ソーマ
最初は二人のアドバイスに従い、自分なりに色々と試してみた。
「魂からソーマへ、そして一気に拡げる……」
身体の深部でファルナが拡張するのが感じられる。
そしてファルナをソーマへと移動すると、霧散して身体に吸収されているのが感じられる。
「むぅ……もう一度……」
しかし何度試しても同じ結果である。しかも、ファルナを消耗が激しいようで精神的な疲労感が凄い。
何度か繰り返した後には、何か寒いような感覚と冷や汗が止まらない。
1日に20回ほど失敗すると、気を失う寸前といった感じだ。
『はじめは何事も挑戦です。しかし無理をすれば命に関わりますので注意してください』
お、おう……
死ぬのは困る……
色々と試行錯誤の日々が続く。
次に試したのは魂の一部から、ファルナをゆっくりと少しずつソーマに流し込む方法。
しかし、この場合では留めるよりもソーマの拡散される速度の方が早い。流し込むそばから拡散してしまった。
シロもクロもアドバイスをしてくれたが、具体的な詳しい方法は教えてくれなかった。
クロからは笑い声が聞こえてくるくらいである。
シロからは『自分のやり方を見つけなければ意味がありません』と言われた。とにかく自分で試行錯誤するしか無いようである。
半年ほど経過した頃、どうにか自分なりにファルナを安定することが出来た。
魂からゆっくりと膨張させる様にファルナを引き出し、中心縦軸に棒があるのをイメージして回転させて安定させる。お祭りで見た綿アメを作るのに似ているかもしれない。
引出しと回転を同時に行う事で、少量ながらもファルナの移動が可能になったのである。
しかし、ここでまた問題発生。
回転して安定しているはずのファルナが、拡散するわけでもなく次第に小さくなってしまう。
そんな状態がしばらく続き、何が悪いのか分からず、完全に行き詰ってしまった。
ファルナの引き出す方法に問題が……?
あるいは流れを持たせる事自体、間違っていたのだろうか?
そうなると最初から考え直さないといけないのだが……
え……?
半年の苦労が水の泡……?
『間違った方向に進もうとしていたら、私が止めていますよ』
シロさんのアドバイス!
思わずさん付けしてしまう位、ありがたいお言葉でございます。
しかしそうなると……
自分の鍛練が足りないだけなのだろうか?
『流れを持って安定したファルナが、拡散や吸収される事はそうありません。おそらく……』
【シロの教え方が悪いんだろな】
余計な事を……
これは始まりそうだな……
『相変わらず失礼ですね……アナタこそ、あんな適当な教え方をしておいて良くそんな事を……』
【ワシは感覚的に馬鹿でも分かるように教えているのだ。小難しい言い方で分かりにくいオマエよりはマシだと思うがな】
あ……ちょっとショック。
ボクって馬鹿だと思われてるのかな……
『何を言うのです。少し覚えが悪いですが、何度か説明すれば理解しているではありませんか』
ぐっ……さらにショック。
フォローしているようだけど……
クロの言葉より遥かに攻撃力が高い……
「え、えっとさ。おそらくって……何か原因があるの?」
黙っているといつまでも続いてしまいそうなので、間にはいってシロが良いかけたことを質問する。
何より今止めなければ違う理由で挫けてしまいそうだから……
『それはファルナが……』
【混合したファルナの相反作用だろうな】
『……』
シロの無言が恐い。
うん、シロの言いたい事は非常に良くわかります。
良くわかるけど今は触れないでおきます……
それにしても混合したファルナとは?
当然ではあるが今までにそんな言葉は聞いたことが無い。
まあ二人の話は大抵聞いた事がない内容ばかりなのだけど。
『混合ファルナとは二種以上の性質のファルナを持つ事を言います』
ファルナが複数の性質を持つこと自体、もちろん初耳である。
シロ曰く、異なる性質であっても、相性が良い場合には問題は無く、むしろファルナの質が向上したり、使える魔法の種類の幅が広がるそうだ。
しかしながら相性が悪い場合が問題である。
この場合でも勿論使える魔法の範囲は広がる。
しかし問題はファルナ同士で打ち消しあうそうだ。
悲しいかな……ボクは後者のようである……
【まあ悲観することはないのだぞ? 混ざり合う前に留めるだけの話だ。むしろそれが出来れば使える魔法は格段に拡がるだろう。】
ホホウ……?
