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VS サイジェンス

どうにか一週間以内にっ!


少し残酷な描写が含まれていますので、苦手な方は遠慮していただけますようお願いいたします。

 本戦三日目の朝。

 皆が鍛冶屋へと集まるのが当たり前となっており、いつも通りにロイズとカレンが鍛冶屋へとやってくる。


「ラッキーボーイがサイジェンスに勝つなんて誰も思ってないだろうからな! こりゃ倍率高くなるぜ!」


 顔を出すなりロイズはそんな調子で、かなり張り切っていた。

 カレンさんがいなかったら全財産を注ぎ込んでしまいそうである。と言うか間違いないと思う。


 ルドルフもボクに賭けるらしいが、勿論ロイズとは違って控えめである。

 何気にルドルフはボクが魔法を使ったところをほとんど見たことが無い。それにサイジェンスの勝利への執念を知っているらしく、大金を賭けるのには抵抗があるそうだ。


 今日の初戦はバーミンガムの試合である。ボクも観戦する予定のため、マージェスを含めた全員で闘技場へと向かった。


「頼んだぜ!」

「頑張ってください」


 皆とはカジノの入口前で別れ、ボクは参加者入口へと足を向ける。

 周囲からの視線を感じるが、本選出場者ともなれば知名度もそれなりなのだろう。

 素顔じゃなくて本当に良かったとしみじみと思う。


「おやおや? その仮面はラッキーボーイのコロネルさんじゃないですかぁ?」


 闘士風の男が、あからさまに進路をふさぐ様にボクの正面に立ちはだかる。


「えーと……どちら様でしょう?」

「あー……流石に予選で敗退した人の事はおぼえてないですかねぇ……」


 頭をポリポリと掻きながらそんなことを言っている。

 どっかで見た様な気もするが、注目していなければ基本覚えていない。

 でも、どこで見たのか少し考えていると、後ろから別の男の声が聞こえてくる。


「おいおい、冷たいじゃないか!」


 後ろから声をかけてきた別の男は、馴れ馴れしくボクの首に腕をかけ、もたれかかるかのような姿勢を取る。


「ホラ、予選の終わりに入場口で会ったろう?」


 その言葉でなんとなく思い出した。

 おそらく予選が終わった時にサイジェンスの後ろにいた二人だ。


「サイジェンスさんと一緒にいたお2人ですか?」

「そうそう! 思い出してくれた?」

「なんせ本戦出場選手ですからぁ。忘れられてたら話しにくかったですよぉ……」


 二人からワザとらしい反応が返ってくる。わざと挑発するようなしゃべり方をしており、少しイライラしてしまう。


「えっと……何か用事があるのでしょうか?」


 二人とも顔の前で両手を振りながら、ワザとらしい様子で「イヤイヤイヤ!」と否定する。


「用事と言う程の事じゃないんですよぉ。ただ、ホラ、次の対戦がサイジェンスさんじゃないですかぁ?」

「ええまあ……そうですけど……」

「下手に頑張られてしまっても困るわけでしてぇ……ホラ! サイジェンスさんて闘士の中でも有望株じゃないですかぁ?」


 うん?

 まあ、なんとなく話が見えてきたような気がする。


「手を抜けってことですか……?」

「イヤイヤ! そこまで言う気は無くてですね! でもほら、万が一にでもサイジェンスさんの名前に傷がつくようなことがあったらねぇ……」

「サイジェンス派の闘士達が何をしでかすか分からないと……」


 うへー!

 なに言ってんだこいつら……完全に脅しじゃないですか。

 これはボクを大した実力が無いと見て来ているのか……

 それとも毎回こんなことやっているのか……


「うーん、一応は覚えておきますね」


 本当であれば「ふざけるな!」と言いたいところであるが、ボクの性格上こんなところで揉めるのはあまり好きではない。

 胸の中がモヤモヤするが、それは一端しまい込んで無難にこの場を回避できる言葉を選択した。


「イヤー! 別に無理にとはいってないんですけどね!」

「覚えておいていただけるならぁ、それでなによりなんですよぉ」


 そう言うとボクの胸の辺りをポンポンと叩き、絡んでいた腕を外す。二人はボクから離れてニヤニヤしながら「よろしくおねがいしますねぇ」とヒラヒラと手を振って去っていった。


 取りあえず選手控室に向かうことにしたが……

 なんとも胸がモヤモヤする……


【胸糞が悪い連中だったな。あの場で消すのが世のためではないか?】


 イヤイヤ! それは少しやりすぎだと思いますよ!


