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旅立ち

結構長くなってしまいました。

途中で分ければよかったのですが…

 来る日も来る日もよくわからない文字とにらめっこをして、読みを頭の中で読み上げて、時には思い出しながら書き出して、また覚えてきたら違う文字を学んで。


 頭がパンクしそうなときには基礎の鍛練に集中し、たまに気分転換にチョコと遊ぶ。ホントに少しだけ魔法を使うこともあった。


 そういえばフィリオからの新しい手紙が届いていた。

 2年に上がってからの学校での出来事と、ボクに学園で会えるのを楽しみにしていると書かれていた。


 ウーン、ボクも会いたいけど……

 気まずくて何を話していいのやら。

 まあ、まだ先の話だし、いま考えても仕方ないか。




 真名を学ぶようになってから、気がつけば一年を経過しており、そろそろ冬の月が近くなっている。

 ボク自身も少し前に14歳を迎え、学園に向かうまで後一年。


 調子はどうかと言うと。

 ウーン、どうなんだろうか……


 進み具合としては、ようやく基礎の魔方陣に書かれている文字を覚えた位である。


 防壁、機能促進、治癒、解毒、解呪、火、水などの現象の真名を教わり……

 次に球形、立方体、線などの形、速くや遅くなどの速度、広くや狭くなどの大きさを覚え……

 そして、打ち出す、包み込む、放射などの動き、身体の部位名や魔法や物理などの対象となる名称、前後左右の方向などを教わってきた。


 数にすると500文字くらいは覚えただろうか……?

 このペースが遅いのか早いのかは、まったく判断できないのだけど……


 今後はシロとクロに魔法書に載っていなかった真名を中心に学ぶ予定だ。


 だけどその前に1つの出来事を迎えている。

 その対処をどうしようか考えているところだった。


「ねぇ、ポコ兄ってば! ファルナについて教えてよー」


 チョコが10歳を迎えて、ファルナの操作を学んで良い歳になったわけだ。

 ボクが部屋で真名を書いてるところに突然現れ「ポコ兄ー!コツを教えてー!」とやってきた。


 今はベットに腰を掛け、足をバタバタさせて教えてくれるまで帰りません状態である。


 まあ教える気がないわけではない。

 ただ何をどこまで教えていいのかと悩んでいる。


【クックック、全部教えてしまえばよかろう】


 簡単に言ってくれるなぁ……


 まず問題なのは、ボクが知っていることは教会の教えと違うということ。

 つまり一般的にはおかしい内容なのだ。

 チョコがボクを嘘つき呼ばわりすることはないと思うけど、中途半端に教えると言う無責任な事も出来ない。


『教会の教えの中で教えてあげれば良いのではないですか?』


 教会の教えの中でか……

 うーん、まあ、どうにかなるか。


「期間的には集中を覚えるのもキツイと思うけど、それでもいいの?」


 チョコはぱっと立ち上がって顔を喜ばせる。


「それって教えてくれるってことだよね!」


 やったー、とばかりにぴょんぴょん跳ねていた。


 チョコはベッドに腰をかけて姿勢を整えると、キラキラと輝かせた眼差しで見つめてくる。


 ボクは集中に至るまでの過程を自分なりの言葉で伝えた。

 自分の魂とファルナを感じること。

 魂の周囲に充満させるようにして引き出すこと。

 それが出きるまでは焦らず、無理に体外に出さないことを約束させた。


「まずは魂とファルナをしっかりと感じ取れるようになってからだね。そしたらまた来るといいよ」


 チョコはちょっと考えてから「それにはコツはないの?」と言ってきた。


 なんて子!

 クロとシロに散々説明してもらったボクが言えたものではないのだけど。


 しかし感じとるのは人それぞれだろうしなぁ……


「自分の身体の中にある違う場所を探す感覚かなぁ」

「フーン、なんだか難しいね」


 そりゃファルナの操作はできない人もいるくらいなんだから……


「わかった!また聞きに来るね!」


 そう言うと意気込んで部屋を出ていった。


 ボク自信も良くわかってないことが多いのに、人に教えるなんてそんなに上手くできないよね。


 それにボクには書き取り勉強が待っているわけで……

 人に教えてるどころではないわけで……


【クックック、さあはじめるとするか】


 はい……覚悟はできてます……




 それから2ヶ月は新しい真名の書き取りに時間を費やし、さらに読みを覚えるには6ヶ月を必要とした。

 数字などもあったため、1000文字程覚えただろうか。


 口頭で文字の形を覚えるのだから、相当に時間がかかるだろう……と思っていたが、以外や以外、予想外にすんなりと覚えられた。

 真名同士の形が似ていたのが幸いしたのだと思う。

 他の真名を先に覚えていたのが良い結果となった。


【フム、大体必要な真名は覚えたか……チッ】


 な、なんだその舌打ちは!