クロからの前向きなアドバイスとは珍しい……
でもそうか。打ち消されるのは回転して混ざる時。
なら早い段階で安定して留めれば、打ち消されることも無い。
もっと前向きに考るなら、色んな種類の魔法に適性があるかもしれないぞと、そう考えればいい訳ですね。
【クックックッ、打ち消し合うファルナを留めるのは苦労するだろうなぁ】
ああ、この人は面白がってるだけですね。
『大丈夫です。ワタシが付いています』
シロさんは本当にお優しい。
少し涙が出そうになりましたよ……
多少のトラブルはあったが、4ヶ月経過したときにはソーマ全体にファルナを留める事ができるようになった。
魂の中心からファルナをゆっくりと回転させながら膨張させる、ソーマ全体に充満したら、即座に流れを止めて留める。ソーマがファルナで完全に満たされていることが感じられる。
『よく頑張りました。集中に至るまではもう少しですよ』
もう少しか……
いつもながらシロさんの言葉は本当に励ましになります。
【そうだな、後3年もあれば表面に出せるようになるだろう】
3年か……
うん、毎度の事だけど、クロの言葉は的確にボクをガッカリさせる。
【クックック……】
クロの笑い声がボクの頭の中に鳴り響く。
完全にボクの反応を楽しんでいる様子だ。
いやでも決して遅いわけじゃないんだよ?
あのフィリオと同じ位の期間で取得できるんだから。
そう考えると一人で取得したフィリオは本当に凄いんだなぁって今更ながらに実感しました。
でも「もう少し」がね……
今まで3倍の期間ってねぇ……
『クロ、あなたと言う人は……そんな事はありません。今の成長なら1年くらいかと思いますよ』
1年かー!
それはかなり早いね!
【オイオイ、それは甘いのではないのか? ワシはポコの為を思って長めに言ったつもりだぞ?】
あ、うん……
こんなにも信じられない「ボクの為」って言葉は初めて聞いたよ。
【1年で取得できなければ……まあ、それはそれで良いかもしれんがな】
うん、そうだよね。
ボクが悲しむかもしれないけど……
クロは面白ければいいんだものね……
まあ二人の性格を考えるなら……
いまの調子なら2年かかることは無いって位が打倒なところかな。
とにかく次の段階に進めるのは間違いない。
さあさあ!
この後はファルナを身体の外に出す練習だよね!
……と思ったが、どうやら違うらしいです。
その前に、普段の生活の中でもファルナを留める事が必要だと言われてしまった。
最初は歩くだけでファルナが身体へ吸収される。
頭がこんがらがる様な感覚に見回れ、非常に苦労することになった。
例えるのであれば、本を読むのに集中しながら歩くようなもの。
良くドアや机にぶつかり、クロの笑い声が聞こえていた。
生活に困らない動作が出来るまでにも、かなりの期間が必要であったが、それが出来るようになった頃、シロから毛色の違うアドバイスを貰う。
『教会の手伝いやチョコと遊びながら、と言うのはいかがですか?』
あー、なるほどー。
確かに最近は修練ばかりで全然チョコの相手をしていない。教会の手伝いも食事の準備くらいである。
何をしている間であろうと修練になるなら一石二鳥、流石シロさんのアドバイスである。
そんな訳で約一年ぶりに普段の生活に戻ることになり、日常生活の中で修練を行うようになった。
チョコは嬉しそうであり、シスター・マリアも「助かるわ」と笑顔で喜んでくれた。
教会の手伝いをしながらファルナを保つのは、歩いているのとそこまで変わらない。
比較的簡単にこなせる様になり、掃除や洗濯をしながらでも問題は見られなかった。
余裕かと思いきや、そう簡単にはいかない。
「ねえ! ポコ兄ってば! 聞いてるの?」
「え? ああ、ごめんごめん……」
非常に難しかったのが、チョコと遊びながらである。
教会の手伝いは難しいことは考えずに行えたが、相手がいるという事は物事を考えなくてはならない。
話を聞いていないことを何度チョコに怒られたか分からない。
そんな事がありながらも半年ほどで経過すると、日常生活の中でもファルナを保つ事が出来るようになったのである。
因みにチョコから後で聞いた話なのだが……
「ポコ兄が遊んでくれるけど、何だかボンヤリしてるの」
そうシスター・マリアに伝えたそうだ。
「きっとね……一年頑張って、どれだけ難しい事なのか分かったの。ショックを受けてるから、そんな時はそっとしてあげるのよ?」
シスター・マリアは、そんな事を言っていたらしい……
なんだか色々な感情がわいてくる悲しい気遣いである……