集中
さあさあ!
待ちに待ったこの日がついにやって来ました!
ファルナを体表に出す修練。
つまりは集中である。
大抵の人が基礎と言えば集中だと考えている。
なので最初に行うのがファルナを体表に出そうとすること。
ボクはその修練にたどり着くまで一年半。
他の人よりかなり遅くなったけど、決して無駄な日々は送っていなかったはず。
自分のファルナをこの目で確認したい。
そんな気持ちでワクワクしていた。
【大体は予想通りの経過だな】
ああん? 何だと!?
あなた3年って……
まあ少し長めとは言っていたけど……
『むしろ早いくらいですよポコ。よく頑張りました』
ありがとうございます!
シロさんの言葉が素直に嬉しく思えます。
【さて……ある程度のファルナを一気に表面へと出さんといかんな】
フム、一気に出す…
今までゆっくりしか操作した事がないけど。
大丈夫かな?
『安心してください。丁寧に操作する方が遥かに難しいです』
フム? そりゃそうかも?
なんとなくわかる気もする。
【とにかく先ずは行動あるのみ。はじめるが良い】
は、はい。
フー、緊張するなぁ……
今までの総復習だよね。
まずはファルナをソーマ全体に混ぜて留める……
今度は身体の隙間をすり抜ける様に、細く一気に手のひらへと移動する……
フオンッ!!
ボンヤリと空間が歪んだような球体が、瞬時に手の掌に出現する。
それもボクの身体を包める位の大きさである。
エエー!!
ナニコレーッ!!
えっと、ん……
これで出来たってこと?
今回はこれで終わりなの?
【クククッ……クハーッハッハッ!!】
なんか大笑いされていますが……
そんなに可笑しい事ですかね……
『フフ、今のポコにはそれくらい当然なのですよ』
シロにまで笑われてしまった……
どうやら二人とも予想していた結果のようだ。
【クックック、まあ驚くであろうな】
いやまあ、そりゃそうですよ……
でもこれで集中が出来るようになったってことなの?
これって普通の大きさなの?
【ファルナ操作の修練を積まんと、こうはいかんだろうな】
『修練が十分であり、ファルナが足りている。そうすれば造作もないことなのです』
操作の修練……?
いつそんなことをしましたっけ……
【何を言っとる。ソーマに留める為に苦労していただろうが】
あー、そのことですか。
確かに試行錯誤してきたけど……
それがこんな結果に繋がるんですね。
あ! まさかクロの一気に出せって……
驚くボクの姿を見たかっただけなんじゃ……
【クククッ……】
クッ、どうやら間違いないようである……
シロまで一緒になって……
『フフフ、少し驚いてもらおうと思いまして』
ええ、少しじゃなくてかなり驚きましたよ……
【しかしポコよ。それで集中ができたわけではないぞ?】
え……?
身体の外に出せれば良いんじゃないの?
シスター・マリアはそう言っていたけど……
【下位の魔法使いではそれを集中というであろう。何せ表に出すだけで一苦労なのだから】
む、なるほど、そう言うことか。
最初から外には出せないんだもんね。
『ファルナを圧縮して密度を高める。これを本当の意味で集中というのですよ』
ファルナを圧縮……?
濃くする見たいな感じですかね?
集中には二段階の意味がある。
初心者は身体の表面に出すことに集中する。
上級者は身体表面のファルナを圧縮することに集中する。
圧縮することは魔法の上級者となってから必要なこと。
そう言えば前に魂の中でファルナを圧縮する人がいると聞いた覚えがある。最初の内は下手に知らない方が良いのかもしれない。
そしてもちろん。
高密度のファルナでの魔法は段違いの威力らしい。
ボクってそんなに上達してたの?
比較する人が居ないので全く実感がわかないのだけど。
【当たり前だろう! 誰が教えていると思っておる!】
お、おう……
申し訳ございません……
何だか凄く怒られてしまった。
まだ嬉しくて興奮している状態ではある。
しかし集中の仕上げで、圧縮へと進まなくてはいけない。
さてと圧縮、圧縮っと……
って圧縮ってどうすんのよ……?
色々と操作してきたが、今までとは話が異なる。
ただ動かせば良いという訳ではないからだ。
『いくつか方法があります。共通するのは形を固定することです』
ボクの場合は形を固定した後、ファルナを押し込む形が合っているだろうとのこと。
他には大きく出したファルナの周囲を固定し、次第に小さくする方法。これは感覚を掴むには良いそうだが実用的ではないらしい。
他には渦を巻くように圧縮する方法もあるそうだ。
まあ、ボクのファルナの性質では合わないだろう。
アドバイス道理に練習を繰り返し、自然に圧縮されたファルナを出せるようになるには半年近く経過した頃であった。
こうしてボクは約2年、12歳でファルナの集中に至ったのである。
すぐにシスター・マリアに報告した。
最初は冗談だと思ったらしいが、ボクが出したファルナを見て目を丸くして驚いていた。
その後、皆を集めて報告する。
「スゲー!」「カッコいい!」
そんな声を聞いてボクは気が良くなってしまった。
フィリオとケンカしたのは、この後のことである。
「なんでそんなに早く取得できたんだい?」
「頭の声に従っただけだよ」
フィリオの質問に特に考えるでもなく正直に答える。
「ん、頭の声? どういうことだ?」
「何って、フィリオこそ何言ってるのさ。聞こえるでしょ? 天使と悪魔の声。それに従って修練しただけだよ」
フィリオは怪訝な顔をしていたが、調子に乗っていたボクはその様子に気付くでもなく、声のことを当たり前のように話してしまったのである。
「ん、そんな事は聞いたことがないな。教典のどこにも書いていなかったと思うけど」
「そんなことないよ、シスター・マリアも言ってたし。皆にも聞こえるはずだよ? まあボクの頭の声が優秀なのかもしれないけどね」
調子に乗ったボクの物言いに、フィリオは少し驚いた様子を見せ、すぐに悲しそうな表情を見せる。
「いや、言いたくないならそれで構わないんだ。でも他の弟達もいるし、あまりそういう事を大きな声で言うのはやめたほうがいいな」
ボクは何を言われているか理解できず、キョトンとした表情でフィリオの顔を見つめてしまう。
そして、フィリオが何を言いたいのか気がついた時には、嬉しかった気持ちは一変に冷めてしまった。「嘘を付くな」、そう言われた事が分かったからだ。
ボクは正直に話したのに嘘つき呼ばわりされ、裏切られたという気持ちが大きくなる。
その後は言い合いになり、最後には「フィリオはボクを嫉んでいるんだろ!」なんて心にも無いことを言ってしまった。
その時のフィリオの悲しそうな表情は今でも忘れられない。
次回はフィリオとの喧嘩の後の話です。