 それに取り巻きAとB(仮)が胸糞悪いのは置いといて……

 問題はこれにサイジェンスが関わってるのかじゃないかな?

 命令されての行動だったら悪いのはむしろサイジェンスだし?

 まあ取り巻き達が勝手にやっているって可能性もあるけど……


『そうですね。関わっているとしたら許せません。どんな手を使ってでも絶対に確認してください』


 え……ハ、ハイ!

 シロにしては珍しく強めの言い方ですね……

 もし関わっていたらどうするんですか?


【死だな】


 イヤイヤ! ちょっとクロさんは落ち着いて!


『そうです。死んでしまっては反省できないのですよ?』


 イヤイヤ! シロさんちょっと違う!

 そういう事じゃないんですけど!


『ヒトは過ちを犯します。その過ちを繰り返さない様に反省してもらえればそれでいいです。方法はポコにお任せします』


 完全丸投げじゃないですか!!


【ヒトの性根などはそうそう変わらんぞ。いっそのこと死んで生まれ変わった方が手っ取り早いとおもうがな】


 ちょ、クロさん落ち着いてくださいな。

 まだどうなのかわからないですから!


 なんだか自分より怒っている人がいると、逆に冷静になってくる。

 とにかく二人とも相当頭に来ているようなので、1試合目を見てる場合では無くなってしまった。

 試合の開始前に確認できればいいのだが……


 1試合目の最中にサイジェンスの控室に行くが見当たらない。観戦しているかと入場口を回るがどこにも見当たらない。

 四方向の入場口は意外に遠く、見回るうちに1試合目が終わってしまった。

 ボクは自分の試合に備えて控室に戻ることにする。


 因みに試合はもちろんバーミンガム選手の勝ち抜きである。

 ハワードさん……お疲れ様でした……


 しかしどうしたものか……

 試合が始まれば間違いなく会うことにはなるけど。


『始まる直前でも良いですし、試合が始まってからでも構いません。確認は必須事項です』


 は、はい、わかりました……


 試合の開始時刻が迫り、係りの人に従って入場口へと案内される。

 サイジェンスは反対側にいるのであろうがこの距離ではどうしようもない。

 始まる直前、定位置に着いた時に確認するしかない様である。



「お待たせ致しました! これより本日の第2試合をはじめさせていただきます」


 本戦三日目ともなると、いままでよりも大きな歓声が起こる。

 観客席も上の方までギッシリと埋まっているようだった。


「まず入場するのはこの男!! こいつの運はどこまで通用するのか! いまだかつて攻撃をせずに勝ち抜く選手がいただろうか!? いや私の記憶では誰もいない! 至上のラッキーボーイ! コーローネールー!!」


 うん……

 完全に運だけになってるね……


「そして対するのは! 闘技場のトップランカー! 実力もトップクラスだが~その甘いマスクもトップクラス! 数多の女性ファンを持つ男! 皆さんご存知~、ガル・サイジェンスー!!」


 ボクのときとは違い、黄色い声援が巻き起こる。

 髪をかきあげ、満面の笑顔で観客に手を振りながらサイジェンスが入場してくる。


 うーん……あんな笑顔で声援に応えてるけと……

 もし裏で対戦相手に脅しをかけていたとなると、心底腐っているとしか思えないよね……


「よろしく頼むよ、ラッキーボーイ君」


 サイジェンスが中央の立ち位置にまで来るが、見た感じではまったく不自然さをな感じさせない。

 正直に答えてくれるとは思えないが……とにかく聞いて反応を見てみるしかないだろう。


「あの……前にサイジェンスさんと一緒にいた二人が、試合前にボクを脅してきた事をご存知ですか?」

「脅し? 君に負けるようにでも言ってきたのかい?」


 本当に知らないという感じの様子で、眉間にシワを寄せて少し首をかしげるようにしていた。


「そんな事より戦う準備はいいのかな? そろそろ銅鑼の音が鳴ると思うよ?」


 意外ではあるが随分と紳士的な対応である。

 二人の取り巻きが勝手に起こした行動だったのだろうか?


