ポコ・コロネル
今日、ボクことポコ・コロネルはアレアドル王立魔法学園の入学式に参加している。
魔法の才能がある者しか入学出来ない、皆の憧れの学園。これからの学園生活を考えて期待に胸を膨らませ、時には仲間たちと笑い、時には泣き、そして一緒に喜びあう。そんな学園生活を夢見ていたわけだが……
新入生として名前を呼ばれて壇上にあがった後、そんな生活が本当に夢で終わってしまったのだと困惑している。
他の新入生は笑いの渦に包まれており、その相手がボクな訳で……
ちらほら笑ってない人もいるけど……憐れんだ眼差しでボクを見ているか、信じられないと口を開けているヒトがいるくらいだと思う。教師でさえも眉を潜めてざわついている有り様で……
信じられないのはボク自身なんですけどね!
まずは落ち着くんだ!
ヒッヒッフゥー、ヒッヒッフゥー……
【ククク、なかなか面白い事になってるな】
『面白がるものではありません、まあ多少興味はありますが……』
うるさいよ! 君たち!
さて変な声まで聞こえてくるこの状態。
何だか良く分からないかもしれないけど……
どこから語ればいいだろう?
かなり長くなるかと思うけど、ボクの生い立ちから入学までを聞いていただければ理解してもらえるかと思う。
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ボクことポコ・コロネルは孤児である。
クセのある黒髪に茶色い目、周りに比べて少し小さなやせ形の体格。ごくごく普通の平凡な少年だと思う。
赤ん坊の時に田舎の教会前に捨てられ、シスター・マリアに拾われた。コロネルは教会で育てられた子供達につけられる名字である。
シスター・マリアは本当に色々なことをボク達に教えてくれた。勉強はもちろんのこと、田舎に住んでいては分からない外の世界を。
この世界のこと。王様に貴族の話。それにヒト以外の種族のこと。
そして様々な冒険者の話。
自分も大きくなったら冒険するんだとワクワクしながら聞いていた。皆も寝る前には英雄たちの冒険譚を話してくれと頼んだものである。
そして魔法の話。
様々な魔法の話に、みんなはどんな魔法が使いたいかなんて話し合ったものだ。
シスター・マリアが使う魔法は治癒魔法ばかりだったけど、一度だけ火の魔法を使ったことがある。
森に住むクマが、エサを探して教会に入り込んだときだ。
クマが襲ってきた恐怖よりも、魔法を目で認識したことに興奮したことを覚えている。
「どうすれば魔法が使えるの?」
「それはね、魔方陣に魂の力を込めるのよ」
魔法を使うために必要な魂の力、「ファルナ」。
魂から引き出した力をファルナと呼び、魔法の源となる。
魂は前世から引き継がれ、神々の元で選別と転生が行われる。
なのでファルナの量や質と言ったものは生まれた時にほぼ決まっているそうだ。
「ファルナを引き出すのは自分自身。引き出せなければ量や質など関係ないわね」
その話を聞いたとき、シスター・マリアはそう付け加えた。
それはファルナを扱うだけでも並外れた努力が必要だからだ。
魔法の基礎、ファルナの「集中」から「放出」が使えるまでには、10年以上の修練と才能が必要と言われる。
10代でそこまで修得してる者は1割もいないし、30代でもようやく3割程。それ以降では諦める人の方が多いらしい。
つまりは魔方陣を使うだけでも一苦労。
ファルナの質や相性なんて話はその後の話。
それでも孤児兄弟の中では、誰が最初に魔法を使えるようになるとか、大魔法使いになるとか、そんな話がよく出てきたものである。
そんな兄弟の中で、ボクと特に仲が良いのが、兄のフィリオと妹のチョコ。
チョコは薄茶のふわふわした髪に、茶色のくりっとした目。まるでお人形さんのような容姿で皆にも可愛がられている。
ボクが冒険ごっこに遊びに行くときには「ポコ兄待ってよー」と良く後を着ついてきた。実にかわいらしいものである。
フィリオは3つ歳上で、さらりとした金髪に澄んだ青い目、優しくて格好良くて、何でもできるお兄ちゃんと慕っていた。
