調査
ギルドの依頼を受けて森へと調査に行く事になったわけであるが……
正直何を準備すればいいのかさっぱりわからない。
冒険譚にだって主人公たちの活躍は書かれていても、どんな準備をしていたかなんて書かれてはいない。
憧れと現実は本当に違うのだと、まさに実感したところである。
とりあえず直ぐに思い付くものと言えば食料品かな?
『森に入るのなら肌を守る物が必要ですね』
あー、道無き道を行くんだものね。
そうなるとローブが必要になるかな?
【地図や指標になる物も必要ではないのか?】
あー、そりゃそうだ。
調査に行って道に迷ったら、目も当てられない。
食料、ローブ、地図
いや、絶対他にも必要なものがあるだろうな……
まあ買いに行ったときに、お店で何か気がつくかもしれない。
って、あまりお金が無いんですが……
賃金を弾むとは言ってくれたけど、基本後払いだよね。
どこか安く売ってそうな場所を探すしかないかな。
【そこの男に聞いてみたらどうだ? 商人でもあるんだろう?】
そこの男ってルドルフさんのこと?
んー、確かにボクよりは断然詳しいだろうね
「ルドルフさん、ちょっといいですか?」
「ん? 何だい?」
ルドルフはベッドで寝転んで休んでいたが、起きあがりベットに腰をかけてこちらを向いてくれた。
「ローブとか地図とか、安く売ってるところありませんかね?」
「ん、ローブだったら……使い古しが馬車にあるから持って行っていいぞ?」
な、なんと!
助かります!
「それより地図とか必要なのか? 一人で行くんじゃないだろ? 同行する冒険者が持っているんじゃないか?」
「あー……」
そういえばルドルフさんがいた時には、冒険者に同行するって話になってたかな?
しかし言われてみれば……
冒険者の人に同行すれば、道に迷う心配は無さそうだよね。
「そう言われれば……そうですね……」
「おいおい、そんなんで大丈夫なのかよ」
ルドルフは少し笑って立ち上がり、外へ向かおうとする。
「今ローブを持ってきてやるよ、まあポコが上手く調査を終わらせれば、オレもさっさとセントリアに返ることができるしな」
扉を出てから少し経つと、黒く大きめのローブを持って戻ってくる。
ローブをポンと投げてよこしてくる。
「これなら影に紛れてゴブリンにも見つかりにくいだろ」
「ありがとうございます!」
ルドルフさん……アンタ、ホントにいい人だよ。
顔はおっかないけど……
ルドルフのアドバイスを受けて、さっそくと冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ドアを開けると受付にはドニュマンが座っており、前日と同じく書類仕事をしているところだった。
「ポコか。どうかしたのか?」
「あの調査の件で、道に詳しい冒険者に同行させて欲しいと思いまして……」
「ああ、それは構わんよ。適任者を同行させよう」
ドニュマンはあっさりと了承する。
もともとが同行させる予定であったのだから、さほどの手間にはならないのだろう。
ただ気になるのが……
同行させるって言い方が気になるよね……
ボクみたいな子供に同行しろなんて言われて、冒険者の人が気分悪くしても困るし。
あと魔法のことも秘密にして貰えないか相談してみようかな。
勘違いしてたボクがいけないんですけど……
「あの、すいませんが、出来ればボクが同行させてもらうって形だと嬉しいんですが……」
「むっ? 別に構わんが対して変わらんと思うぞ?」
承知してもらって助かるけど、変わらないってどういうことだろう?
「あと魔法のことは出来れば……」
「ああ、その辺は安心してく。何かと面倒なことも多いからな。登録も魔法を使えるとだけ書いとくわい」
流石!
わかってらっしゃる!
「ありがとうございます!」
「この事態を引き受けて貰っただけで助かっとるからな、お前さんには迷惑がかからんようにしておくぞ」
素晴らしい対応です!
伊達にギルド長を務めてはおりませんね!
ドニュマンは朝までには、冒険者にも話をつけると言っていた。
ボクは明日の朝にギルドに向かうだけとなる。
【なかなか有能な男だな。覚えておこう】
随分な上から目線じゃないですか……
アナタは一体何様のつもりなのか……
翌朝、ルドルフにもらったローブを着み、冒険者ギルドに向かう。
ローブの裾はスネまであり、フードを被れば顔が見えない状態である。
ちょっと怪しく見えるかもしれないが、森に入るには丁度良さそうに思える。
ドアを開けると、毎度の事ながらドニュマンが受付に座っている。
「おお、待っておったぞ」
当たり前のように受付で作業をしているドニュマンを見ると、本当にギルド長なのかという疑問が出てくる。
まあ、ただの受付のおじさんが特例でギルド登録なんてできないだろうけど……
「ほれ、ライセンスが出来上がっとるぞ」
ドニュマンは手に収まるくらいの四角いカードを手に持っており、ボクに向けて見せてくる。
ギルドライセンスと書かれており、ボクの名前や特徴などが記されていた。
へー! こんなものが貰えるとは!