『もっと掛かると思っていたのでしょうね。ワタシもそう思っていましたから』


 スラリとちょっとショックな事を……


 いや、ボク自身もそうは思っていたけどね。

 学園に向かうまでに覚えれるのかなぁ……って。

 ホッとした反面、自分でも驚きです。

 でも、これで少しは優秀な成績を修められるんじゃない?


 学園と言えば、シスター・マリアが送った推薦状の返事が届いていた。もちろん入学を許可するとの返事だ。

 後は学園へと向かい、手続きを済ますだけである。


 ボクが新しい真名を覚えている間、チョコが何回か「わからないよー」と駆け込んできた。

 静かな場所での精神統一とか、試してない方法を探してみるとか、実にありきたりなアドバイスしか出来なかった。

 下手なアドバイスをしても、他の人がやり易いかはわからない。早くやり易い方法が見つかることを祈っておこう……


 そんな事をしている内に月日が立ち、後四ヶ月もしたら教会をでる迄に経過していた。


 さて、それまでに何をするべきなのか。


『いくつかの魔法になれておくべきだと思いますよ』


 えっ! いいの?

 ファルナの質がはっきりするまで、控えた方が良いんじゃなかった?


【必須な魔法と言うものもあるだろうて】

『治癒や補助魔法など、効果が低いからと使用しないわけにはいきません』


 そりゃそうだ!


 今までは気分転換程度にしか使ってなかった。

 練習していいとなればドンドンやらせていただきます!


 そうと決まればさっそく練習へと向かう。

 20分程かけて歩き、森を抜ければ、いつもの河原に到着である。

 川原の形が前と変わっているけど気にしない。


『まずは治癒魔法ですね』


 うん、怪我したときには絶対に必要だものね。


【では腕を切るといい】


 なるほど腕を切るのか。

 あーでもナイフとかもってきてないなぁ……

 って、なに言ってんの!!


【むっ? 怪我がなければ治癒魔法の効果がわからんではないか】


 イヤイヤ、それはそうだけど!

 ボクが物分かりが悪いみたいな返答されても困るよ!


『冗談が過ぎますよ』

【クッハーッハッハッ】


 なんだと!

 クロの野郎!

 なんてたちの悪い冗談なんだ!


【その辺に枯れかけた植物などはないか?】


 お、おう、

 さっきの件はスルーですか……


 取り敢えず言われた通りに植物を探してみる。

 川原の近くは岩だらけであまり植物は見当たらない。

 しばらく探して、ようやく岩影に葉の先が茶色になりかかった草を見つけた。


『その植物で良いと思います。自分なりに魔法を使ってみてください』


 自分なりにか……


 手で握れる程度の少量のファルナを集中させ、治癒の真名……厳密には再生を意味する真名を唱える。

 ファルナは白い光を帯びたように転換される。


 そして続けて[対象][包み込む]の2つの真名を唱えて魔法を放つ。

 白い光の粉が舞うかのように植物へと向かい、植物を包み込むと同時に溶け込むように消えていく。

 すると植物全体がぼんやりとした光を放ち、先ほどまで萎びていた植物は徐々に濃い緑の色を帯び、ツヤのあるみずみずしい状態へと変わる。


『上出来ですよ、状況に適した真名を選んだと思います』


 そ、そう?

 ちょっと嬉しい。


【だが全体を包む場合には無駄が生じる場合もある。例えば、治癒、球形、接触と唱えて発動した場合では触れた部分のみの治癒を行うことができるぞ】


 ホー! なるほど!


 クロの素直なアドバイスに感心してしまった。


 しまったなー……

 魔法を使うことしか考えてなかったから、メモをするものを持ってこなかった。

 唱える順序でどんな魔法になるのか残さないと……


『フフフ、ポコは本当に真面目ですね』


 笑われる様なことだった?

 メモなんてとる必要ないかな?


