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後始末2

 ひー!

 皆が部室に着く前に合流しなければ!!


 えーと……

 キュドが皆を見かけたのが教室に来る直前。

 となると、恐らく10分はたっていないはず!


 大急ぎで講堂の裏手へと回ると、塔が見えてきたところで三人の姿が捕捉できる。

 どう見ても見間違えるはずの無い、銀鈴とアエーラ、それに赤雷の後ろ姿である。


 間に合ったとホッと胸を撫で下ろすも、何やら様子がおかしい。

 三人は塔に入る様子も無く、地面を見つめているように見えた。


「この通りだ! 許してほしい!」


 三人の背後にまで近づくと、大きな声が聞こえてくる。


「ふぅ、間に合った……って何事ですか?」

「おお、ポコよ。いや妾にも良くわからぬのじゃが、何やらコヤツが突然に頭を下げてきおってな」


 銀鈴が視線を移した先には、地面に頭を擦り付ける男の姿。男はボクに気が付いたのか勢い良く頭を上げる。


「部長殿か! ワタシは3年のジェイス・ハリスマン! 貴殿らには謝っても謝りきれない過ちをおかした! どうか許してほしい!」


 ハリスマンは捲し立てる様に話すと、再度頭を地面に擦り付ける。


「我々が此処に辿り着いた時からこういう訳だ」


 アエーラは訳がわからんと言いたげな表情で、ハリスマンの事を見つめていた。


「えっと……とにかく理由を説明していただけますか?」


 まあ、勿論理由はなんとなーくわかっているけど。

 取り敢えずは何も知らない振りで、様子を伺うのが良いかなと。


「じ、じつはだな……」


 ハリスマンはおどおどといった様子で顔をあげ、言いずらそうに話始める。


「昨晩……ワタシは貴殿らの部室に侵入し、部屋を破壊したのだ……」

「なんじゃと……?」


 銀鈴の眉がピクリと動き、ハリスマンを見る目付きが鋭くなる。

 いつも口元を隠している扇子を高らかに上げ、明らかに攻撃対象をハリスマンに指定している様子だ。

 慌てて止めようとするも、その前に赤雷が銀鈴を制止するよう一歩前に歩みでる。


「何故、そのようなことをした?」


 静かながらも威圧感のある赤雷の声。ハリスマンは「それは……」と口ごもって目を反らす。

 しかし、一呼吸おいたところで覚悟を決めた表情で顔をあげる。


「……騎士団に逆らった制裁として……だ、だが! 全てを弁償する! 望むものは整備させてもらう! それで許してもらえないだろうか!」


 ハリスマンは再び地面に頭を擦り付ける。


 赤雷は「どうしますか?」と言いたげに後ろに目を向けてきた。

 銀鈴は不快そうに眉間にシワを寄せているが、弁償と言う言葉と反省している様子に考えているようである。


 そんな様子を見ていたアエーラは、何か疑問に思ったのか、不可思議そうな表情である。


「何故今さら謝罪するのだ? 話さなけれオマエの仕業とは解らなかったのではないか?」

「お……? おお、確かにそれはそうじゃ」


 銀鈴は気が付いたように声をあげ、不思議そうな表情でハリスマンの方へと向きなおす。不可思議さが勝ったのか、先程より怒りが収まっている様子である。


 ハリスマンは暫し黙るが、四つん這いのまま視線を空中へとうつすと、焦点の定まらぬ目で何かを思い出すように話始める。


「信じてもらえぬかもしれんが……ワタシは神の使者にお会いしたのだ。そう、貴殿らの部室で……」


 三人の片方の眉毛がピクリと吊り上がる。


(この男は一体何を言い出したのか……)


 言葉にはせずとも三人の怪訝そうな表情がそう語っていた。


「……あの御方は人を遥かに凌駕した力を示し、騎士道を……いや、人の道を踏み外していたワタシに正しき道を示してくださったのだ」


 此方の様子などまったく気にせず、ただ恍惚とした表情で語るハリスマンに三人はヒソヒソと話始める。


「(こやつ何を言っておるのじゃ……?)」

「(姫様、関わらない方が……)」

「(こんな場所に神に関わる者が来るわけが無いだろうに……)」

「(妄想か……幻でも見せられたのですかね……)」

「(危ない奴なのはまちがいなさそうじゃの……)」

「(しかし関わらなければ弁償も……)」


 そんなことを囁かれていることには気付く様子も無く、ハリスマンは淡々と話を続ける。


「ワタシの視野がどれだけ狭いものであったか、それをただの一言で諭して頂いたのだ……その御方との約束。貴殿らに正直に謝罪すると……」


 ボクは目の前の光景に苦笑いを通り越して、頬がピクピクと痙攣してしまう。


「(これは何時まで続くのじゃ……?)」

「(どこか遠くに吹き飛ばして何事もなかった事に……)」

「(アエーラ殿、それでは部室が壊れたままに……)」


 三人は怪訝そうな表情から、ハリスマンを憐れむ表情へと変わっていく。


「愚かにも敵意を向けたワタシを、その寛大な御心により許されたのだ。これで約束を違えようなど誰が思うことか……いや、あの場に居たものであればそのような……」


 う、うん? あの場にいましたけどそんな大層なこと言いました?