少し興奮しますな。
「なんだか冒険者みたいですね」
「ハハハ、相変わらずだな。みたいもなにも、それが冒険者の証だろうに」
え? そうなの?
じゃあこれでボクも冒険者?
こんなにあっさりなれるものなのか……
「その様子だと説明が必要だな。取り敢えずそこにサインをして、裏に拇印を押してくれるか?」
ボクのサインと拇印を確認すると頷き、説明をはじめてくれた。
今回は例外であるが、本来ギルドに登録するには、通常週に1度行われている試験に合格しなければならないらしい。
いくらギルド長でも本部を通さずに勝手に試験をパスしていいのだろうかと思ったが、ファルナを操作出来る者であれば9割方合格するそうで、例外とは言っても特に問題は起ないと言っていた。
また、ギルドライセンスを持っていない場合には高い賃金が支払えないと言っていた。冒険者ギルドの都合でもあるのだが、不正防止のためだそうだ。
ギルド証はE・D・C・B・A、そしてS級に分かれており、基本はランクに見合った依頼を受るとのこと。
ボクは登録したばかりなので、もちろんE級ライセンスである。
ランクの上昇はポイント制になっており、一定値を越えた際にギルドから伝えられるそうだ。
ポイントがどうつけられるのか気になったが、内部規程で詳しくは言えないらしい。これも下手に知ると不正に繋がるからだと言っていた。
だが不正してランクが上がったとしても、実力が伴わなければ意味が無いのではないかと思ったのだが、ドニュマンに理由を聞いて納得した。
冒険者ギルドの信用問題に関わるのは勿論であるが、ランクが高ければ貴族専属護衛として高額の賃金で雇われたりすることもあるそうだ。
そう言った護衛は実際に実力が試される事が少なく、誤魔化そうと思えば誤魔化せてしまう。最終的には専属護衛に落ち着きたいと思う者も少なからずいるそうだ。
「他に何か聞きたいことはあるかね?」
「Dランクの仕事って、どんなのが有るんですか?」
「ほとんどが雑用だな。薬草を取ってきてくれとか、掃除を手伝ってくれと言ったものだ」
へー、冒険者ってそんな事までするのか。
むしろ便利屋さんって感じなんだね。
『仕事になることならば、何でも仕事にしていそうですね』
【まあ、お金に困ることは無さそうだな】
うん、これで飢え死にするってことは無さそうだよね。
むしろ今回のことは運が良かったと考えておこう。
「大丈夫だと思います」
「そうかい? では同行者の所へ案内しよう」
前に通された受付の奥の応接間へと案内される。
部屋に入ると二人の男女が座っており、二人ともボクの方へと顔を向ける。
男性はツンツンとした尖った短い金髪に、吊り上がった鋭い目。いかにも冒険者と言った顔つきである。
って何処かで見たと思ったら、治療の時に文句を言ってた人ですね。……なるほど。ドニュマンさんの「対して変わらない」って言うのは、「既にボクの事を知っている」からってことか。
もう一人はかなり美人な若い女性である。薄く光るような金色の髪が、クセもなく真っ直ぐと肩まで伸びている。前髪は眉の上で真っ直ぐに揃えられており、キリッとした表情と姿勢の良さからも清楚で真面目な印象を受ける。
「待たせて悪かったな。こっちが同行するポコだ」
「ポコ・コロネルです。よろしくお願いします」
「え……ちょっと、子供じゃない! 手練れだからって引き受けたのに話が違うじゃないの!」
前言撤回、清楚という言葉にはほど遠かったようです。結構物事をハッキリ言う、どちらかと言えば真面目でおてんばタイプです。
「お、おい……治療した人で合ってるよ……」
男性が女性を肘でつつき、少し慌てた口調になる。
女性は「え……?」と小さく声をもらし、驚きの表情に変わっていた。
ドニュマンさんは誤魔化すように咳払いをすると、二人の自己紹介を始める。
「ゴホンッ! えー男性がロイズ、女性の方がカレンだ。暫くは共に行動すると思うので宜しく頼むぞ」
少し重苦しい雰囲気の中での自己紹介になってしまったが、どうやら話の流れからすると、カレンは昨日治療した重傷の女性のようだ。
おそらく自分を治療した魔法使いと一緒に、再度調査に向かってほしいとでも言われてシブシブと引き受けた感じなのだろう。
カレンはロイズにも詳しく話を聞いていなかったのか、それともこんな子供がくるとは思っていなかったのか。
「もうっ、何で言っといてくれないの……」
「いや、言ってあるのに勝手に勘違いしたんだろ……」