『いえ、そんなことはありませんよ。少し微笑ましかっただけです』


 アラヤダ。

 何だか照れくさいじゃないですか。


【何をイチャイチャしておるのだ】


 イチャイチャって……

 ボクが一人でにやついてるだけ……


 うん、気を付けよう。

 それはただのおかしな奴だ。


 まあとにかく、するべき事がたくさんあるのだと良くわかった。

 次からはしっかりと準備してこよう。




 この日はあまり構築に関しては模索せず、

 単純な動きの魔法を幾つか試して戻ることにした。


 次の日から本を片手に河原へと行く毎日となる。


 最初のうちは治癒に関して色々な構築を試して、本の後ろの方に書き留める。

 シロもクロもアドバイスは少なく、治癒魔法は危険も少ないので自分で体験するのが一番だと言っていた。


 試して中々良いと思ったのはいくつかある。

 分かりやすい様に名前を付けておいた。





 まず前にクロに教わった[治癒・球形・接触]であるが、これは非常に使い勝手が良い。


 効果も高く、単純な怪我にはこれが一番よいのではないかと感じさせられた。

 一般的に使われる回復魔法と同じく《ヒール》と呼ぶことにした。



 次に試したのは[治癒・対象(自分)・全身]である。


 自分に対して発動する場合には接触できない場所もあり、部位を指定する場合はいちいち真名を変えなくてはならない。

 面倒であった為、全身に作用するのが一番が良いように思えた。

 名前は安直ではあるが《ポコ(自分)ヒール》としておいた。


 因みに[治癒・対象(自分)]とした場合は全身が対象とはならず、魔法の触れた部位にしか効果をなさなかった。

 出来るかぎり真名を少なくして、最適の効果を得ようとするのは中々難しいものである。




 他には離れた対象に対して[治癒・球形・打ち出し・対象・包み込む]である。

 球形の光が瞬時に対象にたどり着き、包み込んで効果を発揮した。

 これまた安直ではあるが、《ヒールボール》と書いておいた。




 そして最後に[治癒・球形・打ち出し・対象・円柱状・範囲指定・高さ指定]である(数値省略)。

 効果自体は少なくなるが、球形をした治癒の光が対象へと向かい、対象を中心とした平べったいような円柱状の空間が現れる。中にあるもの全てが対象となった。


 もちろん数値を変えれば大きさは変わるし、作用時間に関する内容を追加するなどの応用も出来る。

 使う場面は限られるし、そうそう使う事はないだろうけど、考えておいて損はないだろう。

 《ヒールサークル》と名前を付けておいた。



 因みに失敗した事もちらほらある。


 まず形を決めないで遠く離れた対象に放つと、形が崩れてしまい、崩れた分が無駄になることが良くわかった。


 一番の失敗は[治癒・球形・打ち出す]と唱えた場合だ。対象には当たるには当たったが、そのまま貫通して奥へと飛んで見えなくなってしまった。効果があったのかもわからない。


 まあ他にも色々とあるが、何でも試さないとわからないので良しとしよう。


 まあ、治癒に関しては《ヒール》《ポコヒール》《ヒールボール》《ヒールサークル》の四種類を使えるようにしておけば問題ないかな?


『今の段階では十分だと思いますよ』


 シロさんの御墨付きが出ましたので大丈夫でしょう。


【また思い付いたときには試してみるとよい】


 うん、ボクには何より経験がたりないからね。

 その時々で考えないといけないことが多そうだな……




 他に状態異常の解除、解毒、呪いを解くなどの魔法を色々試していたが、対象を直すとことは治癒とそこまで変わらず、同じような構築である。


 状態異常解除は《キュア》、解毒は《ディポイズン》、解呪は《ディスペル》と、魔法書と同様の名前でメモしておいた。



 そう言えば、何で毒はキュアじゃダメなの?

 毒も状態異状には変わらないんでは?


『毒は体内に毒物が入った状態ですので、特定の物質を排除する効果が必要となります。麻痺や混乱、魅了などの状態は、身体及び精神への魔法による障害作用が働いている状態です。キュアはその作用を打ち消す効果となるのです』


 なるほどの一言。

 相変わらず分かりやすい。



 他には補助魔法について色々と試していたが、クロが転換に2回の真名を用いることで効果が上昇するとおしえてくれた。

 防壁と転換するだけでも効果はあるのだが、防御対象を絞った方が効果が上がるそうだ。


 最初は何となくのイメージから壁を作って効果を試してみようと思い、[防御・壁・硬く・大きさ指定・厚さ指定]と思い付くままに唱えてみた。


『あ、ポコ……』


 シロの声が聞こえた時にはもう遅い。

 目の前に光を放つ大きな半透明の壁が出現し――そのままボクを目がけ、ゆっくりと倒れ始めた。


「わあああああ!!」


 思わず叫んで逃げ出してしまった。

 まさか魔法で作った壁が倒れるなんて思もいもしなかったわけで……


 そこまでの重量はなかったようで、木にぶつかって葉を散らす程度の被害ですんだが、クロは大笑いが止まらないし、シロからも笑われてしまった。


 判断は難しいが、物質として認識されるような物は、空中や地面に固定しないといけないそうだ。また硬いのと防壁の効果が高くなるのは別だとも言っていた。


 色々と本当に難しい……


 その後も色々試した結果、身体を包み込む形に落ち着いた。


 [防御・物理・球形・打ち出し・対象・周囲]は《ディフェンスウォール》

 [防御・魔法・球形・打ち出し・対象・周囲]は《マジックウォール》


 壁として出すのも悪くはないんだろうけど、今はこの2つがあればそこまで必要ないだろう。


 因みに失敗例であるが、物理防御の指定を[全身]にした場合、自分の身体に防壁の効果が現れた。

 どの程度のものかと、試しに自分の腕を落ちていた木の棒で叩いたところ……


 ガキッ!


