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出場者

どうにか1週間以内には…(・ω・`)

「うわっ! すごい人ですね……」

「そりゃあ、セントリアの目玉だからな」


 カジノに入って最初に出た一言は感嘆の声。見渡す限りの人だかり。

 驚いたのは人の数だけでなく、その内装にも目を奪われる。所々に置かれた金色の像に、ゴテゴテと飾り付けてある豪華なシャンデリア。足元には土足で乗るのが躊躇われるフカフカとした絨毯がひかれている。

 これまで訪れた施設の中で、間違いなく一番豪華な建物である。


 目の前には通路はホールのように広く、反対側の出入口まで続いる。壁には沢山の窓口が設置されており、どこも途切れることなく人が並んでいた。


「その窓口が賭け札の購入場所だな」


 ロイズが中央に向かって歩きながら説明してくれる。

 それだけ闘技場でのギャンブルを楽しむ人が多いのだろう。


「反対側はカードやサイコロなんかで賭けが行われてる場所だ」


 窓口の逆側は壁で仕切られているが、ロイズが指差した中央付近にだけ豪華な装飾をされた大きな入口が設置されていた。


「今は闘神祭が近いから人も少ないだろうけどな」


 そのまま中央まで進むとひときわ大きな人だかりが出来ていた。掲示板に闘神祭の出場者の情報が貼り出されているようだ。


【さあどうだ! どれ程の強者が集まっておる!】


 ちょっとクロさん、興奮しすぎ。


 最初に目に入るのが1番と書かれた出場者情報で、番号に従って順番に貼り出されていた。


「1番は去年の優勝者だな。シードだから予選には出てこないぞ」


 ーーーーーーーーーー

 第22回 闘神祭 出場者

 登録番号:1

 名前:ザウス・バーミンガム

 年齢:48歳

 性別:男

 出身:アルドリア大陸・アレアドル王国

 所属:セントリア闘技場

 経歴:闘士歴23年 575戦482勝93敗(勝率84%)

 得意分野:槍術・盾術

 ライセンス:無し

 コメント:油断こそ最大の敵。常に挑戦者の心構えで健闘したい。

 特記事項:闘技場年間最多勝利者、闘神祭第17回優勝・第18回準決勝進出・第19回優勝・第20回準優勝・第21回優勝

 ーーーーーーーーーー



 うはー! 三回も優勝してるのか。


『闘技場歴も長いようですね。勝率から見ても相当強いのでしょう』

【槍に盾といかにも闘士と言ったスタイルだが、それだけではなさそうだな】


 どんな戦い方をするのか非常に興味深いところである。


「ロイズさんはこの人の闘い方を知ってたりします?」

「ん? ああ、昨年も見に来てるからな。それに1週間に1回は闘技場に出てるらしいから大体の人が知っていると思うぜ?」


 なるほどー。

 でも皆が知っているのにあの勝率ってことは、対策しても勝てないってことなのかな。


【フム、闘う前に一度見ておきたいな】


 オフッ!?

 闘うことが決まってるんですか?


「パッと思い出せるとしたら……槍に風を纏って相手を吹き飛ばしていたのとか……盾でどんな攻撃も防いでいたとか……」

「へー、なんだかすごそうですね」


 戦闘技術も高くて、魔法も使えて、魔法の対抗策もバッチリ。

 となると大抵の人では太刀打ちできないよねぇ……


『少し解釈が違うと思います。話の感じでは戦技(センギ)を駆使した闘い方なのだと』


 戦技(センギ)? 魔法を使っている訳じゃなくて?


『いえ、ファルナを使用して真名にて変換していますので根本は魔法と同じです。ただしこの場合は使用する武器等の性質に合わした構築がされており、武器の攻撃効果を上乗せするように発動します』


 う、うん? 何となくはわかったような……


【簡単に言うとだな、武器に魔法を纏わせて使えば戦技(センギ)と言っているだけだ】


 ああ、なるほど。

 なんとなく理解できた気がする。


【その場合だと武器自体に真名が組み込まれている場合が多いな】


 そりゃ両手に武器と盾を持ってて魔法書なんて扱えないものね。

 でもそうなると……参加者のほとんどが魔法か戦技を使えるって考えた方がいいのかな。


【うむ、そうであろう。戦闘技術に長けたものはファルナを利用するのが当然だからな】


 そうなると……

 戦技に関しても対策を練らないといけないんじゃ……


『いえ、戦技で起こる現象も呼び方が違うだけで魔法です。対策は魔法と同じに考えれば平気です』


 それなら安心、後3日しかないのに急いで対策を考えなければいけないのかと少し焦ってしまった。


 安心したところで1番から2番、3番と順々に情報を見ていく。

 10番までの参加者情報を閲覧して気がついたのは、今のところ闘士を経歴に持った人しか見当たらないこと。

 一般参加者というのはほとんどいないのだろうか?