そして何よりフィリオは13歳でファルナの集中を習得していた。兄弟みんなから羨望の眼差しを向けられて、大人たちからも「天才だ」なんて声が上がっていた。
ファルナを扱える事自体が羨ましくもあるが、理由は他にもある。
王国にあるアレアドル中央魔法学園への入学条件が、16歳を迎える年までに、集中と放出を使えるようになっていることだからだ。
「いいなぁ……ボクも早く覚えたいなぁ」
「ハハ、ポコにはまだ早いよ」
そう言って額をつつかれ、頬を膨らませて不貞腐れたものである。
そんな仲の良かったフィリオであるが、ボクが12歳、フィリオが15歳の時、大喧嘩をして少し気まずい関係が続いている。
なんで仲直りしなかったかって? 喧嘩してすぐにフィリオは学園へと向かい、そのまま会うことが無くなってしまったからだ。
ケンカの原因は、ボクがファルナの操作を覚えたこと。
覚えたこと自体は関係なく、その過程を嘘つき呼ばわりされてしまったこと。
ファルナの操作は一朝一夕で出来るものではないし、ましては教えも無く出来るものではない。
それに小さいうちは魂が不安定とされて、10歳になるまで勝手に教わったり、練習するような事も禁じられていた。
小さいうちだと、意識を無くしたり、発狂したり、記憶障害を起こしたりするらしく、流石のボクも、この言い付けは守っていた。
なのでファルナ操作を学んだのはもちろん10歳から。約2年でファルナを操作できるようになったのである。
兄弟は全員驚いていたし、シスター・マリアも「才能があるんじゃないかしら」と言ってくれた。
皆に褒められて有頂天になっていた。そんな時だからこそ、フィリオの質問に迂闊な答えを返してしまったんだとおもう。
何て言ったか?
あまり言いたくないけど…
「頭の声に従っただけ」
そう答えたんだ。
そりゃオマエが嘘つくからいけないんだって?
いや、嘘じゃないんですよ。
じゃあ、妄想力が豊かな痛い子だから?
いや、そんなことも無いと思うんですよ。
多分だけど…
なんで声が聞こえるのかなんて、ボクにもわからない。
もしかしたら本当に妄想の類かもしれないのだけど、そうだとは思えない。
最初に声が聞こえたのは…
そう、多分ボクが8歳くらいの時、教会に落ちていたお金を見つけた時だ。
【そんな……貰ってしまえばいい……】
『シスターに……渡すといいでしょう……』
低く暗い男の声、そして穏やかで澄んだ女の声。
その二人の声が少し霞がかったように聞こえてきた。
「誰かいるの?」
誰かに声をかけられたのかと思い、辺りを見回しながらそう問いかける。
誰もいないし返事もない。気味が悪いと思ったことを覚えている。
それからというもの度々同じようなことがと起きるようになった。
迷った時や考え事をした時、そんな時に聞こえてきたように思える。
流石に心配になってシスター・マリアにも相談した。
「良いですかポコ。自分の心の中には悪魔と天使が住んでいるのよ。みんな同じように迷って行動しているの」
別におかしいことではない。
そう言われてとても安心した。
10歳を迎え、ファルナの操作を学んで暫くが過ぎたとき。チョコを連れ、外で練習していたときである。
【ワシが教えてやろうか?】
低く暗い男の声がハッキリと聞こえてくる。
周りを見渡しても、木陰で本を読んでいるチョコの姿しか見当たらない。
「何か声が聞こえなかった?」
チョコは不思議そうな表情で首をかしげ、何を言っているのか分からない様子だ。
『ワタシが教えましょうか?』
今度は穏やかで澄んだ女性の声がハッキリと聞こえてきた。
周りにはもちろん誰もいない。チョコはすでに視線を本に戻しており、声が聞こえた様子は見られない。
自分の中の天使と悪魔。今まで話しかけてくることは何度もあった。
でもこんなにもハッキリとした声で、しかも問いかけてきたのは初めてだった。
「教えてほしい!」
ファルナの操作を覚えたい。魔法を使いたい。
そんな思いから迷う事なくそう答えた。
【ならば教えてやろう】
『ならば教えてあげましょう』
こうしてボクは、頭の中の声にファルナの操作を教わる事になったのである。
次回は声の話になります。




