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魔法

 ふぅー……

 どうにか全部の真名を写し終わりました……


 魔法書を写し始めてから約1ヶ月。

 空いている時間に身体を鍛え、集中の鍛練を怠らないよう励み、夕方になれば礼拝堂で魔法書を書き写しす。

 たまにチョコが見に来ていたが、勉強していると思ったようで邪魔をすることはなかった。


 チョコも9歳になったので、ある程度の分別がつくようになったのだろう。


 シスター・マリアも気になるのか度々覗きに来ていたが、すぐに居なくなってしまった。

 多分、ボクが無理をして倒れたりしないか、それを心配して見に来てたのだと思う。


 さて、とにかくです。

 写し終ったという事は……

 約束通り魔法を使ってみる事が出来るわけですね!!


『では火の魔法を使うにあたり、火の真名と構築に関する読み方を教えましょう』


 ハイ!

 お願いいたします!


『危険もありますので、水のある場所で行いましょう』


 確かに火を使うとなると何が起きるか分からない。

 教会に何かあっては一大事である。それに魔法を使ってる所を皆に見られたら説明が大変である。

 と言う訳で、少し離れた川原で行う事にした。


 真名を書き留めた紙の束は、もう本と呼んで良いと思うほどの厚さになっている。

 その本を片手に教会から離れ、森の奥にある川原へと到着する。


『では始めに読みを教えますので、自分なりに書き留めておくと良いでしょう』


 今までは真名の文字と意味しか書いてこなかった。

 今日からは読みを教わり、自分なりの言葉で書き込むことになる。


『火の真名の読み方です。ファル・イオネ・アルアと発音します』


 えっ、結構長いんだな……

 油断していて覚えきれなかった……

 ファルイオネなんだって……?


『ファル・イオネ・アルアです』


 今度はちゃんと聞き取れた。

 焦る必要はないのだが、大急ぎで本へと書き込む。


『次に形と動きの構築ですが、今回は球体、そして単純に打ち出す動きとしましょう』


 えっと、球体と飛び出すを意味する真名だよね。

 あ、同じページに書いてある。

 これって前に見た火の魔法を写したところか。

 どんな魔法なのか想像ができるので少し安心できるね。


『球体はサーリオル・クラン・ルーベル、打ち出すはスール・ポウレオ・トルーボスと読みます』


 ウハー! 長いー!

 急いで書き込んでギリギリだよ!


 これを文字と一緒に覚えるの……?

 ボクの頭じゃパンクするかもしれない……


『大丈夫ですよ、ポコにはまだ多くの時間がありますからね』


 ちょっと気になる言い方ですね……?

 まあ確かに時間はたっぷりありますけど……

 気力と記憶のスペースが無くなるかも知れないよ……


『最後に放たれよと言う真名です。これにより魔法が発動します』


 これは大体の魔方陣に書かれており、途中から書くのを省略した真名だ。

 同じページにも書かれているし、最初の方のページには大体書かれている。


『シューロ・トネイルと読みます』


 メモメモと……


 今回使う魔法に関しては、すべて同じページに書いてある。

 ページを捲ったりする必要もなく、焦らず試すことができそうだ。


 よし!

 準備は整いましたよ!


【さあ! はじめての魔法であるな!】


 オフ!?

 野次馬が出てきたな。

 さっきまで傍観していたのに……


【クックック、ここからはワシが教えてやるぞ】


 ウワァ……

 不安な気持ちで一杯になりますね……

 何か企んでるとしか思えない……


【怪しむでない、オマエの魔法がどの程度か楽しみなだけだ】


 本当かなぁ……

 まあ、教えてきた生徒の実力を知りたい先生みたいな?

 そんな気持ちなら、分からなくもないような……


【ファルナを使用する分だけ集中し、文字を認識した状態で火の真名を発するといい】


 う、うん。

 ……本当に大丈夫?

 まあシロが何も言わないし、大丈夫なんだろうけど……


【火になったからといって焦るんじゃないぞ? 形を整え、狙いを定める。そして動きを決めて発動するのだ】

『ファルナは集めすぎないでください』

【むっ! そうだな下手に込めると大変なことになるからな!】


 フーム……?

 クロも素直にシロの話にうなずいてるし……

 とりあえずは変に勘繰るのは止めてやってみようかな。


【ホレ、向こう岸に大きな岩があるだろう? それを狙ってやってみるのだ】


 対岸には小屋位の大きさの大きな岩がある。

 下側は川に浸かっており、火の魔法を使うには標的としては確かに丁度良いと思える。


 なんだか緊張と興奮が入り交じった感じになってきた。


【何事も経験だ! さあ! いつも通りにファルナを集中して真名を発するのだ!】


 ハ、ハイ!