「参加しているのは闘士の人が殆どなんですか?」

「いや? ああ、参加登録が始まってすぐに登録するのが闘士なだけだな、後半はそんなことないぞ」


 ロイズに言われて納得する。遠くからくる人の方が登録が遅くなるは当前である。

 そのまま闘士の経歴を持つ参加者情報を見ていくが、大体の人の勝率は5~6割程度。1番のバーミンガムより凄い人は見当たらないように思える。


【先程の人間より見劣りする奴ばかりだな。しいて言えば8番が少し気になるくらいか】


 ボクもそのあたりの番号で、若いのに凄いなと思った覚えがある。もう一度見直してみた。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:8

 名前:ガル・サイジェンス

 年齢:34歳

 性別:男

 出身:ペルセリオン王国

 所属:セントリア闘技場

 経歴:闘士歴8年 208戦156勝42敗(勝率75%)

 得意分野:剣術・盾術

 ライセンス:冒険者B級ライセンス

 コメント:対戦者に容赦など無用、蹴散らすのみ。応援してくれる皆の声援に答えよう。

 特記事項:闘技場年間勝利数第2位・闘神祭第17・19・20回本戦出場・第18・21回準決勝進出

 ーーーーーーーーーー


 闘士歴が短いわりに中々の勝率をあげており、先ほどのバーミンガムと比べても遜色ない。

 貼り出されている情報からでも、将来を有望視されていることが予測ができる。


【剣に盾か……こっちも闘士に良く見られる戦闘スタイルだな】

『コメントがあまり好きになれませんが、実力は備わっている様に思えますね』


 たしかに随分と自信ありげで、ナルシストっぽいコメントではあるが……

 それなりの実力を備えているからこそ書けるのだろう。


 他にも本戦出場経験のある人はちらほらと見られたが、特に目を引いた闘士はこの二人くらいだった。

 登録番号20番代後半くらいからは闘士以外の参加者も見られ、32番に差し掛かって目が留まる。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:32

 名前:ナーバス・ハワード

 年齢:32歳

 性別:男

 出身:ゼドピア大陸・ガイゼル王国

 所属:ガイゼル王国親衛隊

 経歴:親衛隊歴12年

 得意分野:拳闘術

 ライセンス:冒険者A級ライセンス

 コメント:ガイゼル拳闘術を広めるため参加している。興味が湧いたらセントリア支部にきてくれ!

 特記事項:ガイゼル王国軍内拳闘大会3連覇・第19回準決勝進出・第20回優勝・第21回準優勝

 ーーーーーーーーーー


 一昨年の優勝者の様で、去年は準優勝となっている。

 1番のバーミンガムの特記事項を見比べてみると、前回と前々回は決勝戦で二人が戦っている様である。


【1番の奴と決勝での勝敗が1勝1敗か】


 この人も比較的若いのにかなりの実力者のようだ。

 拳闘術って言うからには拳を用いた戦闘方法なのだろうけど……

 優勝する程となるといったいどれだけのものなのだろうか?


『ゼドピア大陸はもともと体術を得意とした者が多いです。獣人やその混血も多いですし、戦闘方法だけでなく身体能力自体もかなり高いのだと思いますよ』


 へー、そうなのか。

 種族の項目が無いからわからないけど、もしかしたら獣人なんて事もありうるのかな?


【是非とも戦いを観てみたいものだな。38番は覚えておこう】


 え? それってボクが観に行かなくちゃいけないってことじゃない?


【当前であろう?】


 お、おう。

 当たり前なのか……


 さらに参加者を見ていき、次に目に留まったのは35番である。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:35

 名前:ステラ・シェフィール

 年齢:66歳

 性別:女

 出身:シールーン諸国

 所属:魔術研究所所属

 経歴:研究所所属45年(引退・退職)

 得意分野:魔法

 ライセンス:冒険者A級ライセンス、魔術師S級ライセンス

 コメント:魔法の真髄を若い人に知ってもらいたい。

 特記事項:初出場、シールーン魔術研究所元所長

 ーーーーーーーーーー


 ふへー! 66歳で初出場か!