ロイズに対してコソコソと小声で怒っていたが、この狭い部屋ではこっちにも丸聞こえである。
「えーと、ロイズだ。先日は悪かったな。宜しく頼むよ」
ロイズは昨日の事を謝ると、握手を求めてきたので快く応じる。
「先程は失礼しました……私はカレン。怪我を治して頂き感謝しております」
カレンは先ほどの口調とはガラリと変わり、丁寧な言葉遣いで深々と頭を下げてくる。
残念なことに、ボクの中でのカレンの印象は、見た目と中身にギャップのある人になってしまった。逆に考えれば先に知っておいて良かったのかもしれない。
「では今回の調査について話合いたいと思うがよいかな?」
もちろん異論は無く、全員の頷きと共に簡単な打ち合わせが始められた。
現在のゴブリンの様子であるが、一段と活発になっており町の周辺でも確認されているそうである。
ボク達の主な目的は、森林およびゴブリン集落の調査である。
異常があれば直ぐにそれを報告すること。
もし解決策が見付かれば対処も考えて欲しいと言っていた。
ただし、異常事態であるので無理をしないでほしいと付け加えられた。
森林の入り口までは馬車で送ってくれるが、中に入れば徒歩で進むことになる。
そして戦闘についても綿密に話し合われる。
ロイズは剣士に近い戦闘スタイルだそうで、前衛としてゴブリン達を引き付けて牽制する役目をしてもらう。
カレンは平均的に様々な魔法を扱えるらしく、中衛として攻撃魔法に専念してもらう。
ボクは後方での治癒と補助を任されることになった。もちろん状況に応じて臨機応変に対処してくれとの事である。
大体の打ち合わせが終わりドニュマンがまとめに入る。
「以上だが、何か質問はあるかな?」
「……ポコさんに確認させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
カレンが真面目な表情でボクを睨んで質問してくる。
打ち合わせの最中にも何度かあり、そのたびボクも答えていた。
「治癒魔法に関しては信頼しておりますが、攻撃魔法も使えると考えてよいのでしょうか?」
「あ、はい、即座に発動できる攻撃魔法はいくつかあります」
「それはどの程度の威力でしょうか? 複数に対応できるのでしょうか?」
「あ、えーと。高威力から、足止め程度の物もあります。単体にも複数にも対応可能です。具体的には相手を……」
「いえ、魔法の詮索はマナー違反ですから、その情報だけで十分です。ではファルナが尽きそうな時には、交代も考えて良いと言うことで了解しました」
了解したと言う割りには、大分不満そうである。
フンッと言った感じでソッポを向いており、怒らせてしまったように見える。
打ち合わせが始まってから直ぐにこんな状況で、ドニュマンもロイズもかなりのフォローしてくれていたが、カレンはあまり納得していない様子であった。
まあ、原因はボクなんだろうけど……
恐らく冒険者としての心構えと言うのか、当然の事が出来ていないのが問題なのだと思う。仲間の戦力を把握したいのは当然だろうし、何ができるかだって重要な情報だ。
しかし、ボクは打合せの間、頷いているか質問に答える程度。自分からは特に何も説明していない。冒険者の勝手を知らないのがいけないのだが、それはボクの都合でカレンには関係が無い。
ドニュマンが「依頼を受けるのが初めてだ」と伝えた時には、それはもう眉間の皺が最高潮に深くなって言葉を失っていた。
もちろん魔法の詮索がマナー違反だなんてことも初耳だし、その理由が想像出来てもハッキリとは理解できていない。
こんなド素人が同行となれば、不機嫌になっても仕方がないのである……
再度、ドニュマンが皆の顔を見回し、他に質問が無い事を確認する。
まあボクは質問が無いと言うより……
何を質問すればいいか分からない、といった状態なのだけど。
「それではさっそく向かって貰おう!」
ドニュマンは話を終わらせ、表に待たせた馬車へ案内する。
馬車に乗り込もうとする際に、ロイズに肩を叩かれ小さな声で耳打ちされる。
「すまんな。アンタのことは話さないで欲しいと言われててな、カレンにも治療した人と伝えただけで詳しくは説明してないんだ」
「いえ、気にしていませんよ。素人が依頼を受けたことは事実なんですから」
すこし笑いながらそう答えると、ロイズも軽く笑って答えてくれた。
馬車に乗り込むと、ロイズとカレンは緊張感の漂う雰囲気に切り替わる。