『随分と美化されているようですね……』

【クハハハ! こやつアホだぞ!】


 いやまあ、真っ直ぐな性格なんじゃないかな?うん……


「(これは痛々しいな……)」

「(ま、まあ弁償すると言うならワタシは問題ないぞ……?)」

「(う、うむ……反省? はしてるようじゃしのぅ……?)」


 三人は毒気を抜かれた様子で、ハリスマンに危害を加えることはなさそうである。

 真正面から正直にぶつかれば、魔物だって理解? はしてくれるようである。


「……そして狼にも似た聖獣を意のままに従えるその姿。当に至高。面妖な仮面にてお顔が拝見できなかったのが……」


 アエーラと赤雷は、ハリスマンの言葉に首をかしげて何か引っかかる様な反応を見せる。


 狼……

 聖獣……

 仮面……


 二人は怪訝そうな表情で後ろを振り向く。

 ボクは引きつった笑いを見せて、ぎこちなく頷くしかできなかった。


「ポコ、お主か……」

「えーと、何といいますか。説明しようと大急ぎで向かった次第ではあるのですけど……」

「……昨日の今日では仕方ないかもしれませんね」

「なんじゃなんじゃ? 二人して急にどうしたのじゃ?」

「姫様……こちらへ……」


 銀鈴だけは良く分かってない様子である。赤雷は銀鈴を連れてハリスマンから離れる様にボクの後ろへと周り、コソコソと説明を始めていた。


「……の魔法は魔方陣など使っていなかった。それ自体が証明とも……」

「えーっと、ハリスマン先輩?」

「ん、ああ、すまない。上手く伝わらないところがあればもう一度説明するが」

「いえ、そうでは無くて。ボク達としても部室を綺麗にしてもらえるのならそれで大丈夫ですので」

「おお! そう言ってくれるか! 感謝するぞ!」


 ハリスマンは勢いよく立ち上がると、ボクの手を両手で掴んでブンブンと力強い握手をしてくる。

 しかし喜んでいたのも束の間、はっとした顔をすると少し表情を暗くして話しかけてくる。


「ひ、ひとつ良いか?」

「何ですか?」

「実は御方が貴殿らの部室を気にいっているらしくてな……もしかしたら夜分に御忍びで……」


 そう言えばそんなことを言ったような……


「一人分で良いのだが……御方に相応しい椅子だけでも置かせて……」

「新調して頂けるなら自由にしてくれていいですよ」

「おお! そうか! もしあのお方が現れた時には私に是非とも声をかけてほしい!」

「え、エエ……オアイスルヨウな事がアルナラ……」


 なんだか少し片言になってしまった。

 ハリスマンは今週中には部室を新調すると言い、何故か非常に感謝しながらボク達に手を振って何処かへと行ってしまった。


 何か変な空気の中で、ハリスマンの後ろ姿を呆然と見送る。

 暫くした後に赤雷が口を開く。


「さてと……説明してもらえるか?」




 ボクは皆をつれて部室へと移動していた。

 聞くよりも状況を見てもらうのが何よりも分かりやすいと思ったからである。


 アエーラは説明を聞きながら部室を見回し、銀鈴は壊された自分の椅子に視線を落とし、もの悲しそうな表情をしていた。


 少し心が締め付けられる。


 ……とか思っていたのだが。

 皆の反応は予想外にあっさりとしていた。


 アエーラは「食堂が壊されたわけではないからな」と訳の分からない事を言いだし、「反省し、弁償するというなら」と直ぐに気を取り直していた。


 あれ……

 そんなものなの……?


『ハーピーは物への執着が少なく、綺麗や汚いと言った事に無頓着ですからね』

 え……そうなの?

 あ、そう言えば洞窟を思い返してみると……

 食い散らかした後が異臭を放っていたよね……


【まあ気を悪くはしただろうが、礼儀を持って謝ればこの程度だろう】

 そ、そうなんだ……

 なんだか少し切ないような……

 いや! そうは言ってもちゃんと謝ってもらったからだものね!

 昨日の行動が無駄になった訳じゃないよね!


 流石に銀鈴は不機嫌ですよね~。

 ……とか思っていたら。


 赤雷が銀鈴に何やらコショコショと説明すると……

 あら不思議! 何故だか上機嫌ですよ!


 何で嬉しそうに微笑んでいるのですか?