 気を取り直してローブの中から本を取り出して準備をする。

 しかし、本を手にとって初めて異変に気が付いた。


 ボクが購入した鍵付きの本ではない。

 なんの変哲もないノートにすげ変わっていたのである。


「プッ! おやおや? キミが前に持っていた魔法書とは違うようだね。もしかして間違えて持ってきてしまったのかい?」


 ボクの手の中のノートを見て、いやらしい笑いを浮かべながら言葉を並べる。


「サイジェンス……アンタまさか……」

「脅しの事は本当に知らないよ? ワタシは魔法書を盗めと言っただけだからね」


 ドドーン!!


 その言葉が終わると同時に大きな銅鑼の音が鳴り響く。

 あまり怒らないボクであるが、流石に頭に血が上るのがわかる。

 即座に《アクセル》《デリートマジック》と唱えて準備する。


「おや? 補助魔法は他の魔法具だったのかな!」


 サイジェンスも盾にファルナを込め、身体向上の補助魔法を使用し、剣と盾を構えて突進してきた。


『有罪ですね』

【ああ、久々にクズを見たな】


 二人も相当怒っている。

 しかしそれはボクも同様である。

 それ相応の対応はさせてもらう。


 受けて立つように直進し、激突する直前まで接近すると、本気の速度で加速して背後へと回り込む。


「なっ……!?」


 魔法使いが接近戦に持ち込むなど、予想だにしていなかったのだろう。サイジェンスは動きを目で追う事も出来ず、直前で見失ったボクを探して周囲を見回して焦っていた。

 おそらくは一瞬で目の前に現れたボクが、次の瞬間には消えたように感じているだろう。


 背後に回った直後、ファルナを集め[消滅・光・振動・球形]を唱える。ファルナは闇を彷彿とさせる漆黒の玉へと姿を変える。


「ガル様ー! 後ろよー!」


 サイジェンスはファンであろう女性の声を聞いて、後ろに振り替えり、酷い形相でこちらを睨んでくる。恥をかかされたことに腹を立てている様である。


 そんな様子など気にもかけず[打ち出し・対象・周囲]を唱え、サイジェンスを対象にした魔法を発動させる。


 音と光りを遮る《ダークカーテン》。


 漆黒の玉はボクの手を離れ、瞬時にサイジェンスへと向かって打ち出された。


 サイジェンスも戦闘に関する反応は流石である。

 咄嗟に盾を前に出し、魔法の進行経路を防いで防御する。

 しかし、防いだはずの黒い玉は、侵食するように盾の周囲を一気に広がり包み込んでいく。


「な、なんだこれ──」


 見たことが無い魔法に驚きの声をあげるが、それも直ぐに聞こえなくなる。

 侵食した闇は、盾を持っていたサイジェンスをも黒く染め尽くす。


 真っ黒い人型。

 色ムラも一切ない完全な黒。


 影が浮き出たような不可思議な姿であり、まるでマイオールが使っていた闇の魔法生物である。

 そんな姿となったサイジェンスを見た会場はどよめき、ファンの悲鳴が聞こえてくる。


 サイジェンスは盾にファルナを込め、何か対処しようとしているようだが何も起こらない。恐らくは状態異常に対する魔法でも仕込んであるのだろう。


 《ダークカーテン》は状態異常ではない。

 言わば光と音を通さない布を周囲に被せられたようなもの。

 もしボクが対処を考えるなら、周囲の魔法を対象に行動をおこすだろう。


 サイジェンスは脅えるように盾を強く身体に寄せ、前後左右に闇雲に剣を振り回していた。


 ボクはそんな人型に右の掌を向けて突き出し、ファルナを集めて《デリジョンボール》を唱える。


 ファルナは歪んだ透明な球体へと変化し、ボクの手と連動して動き始める。