 まるで岩でも叩いたような音をたて、棒がへし折れた――のだが……


「ンンンっ! いったーーーい!!」


 普通に痛みを感じて叫んでしまった。むしろ弾力がない分、痛みが直に感じられるというか……

 まあ確かに身体は丈夫になっていたのだけど……



 次に身体機能の促進である。


 色々と試した結果で、特にお気に入りなのは[身体強化・速度・球形・対象・全身]である。


 もちろんのことながら自身のスピードが物凄く早くなる。

 時間を指定しなければおよそ30分程度、普段の10倍程の速さで動くことが出来た。

 爽快な速度で走り抜けることができたし、川にいた魚も逃がすことなく簡単に掴み取ることが出来る。


 最初は対象を足にして唱えたのだが……

 速度上昇の効果が高すぎて、まるで瞬間移動の様な速度を見せる。

 岩場に足を取られ、森の茂みに突っ込んだ挙句、木に顔面をを打ち付ける結果となった。

 クロもちろん大笑い、シロは心配そうにしていた。

 身体は擦り傷だらけ、少し鼻血もでていたけど……


 でも大丈夫!

 《ポコヒール》がありますから!


 傷がほんのりと温かくなり、何事も無かったように傷が無くなる。


 魔法ってすごい! って思ったけど……

 初めて試した治癒魔法が、自分で転んで傷だらけになったから、なんて情けなくて人には話せないと思う……


 まあそんなことがあり、対象を全身とした結果、速度に対する認識も上がって成功したわけである。

 問題点としては喋ると早口になることであるが、ゆっくりしゃべればそこまでの問題はない。


 もちろん速度や時間に関して真名を追加することで調節も出来る。

 ただ一定量での効果を把握しておけば真名を無駄に増やす必要もない。

 ファルナの量での変化を見極めたうえで、調整が効かない時にだけ真名を追加しようと思う。


 因みに《アクセル》と名付けました。




 他に良いと思ったのは[身体強化・力・球形・打ち出し・対象・全身]である。腕力がかなり上昇し、重い物を軽々持ち上げられた。


 これは単純に《ストレングス》と命名。


 これも最初は腕を指定にしたのだが……

 小石を岩に向かって投げてみたら、すごい速さで早さで岩にぶつかり粉々になった。

 調子に乗って大人の3倍程ありそうな岩を持ち上げてみると、これも軽々と持ち上がった――のだが……

 軽いと感じているのは腕だけであり、足腰が耐えらない。

 ピキッという感覚と共に腰に痛みが走り、そのまま倒れこんでしまった。


 もちろんポコヒールの出番である。


 因みに能力を指定せずに[身体強化・球形・対象・打ち出し・全身]とした場合、全ての身体能力が2倍程度向上した。

 非常に使い勝手が良いもので《オールアップ》と名前を付けておいた。


 他にも視力をあげて遠くを見れるような魔法や、跳躍力があがる魔法等々、色々と書き留めてはある。


 使い勝手で考えれば《ディフェンスウォール》《マジックウォール》《アクセル》《ストレングス》《オールアップ》を唱えられれば特に困らないと思う。





 そんなこんなで色々と試していると、あっという間に2ヶ月が過ぎてしまった。


【うむ、色々と面白かったな!】


 クロ……

 なんて奴だ……


『フフフ、確かに面白かったですね』


 ええー!?

 シロまで……


 まあ、ボクも他の人が同じ状態だったら笑ってるかもしれないけどね。


 それにしても2人とも昔とはだいぶ印象が変わった気がする。

 クロは悪いことばっかり考えてはいるけど、最近では面白がる程度になってきたし、

 シロも最初はかなり硬い印象だったけど、最近はだいぶ柔らかくなってきた気がする。


『そうですか? そう感じるのであればポコの影響でしょう』


 それは喜んでいいのだろうか?

 なんとも言えないなぁ。


【さあ、治癒と補助はその位にして、そろそろ消滅魔法も練習しておくといいぞ】


 オ、オウッ!

 まあ相性が良い魔法だし色々調べておいた方がいいよね。

 色々と構築に失敗して、何がダメなのか解ってきたことだし。


 一度、自分の部屋に帰って構想を練ってから試すことにするが……


 え? 

 時間がもったいないんじゃないかって?


 いえいえ!

 今は行きも帰りも《アクセル》で5分とかからないのです!!