 クロに急かされる様にしてファルナを集中する。

 とは言っても、もちろんシロの注意も忘れていない。

 いつもの半分程、拳大くらいの大きさである。


 左手に持った本の文字を認識し、ファルナに意識を向けて真名を唱える。


「ファル・イオネ・アルア!」


 その瞬間、ファルナが真っ赤に発光する。

 ゴワッという音を発し、手のひらで燃え盛る。


 ワワワ! 本当に変わったよ!


 って、あれ……?

 前に見た時より何か小さい……

 それに炎のちらつきが何だか猛々しいような……

 まあ、かなり昔のことだし記憶違いかな?


【では構築に移るのだ】


 え、うん。

 えーと、球形と打ち出す動きの真名は……


「サーリオル・クラン・ルーベル、スール・ポウレオ・トルーボス」


 炎は中心を定めて球形となる。

 まるで小さな太陽のようである。


【では放つとよい!】

『ポコ、少し水面に向けて放った方がよさそうです』


 ム? どういう事だろう。

 でもシロが言うのだから間違いない。


 方向を岩の下側に向けてから発動の真名を唱える。


「シューロ・トネイル!」


 そう唱えた瞬間、手の先にある小さな太陽が勢いよく放たれる。

 炎は目標である岩へと一瞬で辿り着き、まぶしい光を放つ。


 ドゴオオンンンン!!!


 少し遅れて激しい音が聞こえ、周りに熱風と蒸気が吹き荒れる。


 ボクは眩しさと熱風に、両手で顔を覆う。

 音が遠くへと木霊し、鳥達が一斉に飛び立ってギャーギャーと騒がしい鳴き声が聞こえてきた。


 音が止んで静けさを取り戻した頃、おそるおそる目を開ける。

 辺りは霧が出たように、熱気を帯びた蒸気が立ち込めていた。


 ブハッ! すごい蒸気だな!

 一体何がどうなったんだろう?

 炎が岩にぶつかったところまでは覚えてるんだけど……


 風によって少し蒸気が薄れてくると、そこには目を疑う光景が広がっていた。


 エエーー!!

 ナニコレーーーー!!


 先ほど標的とした岩は無くなり、僅かに下の部分が残されている程度。

 炎の通った形に合わせて溶け残り、赤く鈍い光を放っている。


 そして岩だけではない。

 対岸の地面までもが溶けてえぐれている。

 流れ込もうとする川の水が、いまだに冷え切らない熱によって蒸気へと変えられていた。


 ヘー、土って溶けるんだぁ……


 ……って!

 そうじゃないよ!!


【クハーッハッハ! なかなの威力だな! ワシが教えただけのことはある!】

『少しファルナを込めすぎたようですね』


 え……?

 シロが何やらおかしな事を。

 少し込めすぎたって、いつもの半分くらいの量だったし……


【何を言っとる。ファルナを凝縮させて放っただろうが】


 えっ、だっていつも通りって……


 この野郎!

 謀りやがったな!


【クハハハハ!】


 まったく!

 まあ安全な場所だから問題はないんだけど。


 それにしてもシスター・マリアの魔法とはかなり違ったよね……

 ファルナの量で威力がここまで違うってこと?

 それとも魔方陣とは違う魔法になってるのかな?


『それについて幾つか話さなければならないです。休憩をとりながらお話ししましょう』



 川べりに腰を掛け、その後しばらくはシロ先生とのお勉強時間である。


 シロ曰く、魔方陣と言うのは非常に細かく構築が書かれているそうだ。

 それはボクも書き写している時に分かっている。

 こんなにも多くの真名が必要なのかと思い、これでは唱えるのも大変だと考えていた。


 しかし、実際唱えたのは数文字の真名。


 では魔方陣には何がそこまで書かれているのか?


 それは形や大きさ、速度や動き、距離、発動時間、対象などなど、事細かに書かれている。場合によっては効果・威力の制限が記載されることもあるらしい。


 当然、大きく・速くと記載されれば必要なファルナ量は多くなるし、逆に小さく・遅くであってもファルナの必要量は多くなる。もちろん、複雑な動き、発動距離の指定も同様である。


 何故ファルナを無駄に消費するのにそんな事が必要なのか?