 魔術研究所なんて場所の所長さんをやってたとなると、かなりの実力者であるのは間違いないんだろうね。っと、魔術師ライセンスってのは何だろう? こんど調べてみようかな。


『どれだけの魔法を使いこなせるのか興味深いところですね。もし戦いが見れるなら見てみたいところです』


 えっ? それって35番の試合も観に行かなきゃってことかな?


『お願いできませんか……?』


 い、いや。シロにそう言われたら断れませんけど……

 こうなると結局全部の試合を観ることになるんじゃなかろうか……


「あれ? そう言えば観戦ってお金かかるんですか?」

「そりゃもちろんだ。まあ特等席以外は安いから気にするほどじゃないけどな」


 ロイズの言葉を聞いて少しホッとする。

 まあ観戦料とるよりも、安価で観戦させて賭事で儲ける算段なのかもしれないけど。


 続けて先を見ていくと、ちょっと気になる情報が目にはいる。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:39

 名前:ボルト・ハンガー

 年齢:29歳

 性別:男

 出身:アルドリア大陸・アレアドル王国

 所属:無し

 経歴:冒険者歴13年

 得意分野:斧術

 ライセンス:冒険者B級ライセンス

 コメント:目標は本戦を勝ち抜くこと!

 特記事項:闘神祭第12~21回出場、第17・19回本戦出場

 ーーーーーーーーーー


 うほー!

 結構前から毎年出場しているみたいだ。

 今年で11回目って……18歳の時からでてるのか……

 最近になってようやく本戦に出れる様になってきたようだ。

 なんだか頑張ってほしいと応援したくなる。

 個人的に39番のボルト・ハンガーを覚えておこう。


【ポコも物好きだな。そんな奴を見ても参考にはならんぞ】


 いえ、参考というより……

 ただ応援したいと思っただけです!



 次に目に留まったのは44番。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:44

 名前:クラン・クラリオス

 年齢:40歳

 性別:男

 出身:ウィンザルド大陸・ファーレーン王国

 所属:ファーレーン魔法騎士団所属

 経歴:騎士団所属10年(現職)・ファーレーン魔法学園10年(退職)

 得意分野:魔法・剣術

 ギルドランク:無し

 コメント:ファーレーン王国の優秀さを広める為、任務として出場させてもらう。

 特記事項:初出場・ファーレーン魔法騎士団 第二部隊 隊長

 ーーーーーーーーーー


 ファーレーン王国の魔法学園で魔法を教えていたようだ。

 しかも教えていたのは20代のようで……そうなると魔法はかなり得意なのではないかと感じられる。


【フム、武器と魔法どっちつかずじゃなければいいがな】


 なかなか厳しめのお言葉のようで……


『バランス良く両方を使いこなしているかもしれませんね』


 ボクもそっちの線を考えて目が留まったのだけど……

 実際どうなのかは見てみないと何とも言えないところだなぁ。




 そのまま次に視線を移す。


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:45

 名前:キュド・マイオール

 年齢:72歳

 性別:男

 出身:アレアドル大陸北部・暗黒の森

 所属:無し

 経歴:冒険者歴52年

 得意分野:魔法

 ライセンス:冒険者S級ライセンス、魔術師元S級ライセンス(剥奪)

 コメント:今年も楽しませてもらいたい。

 特記事項:闘神祭第1回~21回出場・第18回優勝(過去6回優勝経験あり)・全大会本戦出場・失格一回、等

 ーーーーーーーーーー


 ワオ! 1番の人より経験豊富ですよ!

 と言うか72歳って大丈夫なの……?

