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放出

読んでくださる方がいるだけで嬉しく思います(′∀`)

 フィリオが旅立ってから直ぐ、ボクは次の段階へと進むことになった。

 集中の次の段階と言えば……おそらくは放出。遂に魔法の行使に必要な段階へと進むのだろう。


【先に言っておくが放出ではないぞ】


 おうふ!

 心を読まれた!


【クックック、オマエはわかりやすいからな。それに焦らずとも放出など直ぐに出来る。それよりも大事なのは基礎だ】


 へー、ならまあ安心かな。

 じゃあこれから何するの?


【集中を行える部位を増やすことだ】


 クロが言うには両手は勿論、両足も行えると良いとのこと。

 さらに同時に2ヶ所で行えることができれば及第点だと言っていた。


 場所によって魔法の使いやすさ変わってくるらしい。

 空間・空中に作用する魔法では両手から、地形や自分の全身に作用するような魔法なら両足から行うと良いらしい。


 あれ?

 でも魔方陣を使うなら、そんな必要無いんじゃないの?


『何やら勘違いしているようですね』


 んんん? 

 いったい何を間違えてるんだろ……

 あっ、もともと魔法陣は本じゃなくて地面に書くものだったとか!

 それなら足に集中するのも納得出来る様な……


 でもそれだと何個も集中する必要があるかな……?

 そうか! 装備した魔法具にファルナを込めれるようにだ!

 そうすれば魔法書を持ってても効率よくファルナを込めれるもんね!


【ブブー! 大ハズレだ!! そもそも魔法の行使に陣など必要ないわ!】


 エエーーー!!!

 そこなのーーーー!?


『はい、魔方陣とは補助的な物なのです』


 そ、そうなのか……

 そういや魔法の事ってシスター・マリアにしか聞いたことなかったからなぁ……


 ファルナを集中して魔方陣に放出することで魔法を使う。

 これも、もちろん間違いではない。


 でも本当の意味で魔法を使う場合は違うらしい。

 ファルナを魔法へと「転換」「構築」して「発動」するそうだ。

 魔法によって内容は異なるが、簡単にはそういう事だと言っていた。


 例えば炎を飛ばす魔法なら、ファルナを「火へと転換」、「形を構築」、その後に「飛ばす構築」をして「発動」するだけである。


 竜巻を起こすような魔法であれば、「風へと転換」、「形や大きさ、動きの構築」、「場所の指定を構築」して「発動」する。


 魔方陣とはその転換と構築の過程を行ってくれるもの。

 本来は複雑な魔法や大規模な魔法、複数人で構築するような魔法に対して用いる物だそうだ。


 簡単な魔法を一般的に使えるように広まったのではないかと言っていた。


 なるほど。

 しかし魔法の転換や構築って……

 どうやるのか全くもって想像つかない。


『それは真名によって行います』


 真名……

 真名についてボクが知っている事と言えば……

 神様が最初に使った言葉だと言うこと。

 そして魔方陣に書かれている文字だということ。


 むしろそのくらいしか知らない。


 シロの説明でもその辺は間違ってはいなかった。

 魔方陣には転換や構築について真名で書かれているらしい。意味がわからなくとも、真名自体の力がファルナの転換と構築を行ってくれるそうだ。


 だが重要なのは真名の意味と読みを認識すること、そう二人とも言っていた。


 それができれば魔方陣を使用する必要がない。

 文字を頭に浮かべ、言葉に出すことで転換や構築が行える。

 さらに上達すれば真名を思い浮かべ、頭の中で読み上げることでも行えるらしい。


 もちろん初耳……

 そりゃ、魔法を使える人自体がほとんどいないド田舎ですからね。

 王国にいるような上位の魔法使いなら当前なのだろうけど……


『ですからポコ。アナタは集中できる部位を増やした後、様々な真名を覚えなくてはいけません』


 エーーーー!

 ここに来て勉強なのーー!?


【クックック、しかも我々は言葉でしか伝えられないからな。書き方は教えるが書くのはオマエになるわけだ】


 エエーーーー!!

 二度手間じゃないかっ!!


 ……いや? そんな文句は贅沢か。

 こんな辺境の片田舎で、教えてくれる人がいるだけで素晴らしい事なのだから。


【なんだ落ち込まんのか】


 ええ、だいぶポジティブな思考になってきました。


【チッ!】


 あらやだ!

 舌打ちされた!


 まあ魔法や真名の事は置いておいて、まずは集中の応用に進む。


 他の場所に集中することにはそこまでの期間を要しなかった。

 2ヶ月もしないうちに左手で、順次に右足、左足で使えるようになる。


 因みに練習では足を伸ばして座った状態で行っていたが、立った状態だと地面にファルナが潜って見えなくなる。

 これなら自分が魔法を使おうとしても、他の人には分からない様になるのかと納得していた。


 ただ2か所同時で使えるようになるのは難しい。

 半年ほどでようやく両手で同時、両足で同時に行えるようになった。

 両手で行える様になった時に、大きさ・形・圧縮の調節を、常に練習しておくといいと言われた。


 全部が出来るようになるのは教わってから一年経過した時である。



 気がつけば13歳を迎え、それなりに身体も成長してきた。

 少しだけ身長も伸びたような気もする。


 フィリオが学園にいって一年か……

 あっという間だったような……


「フィリオ兄から手紙が来たよー!」

「!?」


 見事なタイミングでチョコがそう伝えに来てくれる。

 まあ一年と言うのは切りが良いし、そんなことがあってもおかしくはないのかな?