 本当に便利な魔法だこと。




「あー!ポコ兄やっと見付けたー!」


 久々に早く部屋に戻るとチョコに見つかってしまった。

 最近どこいるのやら、何やってるのやら、色々と聞かれたが上手く誤魔化しておいた。


 チョコがなんとなく魂を感じた気がすると言っており、もっと他にヒントはないかとせがまれた。

 正直なところ、この頃にコツなんてあんまりないと思う。


「ムー!」


 そう伝えると頬を膨らませていた。

 でも2ヶ月で少しでも感じ取れるなら、ボクより全然早いと伝えたら納得してくれたようだ。


 チョコが部屋を出た後、消滅魔法で試したい事をあれこれと考えていたら、あっという間に夜になってしまった。

 まとめた内容が上手くいくかなーなどと考えていたら、少し興奮して中々に寝つけなかった。




 次の日もいつも通りに河原に向かい、昨日考えた内容の実践である。


 まずは[消滅・生物・除外・球形・打ち出す・球形・距離指定]である。


 範囲を指定しない場合にどの程度の大きさになるか知っておく必要があるからだ。

 距離は遠くという指定だと判断できないので100メートルと指定した。生物と除外の真名は万が一に備えての追加である。


 手のひらにファルナを集め、川の上流に向けて真名を唱えて魔法を放つ。

 シュンッと言う音をたて、かなり早い速度で放出される。

 どこに行ったかも分からなくなった頃、離れた場所で歪んだ球形の空間が広がったのが視認できる。


 んー、直径10メートル……

 くらいなのかな……?

 少し遠すぎたかもしれない。


 ま、まあ、ある程度の大きさはわかったし、次は大丈夫!




 今度は[消滅・水・球形・打ち出し・立方体・距離指定・大きさ指定]で構築する。

 形や距離で大きさが変わることも考え、少し遠めの設定にした。


 水だけを指定にしているから大丈夫だと思うけど……

 何が起こるかわからないからね。


 今度は川に向けて30メートルほど離れて魔法を放つ。

 先程と同じように、シュンと音を立てて放出され、川の中央で一辺10メートルくらいの四角い空間が出現した。


 むむ? あれれ?

 さっきとほとんど大きさ変わってないような?

 近くになった分もっと大きくなると思ったのに。


『形は球形が一番安定しています。不自然な形とする場合には使用されるファルナ量が多くなりますよ』


 なるほど、なるほど。

 そう言う事もあるわけですね。


 空間に近づいてみると、何やら不思議な光景が広がっている。

 空間から下流の川では水がなくなり魚がぴちぴちと跳ねており、上流からの水は流れ込むたびに消滅する。

 岸辺や岩は大丈夫なようで水の指定はうまくいったようである。


 これなら触ってみても平気かな?

 ……とか思ったら、まったくもって平気ではない様子。


 川の底には幾つもの干からびた魚が横たわる。

 上流から泳いできた魚も、空間に入った瞬間にみるみる萎んで干からびてしまった。


 ひ、ひいいい!!

 なんて恐ろしい!!


【クックック、なかなか面白い光景をみせてくれるな】


 相変わらず楽しそうなことで……


 よくよく考えれば体の水分も消滅するってことだよね……

 危うく触ったら手が干物になってたよ……

 でもまあ、一応は生物に対しては有効な魔法になるのかな?

 いや、消滅だけで十分有効なんだけど、姿形を残す上で必要ですから……


 その後も色々試す事数十分。

 形を変えたり、消滅の時間を延ばしたり、対象を他にするなど色々と試してみた。


 さてさて、十分実験しましたので、ここからが本番です!


 本日のメインとなるのが[消滅・魔法・球形・打ち出し・対象・周囲]である。これが成功すれば魔法に対して絶対的な防御が可能になるわけです。


 一応シロからは大丈夫だと確認をとっている――けど怖いので対象を岩にして試そうと思います。


 とにかくお試しだと岩に向けて魔法を放つ。命中した瞬間に岩を包み込み、薄い膜が展開される。

 岩の様子を観察すると、周囲が薄っすらと光っているように見える。まあ目を凝らさなければわからない程度だ。


 どのくらいの効果があるのかは、威力の知っている火の魔法で試してみることにした。

 ファイアーボール……よりかは威力が高いと思うが、効果を試すのにはちょうどいいと思う。


 少し距離をとって[火・球形・打ち出し・対象]の魔法を放つ。

 瞬時に岩に向かって小さな太陽が放出されるが、前とは違い、岩にぶつかると同時にジュルッと音を立てて消えてしまう。


 お! 成功かな!?


 と思ったのだが、近くで見てみると岩の表面が少し焦げている。


 うーん、どうなんだろうか……

 魔法は消せたけど、魔法から出た熱が消えなかったってことなのかな?


 比較対象として《マジックウォール》を岩にかけ、同じ火の魔法を放ってみる。

 すると、ドゴン! と言う音を放ってコブシ大の穴が空いてしまった。

 貫通まではしていないし、岩も消し飛んでいないことから、明らかに威力は落ちている。


 この結果からみると消滅魔法の成功と考えていいのだろう。

 範囲が少ないこと、それに対象が限定されていることから継続時間も結構長い。使い勝手も良さそうである。


 名前は《デリートマジック》としておいた。


 あれー、でもこうなると《マジックウォール》は使わないかな?