 うわぁ、一回も欠かさずに出場してるよ……

 なんか特記事項も省略されちゃってるし、怪しげな内容も多いような……


【相当の実力者なのは間違いないな。近年だと1番と32番の二人にやられているようだが……】

『優勝候補の一角であるのは間違いありませんね。これは試合を見逃せませんね』

【ウム、ポコよ。45番も観に行くぞ】


 お、おう。

 二人からそう言われたら、ボクに断る権利は無いですね……

 まあボクも見たいと思うので問題ないけど。


 んー、この先には特に目ぼしい選手はいないようだけど……

 しいて言えば違う意味で気になる出場者が……


 ーーーーーーーーーー

 登録番号:48

 名前:べリール・ブルオンテ

 年齢:18歳

 性別:女

 出身:アルドリア大陸・アレアドル王国

 所属:無し

 経歴:無し

 得意分野:魔法

 ライセンス:冒険者D級ライセンス

 コメント:お父様に認めて頂きます。

 特記事項:初出場・ブルオンテ伯爵令嬢

 ーーーーーーーーーー


 お父様に認めて貰うって……

 そんな理由で出場して大丈夫なのだろうか。

 伯爵令嬢がこんなところで命を失ったら、それこそ問題になるんじゃないのかな。


【ククク、ポコはさらに違う意味でも気になるんじゃないのか?】


 ムムム? まあ言いたい事は何となくわかる。

 貴族の娘さんなんて見たことないからね……


『貴族の令嬢だからと言っても、美しいと決まったわけではありませんよ?』


 !? ピンポイントに考えていたことを読まれたか!

 確かに……それとこれとは別の話だよね……

 まあ48番は気になることは気になるけど、心配の意味で気になるって感じだ。



 ざっと見た感じこんなところである。


「ロイズさんは、バーミンガムさんの他には目してる人なんているんですか?」

「そりゃまあ32番のハワードに、45番のマイオールの試合は必見だろうな」

「やっぱりそうですよね。試合が決まったら一緒に観に行きますか?」


 ロイズはキョトンとした顔でこちらを見る。

 少し呆れた表情でため息をついていた。


「オイオイ……自分が出場すること忘れてんじゃないだろうな。そいつらと戦う可能性は十分あるんだぜ?」


 ボクは間を置いてからハッとする。


 そうだった!

 いや、決して参加することを忘れていたわけでは……

 シロとクロに観に行くと言われて、すっかりその気になっていたけど、予選で戦う可能性が頭からすっぽりと抜けていた。


「そ、そう言えばそうですよね……」

「まったく……逆に大したもんだけどな」


 ロイズは呆れたように笑っていた。

 とにかく、これでどんな参加者がいるかは大体把握できた。

 開会式までは後三日。その間に考えていた魔法も試しておこうと思う。


 カジノを出ようとするとロイズは「ちょっとだけ遊んでくからカレンには内緒にしといてくれ」と言って通路中央の豪華な入口へと消えていった。

 ボクはカレンになんと言えばいいのか……隠せなかったらその時は諦めてもらいたい……


 ボクはカジノを後にしてルドルフのお店に向かう。

 店にはいるとルドルフと既に帰っていたカレンが話している様子だった。

 ルドルフがボクが戻ってきたことに気がついて声をかける。


「おうポコ、無事登録はすんだのかい?」

「エエ、まあ……ちょっと色々ありましたが……」

「……? 何があったのですか?」


 まずは受付の人に心配されてしまったこと。まあ、これは笑い話として話せたが問題はその後である。

 鬼人がボクを追いかけて来たこと。そのまま闘神祭に出場しようとしていることを話すと流石に二人とも驚いていた。


「鬼人が出場できるか知らないですけどね」

「亜人や獣人も大丈夫だし……街に迷惑かけなければ平気じゃないか? 普通じゃあり得ないことだが」


 ふむ、そうなると出場は大丈夫っぽいですね。

 赤雷さん、御愁傷様です。


「ところでロイズはどこにいったのですか?」


 ロイズの姿が見当たらないことに疑問を持ったカレンが、怪訝そうな表情で周囲を見渡す。


「えーと、選手の情報をみた後に用があるとか……」

「まさかアイツ……! カジノに行ったんじゃないでしょうね! あれほど才能が無いからやめろって言ったのに!」


 ロイズさんすいません……

 速攻でバレました……


「お金をもたせるんじゃなかったわ……ポコと一緒だからって油断した……」


 カレンはとブツブツと文句を言った後に、いてもたってもいられない様子。


「ああもう! ちょっと捕まえてとっちめてくる!」


 そう言うと急いで店を出ていってしまった。

 ボクとルドルフはカレンの剣幕に口も挟める訳もなく、店を出ていくまで静観しているしかなかった。


「カレンさんて結構おっかないんだな……」

「ボクは出会ったときに知ってましたけどね……」


 二人で顔を会わせて苦笑いである。




 次の日、ボクは町の外に出て考えていた魔法を試そうとしていた。

 今は街から少し離れた場所にあった開けた草原にいる。

 ネズミの一匹でもいれば試せるのだが、周辺を探しても生き物自体が中々見つからない。

 虫なんかはチョロチョロしているが、虫に魔法をかけたとしても効果の程は分からないと思う。


 ふむー、探すとなる意外に見つからないんだよね。

 さて、どうしたものか……


 ふと空を見上げると、大空を舞う鳥の姿が目に入る。

 少し距離はありそうだが、贅沢は言っていられない。


 まずは対象の意識が戻るか心配していた[消滅・意識・線形・打ち出し・対象]である。

 人差し指の先端にファルナを集中し、真名を順に唱えていく。


 え? 何で人差し指かって?