 そのまま掌を付きだし、透明な球体をサイジェンスの近くまで動かし、両足を狙い右から左へと薙ぎ払うかのように移動させる。


 透明な球体は何の抵抗も感じずに通り過ぎる。

 しかし、その瞬間、サイジェンスの膝から下が、切り取られたように消滅する。

 サイジェンスはそのまま倒れ込み、両足を抑えるようにして転げまわる。地面には黒い染みがじわじわと広がっていた。


 武器と盾、そして両手と思われる場所へと球体を移動させ、次々と消滅させる。

 サイジェンスは前のめりに倒れ込んだ状態から反り返り、口をパクパクとさせていた。


 もしかしたら降参しているのかもしれないが、相当近くで見ないと口が動いているのもわからない。


「えー……これはどういう状況なのでしょうか……? サイジェンス選手がコロネル選手の放った黒いものに包まれており、現在、倒れているように思われますが……」


 観客席は静まり返り、女性の悲鳴や心配そうな声が聞こえる程度である。

 何が起きているか理解出来ない。いや、何となくは分かっているが信じられない光景なのだろう。


【これくらいで反省するとは思えんがな】


 確かにボクもそう思う。

 柄ではないけど、もう少し酷い目に合ってもらおう。


 《ヒールボール》を唱えて、サイジェンスの損傷を修復する。

 欠損していた部位が再生し、黒い人型は四つん這いの状態で不思議そうに両手を動かしていた。


 だが優しさを見せたわけではない。

 治したところで再び《デリジョンボール》によって両手足を消滅させる。

 手と足が無くなった黒い人型は先ほどと同じように黒い液体を飛び散らせながら地面を転げ回っていた。


 暫くその様子を見て、動きが落ち着いたあたりで《ヒールボール》を唱えて回復しておく。


 何回か繰り返し、そろそろ時間的に《ダークカーテン》の効果が切れるころではある。

 その前にボクの周りを取り巻く《デリートマジック》で黒い人型の耳の辺りを触って魔法を解除する。

 影は耳元から周囲に広がるように消えていくが、声を出せるようになる前に耳打ちする。


「しゃべらないでください。声を出せば再度繰り返します」


 全身から黒い影が消え、元の姿に戻ったサイジェンス。

 武器と盾を無くし、両手両足の装備がなくなり裸足の状態で前向きで手をついて倒れ込んでいた。

 顔は涙と鼻水で汚れており、おびえた表情でこちらを向く。


「頷くか、首をふるかで返答してください。いいですか?」


 サイジェンスはゴクリと唾を飲みこみ、コクコクと頷く。


「今までにもこんなことをしていたのですか?」


 少し考えるように間が空いたが、ボクを見て脅えるように頷く。

 戦いが始まる前の状況を考えても、一度や二度どころではないだろう。


「自分から運営に不正を報告できますか?」


 目を見開いてボクの方を見る。

 今まで卑怯な事をしてまで得てきた功績。

 それを自ら棒に振るような行為には流石に抵抗を覚えるのだろう。

 しかし、ボクが何も言わずにジッと見つめていると、観念したかのようにゆっくりと頷いた。


「こんなことはもうしないと誓えますか?」


 二度としないと言わんばかりに、コクコクと何度も頷いていた。


 シロさん、このくらいでよろしいのでしょうか?


『十分だと思います。これで反省しなければ更生の余地はないでしょう』

【繰り返した時にはそれこそ生まれ変わって新たな人生を歩んで貰うしかないだろうな】


 お二人からのお許しが出た様です。

 良かったね!