 まあ深く考えるのはよそう……



 因みに最初の頃に[消滅・球形・打ち出し・対象・周囲]が使えたらすごいことになるんじゃない? と思って岩に対して使ってみた。


 しかし、魔法が掛かった瞬間に、岩が視界から消えて無くなってしまう。

 そして岩のあった場所を確認すると、そこには大きな穴があいている。

 そう、地面を消して、どんどんと下へと沈んでいったのである。


 魔法の効果が無くなった頃には、底の見えない深い穴が地面に空いていた。


 自分で試していたら穴から出るのに相当苦労しただろう……





 ほかも色々試したが、最も単純で使い勝手がよさそうな魔法として[消滅・球形・打ち出し・対象・包み込む]を試してみる。

 対象を包み込んで消した後には、魔法が残ることなく消えるんじゃないかと予測してだ。


 対象は少し大きめの岩、魔法を構築して岩に向けて放つ。

 放った瞬間にギュルッ!という音が聞こえると、すでに対象の岩は消え去っていた。


 ヒィィィ!!!

 恐ろしや……


 でも単純で使いやすいのは間違いない。

 名前は《ターゲットデリジョン》としておいた。



 ドサッ。



 さて次は……って。

 ん? 何やら物音が……


 音がした方へ振り返ると、そこにはチョコが立っている。

 いつも読んでいる本を落とし、驚いた表情でボクを見ていた。


「ポコ兄……今の何……?」


 ぬお! 気付かなかった!

 な、なんでチョコがこんなところに……


「……今の、魔法?」


 一体いつから見ていたのだろうか。

 下手な事も言えず、なんて答えればいいか困ってしまう。


「ねえ、ポコ兄ってば……」

「え、いや……その、なんだろうな? 魔法なのかな~?」


 誤魔化しているようで、まったく誤魔化せていない。

 なんとも曖昧な返事をしてしまった。


【下手くそか、オマエは】


 し、失礼な!

 取り敢えずですよ! 取り敢えず!

 今なんて言うか考え中です!


 取り敢えずチョコに落ち着く様に言い聞かせ、近くの岩場に腰を掛けさせる。

 時間が経過するにつれて少し落ち着いたようだが、ボクの方をジーっと見て何やら物言いたげである。


 さてと、

 なんて説明したらいいものやら……


【面白くなってきたな!】


 こ、この野郎!

 こちらと一生懸命考えてるのに!


 沈黙が続くのも気まずい。

 差し当たりないような事を聞いてみる。


「えーっと、チョコは何でここに?」

「ポコ兄が森に入っていくのが見えたから……」


 あー、見られてたか。

 ここのところ教会には全く居なかったしね。

 もしかしたら後を付けて来たのかもしれないけど……


 また少し沈黙が続くが、チョコが我慢しきれなかったように口を開く。


「……ねえポコ兄、さっきのは何?」


 そりゃ、知りたいよね。

 岩が消えるところは完全に見られているし……


 いやまてよ……?

 ちょこはボクの後ろに居た。

 ボクの手元は見えてないはず。

 それに距離もあったし、何をしたかは見えていないはず……


 ……! 

 これだ!


「いや! ちょっと前に、この辺で突然岩が消えるのを目撃してさ。驚いたのなんのって。それから何度かここに来てるんだけど、やっぱりさ……岩が消えるんだよ! これはもしかしたら何か不吉な事が起きる予兆じゃないか……って。だから何が起きてるのか……調べようかなって……ね……」


