悩みと後悔
話を考えるのって難しい…
だけど楽しいですね!
フィリオと喧嘩をしたあと、ボクは部屋に戻って閉じこもってしまった。
ファルナの操作を習得できた喜びなど消えてしまい。
頭のなかは疑問や混乱、様々な思いが溢れだしてくる。
【クックック……大喧嘩だったな】
うるさい!
『ポコ……落ち着いてください……』
うるさい! うるさい!
やめてよ! 話しかけないでよ!
オマエラは何なんだよ!
何でボクにしか聞こえないんだよ!
その問いに二人は何も答えない。
フィリオに言われた言葉が頭の中で何度となくこだまする。
「頭の中で声なんてしない」
「嘘はつかないでほしかった」
やっぱりボクはおかしかった?
シスター・マリアはボクに嘘をついた?
あのシスター・マリアが……?
そんなことは考えられない……
じゃあなんで……
いくら考えようと答えはでない。
しばらくボクは部屋から出ることは出来なかった。
何度かチョコが食事を持ってきてくれたが、
食事をとる気は起こらず、返事をする気にもなれい。
そのまま3日が過ぎてもボクは部屋から出ようとしなかった。
気がついたら寝て、ボンヤリと目を覚ます。
数日たっても頭の中はすっきりしない……
窓も閉めきっているため時間の感覚が少しおかしくなっている。
うっすらとした光が差し込んでいるので、夜ではないことが認識できる程度だ。
しばらくボンヤリとしていると、
トントンとドアがノックされる。
「私です、入りますよ」
シスター・マリアの声がドアの向こう側から聞こえてくる。
ボクは返事をせずに毛布に潜り込んでじっとしていた。
ドアが開く音がする。
ギシっと床の軋む音が段々と近づいてくる。
シスター・マリアがボクのベッドの横に立っている気配を感じる。
それでもボクは布団に潜ったまま動こうともしなかった。
シスター・マリアはただ黙って立っていたが、暫くした後口を開く。
「返事をしなくてもいいです。フィリオから話は聞きました」
ボクの身体がビクッと反応してしまう。
「ワタシはポコの言葉を嘘だなんて思っていませんよ。覚えていますか? 自分の中に天使と悪魔がいると言う話をしたことを」
忘れるわけがない。
自分を安心させてくれた言葉なのだから。
「天使と悪魔は、正しい気持ち、悪い気持ち。その2つによって自分が作り出すものなの」
ボクは何も答えないまま話を聞いていた。
自分が作り出すもの……
シロとクロを自分で作り出した……?
それじゃあボクは妄想と話をしている……?
「ポコが悪魔と天使の声に従って練習したと言うのなら、それは自分で一生懸命考え、そうして出した答えに従ったって事」
そんな訳はない……
シロもクロもボクの知らない事ばかり知っていた。
聞いたこともないような内容ばかりだった。
それをボク自信で考えた……?
いや無理だ、自分では考え付かない。
「ポコは素晴らしい才能を自分で開花させたのよ」
そんなことはない。
クロとシロに教わらなければ……ボクは今だに何も出来ていない……
クロとシロが居てくれたから……ファルナの操作が出来るようにはなったんだ。
「フィリオも納得していました。今は誰もポコの事をウソつきだなんて思っていませんよ」
違う……全然違う……
クロもシロもボクの中にいるけど、ボクじゃない。
シスター・マリアはボクのことを信じていない訳じゃない、でも勘違いしてる……
シスター・マリアの話を聞いているうちに、少しずつではあるが頭の中の絡んだ糸がほどけていく。
じゃあ頭の中の声のことは?
ボクは勘違いしていたが他の人にはそんな声は聞こえていない。
やっぱりボクがおかしい……?
ウウン……少し違う……
おかしいんじゃない、他の人と違うだけ。
「皆心配していますよ。出てくる気になったらいつでも出てきて下さいね」
クロとシロが誰なのかなんて関係ない。
もしかしたら本当に妄想であるかもしれないけど……
ただ2年間、ボクのためだけに色々と教えてくれた。
それだけは確かなこと。
頭の中の絡んだ糸が、完全にほどけたような気持ちになる。
シスター・マリアは暫くの間ボクの横に立っていたが、告げるべき内容を伝えるとドアノブに手をかける。
「ポコは自分を誇りに思って下さい。それだけの事が出来たのですから」
そう最後に言い残して部屋を出ていった。
部屋に再び静寂が訪れる。
どれくらいたっただろうか。
「シロ、クロ、ごめん」
うるさいだなんて、話しかけるなと言ってしまったこと。
色々教えてくれたのにひどいことを言ってしまいごめんなさい。
『良いのですよポコ……』
シロの優しい声が聞こえてくる。
【ククク、気にすることはないぞ】
クロもいつも通りの返事をしてくれた。
二人が誰であろうと関係無い。
この先も常に側に居てくれるであろうクロとシロ。
「これからも色々と教えて貰える?」
【当たり前であろう、オマエの反応を見るのが楽しみなのだぞ?】
クロは本当に相変わらずで変わらない。
でもそれが少しホッとした。
『もちろんですよ。ポコの成長を見届けるのは私も楽しいですからね』
シロもいつも通りである。
何かがボクのなかで吹っ切れた気がするが。
『これからは私たちの事は教えた事を含め、あまり話さない方が良いと思いますよ』
うん、それはボクも痛いほどに実感した。
仲の良いフィリオでさえあんな反応なのだ。
他の人に話したら完全に頭がおかしいと思われるだろう。
そういえばフィリオにはなんて話せば良いのか……
今さら勘違いしていたとは言えないし、自分からボクの妄想だったなんて言えない。
嘘だったなんて言うわけにもいかないし……
夕飯になる前にはボクは部屋を出てシスター・マリアに「ごめんなさい」、「ありがとう」と伝えた。
「いつも通りに戻ってくれればそれでいいのよ」
そうやさしく微笑んで答えてくれた。
チョコにもだいぶ心配を掛けたようで姿を見せると駆け寄ってきてくれた。
「もう大丈夫なの? はやく一緒に遊ぼうね!」
そう言って笑いかけてくれた。
妹にまで心配をかけてしまった自分を情けなく思う。
そしてフィリオはというと……
やはり向こうも気まずいのか、目が合うとそらしてしまう。
ボクの方もなんて言えばいいのか分からず、声をかけられない。
そんなギクシャクした関係は直ることなく、そうこうしているうちにフィリオが学園へと向かう日がきてしまった。
「さあ皆、フィリオの門出を見送りましょう」
シスター・マリアがそう言うと、皆がフィリオに別れの挨拶をしに群がっていた。
ボクは遠巻きに見ているだけ、このままで良いわけはないと分かっている。
でも一歩が踏み出せないでいた。
皆に見送られフィリオが教会からでた少し後。
皆が教会に戻ろうとしたとき、思わず駆け出し、なんとか絞り出した声をだす。
「フィリオ!……あの……がんばって!」
一言伝えることで精一杯であった。
聞こえたかも分からない。
伝わったかも分からない。
ただフィリオはこちらをむいて笑ってくれたように見えた。
そして手を上にあげて返事をしてくれた。
もっとはやく声をかければ良かった。
もっとはやく仲直りしておけば良かった。
次に会えるのはいつになるのかもわからない。
いまはすごく後悔している。
もう少しだけ修練のはなしが続きます(・ω・`)