「わかりました。信じましょう。もうしゃべってもいいですよ」


 そう囁いてサイジェンスから離れる。


「まだやりますか?」

「……降参……です」


 小さくではあるがそう呟く。

 司会にまでは聞こえていなかったようであるが、ボクが司会の方に視線を移すと場外から近づいてくる。

 状況からサイジェンスが降参したのだと感じ取ったのであろう。

 サイジェンスに確認を取り大きな声をあげた。


「本戦3日目第2試合の結果はー! サイジェンス選手の降参によりコロネル選手の勝利です!」


 いつもであれば歓声が沸くはずの観客席はむしろ静かなくらいであり、所々でどよめきが上がっている様子であった。


「だれが予想したでしょうか! 圧倒的に有利だと思われたサイジェンス選手がコロネル選手になすすべもなく敗北しました!」


 司会の言葉を背に受けながら入場口へと戻るが、サイジェンスにはすれ違いざまに注意しておいた。


「また確認しに来ますからね」


 サイジェンスは地面に手をついたまま、一瞬硬直したような反応を見せていた。


 会場を後にして控室へと戻ると、力が抜けたかのようにイスに座りこんでしまう。体力的には問題ないが、精神的な疲れがどっと出た感じだ。


『慣れないことをさせてしまいましたね。ご苦労様でした』


 まあサイジェンスは自業自得だし、ボクも頭にきていたので仕方ない。

 後は自分のやってきたことを世間に公表してもらえば、この件は終わりでいいんじゃないだろうか。


 少し気分が落ち着いたところで、控え室を後にする。

 今日の試合はこれで終わりなので、皆も会場の外で待ってくれているだろう。

 先程の試合を見た後で、どう接してくれるのかは気になるけれど……


 控え室から受付へと続く通路の途中、人がポツンと立っているのが目にはいる。


 黒いとんがり帽子と黒いローブ。

 全身を黒で統一した小さな老人が。

 一目見てわかるその風貌。

 優勝候補の一人、キュド・マイオールである。


 眉毛で目が隠れており、どこを見ているのかは分からない。ただ顔全体はボクの方を向いているような気もする。


 軽く会釈をして横を通り抜けようとしたが、その前に声をかけられる。


「アナタ様は一体何者ですじゃ?」


 足を止めてマイオールの方を見ると、片方の眉を上げた状態でこちらの方をじっと見ている。


「何者と言われましても……」


 想定していなかった質問をされて戸惑ってしまう。

 少し考えていると、先にマイオールが口を開く。


「ふむ……話せないということですかな……」


 吊り上げていた眉が下がり、残念そうに肩を落とす。


 え……? そうとるの?

 いや別に話してもいいけど……


 正直に話すのなら「片田舎の教会で育った孤児で、これから学園に魔法を学びに行くところです」になってしまう。

 だが明らかにそんな答えを求めている様には思えない。


「いえ……そう言うわけでは……」

「言わずとも分かりますじゃ。顔や身分を隠してはいますが、さぞご高名な魔法使い……いや、人ではないのかもしれませんな……」


 え……なに言い出したのこの人。

 話を聞くきもなさそうなんですが……


 マイオールは一人でうなずきながら話を続ける。


「ワシも長年この大会に出続けたかいがありましたですじゃ……是非とも付き従うことをお許しいただければ……」


 突然ボクの手を掴むと、両膝をついて懇願される。


 何でこんな話に……?

 こちらとこれから魔法の勉強するところなのに……


「何か勘違いしてるようですけど。ボクは学園へと魔法を学びに行く途中でして、人を従えるとかそういうことは……」

「勘違い……? 学園に……?」


 ボクの言葉の意味を考えているようであったが、何かに気がついたかのように顔を上げる。


「なるほど、人の魔法教育に興味があるという訳ですな……」


 それはボクが人じゃない前提になってます。

 何を言い出すのやら……


「いえボクは人間で……」

「ヒトのふりをして入学するのに、ヒトを従えるわけにはいかない。そう言うことですじゃな」


 あ、ダメだ。

 なんにも聞かないタイプの人だ。


 マイオールは下を向いて何かブツブツと言っている。


「学園……なら……アレアドル……暫くは……」


 自分の世界に入りこんでいるのか、頭の中でいろいろと考えているのか……何かを決めた様にパッと顔をあげる。


「で、では卒業までの間は迷惑はかけぬように学園の近くで生活を送ることにしますじゃ! 何かありましたら声をかけてくだされ!!」


 あ、あれ……?

 なんかおかしい……

 ついてこないでって話にするはずなのに、なんでか学園の近くで生活するって……


【銀鈴の時と同じ失敗を繰り返しおって……オマエは何をやっとるか!!】


 す、すいません!