 シスター・マリアに近況を知らせる手紙が届いたそうで、他の皆は既に集まっているらしい。

 ボクが部屋に付いた時には大騒ぎである。


「フィリオなんだってー!?」

「王国のことかいてある!?」

「はやく読んでー!」


「ほらほら、静かにしなさい。今から読みますね」


 どうやらボクが一番最後だったようだ。

 シスター・マリアはボクとチョコの姿を確認したところで読み上げはじめる。


 手紙にはこれまでの事がギッシリと書かれていた。


 皆と離れてから1ヶ月後、無事にアレアドル王国に到着したこと。

 途中で出会った冒険者たちのこと。

 大陸は本当に広いんだと実感したこと。

 王国の予想以上の大きさ、人の多さに驚いたこと。

 アレアドル王立中央学院の入学式のこと。

 学園長や他の講師の先生のこと。

 仲良くなった友達の話。

 1年の間に受けた授業のこと。

 使える様になった魔法のこと。

 優秀な成績を修めたこと。

 予定されている授業が楽しみだとのこと。


 まだまだ書き足りないと言わんばかりの内容が詰まっていた。


「行ってみたいなぁ」

「学園かぁ」

「ボクも魔法使えたらなぁ」


 皆が思ったことを呟いている。

 ボクも声には出さないが王国の生活に想像を膨らませ、学園への憧れがどんどんと強くなっていた。


 そう、ボクもあと少し。

 ファルナの放出さえ出来れば、入学への扉が開くのだから。


『ではそろそろ放出を行いますか?』


 おう!?

 シロさん突然なんですか!


『今の話を聞いて学園に行きたいと考えてるかと思いまして。ちょうどいい機会でもあります』


 ボクってわかりやすいんだろうな……

 まあとにかく! 教われるのであれば今すぐにでも教えてください!


 皆はまだフィリオの話で盛り上がっているが、ボクは外へと足を向ける。


「ポコ兄どこいくのー!」

「修練!」


 聞こえてきたチョコの声に、軽く振り返って一言だけの返事をする。


 場所を移して、教わる準備は万端である。

 少し興奮しながら体の節々を伸ばして体操を始めていた。


 では! シロさん!

 教えていただけますか?


『では集中したファルナの形を安定させ、押し出してください』


 ほうほう!

 で、それから!?


『ですから形を安定させたファルナを押し出してください』


 うんうん!

 で、それからどうするの?


『ですから……』

【何度言わせるのだオマエは。放出とはそれだけだ】


 え?

 エーーー!!

 そんな事なのーー!?


 てっきり遠くに離れたファルナを安定させたり、操作するかと思ってたのに……


『フフフ、ポコがそう言えるのはファルナを留める修練があったからこそですよ』


 あー、そうかー……

 普通であれば魂から直接ファルナを引き出すからね……

 留めたり形を変えたりなんてやっていないのか。


 でもそうならそうと……

 もっとはやく教えてくれても良かったんじゃ……


【それはだ、そもそも放出など魔法を使うのに必要ないからだ】


 エーーーー!!

 使わないのーー!?


 集中して放出に至ることが、魔法を使える絶対条件だと思っていたのに……

 まあ集中でさえ二人に教わるまで理解が異なってたけど……


【クックック、いい反応だな】


 クロさん……

 楽しそうですね……

 でも、それじゃあ何のために放出なんてあるのさ……?


『放出というのはですね、魔方陣や魔法具といったものにファルナを込める為の方法なのです』


 あ、なるほど。

 魔方陣が一般的になった今だからこそ必須になったわけか。

 そう考えれば納得かなぁ……


 という訳で。

 納得したところでさっそく試してみましょう!


『では、そこの木に向かって放出してください』


 何で木に放つのかと不思議に思ったが、その質問にも答えてくれた。


 ファルナは魂の存在しないものは素通りしてしまう。

 しかし魂の存在するものに放てば吸収されるとのこと。

 身体の部分がファルナを吸収するようなものらしい。


 言われた通りに木の前に立ち、掌を向け、いつものように掌にファルナを集める。


『自分との繋がりが途切れる寸前に、ファルナをファルナで押し出してください』


 んー……

 形を固定したファルナを押し出せば良いわけか。

 オモチャの鉄砲みたいな感じだね。


 ギリギリまで保ち、目の前の木に向ける。

 玉がポンっとでる様なイメージでファルナを掌から押し出した。


 ファルナは拡散することなくフワリと放たれる。

 木に当たると、外表にそって潰れたように歪み、次第に小さくなるかのように消えて無くなる。


『それが放出です』


 これが放出……

 うん、なんともあっけない。

 感動と言うか、達成感が全く無いのですが……


【では次に進むとするか】


 おうふ!!