 そんな簡単に機嫌が治るなんて、赤雷さんは一体何を言ったんですか……? そして昨日のボクの怒りは何だったのですか?


 なんだか釈然としないけど……

 納得したならそれで良いです。


 まだピピルとキリエラ先輩が何て言うか分からないけど。


 ──暫くしてキュドも部室を訪れる。今は皆でカーズについて話し合っているところだ。

 カーズについて何かいい考えが無いものかと、頭を悩ませていた。


「先程見てきましたが、応答さえ無かったですじゃ」


 今もカーズは部屋から出ることはなく、唯一キースの呼び掛けにはどうにか答える程度らしい。


「放ておけば良い」


 銀鈴はバッサリと良い放ち、座りずらそうな壊れた椅子に腰をかけて不機嫌そうな顔をしていた。

 直接に謝り反省していたハリスマンならいざ知らず、カーズのことなど何故考えなければいけないのか。そんな態度である。

 銀鈴にとってみれば学園がどうなろうと関係の無い。これはこれで仕方がないと思う。


 下手に機嫌を損ねても面倒であるし、銀鈴のことは赤雷に任せてそっとしておこう。


「身の程を知らぬ人間の自業自得ではあるからな……とは言えポコが気にすると言うならば、共に考えようとは思うが……」


 アエーラはそう言ってはくれたものの、中々に良い考えは思い付かないようであった。


「ご馳走を部屋の前に用意して……」


 一生懸命考えてくれた唯一の意見ではあったが、満場一致の反対意見で丁重に却下させていただいた。「普通ならそれで元気になるのに……」と拗ねていたので申し訳ないと思う。


 結局のところは、キュドとボクで頭を悩ませるわけである。


「いっその事……おや?」


 キュドは何か話そうとするが、ふいに窓の外へと顔を向ける。

 なにやら小さくトントンと窓を叩く音が聞こえ、アエーラが窓を開けると、ピピルが勢いよく飛び込んでくる。


「んもー! ボクを除け者にして何してるのさ!」

「ん? すまん。気持ちよさそうに寝ていたからな。起こすのは悪いと思ったのだが……」


 プンプンと頬を膨らませるピピルに、アエーラが悪びれた様子の無い軽い謝罪をしていた。


「それじゃ、まるでボクが寝坊助みたいじゃないか! ちゃんとご飯を食べた後の二度寝だからね!」


 いや……

 どっちにしろ自由なことで……


「って、うわぁ……何があったの?」


 今更気が付いたのか、部屋の中を「うへー」っと言って飛び回る。

 ピピルにも昨日の話をかいつまんで説明すると、最初はフンフンと頷いて話を聞いていた。

 しかし、次第にワナワナと震え始め、当に怒り心頭といった状態である。

 ボクの頭に止まり、髪を引っ張ってダンダンと地団駄を踏んでくる。


 痛いので止めてもらいたい。


「キー! 何て自分勝手な奴! ボクがとっちめてやったのに!」


 自分勝手さでは皆も負けてはいないけど……

 今それを口に出すのをやめておこう……


「まあ既にとっちめたから、今は後始末の問題かな」

「ボクが部屋に入り込んで引っ張りだしてあげるよ!」

「お、おう……」

「ボッコボコにして、ボクの命令に逆らえなくしてやるんだから!」


 ピピルの言葉を聞いて、ふと昨日のことを思い出す。


「あーそうか……その手もあるよね」

「え? あ、うん! こ、こんな感じでさ」


 ピピルは自分の意見に賛同されるとは思わず、身体をビクリと反応させた後、ぎこちなく蹴る殴るの動きを見せていた。


「ポコ様、何か良い考えが?」

「まあ試すだけ試しても良いかなって」

「フムフム?」


 ボクとキュドの顔を交互に見ながらピピルは「えっ? えっ?」と声をあげて焦っていた。


「なるほど。その後どうなるかは知りませんが、取り敢えずは出てくるかもしれませんな」

「後は噂についてですが……」

「それだけでしたらワシにいい考えが……」


 先程まで滞っていたものの、ピピルの言葉がきっかけにとんとん拍子で作戦が決まっていく。

 まあ綿密にとまではいかないが、取り敢えずはなんとかなるんじゃないだろうか。


 ある程度の計画が決まり、ボクは午後の授業へと戻ることになった。

 キュドは皆にも手伝ってもらって準備をしておくらしい。


 因みに帰りがけに赤雷が銀鈴に何を言ったのか確認しておいた。

「ポコは姫様の為にお怒りになられたのですよ」と言ったそうだ。


 まあ昨日の行動が無駄ではなかったと言うことだが、何とも複雑な気持ちにさせられた……


次回はカーズのもとへと~

え、そうなるの?って思われてしまうかもしれません。


一週間以内にはどうにかいけそうです。



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