 その答えは、常に同じ魔法を発動するためだそうである。


 その話を聞いた時には「そんな必要あるの?」と思っていたが、用途を聞けば案外必要なことは多い。


 威力の加減、使用するファルナの量、距離や動きの指定。

 それに少し構築が変われば別の魔法になってしまう。


 シスター・マリアの魔法書に書かれていた火の魔法はファイアーボール。

 魔法を習っていない者でも大抵は知っている。


 一方でボクが使った魔法は……

 ファイアーボールとは呼べないだろう……


 魔法陣を使わない場合だが、かなり自由に構築が可能である。

 また細かい指定がなければファルナの量や状態に依存することも多くなる。

 ファルナを込めるほど速度が速くなり、発動時間が長くなったりもするそうだ。


 どちらにもメリットとデメリットはあるけども、真名の読みと書きを覚えなくて良いとなると、一般的に魔方陣が広がるのも頷ける話である。


『これからは真名の文字と読みを覚えていく訳ですが、いまの段階で得意な魔法をつくるのは得策ではありません』


 え、そうなの?

 発動までの一連の流れで覚えた方が実用的だし、覚えやすいかなと思ったんだけど……


『発動までの魔法を想像して優先的な言葉を覚えるのは悪いことではないです。しかしファルナの質によって効果が異なる事を忘れてはいけません』


 あー、そうかー……

 自分のファルナの性質を知らなくちゃいけないんだよね。


『相性の良い魔法では2倍以上、悪い場合には半分以下の効果しかでないことになります』


 結構違うんだなぁ……

 でもさっきの魔法の威力を見た感じで、そこまで気にする必要があるのかな?


『先程の威力の魔法を100回使用できるのと、25回しか使用できないと考えればわかるのではないですか?』


 なんて説明が上手なのだろう……

 すごく分かりやすいです……


 なるほどー、そう考えると早く自分のファルナの質を知らないといけないんだなぁ……

 学園に行けばわかるのだろうけど……


【いまの段階でも確実に相性の良い魔法はわかっているがな】


 え、なになに!

 今でもわかるものがあるの?


『……それはいまのポコには少し早いのでは』


【何を言っとる! 先の事を考えれば1つくらい知っといた方がよかろう】


『しかし非常に危険な魔法です。まだ先でも……』


【オマエは過保護過ぎるぞ、結局は教える事になるのだろう?】


 おっと、なんだろう少しもめてるけど……

 とりあえずどんな魔法なのだろう?


【消滅魔法だ】


 何だか恐ろしげな響きですね。

 聞いたことないんですけど……


【この魔法は相反するファルナを持つことが条件となる】


 なーるほど。

 だからファルナの質がわからなくても相性が良いってわかるのか。


『特殊魔法に分類されます。誤って使用すれば他の魔法よりも大変なことに……』


【誤らなければよいだけの話だ】


『しかし……』


 またしばらく言い合いが続いたが、クロが押しきる形で話がついてシロも一応は納得したようだった。


 シロの不安はわかる。

 でも自分に相性が良いとわかっている魔法があるなら、是非とも教わりたいと思うところである。


【いまから言う真名を書き留めると良い】


 クロから言われた消滅を意味する真名を本に書き留める。

 文字の癖と言うのか、その辺も少し分かってきたので、そこまでの時間はかからない。


【読み方はデイドル・リールシノ・トリミウムと読む】


 読みを真名の隣に書き込む。


【そして今回は位置を指定しての発動となる】


 先程の左側にある少し小さめの岩を指定して狙うとのこと。

 対象指定、大きさについての真名の読みをクロが教えてくれた。


 打ち出し、球形、範囲、小さく、対象指定、放たれる


 この順序で真名を唱えろとのことだった。

 指定の際に対象を特定する文言がなければ視線を置いて認識すれば良いそうで、自動で誘導する場合も同じだそうだ。


【もうわかるだろうが真名を唱える順序によっては異なる魔法になるのだ。今回は動きの真名の後に形について唱える事で効果範囲の形をなすものとなる。】


 なるほど。

 さっきは球形で放たれたけど、今回は指定先で球形に発動すると言うことか。

 その辺は今度詳しく聞いておいた方が良さそうだ。


【シロも心配しているだろうが、効果範囲は絶対に唱えるのだぞ。範囲を示さなければどれだけの大きさになるかわからんからな】


 ヒィィ!!