 チョコがジトーっとした目でボクを見ている。

 ボクは最後まで言い切れないどころか、気まずくて目を合わせられない。


【下手くそか、オマエ……】

『流石に無理がありますよ……』


 ええ……お二方とも。

 分かっております。

 分かってますので何も言わないでください……


「ポコ兄……」

「はい……」

「何か言う事は……?」


 ボクはゆっくりと地面に座り、そのまま静かに頭を地につける。


「ごめんなさい……嘘つきました……」





 チョコは呆れていたが、気が緩んだのかいつもの雰囲気に戻っていた。

 今更隠しても仕方ないし、魔法の事は話しても良いと思う。


「うん、あれは魔法だよ。消滅魔法と言って、対象を消す魔法なんだ」

「消すって……そんな魔法聞いたことないよ?」

「まあ……そうだよねぇ」

「でもポコ兄、なんでそんな魔法を知ってるの? その本に書いてあるの? 誰かに教えてもらったの?」

「ちょ、ちょっと、そんないっぺんに聞かれても……」


 問い詰める様に質問してくるチョコを再び落ち着かせる。

 これは納得がいくまでこの状態が続きそうである。


 どうしたものか……


【あの後では誤魔化すのは無理そうだしな】

『他の人に話されても大変な事になりますし、正直に話して内緒にしてもらうのが一番かもしれませんね』


 誤魔化すのは……もう色々と難しいよね。

 内緒にしてもらうのが一番か……


【それはそれで反応がみたいところである】


 ホントにこの人は……

 まあチョコならちゃんと口止めしておけば大丈夫だろうとは思う。

 話せば魔法のことはもう教えないとでも付け加えればなおのことね。


「チョコ、いまから話すことはみんなに内緒にできる?」







 ボクはチョコに、頭の中にいる二人のことを話した。

 フィリオと喧嘩をした原因となった話なので、チョコも何となくは知っていたようである。


「でもそれって自分の考えなんでしょ?」


 シスター・マリアがそう言っていたらしく、皆素直にそう受け止めていたらしい。

 でもボクは頭の声は自分の考えなんかではないと伝える。

 ファルナの操作方法や、魔法陣を使わない魔法の使い方、ボクが知らない沢山の事を知っていると。


「魔方陣を使わない魔法? そんなのあるの?」


 やはりチョコは魔法を放ったところは見えてなかったようだ。

 まあ、今となってはどうでも良いことである。


 このあたりで魔方陣を使わないで魔法を使う人など見たことはない。と言うより、こんな田舎の村に魔法を使える人自体が極わずかであり、驚くのは仕方がないことである。


「何か見せて! ね、お願い―!」


 下手に話してしまったせいか、そう何度もせがまれてしまった。

 まあボクもそうであるが、魔法自体を見たいと思う事は仕方ないと思う。

 危険なので動かない事、そして耳を塞いでボクの言葉を聞かない事を条件に了承した。


 使うのはチョコが来る前に試そうとしていた魔法、[消滅・線・分裂・数指定・放射・角度指定・打ち出し・距離指定]である。

 針状の魔法が放射状に打ちだされ、対象に無数の穴をあけると予想している。形状の変化とその威力のお試しようだ。


 対象はいつもの様に手ごろな岩。

 手にファルナを集中し、前方に手を向けて真名を唱える。

 魔法は一本の棒のような形に変化すると、分裂しながら細くなり、その数を次々に増やしていく。

 続けて放射と角度の指定をすると、針の一本一本が広がるかのように傾斜がかかる。

 一息の間を置き、打ち出しと距離の指定を唱えて魔法を放つ。


 キュキュン!!


 空気が切られた様な音が、幾つも重なって聞こえる。

 音が聞こえたその瞬間、対象の岩、そして地面には、蜂の巣のような無数の穴が空いていた。


 ふむむ……

 うーん、複数を対象とするなら悪くはないけど……

 これなら《ターゲットデリジョン》の方が良いような気がするな。


 真名の数も結構多くなっているし、威力も劣る気はする。

 でもまあ針状にするのは悪くないかな? 何といっても対象の姿かたちが残ってますし! 

 何か改良すれば、他に使い道があるような気がするかな。


「……すごい」


 チョコはポカーンとした表情で、少し遅れてポツリと呟く。


「今のは練習中のお試し魔法。もう使わないと思うけどね」

「え!? なんでなんで!?」

「んー……使い勝手が悪いから?」

「ほへー……」


 チョコには使い勝手と言ってもさっぱり理解できないだろうが、感嘆の声が漏れ出ていた。

 とにかく、これでチョコの言う事には全部答えたわけである。


「皆には絶対内緒だからね?」


 何故だかチョコはニヤニヤとしてこちらを見ている。

 口の端を上げ、何か企んでいるような、実に悪そうな顔である。


「ん~どうしよっかなぁ~……」

「な、なんだと……」

「そうだなぁ……これから練習する時に~、一緒に連れて行ってくれるって言うなら~、考えてもいいかなぁ~?」


 な、なんて恐ろしい娘!

 それは脅しと言うのよ!