 さも当然と言わんばかり。

 今までの事を考えれば出来て当たり前と言う事なのだろう。


 でも、その前にシスター・マリアに報告しなければ。

 実際にできていても、ちゃんと知らせなければ入学できないからね。


 シスター・マリアを探しに教会へと入ると、部屋でチョコと一緒に手紙の返事を書いているところだった。


「手紙を読んだ時の様子も書いてあげるといいんじゃないかしら?」

「そっか! えーと、みんな、たのしそうでした、っと」


 シスター・マリアが手助けしながら、チョコが手紙を内容を書いていた。


「あらポコ、どうしたのかしら?」

「放出が出来る様になったんだ」

「そうなのですか。あ、チョコ、そこは字が違います……って、何ですかポコ? 今何といいました?」


 驚いたような、冗談でも言っているのかという反応である。

 チョコは手紙を書く手を止め、こちらを見上げていた。


「えっと……だから放出が出来る様に……」


 シスター・マリアは黙ってボクをジーっ見つめている。

 まあ突然にこんなことを言われたら驚くのも無理はない。


 でも表情を見るに驚いているのとは少し違うような?


「フゥー……いいですかポコ。いくら学園に行きたいからと言って嘘はいけません」


 おうふ……

 ちょっとショック。

 まさか嘘と言われるとは……


 まあフィリオの手紙を読んでから1時間も経過していない。

 そんな反応になるのも仕方がないことである。


「それにポコが本当に出来るようになったなら、興奮して駆け込んでくるんじゃないですか?」


 あ、なるほど……

 そう言えば出来る前の方が興奮してたなぁ……

 逆に拍子抜けで冷静になりました、なんて言える訳もない。


「いや、本当だよ。嘘でも冗談でもなくて」

「……確認すれば分かるのですよ?」


 ボクが黙って頷くとシスター・マリアは眉をひそめる。

 ほんの少しの間だけ考え込むような仕草をみせると、立ち上がって口を開く。


「ポコ……外にいきましょう」


 ボクはシスター・マリアに連れられる形で外に向かう。

 興味があるのか後ろからはチョコもついてきた。


 外に出て何をするのかと思ったのだが、シスター・マリアは大きな木の前に立ち、真剣な顔でボクの顔を見つめる。


「そこの木に向かってファルナを放出してみてください」


 さっきシロから聞いたセリフが繰り返される。

 この方法は放出を確認するのに一般的なのだろう。


 ボクはコクリと頷き、手にファルナを集中させる。

 木に向けてファルナを放出すると、先ほどと同じく、木に吸収されて消えてなくなる。

 シスター・マリアは目を見開いて驚いていた。


「ポコ兄すっごーい!」


 チョコがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 シスター・マリアは驚いて言葉を失っていたが、一呼吸おくと頭を下げてから口を開く。


「ポコ、嘘だなんて言ったことを謝らせてください……」

「ううん、本当だって分かってくれたんだから良いよ」

「覚えたこと自体驚きですが……まさかフィリオより一年以上も早いだなんて……」


 確かにフィリオは優秀であった。

 小さいころから学園に入学できるだろうと教会の中でも期待されていた。


 え? ボクはどうだったかって?


 ボクはほら……なんだ……!

 ゲフンゲフン!!


 そんなに……いや全く期待はされていなかったと思う。

 集中を覚えた時も、周りの大人は驚愕と言わんばかりの驚き方だったし……


「……すぐにでもポコの推薦状を学園の方に送っておきます」


 やった!!

 学園に入学できるってことだ!


「ありがとう! シスター・マリア!」


 ボクが喜んでお礼を告げると、シスター・マリアは首を横に振って答える。


「いいえポコ……こんなに才能にあふれる子にきちんとした魔法の教育できる者がいない。むしろとても申し訳ない事です」

「ううん、そんなことないよ! これからもがんばってフィリオみたいな優秀な成績を修めてくる!」


 そう告げると、シスター・マリアはニコリと微笑んでボクの頭を撫でててくれた。

 むしろ申し訳ないのはボクの方である。

 ここまで無事に育ったのはシスター・マリアのおかげなのだから。


「あなたが良い子に育ってくれた事だけで十分なのです。無理はしないでくださいね」


 優しく、そして本当に嬉しそうにそう言ってくれた。


「フィリオ兄にもこのこと伝えなきゃ!」


 後ろではしゃいでいたチョコは、そう言うと走って行ってしまう。

 おそらく手紙の続きを書きに行ったのだろう。


『よかったですね』


 シロの声が頭の中に響き渡る。


 こうしてボクは2年後、学園へ向かうことが決まったのである。



もう少し、もう少しで学園へと旅立てると…

次回は真名についてのお勉強です。

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