『ポコも気を引き締めないといけませんね』
確かにボクには圧倒的に覚悟と経験が足りない。
彼らは冒険者としての経験を積んでおり、死と向い合わせることだって何度となく合っただろう。
『学園に行くまで必要ないと思っていましたが、検索に関する真名を教えておきましょう』
【む、ゴブリンごとき一掃すれば問題無かろう?】
『同行者もいるのですから、ポコだけ安全であればいい訳ではありません』
【まったく心配性な奴だ……】
シロの心配から新しい真名を教わることになった。
様々な真名を教えてもらったが、事象の転換に関わる真名はそこまで教えて貰っていない。学園で重複する内容もあるだろうし、あまり多くの転換の真名を覚えても使いこなせないだろうと言う理由からだ。もちろん危険だからと言うこともある。
ボクは本を取り出して、シロから聞いた真名を書きはじめる。
「ん? 何してるんだい?」
「あ、必要な魔法の確認です」
「そうか、頼りにしてるぜ」
そんな様子を見ていたカレンは、小声でロイズに耳打ちしていた。
「ホントに大丈夫……?」
ロイズは無言でカレンのことを、肘で突っついていた。
こんな狭い中では小声でも丸聞こえなんだけど……
もしかしてわざとなんじゃないかな……?
こんな子供で大丈夫か、と言う不安は極々一般的な意見ではあるのだけど。
シロから教わった真名は[検索]である。
[検索・敵意・球形・範囲指定・対象指定(自分)]で周りの状況を確認できる様になる。今唱えておけば良いので、急いで覚える必要がないのは、大助かりである。単純に《サーチ》と名付けて書き込んでおいた。
『自分に敵意を持つ相手が範囲に入ると、方向と距離が感覚的に伝わることになります』
なるほど、流石シロが選んだ構築である。
経験が少ないボクには最適だと思う。
そうこうしている間に森が見えてくる。
足元で見えない様にファルナを集めて《サーチ》を唱える。
瞬間、半径30mほどの見えない空間がボクを中心に拡張していく。
ロイズもカレンも特に気が付いていない様子である。
そして……
直ぐに魔法の効果を実感することになる。
此方に向けて一方向から敵意が向けられている。
チリチリという表現がしっくりくるだろう。
どこから向けられているかが感じ取れる。
その距離およそ1メートル。
まあ、カレンさんからなんだけどねー。
アレレ、ボクってそこまで悪いことしたかなぁ?
【ククク、危機感の無さにイライラしてるのかもな】
確かに危機感は足りないかも知れないけど……
そんな事で敵意を向けられたらやりにくいですよ……
「何を見ているんですか?」
カレンが視線に気が付き、睨み付けるように言ってくる。
「いえ何でもありません……」
怖や怖や……
思わず視線を反らし、ロイズへと目を向ける。
何故だか困ったような、申し訳なさそうな顔をしていた。
「到着しましたぜ。悪いがここまでで勘弁してくださいな」
御者がゆっくりと馬車を止める。
森まではまだ少し距離はあるが、こんな状況では仕方がない。
ボクらは馬車を降りて再度の打ち合わせを行った後、前をロイズ、中をカレン、後ろをボクがついてい進んで行く。
ゴブリンが小数で襲ってきた時には通常の対処。
もし大群で襲われたなら、魔法で時間を稼いで後退も考えるとのこと。
もし囲まれたるようなことがあったら、カレンとロイズで敵を抑え、ボクが後方の道を確保する。
「イチに命、次に依頼の達成を」
ロイズは最後に自分に言い聞かせる様に呟く。
当たり前のことだが、何でそう言ったのか少し分かる気もする。
無理はする必要はないし、危なくなったら逃げればいい。
だけどもギリギリまで依頼を達成しようと粘ってしまう。
だからこそ命を優先する事を忘れるな、そう自分に言い聞かせたのだと思う。
『ポコには良き勉強になる言葉ですね』
うん、ボクもそう思う。
忘れないように覚えておこう。
ロイズの言葉を切っ掛けにボク達は森へと足を踏み入れた。
最初のうちは普通の森と大差無かったのだが、1時間ほど進むと森の茂みが濃くなり、木々も高くなっていく。
まだ昼前だと言うのに薄暗く、僅かな陽射しが木々の隙間をぬってどうにか照らす程度。
ならされた地面の道を外れると、木の根がうねってせりだし、結構な高低差がうまれている。
ボクが住んでいた教会近くの森とは大違いだなぁ……
そして不思議なことにまったく気配が感じられない。