【クククッ、なかなか面白い娘ではないか。まあ後二ヶ月しかないのだ。良いのではないか?】


 確かにそう言われればそうなんだよねぇ……

 学園に行ったらいつ戻れるかもわからないし。


『何か釈然とはしませんが……良いと思いますよ』


 釈然としないって……

 シロにしては珍しい……

 納得いかなそうですね。



「仕方無いなぁ……」


 溜息をつきながらそう答えると、チョコはニンマリとして満面の笑みを浮かべる。


「やった! たまにはファルナの操作も教えてよね!」


 そう言ってピョンピョンと飛び跳ねていた。

 まあそこまで喜んでくれるなら、悪い気はしないものである。







 それから二ヶ月。

 消滅魔法を色々試し、チョコにファルナ操作を教える毎日である。

 最終日にはソーマの事も教えたので、修練を続ければファルナの集中も出来る様になるかもしれない。

 とは言え教会の教えとは違う内容なので、くれぐれも人には話さないように言っておいた。


 まあ、実際のところ、他の人に聞かれた所で重大な問題になるわけではない。

 ただ、異端だなんて噂されても困るし、出所を探っていけばボクの頭の中の話に辿り着くわけで、出来れば広まってほしくは無いと思う。


「大丈夫! ポコ兄との約束はしっかり守るよ!」


 そう力強く言っていたので大丈夫だろう。


 ボクの方は幾つか新しい魔法を増やした。


 [消滅・球形・空中・操作・連動・手]と言う構築により、球形の魔法が自分の手の動作と連動する魔法である。

 手を勢いよく前に出せば素早く前に進み、手を引くと戻ってくる。

 手首の向きで方向が変更でき、自由自在に操れる。


 《デリジョンボール(操作)》と命名しておいた。


 他には[消滅・水・線形・打ち出し・対象・複数・分裂・足]である。

 前の失敗から、水の消滅が生物にも効果が有ると分かったので構築してみた。

 針の様な魔法が対象の数だけ分裂し、足を撃ち抜く様になっている。

 ……ヒトに対して使ってないから予想でしかないけど。


 なんでこんな構築かと言うと。

 もし何かに襲われた時、他の魔法を使ったら跡形も残らんわけで……

 威力を弱めた足止めとも言える魔法が欲しかったと言える。

 それに何かに襲われたって時に、対象が何も残ってなかったら信じてもらえるかも分からないよね……


 《ドライシューター(足)》と名付けました。



 もちろん他にも色々試したが、取り敢えず必要そうなのはこのくらい。

 現段階では《デリートマジック》《ターゲットデリジョン》《デリジョンボール(操作)》《ドライシューター(足)》の消滅魔法を即座に使えるようにしておいた。


 学園に行けば参考になる事はたくさんあるだろうし、何より自分のファルナの質が判明するだろう。その時には他の系統の魔法や複雑な構築の魔法も考えたいと思っている。






 そうこうしているうちに日々は流れ、気が付けば学園へと出発する日を向かえていた。

 現在は年末に近い冬の月。4ヶ月後の春の月の初日に入学式が行われる。それまでに学園で必要な手続きを終わらせなければいけない。もちろん過ぎた所で入学できないわけではない、でもやっぱり入学式には参加させてもらいたい。


 なのでほとんどの新入生は何が起きても大丈夫なように早めに向かう。

 新年に入っていれば学園寮には入居できるので、宿の心配もいらないそうだ。


 ボクは2週間分の食料と、数枚の衣服、そして真名を書き留めた本を持ち、教会の入り口で皆からのお別れの言葉を聞いているところだ。


「本当にお世話になりました」


 シスター・マリアに深々と頭を下げる。

 別に今生の別れと言うわけではないが、いつ帰ってこれるかはわからない。

 今までお世話になった恩は当然返す予定ではあるが、今のボクには心を込めて言葉にするのが精一杯だ。


「ポコ、気をつけてくださいね。これは少ないですが旅の費用に使ってください」


 シスター・マリアから渡された小さな袋。

 ズシっとした重みが手に掛かる。


「ポコ兄、学園に着いたら手紙頂戴よね……」


 チョコは少し涙目になりながら、シスター・マリアの服をぎゅうっと握っていた。


「もちろん。チョコも頑張ってね。学園で待ってるから」

「……うん!」


 少し顔は明るくなり、元気が戻ったようにも見える。今まで教えたことは頑張れば、決して無理ではないと思うし、チョコもそれが分かっだのだと思う。


「帰るときはお土産かってきてね!」

「学園の事を色々教えてねー!」

「魔法の話もねー!」

「ボクも学園いくからね!」

「さみしくなるけど……がまんするね……」


 皆からも沢山の言葉をもらった。


「さあさあ、ポコが出発しにくいですよ!」


 シスター・マリアがパンパンと手を叩いて皆を落ち着かせる。

 そしてボクの方へと向きなおすと、優しく微笑んできた。


「正直に言いますと、ポコが学園に行くなんて全く考えていませんでした。でも人一倍の努力をして、その才能を開花させた時には本当に驚かされましたよ。きっと学園でも努力し続けるのでしょう」


 寂しい思い、ワクワクとした思い。

 シスター・マリアの言葉を聞いて様々な感情があふれ出てくる。


「でもね、ポコ。私はあなたが無理をして身体を壊してしまうことの方が心配です。辛くなった時には何時でも戻って来ていいのですからね」


 唇を噛みしめて上を向き、涙が出そうになるのをグッと我慢する。

 そして自分の出せる満面の笑みを見せて答える。


「大丈夫! 楽しんでくるよ!!」


 頑張るでは心配させてしまうかもしれない。

 これから自分の憧れだった場所に行ける。

 ならば楽しんでくると、そう告げた。


「じゃあ行ってきます!」


 ボクはもう一度頭を下げ、教会を背にして歩き始める。

 これから全く知らない土地を渡り歩き、学園へ一人で向かう。

 不安がないと言えば嘘になるが、それよりも期待で胸がいっぱいである。


「ポコ兄ー! ワタシも絶対に行くからねー!」


 暫くしてからチョコの声が後ろから聞こえてくる。

 フィリオが学園に向かったときのことが思い出される。


 ボクは後ろを向くと、大きく手を振り返した。


 こうしてボクことポコ・コロネルは、15歳の冬にアレアドル王国へと向かったのである。


次からは学園へと向かうお話です。

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