「え!竜造寺さんとこの娘さんが、大けが?」

 望を庇い矢に射られた瞳子の話をすると母の表情は驚嘆から怒りへと変わった。

「あのバカ真澄ますみ、自分の娘にそんな危険な真似を・・・」

 そう言いながらリビングのドア近くまで歩き、電話の子機を取った。


「・・・ですから、私、黒洲陽子と申します。お取次ぎいただけないのでしたら折り返し・・・」

 母の口調は努めて穏やかさを装ってはいるものの怒りが爆発しそうだとタロには聞こえた。

「ふーん、家の電話じゃ埒明かないか・・・」

 そう言いながら陽子が自分の携帯を取り出した時それが鳴った。

 電話に出て一通りの挨拶を交わす陽子。

「・・・ええ、昨日は久しぶりにお会いできてとても楽しゅうございました」

 顔はにこやかで声も穏やかだったが、息子には彼女の会話の刺々しさがひしひしと伝わっていた。

「・・・そうですか、それはお大事になさってください」

 陽子の声がトーンダウンした。

「では、これで」

 そう言って電話を切るといつもの笑顔なしでタロに言った。

「瞳子さん、無事ですって」

 小さく溜息のような息を吐いて陽子は続けた。

「詳しい話はして貰えなかったけれど、命にかかわるような怪我ではないようよ。一先ずは安心かしらね」

 その情報を聞いて安堵したと共にタロは疑問を抱いた。

「ママ、誰に電話を?」

竜造寺りゅうぞうじ真澄ますみさん。瞳子さんの母親。私の先輩よ」



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