 今後は本当に気を付けます……


 でもまあ直接ついてくるわけではないし、迷惑をかけないと言っているのであれば大丈夫じゃないかな? ボクとしては楽しい学園生活を送れるのであれば問題無いわけで。


 会釈をして、今度こそ外に向かおうとするが、まだ話はあるようで呼び止められる。


「あ、あの、せめて本当の名前を……それとお顔を見せてはもらえんでしょうか?」


 名前と顔……

 もともと学園の関係者に知られるのが嫌だっただけなので特に問題は無い。


『むしろ頼みを聞いて、しっかりと話をしておいた方が良いのではないですか?』


 確かにシロの言うとおり。

 その代わり学園生活の邪魔はしないことを約束してもらうのが良さそうである。


「わかりました。でも学園でボクの噂が立つような事はしないと約束してくださいね」

「オオォォ! もちろんですじゃ!」


 マイオールは両膝をついたまま両手をあげてワナワナとしている。


「そ、そんな大げさな反応は止めてください……さあ立ち上がって……」


 マイオールを立たせるように促し、手を掴んで立ち上がらせる。

 マイオールの膝の埃を払い、周りに人がいないことを確認してからフードと仮面を外す。


「ポコ・コロネルと言います。先ほどから何か勘違いしているようですが、本当にただの人間です」

「お……おおぉぉ……! ヒト、本当に……その若さで……その領域に……」


 マイオールは感極まった様に声を出し、涙をボロボロと流す。


 まさか泣き出すとは……

 ナニコレ、一体どうすればいいのか……

 なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。


『また会う事もあるのでしょう。今はやさしい言葉をかけてあげてください』


 やさしい言葉と言われましても……

 人生の大先輩になんて声をかければいいのやら。


「あ、あの……またお会いした時には、よろしくお願いしますね」


 軽いお辞儀をしてそのまま出口の方へと向かう。


「オオォォ……!」


 後ろの方からマイオールの嗚咽が聞こえており、振り返ると両手を合わせて拝まれていた。


 いったいボクをなんだと思っているのだろうか……

 今度ゆっくり話せる機会があれば、誤解を解かなければいけない。


 そのまま出口へと向かうが、外がいつもより騒がしい。

 かなりの人だかりができているようで、係の人が誘導していた。


 周囲を見回すとルドルフがこちらに向かって手招きしており、人だかりを掻き分けて何とか合流し、落ち着いたところへと移動する。


 少し離れたところに赤雷と銀鈴がいるのが見え、銀鈴はボクに気が付くとすぐさま駆け寄ってくる。


「さすがはポコじゃ! これは是が非でも妾の元に来てもらうしかないのぅ!」


 ボクの両肩をガッシリと掴み、嬉しそうに笑みを浮かべる。


 オウフ……勘弁してくださいよ……

 マイオールさんに続いて、今度は銀鈴さんですか……


「う~ん! 圧倒的じゃったのぅ。ポコの実力を知って観客どもが静まり返っておったわ! 妾のポコを見くびっておったからじゃ!実に爽快じゃったぞ!」


 銀鈴さんのものになった覚えはございません。


「姫様落ち着いてください。ポコも疲れているでしょうから」

「む? そうかのう?」


 赤雷の言葉のお陰か、銀鈴は肩を掴んでいた手を放してくれた。


「しかし本戦ともなると出待ちが多くて困るな。仮面を外してたのは正解だとおもうぞ」


 ルドルフが人だかりを見ながら、そんなことを言っていた。

 マイオールとのやり取りで仮面を外しただけなのだが、どうやらそれが幸いしたようだ。

 しかし、そうなるとボクにも出待ちするほどのファンが出来たと言う事だろうか?


「オイオイ、サイジェンスのファンに何かされるかもしれないって意味だぞ」


 ロイズがボクの考えを見透かしたかのようにニヤニヤしながらそんなことを言ってくる。


「もうっ! そんな人もいるかもしれませんが、ポコのファンもいると思いますよ」

「とにかくよくやったぜポコ!今回も十分に稼がせてもらったぞ!」


 カレンの言葉も虚しく、ロイズは儲けのことで頭がいっぱいのようである。

 カレンからはいつも通りの冷ややかな目で見られているが、ボクとしてはロイズが喜んでくれているならば悪い気はしない。


「しかしポコよ。一体何があったのだ? お前らしくもない様子だったが」

「ええ……まあちょっと。話すと少し長いのですが……」


 赤雷は試合でのボクの様子に気がついていたようである。

 あの時のサイジェンスを思い出すと、今でも少し腹が立ってしまう。

 もう済んだことではあるが……


「よし! 何か色々とありそうだし、祝勝会でもやりながら話を聞こうや!」


 ロイズがボク達の話を聞いてそう言いだした。


「もちろん、俺のおごりだ!」


 この様子だとロイズは明日も二日酔いで間違いなさそうである。



次回は…どうしようか…ちょっと考え中です。

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