 ふふ……なんか鉄砲みたいで格好良いでしょ!


 ゆうゆうと飛んでいる鳥を指差し、対象に指定して発動する。

 指先から太い針のような魔法が、鳥をめがけて一直線に放たれる。

 目で終えるような速度ではなかったが、当たったと思われた瞬間に硬直し、そのままヒュルヒュルと落下してくる。


 あー! しまった!

 落下の衝撃で死んだらもともこもない!


【格好つけてるからだな。相変わらず抜けておる】


 う、うるさいよ!


 大急ぎで《アクセル》を唱え、落下するであろう地点へと急行する。

 走りながら《ディフェンスウォール》を鳥に向かって発動する。これで地面に追突することがあっても、命に別状は無いだろう。


 真下へと到着して上空を確認するが、鳥はまだ落下の最中である。

 間に合わないかとも思ったが、結構高い所を飛んでいたらしい。


 危ない危ない……

 無駄に命を奪うところだったよ。


 鳥の姿を確認しながら両手をひろげ、受け止める準備は万端である。

 だんだんと鳥の姿が大きくなりハッキリと見えてくる。


 あれ、おかしい。まだ落ちてこないな。

 遠近感が狂ったかな?


 どんどんと鳥の姿が大きくなり、その影は既にボクを覆い隠す程である。何だか予想よりかなり大きいような気がしてきた。


 これはやばい!


 そう気が付いて、一目散に逃げ出した。


 ドスーン!!!


 響くわたる音に、モクモクと巻き上げられた土埃。

 落ちてきたのは巨大な鷲である。


 ヒィィィィ!!

 やっちまった!!

 とんでもないもん狙っちまったよ!


 死んでいないかと心配して近付いてみるが、呼吸はしているようで安心する。何処かに怪我でもしてたら申し訳ないので《ヒールボール》を唱えておいた。


 あれ、この鷲……

 何処かで見た覚えがあるような……


 他人……いや、他鳥の空似だと思いたい。

 ボクには鷲の区別など判断出来ないが、そうそう似たような鷲が飛んでいるのも考えにくい。おそらくは鬼人達が移動に使っていた鷲だろう。


 ━━じっと待つこと30分。

 ボクは鷲の横で意識が戻るのをハラハラしながら待っていた。

 このまま意識が戻らなかったらどうしようと、冷や汗を流している真っ最中である。


 しかし、そんな考えは杞憂に終わり、鷲は突然に目をパチリと開いて上体を起こす。

 自分に何が起きたのか把握していない様子で、周囲をキョロキョロと見回していた。

 取り敢えず目が覚めてくれたようでホッとする。


「ごめんね、大丈夫かな……?」

「……なるほど、アナタがワタシを撃ち落としたと言うわけですか」


 オオイ! 喋るのかよ!!

 ただの巨大な鷲じゃなかったのか……


「す、すいません」

「いえ、撃ち落とされたのは自分の力量不足。むしろ命を奪わずに介抱して頂けたこと、感謝いたします」


 そんな事言われても……

 ボクが狙わなきゃこんなことにはなっていないわけで……

 威嚇されるならまだしも感謝されては心苦しい。


「ワタシに気配も気付かせなかったその実力。そしてその心遣い。是非ともアナタを主として仕えたいところ……」

「イヤイヤ!!」

「いえ、仕えたいところではありますがワタシは既に主がいる身……」


 うん、知ってます。

 だからこそ焦ったわけで。


 この言い方は実際には仕えることは出来ないと言うこと。ほっと胸を撫で下ろす。


「今の主に許しを頂けた際には、このフウラ。アナタに仕えさせて頂ければと……」

「イヤイヤイヤ!!」


 全然大丈夫ではなかった。


 許しを貰ってまでボクの所に来ても何もないよ!

 何を考えているのやら……


【魔物と言うのはそんなものだぞ?】


 え、そんなものって……

 どういうものですか?


『実力主義と言うのでしょうか。自分が実力を認めた相手に従う者が多いと言うことです』


 あ、ゴブリンとか完全にそうだったね。

 なるほど。


【今の主人よりポコの方が格上だと認めたと言うことでもある】


 それはそれで問題がありそうなんですけど!