何が不思議かと言うと、ゴブリンどころか動物の気配も感じない。鳥の鳴き声さえも聞こえてこない。
森自体に異常が起きているのではないかと思えてくる。
「この間より一層不気味になってるな」
暫く続いていた沈黙を破り、ロイズが口を開く。
「そうね……いつ襲ってくるかもわからないし、索敵魔法でもつかっておく?」
カレンが周りを見回すような素振りをする。
あ……
仲間内には《サーチ》の事を話しておいた方が良かったかな……
取り敢えず今は敵意ある反応はないことを伝えておこう。
「半径30m位には敵意ある反応は感じられないです」
「っ! アナタ魔法を使ってたの?」
カレンがパッと驚いたように後ろを振り返る。
何かいけなかったかな……
「え、ええ」
「そんな素振りは見られなかったけど……」
「あ、森に入る前に使っておいたのですが」
「そうですか……それならはやく教えてください。ファルナ量の把握も大事ですし、私達の精神的な負担も減っていたのですから」
少し不機嫌な表情で、プイッとして前を向きなおす。
うーん、怒られてしまいました……
言われたことはもっともで仕方がないと思うけど。
【ククク、それにしても随分と嫌われたもんだな】
ええ、その通りの様で……
「ポコさん、なにかあったら教えてくれな」
ロイズは雰囲気を軽くしようと思ったのか、そう付け加えてくれた。
その後も特に何もないまま半日程道を進み続ける。《サーチ》の効果は3時間程度のようで、その度に唱えておいた。
日が落ちて来たところでロイズが足を止める。
前方にある大岩を凝視しているようだ。
「前回は……この辺で襲われたんだったな……」
そう聞いたところで、岩の方からチリリとした感覚が感じられる。
「岩の方角から何か向かってきます」
ボクがそう言うと二人はすかさず臨戦態勢を取る。
数は1つであるが、かなりの速度で向かっている事が伝わる。
緊張感漂うなか、皆の視線が岩の方向へと集中する。
すると岩の上に一匹の大きな狼が姿を現す。
二人はそれを見て少し気が抜けた様だった。
「脅かさないでよね……」
カレンは誰に言うでもなくそうつぶやく。
【む? あれは人狼ではないか?】
僕はクロの言葉を聞いて身構えてしまったが、普段は温厚な種族だと言っていたのを思い出して警戒をといた。
確かによく考えれば、まったく動物の気配がない中で、ボクらに気が付いて現れた狼が普通だとは考えにくい。
狼はこちらの様子を目を細めて確認し、すぐに来た方へと戻っていく。こちらに敵意が無いことを確認したからか、先程のチリチリとした感じは無くなっていた。
『自分から姿を現すなんて珍しいですね』
少しながらでも敵意を持って現れたのは間違いない。
やはりゴブリンだけの騒ぎでは無い、そんな予感に襲われる。
夜に森を歩くのは危険なので、道を外れる前に野宿をすることになった。
たき火をして順々に番をすることになり、索敵魔法の効果が続いているボクが最初の番である。
「ちょっといいかな」
暫くしてから横になっていたロイズが起き上がる。
「どうしたんですか?」
「……カレンが迷惑かけてすまない」
「イエ、まったく気にしていませんよ? それにロイズさんが謝ることではないんじゃ」
「いやなぁ……」
ロイズは頭をかきながら、言いずらそうに話はじめる。
「カレンにポコさんの話をするときに、相当の凄腕で見習った方がいいなんて言っちまってな……」
なるほど……
何となく話が見えてきた様な気がする。
「そしたら何だか不貞腐れちまうし……ポコさんに対抗心を持っちまったみたいでな……」
しかも見習えと言われた相手が子供な上に冒険者の初仕事……
突っかかってくるのも頷ける話である。
まあ、こちらとしては理由がわかってむしろ安心である。
【ククク、格の違いを思い知ったとき、どんな反応をするか楽しみだな】
クロさん……
あなた本当に性格悪いですよ……
「まったく気にしていませんよ。ボクも足りないことが多いわけですし」
「そうかい? そう言ってくれて安心したよ」
「それとポコさんは止めてくださいよ。ポコでいいですから」
「ハハ、ならそうさせてもらうよ。頼りにしてるぜポコ」
ロイズはそう言うとふたたび寝転ぶ。
その後も特に周囲に変化はなく、見張りをロイズと交代したあと眠りについた。
毎回予想より長くなってしまいます…説明的なところが多いのでしょうか…?
ご都合的な面はご勘弁を…
次話はゴブリン登場予定です。




