魔導師の悠
「入学式から遅刻はやばい!!!」
彼―夜桜 悠は高校の入学式に遅れそうになっている。理由は単純明快。
「目覚まし、なんで鳴らなかったし!!!」
そう、寝坊である。彼は唯一の家族である父とは別居しており、つまりはひとり暮らしをしている。ついでに付け加えるなら、この春から東京から地方へ移り住んだばかりなのである。彼の父は魔導師であり、世界中を旅している。そして、その息子である悠もまた…
「魔法で行くしかない!!」
悠は遅刻を逃れるためだけに、魔法を使うことに決めた。魔導師としてはどうかと思われるが、遅刻のリスクよりかは軽いものである。
「『付加 スピード』」
付加魔法・・・ある一定の能力値をプラスする魔法。使用者の魔力の高さによって効果が変動。
悠は魔法の力でスピード高めて学校に猛ダッシュするのだった。
「ゼェ…ゼェ…体力も付加すればよかった…」
悠が入学する高校ー仙道高校は山の上に位置している。そのため、学校へ行くには坂を登るしかないのである。そんな坂を登りきった悠だったが、息が上がって校門で立ち尽くしていた。そんな状態で、悠は周りを見渡す。
(間に合ったか?)
校門周辺は入学生たちで溢れかえっていた。そう、普通に遅刻を免れたのである。そして、クラスわけの張り紙の前には、バーゲンセールを追い求める主婦たちのような人だかりができていた。
(うわ…見るのダルすぎ…)
悠がクラスわけを見るのをめんどくさがっていると、悠とクラスわけの張り紙の中間地点のひらけた場所でトラブルが起きていた。
「テメェ!ぶつかってんじゃねぇぞ!ゴラァ!!」
「す、すいません!!」
いかにも不良といった感じの男子が気弱な男子にオラオラしていた。
(気の毒に…ご愁傷さまです…)
悠は面倒が嫌いである。なぜなら、関わってもなにもいい事はないからである。
「クソが、いっぺん死ねや!!」
ヤンキーが気弱な子にまさに蹴りを加えようとしている。だが、その蹴りは何者かの足によって止められた。
「あのぉー、春のうららかな天気で、素敵な日になんでこんなことするんですかねぇ?」
(はぁー!!!なんで割って入ったし!!!)
ヤンキーの蹴りを止めたのは悠だった。