 大きすぎたら自分が巻き込まれるかもしれないってことか……

 慎重に唱えよう……


『焦らずにゆっくりとやりましょう』


 はい、もちろんです……


 心の準備を整えさっそく集中を行う。

 ファルナを凝縮することに慣れてしまったので、大きさで調節を行う。

 今度は先程よりも一回り小さく、小石程度の大きさだ。


 これくらいで大丈夫かな……?


『範囲を指定しますので問題ないと思いますよ』


 よかった……

 シロに聞いとけば安心できる。

 でもファルナが足りなかったらどうなるんだろう?


『範囲に対しての効果が薄くなる場合がほとんどです。極端に足りなければ発動しない場合もあります』


 少ない場合にはとりあえず問題ないってことだ。

 安心して消滅の真名を唱え初める。


「デイドル・リールシノ・トリミウム」


 ファルナの薄い光が消え、中の空間が歪むような変化を見せる。

 先程のような大きな変化はない。


 次いでクロに教わった真名を順に唱える。

 指定場所はもちろん、大きさも忘れずに唱えた。


【うむ、問題は無い。放つが良い】


 クロの返事を確認し、魔法を解き放つ。


「シューロ・トネイル」


 手元から歪んだ透明の物体が放たれ、岩へと一直線に向かう。

 岩に接触した瞬間にギュル!っと聞いたことがないような音と共に直径1メートル程の空間が出来上がる。

 その瞬間に岩は塵になるかのように消え去り、空間に流れ込む水さえも霧のように消えていく。


 ポッカリと空間に穴が開いたような不思議な光景にしばし見とれていたものの、アッサリと発生したその現象に先程のような驚きはあまりない。


 小さいと唱えたわりには意外に大きいなぁ……

 などと考えていたくらいである。


 ウーン、何だかあっけない……


【そうか? ワシは渋くて好きだがな】


 ふむー、そういう見方もあるのかな?


『間違っても人に向けないでください。跡形も残りませんよ』


 オオウ……

 そう言われるとおっかないですね……


『ですが消滅魔法は非常に応用力の高い魔法でもあります。例えば対象を自分に向けられた魔法とした場合には、かなり高度の防御魔法となります』


 なんと!

 それは素晴らしい!

 自分のファルナが相反しているなんて言われたときにはガッカリしたけど……

 それならお釣りがくるくらいじゃないですか。


 さてところで……

 この魔法はいつまで続くのかな?


 話をしている間もポッカリとした空間は残っている。


【威力は充分に見えるからな、恐らくは込めたファルナが継続時間と量にまわったのだろう】


 ウーン、一応は無くなるまで見届けないとまずいよね……


 小石を空間に投げて消えるのを楽しんでいると、2分程して次第に小さくなり魔法が消え去った。


 しかしあんなに少しのファルナなのに意外に効果時間が長かったよね?

 火の魔法に関しては随分な威力だったし。


 話には聞いていたけど凝縮したファルナって随分と効果が高いんだなぁ……


『日頃の鍛練の成果でしょうね。普段の状態でそこまで凝縮できれば充分だと思いますよ。』


 あら嬉しい。

 シロさんのお墨付きが出ました!


【甘やかすもんではないぞ?今はせいぜい5倍程度と言ったところであろう。10倍程には凝縮出来るようにならんといかんな】


 エー……

 それってどんだけの威力になっちゃうの……

 流石に言いすぎなんじゃ……?


【複数の対象に対して1度の魔法を行使することもあるのだぞ? 特に魔獣などは群をなしておるからな】


 あー……確かにその想定はしていなかったです。

 むしろ魔物や魔獣なんて本でしか見たことないですから……


『クロが言うことも一理はありますが、今は充分だと思いますよ』


 まあ二人の言うことをまとめれば鍛練を怠るなってことだよね。

 基礎が大事だという事は実感してるし、これからもしっかり続けないといけないね。


【クックック、明日からは頭の鍛練も必要になるんだがな】


 オウフ!

 そうでした……

 魔法が使えたからって安心していたけど。

 真名と読みを覚えなくてはいけないんでしたね。

 本当に間に合うかなぁ……


 魔法を使えて嬉しくはあったのだが、先の事を考えると喜んでばかりはいられない。

 足取り重く教会へと帰宅することになる。


 それから15歳と半ばで教会を出るまでの間。

 ボクはみっちりと勉強の日々を送ることになるのである。



も、もう少しで…

書くのが遅くて申し訳ありません。


次回はとうとう村から旅立つ予定です…

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