 ……魔物って意外に律儀だよね、ちゃんと許可をとろうとするところとか。

 ゴブリンの時もそうだったけど、見かけによらず話せばわかるものだなと思ったよ。


【それは相手より遥かに格上の場合だけだぞ? 性格にもよるだろうが普通は話しすら聞かん奴が多いだろう】


 完全実力主義っことですか……

 まあヒトの常識なんて当てはまらないですよね。


 


「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、問題がない限りは、しっかりと今のご主人さまに仕えてくださいね」

「そうですか……」


 取り敢えず後で突然来られても困るし、主人である鬼人に恨まれてしまってはたまったものではない。しっかりと断っておくに越した事はないはず。


 残念そうに項垂れているのを見ると、少し申し訳無く思えるけど……


「ではせめてお名前だけ聞かせて頂いても?」

「ボクの名前をですか?」

「はい。ワタシを軽々と打ち落とす実力。同族にも話し聞かせたいと思うのですが」


 うーむ、何だか少し抵抗あるよね。

 こういう時こそ「名乗るほどの者じゃありません」って言えばいいのかな。


『その台詞は助けた者が言うべきで、加害者が言うのは可笑しいのではないですか?』


 か、加害者……

 た、確かに立場的にはそうなるのか……

 怪我をさせた人が「名乗るほどの者じゃない」って去っていく……

 どんな勘違い野郎だって話だな!


 まあ、銀鈴達はもともとボクの事を知っているし、今更ながら特に問題は感じない。


「ポコ・コロネルと言います」


 フラウは名前を聞くと深々と頭を下げる。


「ではポコ様。ワタシ共、風鷲の一族。何かありました時には協力を惜しまないでしょう」


 ん……デジャヴが……

 最近に似たような状況があったような気がする。

 まあ主人の所に戻るのであれば、そこまで気にする事ではないだろう。


「うん、何かあったときには宜しく。ご主人様を大切にしてね」


 フウラと名乗った大鷲は再び頭を下げると、空へと飛び立って行った。



 ……うん。

 今回の教訓。

 対象を選ぶときは良く観察せよ!


 何はともあれ意識の消滅は上手くいったようで良しとしよう。

 時間が少し長いようにも思えるけど大した問題ではないと思う。


 《ブラックアウト》と名付けておいた。



 さて次の魔法を試したいが対象をどうするか。

 先程あれだけ探して見つからなかったのだから、そう簡単にはいかないだろう。


 困った末に思い付いたのが《サーチ》対象を生物とすること。早速と唱えてみる。


 お、わかるわかる……むむむ?

 ぐが……ぐがががが!?


 検索の範囲が拡がった途端に、大量の生物の気配がそこかしこから感じられる。膨大な情報が頭に流れ込み、途端に気分が悪くなってきた。


『情報酔いですね。生物指定では対象が広すぎたのでしょう。虫の様な小さな生物も感じ取っているのだと思いますよ』


 ま、魔法って、使い方を間違えると本当に恐い……

 良い教訓を得たようです……


 しばらくの間は気持ち悪さに耐えながら、草原で悶絶することになる。

 効果が切れたときには健康がなんて素晴らしいものかと認識できた。


 今度は同じ轍を踏まないよう、対象をネズミに限定して《サーチ》を唱える。検索範囲が広がり、少し探したところですぐに見つかった。


 早速と新たに考えていた[消滅・光・振動・球形・打ち出し・対象・周囲]を発動する。


 手のひらに集めたファルナは黒い玉へと変化し、ネズミに向かって打ち出される。すぐさまネズミを包み込んで真っ黒なネズミが出来上がる。


 さてどうでしょうか?


 ネズミの様子を見ると、立ち上がったような姿勢で鼻をヒクヒクとさせて動きを止めている。


 そーっと近づいて見るが、特に気が付いた様子は無く、続けて「わー!」っと大きな声を挙げても、ドンドンと足で地面を何度も踏み鳴らしても、なんの反応も見られない。

 最後に指でちょんと突っつくと、ビクリと驚いたよう逃げ出すが、途中で再び動きを止めてしまう。


 30分程したところで魔法が消えると、ネズミは何事もなかったかのように動き始める。視界と音を遮断することは成功していただろう。


 名前は《ダークカーテン》と名付けた。


 こうして闘神祭開催までの二日が過ぎ、あとは明日の開催を待つだけとなった。

次回は闘神祭の開催です。

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